表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

96/182

第九十話 この腕輪ならさ、きっとあの杖を上回るはずだよ?

『あ、ご、ごめんなさい、お父様。強すぎたりはしないですか?」


 ナタリアさんが驚きと同時に、父さんに謝ってるんだ。


「――だ、だいじょぶ。お、ぉおおおおおおっ。こ、これ、凄く気持ちいいねぇ」


 父さんは何故か、ご満悦。


 ナタリアさんが数日に一度行ってくれてる、父さん母さんの治療なんだけど。

 彼女の美しい青い角から放たれる、青い光が凄い状態。


 鬼人族の人は、身体にマナを循環させて、強力(ごうりき)や治癒の魔法を使うと、角が同じ色にぽうっと光を帯びるんだ。

 父さん曰く『魔法が発動してるってわかるのは、ある意味羨ましい』とのこと。


 父さんや母さん、俺なんかは角を持っていないから、強力なんかはその『現象』が起きてくれないと発動したという実感がわかない。

 まぁ、俺は別に、意識して使ってるわけじゃないらしいんだけどさ。

 ナタリアさんが治癒の魔法を使うとき、彼女の青い角がぽうっと優しい光を帯びるんだけど、今回は違った感じになっちゃったということ。


 ▼


 今日の治癒を始める前に、父さんと俺とである話しをしてたんだ。

 それは、俺がナタリアさんとデリラちゃん、母さんに作った、空魔石と魔石の腕輪で、『隣の国にある『聖女の杖』のような使い方ができるはず』という検証作業。

 それを、父さんが自分の身体を使って実験してみよう、ということになった。

 これはそのために軽い打ち合わせみたいなもんだ。

 父さんも俺も、母さんも、『聖女の杖』や、コルベリッタさんの持っていた杖を『どう使っていたのか』実は知らない。

 あくまでも『治癒の魔法を増幅する効果がある』ということしか知らない。


 昨夜、父さんは母さんと二人で、『あぁでもない。こうでもない』と、色々やってみたらしいんだけど。

 二人がまともに使える魔法『強力』は、自分自身に作用させるものであって、どうしても効果を得られなかったんだ。

 父さんも母さんも『ウェルちゃん(君)はほら、あれだから』って理由で、俺じゃ駄目なんだってさ。

 いやわかってたよ、そう言われるのはさ。

 それで、放出系の魔法が得意と思われる、鬼人族一の治癒の魔法使いである、ナタリアさんにお願いしようってことになったんだよ。


 試しに、腕輪がナタリアさんの腕にある状態で、父さんに対して治癒を使ってもらったけれど、彼女らしいいつも通りの効果しか現れなかった。

 そこですぐに、父さんが思い付いた。

 俺や母さんが、勇者のときに念じる方法を元にしてね。


「――魔法回路は魔石からマナを吸い出す機構になっているはず。それならその逆。吸い出すのではなく、与える感じ? んー、……ナタリアちゃん、いいかな?」


 何やらぶつぶつと独り言を言ってた父さん。

 何かを思い付いたみたいで、『それ』を、ナタリアさんにお願いしようとしてるんだろう。

 父さんから『ナタリアちゃん』と呼ばれるのは、最初は照れていたみたいだけど、最近は慣れてしまったみたい。

 ナタリアさんは、俺と同じ境遇を持ってるから。

 父さんを本当の父親のように、母さんを本当の母親のように思ってくれてるんだろうな。

 ちなみに母さんは、『ナタリアさん』って呼んでる。

 ひとりの女性として、俺の奥さんとして、扱ってくれてるんだと思うよ。

 でも俺は相変わらず『ウェルちゃん』なんだよな。

 父さんの話しによるとね、ナタリアさんがいないときは『ナタリアちゃん』って呼んでるらしいけどね。

 それなら『ウェルちゃん』も、仕方ないのかな。


「はい、何でしょう?」

「今度はさ、ナタリアちゃんのマナをね、一度その腕輪の中を通すような感じにしてね、再度手首へマナを戻して、治癒の魔法に換えて僕へ流す感じに、やってみてくれないかな?」

