俺でよければ気場巡回にお供しよう中編
明日早いのに…。
「室瀬、どうよ?」
そういって佐伯は俺のと自分のみくじ紙を換えた。
「どうよ」という意味には佐伯の運勢に対する感想と俺の結果を知るための投げかけでもあったらしい。
なるほど横着な言葉の使い方だ。
ちなみに俺のは末中吉。佐伯は末小吉。
「末吉に上下関係があったことを初めて知りました」
「リアクションうっす」
お前わかってない、といって佐伯は仕切り直すと、紙を覗くなり変顔をした。
「……」
やばいこの人おもしろい…。
「っていうかこれどういうことなのよ!」
そのままよくわからないテンションのまま佐伯姐さんは巫女さんに詰め寄る。
「へいどうしました!?」
ずいぶん威勢のいい巫女さんだ。
「…今引いたの見てた?」
「もちろんもちろん。1番と10番っすよね。確か末っ子兄弟のはず」
「俺が弟」
「おーっ」
「末小吉ってどのくらいの順番なんだ?」
「うちのだとそれの下が凶っす」
「おーい、大事な大会が控えてるんだよ。俺は少しでもいいの引いてゲンを担いでおきたいの」
すると陽気な巫女さんはすっと筒を持ち上げた。
「…リトライしろと」
「……」
巫女さんは答えなかった。ただ目が「察せよ」といっている。
「いいでしょう」
いうと200円を手渡し、今度は力強くシェイク。気合を入れて棒を引く。
「15番!」
「…お」
途端に巫女さんが色めき立つ。それにしてもノリいいな。
「キター」
どうやら当てたらしい。振り返ると手を挙げてきた。
「あ、タッチ」
「ッエーイ」
ばちん。
手でかっ。痛い強い。
盛り上がる野郎二人を後目に巫女さんがぼそっとつぶやく。
「でも2度目だからご利益は半分くらいっすけどね」
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「あなたスポーツやってるなら勝負に2度目がないのはわかるでしょ」
「2回目でも半分効力もらえるだけ良心的じゃないっすか」
「いやいや唆してないし。ちょっと持っただけ」
「慈善事業じゃないんで」
結局最後まで巫女さんは強かった。
でもせっかく2回も引いてもらったということでツーショットのサービスを頂いた。
「だってよ室瀬」
…俺が。
「え…だって」
「俺ケータイもってねえし」
「そうだったね…」
「ほら、お前の早く貸せ」
こういう流れになったら逆らえないのが俺の短所だ。
「…はい」
「ん」
…あ。
俺は少し進んだところであることに思い至った。
「そういえば使い方わかる?」
「あービミョー」
ここでつい懇切丁寧に教えたのがいけなかった。
「実はノリノリじゃねえ?」
「…っ」
顔が熱い。脚がフリーズした。
「ねえ、自分営業スマイルずっと保っててそろそろ辛いんすけど」
焦れた巫女さんの声が背後から聞こえた。
「もういいから。早く行けよ」
「いやっ、でも、もう…」
「ちーひーろー」
「……」
苛立った佐伯による突如の名前呼び攻撃。
そしてどうやら俺の名前が巫女さんにも伝わったようで。
「ちーひーろー!」
「……っ!!」
呼ばれて急いで巫女さんの元へ走る。
「ちひろ遅い」
「千博もっと寄れ」
「ちひろ下見てないの」
「千博笑え」
「ちひろ笑って」
…………………。
本当は前・後編で終わりたかったのですが、ここできりをつけたかったのでした。