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ダンジョン喫茶 ~現代知識と聖女の奇跡で異世界人のお悩み解決します~ 作者:平尾正和/hilao

第二章 続・運命の日

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第2話『大金のアテ』

 俺は大阪北浜のカフェバー『ハッサ・クントコ』の共同オーナーとなることにした。
 滞納分の家賃や公共料金、知人や常連客からの借金を合わせると、7桁を超える額となったが、貯金の大半を消費すれば返せる額だ。
 その後の生活に不安がないと言えば嘘になるが、辞めた会社の退職金やらなにやらが入るまではなんとかなるだろう。
 大丈夫、まだ焦る時間じゃない。

「そういえばハッサクさん、大金の入るアテがあるとかなんとか言ってませんでした?」
「あー、それなぁ」

 俺の問いかけを受けたハッサクさんは、困ったように額に手を当て、軽く唸りだした。

「うーん、ほんまは人に見られたらマズいもんなんやけどなぁ……。でもユージさんに隠しとくんもちがうかなぁ……」
「あの、ハッサクさん、まさかヤバイことに手を出すつもりじゃないですよね?」

 ハッサクさんが手を出して大金を得られそうなものとして、真っ先に思いついたのが贋作の製作だ。
 実はここハッサ・クントコには名画が数枚展示されており、それらはすべて売り物だという。
 そしてこれらの名画はハッサクさんが描き上げたものなのだそうな。
 ただし、店に飾っている絵画はハッサクが描いた複製画として販売しているので、特に問題はないのだとか。
 しかし、これらを画家本人作として売りに出すとなると話は変わってくる。
 店に飾ってあるものはハッサクさんのクセが出ているのか、オリジナルとは異なる雰囲気を持っているが、最初から贋作を作ると思って取りかかれば、そこそこの出来になるのではないかと予想されるのだ。
 それをいかがわしいルートで市場に流せば、もしかすると大金になるのかもしれないが、それは完全にアウトだ。
 そんな危ない橋を渡らせる訳にはいかない。

「うーん、たしかにバレたらかなりヤバイなぁ。ワシ政府に消されてまうかもしれんですわ」
「消される? 政府に……? 警察に捕まる、とかじゃなく?」
「うーん、どやろ? ワシもようわかりまへんけど、警察に逮捕されるとか、そういうんではないとおもいますねん」
「……ハッサクさん、一体なにをやってるんです?」
「うーん………………よしっ!!」

 ひとしきり唸ったあと、ハッサクさんはパン! と柏手を打った。

「ワシ、覚悟決めましたわ。ユージさんに見てもらお」
「はぁ……。大丈夫なんですよね?」
「まぁ、見るだけやったら多分大丈夫やと思いすわ。ほなついてきてください」

 俺はハッサクさんのに先導され、立て付けの悪いドアを開けて店を出たあと、3階へと続く細い階段を上った。

「前から気になってたんですけど、この先ってなにがあるんです?」

 ハッサ・クントコは地上から細い階段を上った2階にあるのだが、店に入る前、少し視線を動かせばこの上り階段も見える。
 実は以前から少し気になっていたのだ。

「ああ、ワシの住まい兼アトリエですわ」
「へええ」

 階段を上りきった先にある、普通の扉を開ける。
 ここは店の扉のように立て付けが悪いわけでもなく、普通に開いた。

「散らかってますけど、どうぞ」

 そこは横に長い部屋で、広さは結構ありそうなのだが、書きかけの絵や絵画用の道具類などが所狭しと並べられ、かなり狭い印象を受けた。

「適当に座ってください」

 と、俺はハッサクさんに促され、彼が普段寝起きしているであろうソファベッドに腰掛けた。

「あ、茶ぁとか用意するんは面倒くさいんで勘弁したってください」
「ああ、お構いなく」

 俺を座らせたあと、ハッサクさんは描きかけの大きなキャンバスの裏をごそごそと漁り始めた。

「えっと、確かこの辺に……お、あったあった」

 ハッサクさんが取り出したのは、割り箸のような細い木で組まれたオブジェのようなものだった。

「これですわ」
「これ……ですか……」

 それを見て俺が最初に受けた印象は、車輪だろうか。
 幅15センチメートル、直径50センチメートルほど。
 円に近い多角形で組まれたそれは、なんとなくだが水車のようなイメージを受ける。
 なるほどかなり緻密に組み上げられているが、さてこれに芸術的価値があるのだろうか?
 とても大金を得られるようには見えないし、まして政府から狙われるような要素などひとつも見当たらない。

「えーっと、ハッサクさん。それは一体……?」
「見てもろたらわかる思いますけど、こら立体魔法陣ですわ」

 いやわかんねぇよ!