「この腕輪に、……ですか?」

「前にエルシー様が話してくれたんだけど、『青の大太刀』に、マナをわけてあげる感じ。それでわかるかな?」

「あ、はい。なんとなく、わかります」

「じゃ、お願いできる?」

「はい。やってみますね――んー、……えっと、んむむむ……」


 すると、直視すると目に残像が残ってしまうほどのもの。

 それこそ『閃光』と言っても過言ではないほどの光が、ナタリアさんの角から発せられたんだ。

 その瞬間、父さんの口から『ぅはっ』という声が漏れる。

 母さんは『あなた、だらしない声を出さないでくれません?』と、素直にツッコむ母さんの頬が赤い。

 うん。

 わかってる。

 それくらいに気持ちよかったんだね。

 男の俺もよーくわかるよ。


「おぉおおおおおっ。こ、こ、……これは気持ちいいはいいんだけど。うん、まずいね。そうか、男じゃここまで長く感じることはないんだろうな。なるほど、実になんとも羨ましい限りだよ」

「父さん、何言ってんのさ?」

「ウェル君。わかるだろう? 男では感じ得ない、継続したか――」


 部屋中に響くほどの『スパン』という乾いた音が父さんの頬を襲う。

 母さんの平手打ちだった。

 ナタリアさんもきょとんとしてる。

 何せ、彼女の目で追える速度の平手打ちじゃなかったから。

 何が起きたかわからないんだと、思う。

 勿論、俺は見えてたよ。

 ほら、父さんの口元から血が滲んでるんだから……。

 それにしても、父さん、丈夫になったね。


「おぉう……、少々。口が過ぎたようだ。申し訳ないね、マリサさん……」

「わかればいいんですっ」


 叩いた母さんの方が、恥ずかしそうに、申し訳なさそうにしてるし。


 異常なほどとも言える、治癒の魔法の感覚に慣れてきた父さんは、つい、いけないことまで口走ってしまった。

 そこに耳までまっ赤になった母さんが、平手打ちで暴走を止めたという感じ。


 ナタリアさんはわかってないっぽい。

 よかったね、父さん。

 母さんが止めなかったら、ナタリアさん(まなむすめ)に嫌われちゃうところだったんだから。


「いやはや、この年で危うく――」

「クリスエイルさん」

「あ、はい。ごめんなさい。……いやでも、新しい発見だよ。過ぎた治癒は、痛みを止める超える劇薬と同じ。程度を越えるとその、危険なものに変わってしまう」

「だ、大丈夫でしたか? お父様」

「うん、大丈夫。本当ならもっと――いや、なんでもない。うん。僕が悪かった」

「はい?」


 ナタリアさんはまだ気づいていないみたいだね。

 けど、まるで魔獣を睨むかのような冷たい眼差し。

 あれは怖い。

 うん。

 俺に向けられなくて良かったよ。


「マリサ。これだけはわかってほしい。僕はね、身体が若返ったと思われるあの日から、隣に眠る君がまるで、あの日の君が戻ったかのように、とても美しくてねだね」

「あなた、何を急に……」

「身体だけじゃなく、心まで若返ってしまったのかと、まるで異性を意識し始めたばかりの、少年のような気持ちになってしまってだね……。毎晩その、ものすごく苦しくて。どう発散させたものかと。いやはや、大変だったんだよ……」


 なるほど。

 前に母さんがロードヴァット兄さんに与えた罰のひとつで、『もう一人子供を作りなさい』って言ったんだっけ?

