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第七十九話 国境の整備と入植相談 その1

 ここには元々、クレンラード王国王都と公爵領領都を隔てる、簡易的な関があっただけ。

 そこに新しく、入出国を管理する詰め所と施設が作られたんだ。


 クレイテンベルグ王国側から出て行く際は、それほどややこしい手続きは必要としない。

 けれどその逆、クレンラード王国側から来る人に関しては、入国審査を受けなければならない。

 あちらから来る人は、二種類に分けられる。


 ひとつは、交易。

 まぁ、王都にあるもので、こちらにないものはそれなりにあるけれど。

 すぐにでも必要なものはそんなにないんだ。

 だからあちらからの商人さんは、買い付けに来る人しか来なかったりするんだ。


 こちらからの輸出に関しては、現在バラレックさんの商会の商人が行き来してくれている。

 こちらからの交易品は、猪型などの魔獣の肉や皮が主なもの。

 鬼人族のお酒や、グリフォン族の木工品は一切持ち出しを許してないんだ。

 元々領都に住んでた人ですらあまり手にすることができないくらい、量産が進まないという理由もあって、父さんが許可を出さないんだ。

 だからこちらから買い付けに来た人が、持ち出す物もかなり厳しく制限してるくらいだね。


 集落にいたとき、バラレックさんたちが買い付けた分のお酒。

 実は商会だけで飲んでたんだって。

 数も少ない上に、他の国で作っているお酒よりも上質で旨い。

 だから売る気になれなかったんだってさ。

 エルシーも絶賛してたし、父さんもそれは認めてたくらいだし。

 俺も、わからなくはないんだよ。

 実際旨いからね。


 魔石は一切あちら側へ持ち込んではいない。

 国同士の折衝をしてくれている父さんが言うには、魔石が欲しいという話はないんだって。

 ということはさ、どれだけ俺が倒した魔獣から取れたんだってことだよね?

 だから、鬼人の勇者たちの分まで、魔剣や魔槍を打つ余裕があったんだ。


 もうひとつは、移住のため。

 特に移住を希望する人は後を絶たない。

 何故って?

 よくわからないけどさ。

 もしかしたら、このクレイテンベルグ王国には、魔獣を倒せる勇者がいるからかもしれないね。

 それも四人、多分噂になってると思うんだ。


 五人じゃないのかって?

 俺が抜けてる?

 俺はほら、『自称魔王様』だからさ。

 それに勇者たちの仕事を取り上げたら駄目だろう?

 だから表向き、勇者は四人ということになってる。


 魔獣から取れる素材も豊富だし。

 あっという間に発展したと噂されてるんだと思う。

 だからなのかな?


 持ち回りで担当してくれてる勇者たちの報告から、ある程度流れは聞いてるんだ。

 審査をするため、詰め所にある部屋へ個別に入ってもらって。

 書類に記入、または代筆してもらうことになるらしい。

 入国目的、人数、誰かに会いに来たか、そうでないのか?

 それらがはっきりしてさえすれば、ここからはそれほど時間がかからない。


 全ての記入が終わると、待機していたグリフォン族の若い人が連絡係として飛び立つ。

 あっという間に王城へ来ると、テラスに降り立つんだ。


『失礼いたします。姫様のご機嫌はいかがでしょうか?』


 そこはルオーラさんの居住している部屋で、その奥には奥さんのテトリーラさんの工房になってるんだ。

 声が大きいから、俺のところまで聞こえるんだよね。


『はいはい。お疲れ様。今、お伺いをしてきますからね』

『はい。お願いいたします』


 今はこんな感じに連携を取ってくれてる。


 領都や王都でおかいものをしていなければ、デリラちゃんは基本、王城にいるんだよね。 それにたまたまお昼を食べ終わったあと、まったりとお茶してた時間だったから。


『テトリーラです。姫様はいらっしゃいますか?』

「あいっ」


 デリラちゃんが返事をする。

 最近デリラちゃんは、人見知りが前ほどではなくなった。

 グリフォン族の人は、お友だちのフォリシアちゃんのこともあって、普通に受け答えができるんだよね。

 まぁそれでも、ライラットさんたち男の子が来るとね、まだ隠れちゃうんだけどさ。


 俺の隣で座ってたデリラちゃん。

 もうすぐ六歳だからかな?

