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人間という生き物のことはよく知らんが、とりあえず寒いのは苦手らしい。ついでに言うと、暑いのも苦手なのだとか。……まったく、贅沢なやつらだ。焚き火の直火で暖められれば手っ取り早いというのに、それを受け付けぬとは骨が折れる……。
仕方がないので、拾ってきた生臭坊主を、以前近くの山で狩った鹿の毛皮に包み込んで、トンネルの中に作った焚き火の近くに転がしておいた。毛皮には鹿の臭いが残っておるかも知れんが、元が生臭坊主だ。大して変わらんだろう。まぁ、さっきから焦げ臭いが漂ってきておる理由までは知らんがな?
それからまもなくして、簀巻きの中で坊主が目を覚ました。早速何か喚いておるようだが、私の知ったことではない。
「ほら食え!」
そう言って、乾燥した鹿肉を坊主の口の中に捩じ込んでおく。……ほう?泣くほど美味いか?そうかそうか、ほら食え!手が使えないだろうから、代わりに私が口の中に放り込んでやろう。
そんなことを考えながら、2本3本と乾燥肉の棒切れを坊主の口の中に入れていたら、そのうち坊主のやつ、また動かなくなった。……急いで頬張るからだ。もっとゆっくりと食べれば良いというのに……。
それから3日ほどが過ぎた頃。
ここに来た当時は真っ青だったり、真っ白だったりしていた坊主の顔色も、今では大分と良くなった。やはり、ただ単に、腹が減って行き倒れておっただけらしい。
しかしこやつ、やはり生臭い坊主だと思う。私がこうして横で寝ておっても、私の姿が見えないどころか、気配すら感じぬとは……。これならまだ人の子の方がマシなのではなかろうか。
そんな坊主が、意識を取り戻してから、今の今まで何をしておったのかというと、ただ眠って、食って、ボケっとしておった、というわけではない。
「……すみません」
何度となく謝罪の言葉を口にしておった。いったい誰に向かって何を謝っておるのかは良く分からんが 、生臭坊主のことだ。何かやましいことでもしたのだろう。まったく……何をしでかしたのだろうか。
そんな謝罪の言葉を延々と聞いておったら、なんとなくイライラしてきたので、叩きやすそうなその頭を、ペチンッ、とひっぱたいてやった。
すると今度は坊主のやつ――
「……ありがとうございます」
――そう言って虚空を拝み始めた。私が頭を叩いたせいで壊れてしまったか?もしもそうではないとしたら……私は厄介なモノを拾ってきたことになるのかもしれん。つまりこやつは、生臭坊主などではなく――いや、人のことを悪く言うのは止そう。
はぁ……さっさと此奴のことを追い出したい。そして静かな生活を取り戻したい。早く春にならんだろうか……。