 それが、父さんに返ってきちゃったようなものだったんだね。

 俺にもよーくわかるよ、うんうん。


「あなた、ごめんなさい。私もそのね、『わからないでもない』のよ」

「ほ、本当かい?」

「もういいわ。私、言い過ぎてしまったみたい。ごめんなさいね。本当に」

「うん。わかってくれたのなら、凄く助かるよ……」


 よかった。

 母さんの表情が少し和らいだみたいだよ……。


「そういえばナタリアちゃんは、デリラちゃんを授かった(のち)、強力が使えないようになった。それで間違いないかい?」

「はい」

「んっ、……と、うまく言えないけれど。おそらくは、『使えない』んじゃなくね。効果が微弱になったんだと思う。何せほら、ウェル君を慌てて抱き上げたとき、同じようなことができていたはずだけど?」

「あ、確かにそうですね」

「だからね、さっきの治癒の魔法の効果が予想以上に出たのもね、ナタリアちゃんが『一度マナを腕輪に通して、作用させたい部位へマナを送る』ことがうまくできたから――」

「あっ」


 母さんの声がしたかと思ったら。

 ぐしゃっと、何かが潰れるような音が聞こえたんだ。

 それを見た、俺と父さん、ナタリアさんが目を点にすることになった。


「おほほほ。ごめんあそばせ……」


 笑って誤魔化している母さんの目の前にあったはずの、一枚岩から削り出したテーブルが、真っ二つ。

 それどころか、ところどころ粉々になってるんだ。

 どんな力が加わったら、こんな風になっちゃうんだろう?


「母さんもしかして、……やってみたんでしょう?」

「あ、あのね、ウェルちゃん」

「何気にさ、モヤモヤした父さんへの気持ちを、八つ当たりのようにぶつけちゃったりしてないよね?」

「だってその、……ごめんなさいね」


 父さんがナタリアさんに教えた方法をまねして、母さんがあっさりやらかした。

 腕輪にマナを通して、腕に強力の魔法を通したんだろうね……。


 いやはや、凄まじいものだったよ。

 あれで頬を叩かれたら、歯、折れちゃうね、きっと。

 ってことはさ、母さんの地力って、どんだけなんだろうね?

 あの『見えない平手打ち』とかさ。


 俺とナタリアさんは後片付け。

 さっきとは逆の立場のように、母さんが父さんに窘められてるし。

 粉々になって、ただの石材に戻ったテーブルの破片。

 俺はまるで、あのときのデリラちゃんのように、指先でつんつんしてたんだよ。


「あなた、何をなさってるんです?」

「いやさ。これ、魔石みたいにくっついたら。片付けるのが楽になると思うんだけどね」

「くっつく、ですか?」

「うん。その腕輪もね、屑魔石や、屑空魔石を俺がマナを流して作ったんだよ。こんな風に――」

「あ、あなた、そ、それ」


 ナタリアさんが俺のことをまるで『おばけ(あれ)』を見るかのように、驚愕の眼差しを向けてたんだ。

 正直初めてで、何が起きたのかわからないくらいだったんだけど。


「ん?」

「それって何さ?」

「……ふぅ。あなたはエルシー様の言うとおり。『お化け』なんですね……」


 今まで俺が見たことがないほど、すっごい呆れた表情に変わっちゃったよ。


「ナタリアさんまでそんな」

「あなた。手元を見てくださいませんか?」

「手元って――うぉっ!」

「ウェル君。どうしたんだい?」

「ウェルちゃん。どうしたの?」


 父さんと母さんの目が点になっていった。

 そりゃそうだよ。

 砕けた破片だらけの元テーブルがなくなっていて。

 インゴットのような四角い石塊がそこに残ってたんだから、さ……。



お読みいただきありがとうございます。

この作品を気に入っていただけましたら、ブックマークしていただけたら嬉しいです。

書き続けるための、モチベーションの維持に繋がります、どうぞよろしくお願いいたします。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

異世界転移ものです

興味を持たれたかたは、下記のタイトルがURLリンクになっています。
タップ(クリック)してお進みください。

勇者召喚に巻き込まれたけれど、勇者じゃなかったアラサーおじさん。暗殺者(アサシン)が見ただけでドン引きするような回復魔法の使い手になっていた。

どうぞよろしくお願いお願いいたします。
― 新着の感想 ―
[気になる点] ナタリアさんはまだ気づいていないみたいだね。 けど、まるで魔獣を睨むかのような冷たい眼差し。 ナタリアさんがお父さんを睨んでいるみたいに読み取れます(・・;
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