**********

 ハッサクさん曰く、この立体魔法陣なるものを使えば、無限のエネルギーを喚び出すことができるのだという。
 なんのこっちゃ? である。

「あー、無限言うてもほんまは有限ですねんんけどな。実質無限っちゅうことで」
「実質無限? すいません、よくわかんないんですけど……」
「えっとですなぁ。例えばお天道さん。太陽。あれ、いつかはなくなりますやろ?」
「まぁ、そうらしいですね。何億年とか先の話らしいですけど」
「つまり、太陽っちゅうのは有限ですわ。でも少なくともワシらが生きとるうち、っちゅうか、ワシら人類が地球に住めるあいだはお天道さんも照り続けるわけですわ」
「はぁ、まぁ」
「つまり、ワシら人類にとってみれば、太陽のエネルギーは実質無限っちゅうことになりまへんか?」
「実際に限りはあっても、その上限まで使い切れなければ、たしかに無限と思っても問題ないのかもしれませんねぇ……」
「ほうです」

 なるほど、言いたいことはなんとなくわかった。
 しかしそうなるとひとつ疑問がわきあがってくる。

「あの……、ハッサクさんて、画家ですよね?」
「へぃ」

 俺の質問に対し、ハッサクさんは俺の目をじっと見据えながら真顔でそう返事し、話を続けた。

「この宇宙には、太陽みたいなエネルギーがようさんあります」
「まぁ星は全部恒星ですからねぇ。太陽はその中じゃ小さい方だっていいますし」
「そうですねん!! この宇宙にはエネルギーがあり余ってまんねや!! せやからワシはそのエネルギーをちょこっとだけでも拝借でけへんもんかと、いろいろ考えましたんや」
「……ハッサクさん、画家ですよね?」
「へぃ」

 再び真顔の返事。
 ハッサクさんはさらに続ける。

「ほんで、ワシようけ頭使(つこ)うて計算しましたんや」

 そう言ってハッサクさんは、キャンバスにかけられた布を軽くめくり上げた。
 描きかけの絵が書かれたキャンバスの隅の方に、計算式が並んでいる。
 俺は数学に疎いのではっきりとしたことはわからないが、その数式は因数分解や二次方程式に毛が生えたようなものにしか見えなかった。

「ハッサクさん、画家ですよねぇ?」
「へぃ」

 例のごとく真顔で短い返事をしたハッサクさんは、キャンバスに布をかけ直し、立体魔法陣を手に取った。

「つまり、これが完成したら、なんぼでもエネルギーを取り出せまんねん。エネルギーを制するものは世界を制す。ワシ、億万長者ですわ」
「はぁ……」
「遠い宇宙からちょこっとだけエネルギーを拝借しますねん。でも宇宙全体で見たらちょこっとでも、地球規模で見たら膨大なエネルギーでっせ!! 使い放題や!!」
「はぁ……。ハッサクさん、画家ですね……?」
「へぃ」

 だめだコイツ……。

「な? ワシが政府に消されるちゅう意味がわかりますやろ?」
「まぁ、実現すれば」

 確かにこの原価数百円でできそうな、前衛的な水車の出来損ないみたいな置物で無限のエネルギーを得られるというのであれば、エネルギー革命どころの騒ぎではないだろう。
 でもこれ、どうみてもガラクタだぜ?
 以前からおかしい人だとは思っていたけど、ここまでだったとは……。
 共同経営の話、考え直そうかなぁ……。

「うーん、これがあともうちょいで完成するとこ……やった……ん、やけ……ど……おぉっ!?」

 最初は少し悔しげに、手にした立体魔法陣を眺めていたハッサクさんだったが、途中から表情が険しくなり、言葉が途切れ始めたかと思うと、急に素っ頓狂な声を上げた。

「ハッサクさん、どうしたんですか?」
「……できとるでぇ……、これ、よぉ見たら完成してまっせ!!」
「はぁ、そうですか……。だったら俺の手助けもいりませんかねぇ?」

 うん。こんな危ない人と店を経営するなんて、ハードルが高すぎるよな。
 君子危うきに近寄らず、そして三十六計逃げるに如かず、だ。
 まだお金も出してないことだし、ここはさっさとお(いとま)を……。

「あー、ちょっと待っとくんなはれ! これが正常に動いてエネルギーを喚び出せたとして、それを金に変える算段が必要ですわ。すんまへんけどしばらくは付き合ったってください」
「はぁ……」

 ここはしばらく様子を見るべきか? それとも全力で逃げるべきか? 

「とりあえず、動かしてみまひょか」
「あー、そうですねぇ」

 そうだな。
 とりあえず動かしてもらおう。
 たぶん何も起こらないだろうから、それでハッサクさんにはこんな訳のわからんことから手を引いてもらって、お店の経営と画家作業に集中してもらうことにしようか。

「ほな、いきまっせ」

 ハッサクさんは立体魔法陣をサイドテーブルの上に、横に寝かせて置いた。
 そして、それを軽く指で弾く。

「へええ。こうやって動かすんですねぇ」

 立体魔法陣はテーブルの上でくるくると回転を始めた。

「へぃ。回転いうんは、永遠と繰り返しとを意味する動きですよって」
「なるほどねぇ……。にしても、よく回りますねぇ、これ」

 そこで俺はおかしなことに気づいた。
 この立体魔法陣、コマのようなかたちで軸を中心に回転しているのだと思ったのだが、よく見ればこれには軸がない。
 車輪のような形をしているとは言え、ただ机に置かれているだけなのだ。
 本来であれば、指で弾いたところで数ミリ移動して終わりなはずである。
 にもかかわらず、この立体魔法陣はクルクルと回り続けるのだった。
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