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第七十五話 エルシーの診断。

「ナタリアちゃん。ちょっといいかしら?」


 晩ご飯が終わって、デリラちゃんが寝付いたあと。

 イライザさんとエルシーは晩酌をする時間なんだけど。

 前から思ってた検証をしてみたいと、エルシーが言うから。

 試しにやってみようってことになったんだ。


「はい。エルシー様」


 ナタリアさんは俺の隣にちょこんと座った。


「ウェル。これ持っててくれる?」

「うん」


 エルシーが俺に渡したのは、彼女が人の姿でいる間、万が一のことが起きた際に振るうための小太刀。

 アレイラさんが持っているものと、ほぼ同じものだけど、刀身は魔石だけで出来てる。

 俺やエルシーじゃないと扱えない、それなりに危険なものだね。


「じゃ、戻るわね」


 同時にエルシーの身体を淡く青い光が包む。

 その光が収まると、見覚えのある大太刀の姿に戻っていた。

 最近は眠るとき以外、ほぼ人の姿だったから。

 久しぶりに見る感じがするね。


『ウェル。移動したからお願い』


 エルシーの気配が、大太刀から小太刀に移ったみたいだね。


「はいはい」


 俺はナタリアさんに柄を向ける。


「ナタリアさん。これ、持ってくれるかな?」

「はい?」


 小首を傾げて『どういう意味でしょう?』という表情をする。

 このあたりがデリラちゃんそっくり。

 やっぱり母娘(おやこ)だなって思うんだ。

 右手で柄を、左手で鞘の部分を持つナタリアさん。


『ナタリアちゃん』


 ナタリアさんを呼ぶ、エルシーの声。

 あれ?

 ナタリアさんが俺を見てる。


「あの。それで。何をされるんですか?」


 きょとんとしてるナタリアさん。


『ナタリアちゃん。ナーターリーアー、ちゃん?』


 エルシーは一生懸命呼びかけてるけど、ナタリアさんには聞こえていないっぽい?


『ウェル』


 ん?


『やっぱり駄目みたいね』


 そっかぁ。

 それで、あっちの方は?


『んー、何も感じないわね』


 エルシーは、ナタリアさんの考えていることを読み取ろうとしてるんだ。

 でもやっぱり駄目かぁ。


「あなた。エルシー様は、どうされたのですか?」

「ちょっと待ってね。何やら調べ物をしてるみたいだからさ」

「はい。わかりました。では、今のうちに」


 俺にぺたりと寄り添って、俺の肩に頭を乗せてくるナタリアさん。

 最近、こうして甘えるようにするんだよね。

 人前ではあまりやらないんだけどさ。


「あははは」


 それでどう?


『そうね、残念だったけれど。それでもナタリアちゃん。凄いわ』


 そうなんだ?

 ……って、何が凄いのさ?


『あぁでも。大丈夫なのかしらね? 普段はあまり使ってないみたいだから。かえって心配になってしまうわ……』


 何が?

 俺だって心配になっちゃうよ。


『ナタリアちゃん』


 あ、その状態でも話ができるんだ。


『そりゃできるわよ。あっちの剣でもできたでしょう?』


 あ、聖剣エルシーでもそうだっけ?


