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人の世では、その辺にゴミを捨ててはいけないらしい。それを他者に見られると、お上に罰せられるのだとか。
しかし、私は人ではない。ついでに言えば、姿も見えない。だからといって、住み処の周囲にゴミを撒き散らすような真似はせん。……しかし、この坊主は邪魔だ。やはり沢に捨ててこよう……。
……と、思っておった時期もあるのだが、この坊主、意外と働き者だった。体力が戻ってからというもの、私が指示したわけでもないのに、自ら進んでトンネルの中を掃除し始めたのだ。地面だけではない。壁や天井に至るまで、徹底的に磨きあげておる。
さらには、単なる砂利道だったはずのトンネルの地面に、大小様々な石ころを敷き詰めて、立派な道を作りおった。……すばらしい……じゃない!こやつめ、私の根城をなんだと思っておるのだ。まったくもって、けしからん!
「……お気に召しませんか?」
ぺちん!
「……分かりました。より精進いたします」
……やはりこやつ、頭のネジが緩んでおるのかもしれん……。
そういえば坊主のやつ、段々と私の気配に気づきつつあるようだ。まぁ、二月にも渡っても寝食を共にしておるのだから、気配の"け"の字くらいは分かってきて当然か。
ちなみに。
普段、私が何をしておるのかというと、坊主の前で胡座をかいて、ただ食って寝てを繰り返すような自堕落な生活を送っておる――というわけではない。この季節、まだトンネルの外は、深い雪に包まれておるから、人はそう滅多にやって来んかもしれんが、念のため彼奴らが来ないかを警戒をしておるのだ。せっかく綺麗になった我が家だ。荒らされたくはないからな。……いや、我が家を荒らされたくないと思うのは、当然のことであろう?生臭坊主?知らんな。
さて。そろそろ飯の時間か……。
今日の晩御飯は、自宅警備の途中で見つけてきた野ウサギだ。私は魂の部分が食えればそれで十分なのだが、ごくたまに肉を食べたいと思うこともあるから、ウサギは捕まえた時点で血抜きをしてある。だから、ウサギの肉自体はそれほど臭くないはずだ。ほれ、生臭坊主よ?余り物だが食うが良い。
……と、内心で呟きながら、坊主にウサギの肉を無言で差し出したら、坊主のやつ、真っ青な顔をして固まってしまった。だが、これはいつものこと。これでもずいぶんマシになったのだ。以前は肉を見た瞬間、顔色を変えるどころか、腰を抜かして立ち上がれなくなっておったのだからな。親切心で渡しておるというのに、一体、何を驚くことがあるというのだ?もしや、私が透明な姿でいることに原因があるのか?まぁ、坊主のことなど気にしても仕方ないか……。
それからまもなくして、坊主は固まっていた身体を動かすと、私からウサギの肉を受け取って、早速、それの調理に取りかかった。
雪の下に眠っていた山菜から様々な調味料を作り出して、それとウサギの肉を混ぜ合わせて……。そして出来上がったのは――ほう?今日は兎の唐揚げか。中々に旨そうだ。
……などと思っておったら、坊主のやつ、姿が見えぬはずの私に向かって、出来立てホヤホヤの唐揚げを差し出してきおった。こやつ、何を考えておる?……はーん?さては、唐揚げごときで私の機嫌を取るつもりか?……バカめ。そんなことで私が懐柔されるわけなかろう?
……はふっ、はふっ……!