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第2話『ダンジョン内(?)の飲食店』

初登場の人物が出ますが、流してください。

「パーティーを組めないって、どういうことだ?」

 

 私の問いかけに対し、クレトが目をそらす。

 

「……片腕では、足手まといか?」

「……」

 

 あの日以降半年ほどが経ったいまもパーティーは活動しており、私が片腕になったためダンジョンの浅層を探索するようになった。

 ダンジョンは深く潜ればその分強い魔物が現われ、高価な宝物を手に入れることができるうえに、探索者の数も減るので、稼ぎは大きくなる。

 まだ、各フロアに存在するフロアボスを倒した際のクリアボーナスも、より深層で受けたほうが豪華になるのだ。

 

 だが、逆に言えば、浅ければ稼ぎは減るということだ。

 最初のうちはクレトもあまり文句を言わず付き合ってくれた。

 しかし片腕ではどうしても戦闘に支障が出るし、半年程度では義手も上手く扱えない。

 そこでクレトは、他のパーティーへ出稼ぎに出ることが多くなった。

 

「C級パーティーが正式メンバーとして誘ってくれてんだ。わかってくれ……」

 

 そう言って私に向けられたクレトの表情には、どこか私を蔑む感情が見え隠れしていた。

 

「アランよぉ、もういいんじゃねぇか?」

「いい、とは……?」

「わかってんだろ? 片腕が義手じゃあ迷宮探索なんて無理なんだよ!」

「む……。しかし、もう少し義手に慣れれば……」

「それを待ってる間にこっちが干からびちまうんだよぉ!! お前もう迷宮探索者(ダンジョンシーカー)辞めて田舎に帰れよ! な!? そのほうが絶対いいって!!」

 

 クレトの言い分もわからなくはない。

 しかし私には迷宮踏破という夢が……。

 

「ねぇ、アンタ」

 

 ふいに、私のうしろで様子を見ていたビアンカが前に出てくる。

 

「アンタ、一生恩に着るって言ってたわよね? アンタの一生って半年より短いわけ?」

「ぐ……、俺にだって、生活がなぁ……」

「はん。娼館通いをやめれば今のままでも普通に生活できるでしょうが」

「ぐ、それは……」

 

 悔しげに顔を歪めたクレトだったが、すぐに表情をあらため、一転して下卑た笑みを浮かべる。

 

「だったらよぉビアンカ、お前が相手してくれや」

「はぁっ!?」

「お前がいつでも相手してくれるってんならわざわざ娼館なんぞに通わなくてもいいからよぉ。このまま続けてやってもいいぜ?」

「アンタ……!!」

 

 ビアンカの鋭い視線をぶつけられ、クレトが思わず後ずさる。

 

「い、嫌なら別にいいさ。他を当たりな。アテがあるんならな?」

 

 ビアンカが口を閉ざし、うつむく。

 

「ただでさえ斥候は数が少ねぇんだ。足手まといがいるお前らに付き合ってくれる物好きがいればいいなぁ」

 

 クレトの言葉を受けてビアンカは唇を噛み締め、拳を震わせていたが、絞り出すように返事をする。

 

「ア、アンタが……それでいいなら……」

「へ、へへ……そうかい。ここ最近金欠でたまってたからよ、さっそくいっぱ――ぶべらっ!!」

 

 クレトが言い終える前に、奴の顔を右手で殴りつけた。

 金属製の義手で殴られた頬はさぞ痛かろう。

 

「パーティーは解散だ。C級でもなんでも、好きにすればいい。いままで付き合わせ悪かったな」

「アラン……」

 

 ビアンカが心配そうにこちらを見る。

 

「ビアンカも、悪かったな」

「そんな……、私は……」

 

 結局、私はそのまま迷宮探索者(ダンジョンシーカー)を引退し、郷里に帰ったのだった。

 

**********

 

「うーむ……、いろいろと苦労されたんですねぇ」

 

 小綺麗な格好をした若者が、私の身の上話を聞いてうんうんと何度も頷いている。

 

「前から気になってたんやけど、ユージさんなんでいつもスーツなん?」

 

 カウンター奥のキッチンからそう問いかけたのは、先ほど私が出会った白髪交じりの男性で、名をハッサクという。

 画家であり、この店の店主らしい。

 

「そりゃ俺はこの店のオーナーですからね。ビシっとしとかないと」

 

 そしてこの小奇麗な格好――スーツというらしいが――の若者はここのオーナーで、ユージというらしい。

 ユージ殿は黒髪の優男で、一見して十代としか思えないのだが、実のところ三十を超えていると聞いて随分驚いた。

 エルフなどの長命種の血でも入っているのかと疑問に思ったが、この辺りにはヒト族しかおらず、このあたりに住むヒト族は単純に若く見られやすいだけらしい。

 