「はい。エルシー様」

『あのね、わたし。さっきからずっと、ナタリアちゃんに話しかけてたんだけれど。聞こえなかったかしら?』

「えぇ。わかりませんでした。その、申しわけありません……」

『いいのよ。ちょっとそっちに戻るわね』

「はい」


 小太刀から大太刀へ、エルシーの気配が移動したように俺は感じるんだ。

 多分、俺だけなんだろうけどさ。

 そのまま大太刀の気配が大きくなったかと思うと、また淡い光が包んだ。

 あっという間にエルシーが、座った状態で姿を表した。


「……ふぅ。結構マナを消費するのね。もったいないわ」

「なんだかなぁ。それでどうだったの?」

「でもこれではっきりしたのよ」

「何が?」

「ウェル。あなたがお化けだってことをよ」

「ちょ。何を今更」

「あのね――」


 エルシーは今までこっそりと、調べてたらしいんだ。

 鬼の勇者の四人が持つ、魔剣に乗り移っては。

 声をかけたり、声を聞いたり。

 マナの多さを測ったりしたんだって。

 何気に、母さんと父さんにも、協力してもらってたらしいんだ。

 それは初めて聞いたよ、俺もさ。

 その結果――。


「ウェルだけが、わたしの声をこっそり聞けて。ウェルの声だけを、こっそり盗み聞きできるってわかったの」

「そう、なんですか?」

「おそらくね。ウェルが一番、わたしとの親和性が高いのかもしれないの。それとね、マナの量がやっぱりお化けなのよ」

「お化けって、どういう意味?」

「その名の通りよ。身体の中にあるマナを溜めておける総量って言えばいいのかしらね? わたしが知る限り、一番多いのがウェル。あなたなの」

「なるほど。それで、次は誰だったの?」

「そうね。次はナタリアちゃん、……かしら? ウェルの一割くらいはあるわ」

「ちょっと待ってよ。俺、そんなに多いの?」

「そうね。イライザちゃんの倍くらいあるのが、ナタリアちゃん。鬼の勇者ちゃんたちは、イライザちゃんよりもっと少ないわ。あって彼女の二割くらいかしらね?」


 ……ってことはさ、俺ってどんだけなのよ。

 ちなみに、グレインさんはイライザさんより多いらしい。

 あれだけの魔石を打つ力があるんだ、なるほどなと思ったわ。


「鬼の勇者ちゃんたちと、クリスエイルさんが同じくらいだわ」


 鬼の勇者のように、父さんも魔剣を扱えたんだ。

 それくらいはあるんだろうね。


「そうなんだ。凄いな、父さん」

「なるほど。それであのような状態だったんですね」


 父さんが(わずら)っていた、マナの滞りがあったあの症状。


「そうね。次がマリサちゃんかしら? デリラちゃんはまだ小さいから、調べるのは怖くてやってないのよね」

「デリラは多い方だと思いますよ。あの子も産まれてすぐに、マナの滞りがありましたから」


 なんでも鬼人の子供の間でも、滞りがある子とない子がいるらしいんだ。

 ナタリアさんもあったんだって。

 鬼の勇者たちは、聞いてみないとわかんないけど。


「あ、それでもですねエルシー様」

「何かしら?」

このひとの声が聞こえるようになったのはきっと」

「えぇ」

「彼の亡くなったお母様が、エルシー様に託したのかもしれませんね」

「そうね。その可能性は考えたこともあるわ」


 そっか。

 そうかもしれないんだね。


「マリサちゃんと一緒に、母親を亡くしたばかりのウェルに出会ったあのとき。胸が締め付けられるほど切ない想いをしたの。……だからわたし、ウェルの母親代わりでいようと。絶対に死なせてはいけないと思ったんだものね」

「ありがとうございます。エルシー様」

「どうしたの?」

「彼を守っていてくれたから。今こうして、デリラの父親で、あたしの夫でいてくれるんです。本当に、ありがとうございます」

「嫌よもう。そんなに褒めたって、何も出ないんですからね」

「エルシー、照れてる」

「黙らっしゃいっ」

「はいっ。ごめんなさいっ」


 あ、反射的に謝っちゃったよ。

 昔からこうだったからなぁ。


「そうそう。忘れるところだったわ。ナタリアちゃん」

「はい」

「あなた、それだけのマナを抱えて」

「はい」

「消費しないで辛くないの?」


 確かにそうだ。

 父さんはマナが多くて身体に負担がかかっていた。

 実は母さんもそうだった。


「あの、鬼人の女はですね。十歳あたりで治癒を教えられるんです」

「そうだったわね」

「デリラはまだ五歳ですから。教えていないんですけど。毎晩あの子が寝てから、滞りが再発しないように。治癒を目一杯かけてあげているんです」

「あぁそれでなのね」

「はい。五歳に滞りに心配がなくなりまして、しばらくは我慢していました」


 我慢してたんだ……。


「そう、ナタリアちゃんは、大丈夫なの?」

「今は、お父様の治癒があるので楽になりました。これからは、お母様の治癒もあります。それに、領都に住んでいた皆さんもいますから。お父様を通じて、お願いされていましたので。今後は、余裕で使い切ることができると思うんです」


 うわ、まじ聖女様だよ。


「えぇ。まさに、聖女様ね。わたしが知る限り、もっとも優秀な」

「そんな、褒められてもこまります。あたしなんて……」


 簡単な怪我なんかは、鬼の勇者の二人。

 アレイラさんとジェミリオさんも、治癒にあたってくれるとのこと。


「ナタリアちゃん。協力してくれてありがとう。じゃ、わたし。イライザちゃんのとこで、晩酌に付き合ってくるわね」


 付き合わせるんでしょう?

 エルシーが人の姿でいるときは、あまり俺の考えを読めないらしい。

 だからこうして、ちょっとした仕返しみたいに言いたいことを思ってるんだ。


「はい。おやすみなさい、エルシー様」

「おやすみ、エルシー」


 俺とナタリアさんは、エルシーの背中を見送った。

 並んでお茶を啜ってぼそっと呟いちゃった。


「俺ってさ、聖女様をお嫁さんにしたんだね」

「何を言ってるんですか。あたしは勇者様を旦那様にしたんです。そっちの方が凄いと思ってますよ」

「うあ。なんだか背中がこそばゆいわ」

「あたしだって、むずかゆいですっ」


 目を見つめ合って、くすくす笑い初めて。

 改めて思ったよ。

 似たもの同士なんだなって、俺たちはさ。


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