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俺でよければ  作者: はしばみ
3/19

俺でよければあなたには気をつかいましょう

会話がちぐはぐかも。

直したい。

「千博くん」



自室に入ろうとノブを掴んだところで、背後から俺を呼ぶ声がした。

ちなみに家庭で俺のことをこのように呼ぶのは妹だけだ。



しかし最近疎遠になりつつあった妹がこうして呼びかけて来るのは……



「ひさしぶりだな」



「は?」



うっかり声に出してしまった。妹に低い声で睨まれてしまった。



「なにいってんの?」



「いや、流して……」



「なにいってんの」



「いや……あの」



「なに深夜徘徊してたの?」



「…………」



なぜばれたんだろう。さらっというスタイル。

とりあえずとぼけよう。



「あ、昨日のこと?散歩してただけだから。ちゃんと帰って来たよ。でも足音忍ばせてただけ」



実際にすり足を妹の前で披露する。



「うそ。あたし千博くんの部屋見にいったから」



こけそうになった。



「ベッドの中で待ってたんだから」



今度こそこけた。



**********



あの場はごにゃごにゃいって誤魔化したが、しかし後髪を引かれる気分だ。



リアルがすっかり充実したのか、家に友達を呼び込みそれらとこの兄を尋問しては異性に慣れていない兄の反応をカワイイとイジり倒したくせに、普段はまるでいないかのように扱う我が妹が実はブラコンかもしれないという疑惑が浮上しました。



普通の年頃の妹は年の近い兄のベッドになぞ潜り込んだりはしません。

その真偽を確かめるべくいつものマンションへ行く道のりをUターン、自室へ戻る。



真相からいえば妹はシロだった。



そうでなければ、俺がこっそり自分のベッドをめくろうとした際部屋の照明がつき、背後に立っていた妹がゴミを見るような目をしていたなんて状況が起こった事実が説明できない。



「まさか鵜呑みにするとはね」



「してない。してないよ」



「ちょっと人となりを見直すわ」



妹はそういって一歩後ずさった。

これはなにいってもダメなやつだ。



俺は憮然としながらベッドの端に腰掛けた。

妹は俺の動きが止まったことを確認すると、勉強デスクに備えてある椅子に座った。



なるほどそこなら俺に襲われてもドアから逃げられるな。



「…………」



しばらく沈黙が続く。

俺が変態だということがわかったのにどうしてこの妹はここに留まるのか。

いやどうしても俺の無断外出の理由が知りたいらしい。



ちなみにこの妹の名は莉音。りおんと読む。莉音の「莉」の文字には訓読みがない。



「俺は深夜徘徊なんてしてない」



「この後に及んで往生際が悪い!」



とぼけてみせると机を叩いて怒った莉音。



「ちょっと散歩してただけだって。今日も戻ってきたでしょ」



「それはあたしに欲情したからでしょ!」



頭に血が上りすぎたのか、とんでもないことを言い出した。

まだ中二でしょ、きみ。



「とにかくもうネタは上がってるのにまだ言い逃れしようとする男は嫌い!」



「まだ確実な証拠は握ってなくない?」



「嫌い!!」



「さっき言い逃れはする『男』はって、いったよね?じゃあ言い逃れする兄はどう?」



「超嫌い!」



おおう。

さすがにこれ以上挑発すると物が飛んできそうなので、この辺で落とし所を探そう。




「仮に俺が明け方まで家族に黙って外出してたとして、なにをするっていうわけ?」



うそ。まだとぼけます。



「オンナと逢ってんでしょ」



「……なにそれ」



決めつけている。こういうところから冤罪は始まるというのに。

状況的には大当たり、意味合い的には微妙なところ。




「どうなの?」



「邪推というか飛躍というか……」



「違うって言いたいわけね?」



否定したところで全く納得した様子がない。疑り眼は健在だ。



「本当だとしたら不都合でもあるのかな……?」



とにかく最大の怒髪天はやり過ごしたようなので、俺は一番気になっていたことをそろりと口に出した。



「…………」



莉音は若干目を逸らしながら、小声でぽしょぽしょと呟く。

どうやら「ムカつくから」という旨の言葉を発していたようだ。



「まさか自分がそういう相手がいないのに、俺に先を越されたのが気に食わないとかっていうんじゃないよね」



頷いた。

なるほど、そこまで俺の評価は低いのか。

だったらそんな居心地悪そうにしないで、堂々といえばいいのに。



「そんなこと言われる筋合いはないね。大体俺の方が年上なんだからして、人生経験が豊富でなにが悪い」



俺は思っていた以上にヘコんだらしい。中学生の妹相手になにをいっているんだろうか。しかも結局強がりだから痛い。



そもそも俺が莉音と同じ年頃の時には、莉音ほど充実した日々を送っていただろうか。



**********



妙にしおらしくなった莉音だが、部屋から出て行く気配はない。

俺はきまずかった。



莉音はああはいったが、本音では俺のことを心配していたとしたら俺の言い草は大人気なかった。それとうちは深夜外出なんて認められてないから、結局問題にはなる。それに異性がいる場所へ出かけているのは事実だ。



負い目に潰されそうだ。



「さっきは……」



「別に気にしてないから」



莉音が言葉を被せなければ俺は謝っていただろう。



「少し考えていただけ」



「なにを」



「お兄ちゃんから本当のことを聞き出す方法」



驚いた。

莉音が俺を「お兄ちゃん」と呼んだ。



まあ、今は触れないでおくとして。



「やっぱり外で誰かと会ってるよね?で、やっぱり女の人……。でも、なにかわけありで」



「…………」



この後「なんで俺のことそんなにわかるの」と訊くと、

「教えない」と返された。



いつまでも筒抜けのバレバレの兄じゃ嫌だなあ。

男だって兄だって、ひとつやふたつくらい秘密にしておきたいことを持っていたいのに。



しかし莉音とはすっかり疎遠になったと思っていたのに。



**********



結局俺は洗いざらい吐かされた。



まだ一月と経っていないあの時の記憶だ。



莉音にはまずしっかりと順を追って説明したうえで、もう一度今度は要約して語った。




そろそろ暑くなってきたある時、室瀬千博は少女の生き霊に取り憑かれることになった。



依り代とされた千博は完全に意識もろとも全身を乗っ取られ、気づいたら海底にダイブしていた。



まだその時点では意識を共有していた少女の生き霊のいわれるがまま海底を詮索していたところ亜麻色の髪の少女が沈んでいるのを発見した。



絶対助からないと思いつつも、引き揚げにかかったところ意外なほど体は軽かった。



地上に揚げるとその少女は、さらに予想外なことに肌色もよく、なぜか脈が蘇った。



ちなみに人口呼吸はしていません。



「そういいのいいから」



「はい」



莉音に怒られた。

変なとこで切ってしまいました。

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