 見た目以上にお姉さんになってきたからかな?

 ご飯のときだけは、俺の膝の上じゃなく、ナタリアさんの真似をして隣に座るようになったんだ。


 でも、まったりしてるときは膝に座ったり。

 俺が昼寝をしてると、俺のお腹の上で大の字になって。

 両手両足を投げ出して、ぐでーっとしてるんだけどね。


『姫様、ごきげんよう』


 流石は執事のルオーラさんの奥さん。

 デリラちゃんのお手本になるくらい、言葉遣いが丁寧だね。


「あいっ、テトリーラちゃんっ」


 この辺は、進歩したと思っていいんだよね?


『えぇ。そうだと思うわ』


 エルシーが同意してくれる。

 うんうん。

 俺もそう思うんだ。


「テトリーラさん。どうしたんです?」


 デリラちゃんへ用事があるのはわかってる。

 ほぼ違いなく『あれ』をお願いしに来たんだろうけど。


『はい。詰め所から報告がありまして。姫様に審査をお願いしたいとのことです』

「デリラちゃんに?」


 デリラちゃんはこてんと首を傾げる。


『はい。お願いできますか?』

「あいっ――んー……」


 するとデリラちゃんは、目を少し細めてある方向をじっと見る。

 それは国境、詰め所がある方角。


「……だいじょぶよ」


 そう言うとにっこり笑う。


『そうですか。姫様、ありがとうございました」

「あいっ」


 テトリーラさんは戻っていく。


「デリラちゃん、いつもありがとうね」

「うんっ」


 俺はデリラちゃんの頭を撫でる。

 デリラちゃんは、目を細めて気持ちよさそうな表情(かお)をする。


 デリラちゃんのさっきの『だいじょぶよ』は、入国を待つ人に対して『遠感知』を使ったんだと思う。

 デリラちゃんの特殊な力『遠感知』は、自分に対して、家族に対して、害にならない人かどうか。

 それを瞬時に判断しちゃう、とんでも能力なんだよね。

 なにせ、あの元騎士団長たちを言い当てたくらいだからさ。

 デリラちゃんが『だいじょぶよ』って言ったということは、今入国を待つ人には許可が出たということ。


 多いと一日に五回ほど。

 少ないと二、三日に一度くらい。

 こうしてデリラちゃんは、公務にあたってくれてるんだ。

 俺正直、頭が上がらなくなる気がしてならないんだよね。

 俺の娘、すっごく優秀……。


「いや実に、我が孫娘のデリラちゃんは、立派だね」


 父さんが手放しに褒める。


「えへー」


 デリラちゃん、照れる照れる。

 デリラちゃんは、おじいちゃん、おばあちゃんも大好きだからね。

 褒められるとくすぐったいんだと思うよ。


 父さんの話しでは、普通なら早くて半刻。

 長いと半日はかかると思っていた入国審査。

 そう思っていたところ、デリラちゃんのおかげで、一瞬で終わってしまうものだから。

 拍子抜けしたと言ってたんだよね。


 ちなみに、デリラちゃんは『だめ』って言うことが、日に半数以上出ることもある。

 容赦ないというかなんというか。

 そういうときは必ず、凄く嫌そうな表情(かお)をしてるんだ。

 理由を聞くとね、『ぱぱにいしなげたから』ってぷいっと横を向くんだよ。

 なるほど、あの日俺に投石をした人なんだろうな。


 あの日デリラちゃんが見たわけじゃないんだろうけど。

 何をどう判断して、そういうことを見抜いたのかは、俺にはさっぱりわからない。

 でもさ、デリラちゃんは嘘をつかないから。

 デリラちゃんが嫌なら、そうするのが正解なんだよね。



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