「しかし右手のそれ、義手なんですねぇ」

「ええ。魔力を流すことである程度意思にそって動かせるんです。細かい動作は無理ですが、剣を握るくらいなら問題ないですね」

「おお、魔力!」

 

 ユージ殿が魔力という言葉に反応したのは、ここには魔法が存在しないからだそうだ。

 この店には魔法を封印するトラップでも仕掛けられているのかと思ったが、聞けばここはダンジョンの中にあるわけではないらしい。

 何かしらの事情で異世界につながっており、その世界に魔法という概念が存在しないのだとか。

 正直私にはよくわからない話だ。

 そんなことよりもいまは……。

 

 ――グゥ、と私の腹が鳴った。

 

「あはは、料理まだですかねぇ?」

「あ、いや、お気になさらず」

「ハッサクさーん! 料理まだー?」

「んー…………もうちょい」

「だ、そうです。お水、おかわり入ります?」

「えっと、では、お願いします」

 

 最初に氷の入った水が提供されたときは随分と驚いた。

 水も食料もすべて失った私にとって、これほどありがたいことはなかった。

 しかも無料でいくらでも飲んでいいという。

 そのうえ食事まで提供してくれるというのだ。

 食事は有料だが、一応それなりの持ち合わせはあるので、なんとか支払えるだろう。

 ダンジョンの中でこれだけの設備を維持し、食事の提供までできるというのはにわかに信じられなかったが、なるほどどこか遠い場所に転移されているのならそういうこともあるのかもしれない。

 

「アミィ! お水ー」

「はぁ!? なんでアタシが――」

「暇なんだろ? いいじゃんか」

「ったく」

 

 ぶつぶつと文句を言いながら、ひとりの女性が水差しをもって私のテーブルへやってきた。

 それは銀色の髪、同じく銀色の瞳を持つ、まるでおとぎ話に登場する聖女のような姿をした美しい女性だったが、気怠そうな表情や態度のせいでいろいろと残念なことになっている。

 服装はエンジ色のゆったりとした布の上下で、見たことのない服装ではあるが、なんとなくだらしない印象を受けた。

 

「はい、どうぞ」

 

 アミィと呼ばれたその女性は、水差しをテーブルに置くと、ユージ殿に文句を言い始める。

 

「ってか、客に働かせんじゃないわよ」

「はぁ? 客だっつーんならもちっとまともな恰好しろよな。いっつもスウェットでウロウロしやがって」

「うっさいわねぇ。これが楽なのっ!」

 

 そう言うと、アミィ殿はぷいっと顔を背け、そのまま元いた席にもどってしまった。

 

「アミィはん、それで上がアニマル柄やったら完全に大阪のオバハンでんなぁ」

「ハッサク、黙れっ!!」

「へぃ、すんまへん……」

 

 席に戻ったアミィ殿に対し、ハッサク殿が余計な一言を放ったようだ。

 

「ったく……。ああ、すいませんね、お見苦しいところを」

「ああ、いえ……」

「ささ、どうぞ」

 

 バツの悪さをごまかすような笑みを浮かべたユージ殿が、グラスに水を注いでくれた。

 

「はい、おまっとさん」

 

 ちょうどそのタイミングで、料理が運ばれてきた。

 それは大皿に盛られた麺料理だった。

 あまり具は入っていないようだが、香ばしい匂いに食欲をそそられる。

 

「ペペロンチーノですわ」

「ぺぺろ……それがこの料理の名前ですか?」

「うん。食べやすうて元気なるもんがよろしねやろ? せやったらニンニクようけいれたパスタかな思て」

 

 なるほど、食欲をそそるこの匂いの正体はニンニクか……。

 

「3人前ぐらいあるけど、食べますやろ?」

「まぁ、大丈夫ですかね」

「ほなごゆっくり」

 

 ハッサク殿がキッチンへ戻るタイミングで、ユージ殿も席を立った。

 

「では、俺もこのへんで」

 

 そう言い残してユージ殿はアミィ殿の隣りにへと移動した。

 これから食事をとる私に気を使ってくれたのだろう。

 確かに、人に見られながらでは食べづらいからな……。

 

 フォークに麺を巻きつけ、口に運ぶ。

 ……おお、なんだこの食感は?

 私も麺料理は好きでよく食べるが、これほど口当たりがよく、弾力のあるものは初めてだ。

 弾力はあるが、一本一本が細いので容易に噛み切れるのもいい。

 おそらくは塩をメインにシンプルな味付けしかなされていないのだろうが、たまに来るピリリとした刺激のおかげで飽きることなく食べ進めることができる。

 どうやらニンニク以外にも香辛料が使われているようで、ひとくち食べるごとに身体が内側から温かくなり、気力が湧いてくるのを実感できた。

 気がつけば、大皿に盛られていた大量の麺は、私の胃の中にすべて収まってしまった。


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