俺でよければ夜の間だけあなたに時間をあげることができます
OneNoteに書いてます。
ワードの方がいいのか…。
しかしMacだし
鮭が朝食で出てきた日の夜。
夕食を終えると、千博はいつものように部屋に引きこもり、いつものように頃合いを見計らって、いつものように家をそっと出た。
徒歩で20分ほどでいつものマンションにたどり着く。
カーテン越しに明かりがもれている様子からどうやら今夜は叔父がいるらしい。
相手は寝ている状態とはいえ、女子と二人きりなのは未だに緊張するので、少しほっとした。
「今日はしょーもない話聞いて欲しいいんだけど」
「なにまた爆死したの?」
「違うから」
ガチャるアレであまりにも酷い死に方をしたとき、その死に様を熱弁したおかげで叔父はこの切り出し方をした場合、「爆死しいたの?」という返しをするのが恒例となっている。
「今日の夕飯のとき、親父が彼女いないか聞いてきたわけ」
「ああ、時々俺にもいってくるわ」
「当然勿論『いない』って答えるわけよ。そしたらため息つかれました。こういいます『なあ、お前ってそもそも人を好きになったことがあるか?』って」
「まあ兄貴ならなあ」
「でもそのあとだらしないだって。そんなこといわれたんだけど。それってどうよ。なに?人を好きになるのになにか努力する必要でもあるんですかって?」
「まあ、そうかもな」
思いの外叔父が同調してくれなかったので、千博の語気が弱まる。
「それで?そうやって開き直ったのか?」
「いえたらここで話してないし……」
「それもそうだ」
分かっている。異性とまともにコミュニケーションをとろうともしなかった男がそうやすやすと人に対して好意をもつことができないことは。
**********
「起きてるか?」
叔父の声だけが隣の部屋から届いた。
寝室で横になっていた千博は目を閉じて答えた。
「起きてる」
まだ10時にもなっていない。つい最近まで日が変わるまで眠ることがなかった千博にとっては、まだ寝つきにくい時間帯だ。
隣のベッドで眠っている女、蒼宮一凛はとある特異体質の持ち主である。
現在ある事情により、覚醒状態における活力は自身では養うことができず、千博からの供給による形でしか得られることができなかった。
千博がそのエネルギーを供給するには、自身が睡眠状態になることが条件だ。
さらにいうと、一定の範囲内でなければ彼女への供給パスが確立されないという。
とはいえ添い寝するほどにその範囲は狭くないのだが。
**********
千博は自分が眠っている間、蒼宮一凛がどのように過ごしているか未だによく知らなかった。
起きたら急いで自宅へ戻り、何事もなく自室へ入ると母親が起こしに来るまで敢えて狸寝入りをする。
そして夜には家族の目を盗んで抜け出す、千博はそんな生活サイクルを送っていた。
家族には蒼宮一凛の存在は隠し通していた。
それは蒼宮一凛が普通に生活できるまでの、そう長くない時間までの話だ。
そう本人から聞かされたことを千博は信じていた。
**********
ある朝、目覚めると手元に見慣れない大学ノートが置かれていた。
あたりを見回したが、どうやら叔父はいないらしい。
千博はノートをめくる。
「おひさしぶりです」という挨拶から始まった文章は、だいぶコンパクトな丸文字で記されていた。
最後には、実はお菓子作りが得意で、今度用意するとの言葉で締められていた。
日頃の感謝を添えて。