表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

79/182

第七十三話 ナタリアさんの知識と手当て。

「あなた」


 少し離れたところから父さんたちを見てる俺。

 そんな俺の耳元に、ナタリアさんの声。


「あ、ナタリアさん。デリラちゃんのとこにいたんじゃないの?」

「デリラはエルシー様がみてくださるとのことですから」


 見えないと思ったら、そうしてくれてるんだね。


「そっか、うん」

「あのですね」

「うん」

「お父様の症状なのですが」

「うん」

「あたしたちの中には、マナが循環してるではないですか?」

「あ、そうだっけ。俺、難しいことはあまり、その」

「そういうものだと思って下さい」

「あ、はい」

「まったく、お母様が苦労しただけはありますね……」

「何を?」

「いえ、何でもありません。それでですね」

「うん」

「お父様はですね、マナが生まれつき多かったのだと思われます。あたしたち鬼人(おにびと)は自然とマナを使うことができますが、人間はそうではなかったのかもしれません」

「うん、そうかもしれないね」


 そもそも、マナを使うとか、教えられないからね。

 俺も確かに、小さいときは。

 特に冬の間、外に出られないときは、動き回れないからか、熱を出して寝てたときも多かった。

 あれ?

 ちょっとまて。


「母さんごめん」

「あ、あら。どうしたの?」


 父さんと母さんと、しんみりしてるところ悪いとは思ったけど。

 確認しておきたいことがあったんだ。


「母さんがさ、小さいときだけど」

「えぇ」

クレンラード(ここ)ってさ、雪が深くて外にでられなかったじゃない?」

「そうだったわね」

「そのときさ、熱を出して寝込むこと多くなかった?」

「……ない、とはいえないわ。いえ、毎年、決まって一度は熱をだしてたような……」

「やっぱり。俺もそうだったんだ。そこでさ、ナタリアさん。さっきの話」


 急にナタリアさんに話を振ったから、ちょっと驚いてる。


「あ、はい。ごめんなさい。あのですね、お母様」

「えぇ」

「お父様は、胸から首にかけて、マナの滞りが酷かったように思えるのです」

「そうなの?」

「はい。治癒を始めた当初ですが、少しずつ、ゆっくりほぐすようにしていったところですね、お父様の顔色が良くなっていったので」

「えぇ」

「人の身体には、血の巡らせるための管というものがあると聞いています。そこが弱くなってしまっていたのでしょう。実は、デリラも生まれて間もないとき、同じような症状が出ていたので、お父様のように癒やしていたのです」

「なるほどね。僕もそういえば、少し思い当たるところがあるよ」


 顎に手をやっていた父さんが思い出したように言う。


「マナは血の巡りに乗って、体中を循環してるって。ある文献に書いてあったのを憶えてる。小さなころから僕は常に、発熱して熱が高い状態だった。特に、肩から首にかけてが一番酷かった。もしかしたらそれが関係してるのかもしれないね」


 ナタリアさんが父さんの背中に回った。


「以前はこの部分に、マナの流れが滞っていました。デリラも同じだったので、もしやと思ったのです。ですが今は綺麗に流れているように感じます」

「くすぐったいんだけど、ごめんねナタリアさん」

「あ、す、すみません……」


 背中を這う、ナタリアさんの指がくすぐったかったんだろうね。


「あなた。鬼人の子たちのあれ。教えてあげてくれますか?」

「あれ。……あぁ。ちょっと待って」


 俺は倉庫に行って、あるものを持ってくる。

 ややあって戻ると、俺の手には小さな鞘つきの小刀が握られていた。


「父さん。これ持ってみてくれます?」

「これは?」


 鞘から抜いたその刀身は、刃渡り十五程度の小さい物。

 ただ、混ざり気なしの、赤い刀身。


「魔石だけで鍛えてもらった小刀です。これ、このままだと切れないんですよ」


 俺は刃先に指をあててみせる。よく見ないとわからないけれど、刃は鈍く丸く、触っても怪我をしないような代物に見えるだろうね。


「これ、あれかな?」

「はい。握って念じるんです。『薄く、強く、しなやかに』って。これが鬼人の子たちに教えてる、魔石制御の鍛錬方法ですね」


 父さんは刃をじっと見て。


「『薄く――』あ」


 あっさり薄くなった。

 凄いな、ある意味。


「これは凄い、マナがどっと力が抜ける感じがあるね」


 いや凄いのは父さんだって。これ、魔石だけで打たれてるんだから、マナの消費もとんでもないもののはずだし。それを平気な顔してるんだから、さ。


「はい。あの国にあった聖剣よりも危険な代物ですから」

「お父様」

「あ、はい」

「鬼人は、小さいときにマナの使い方を学びます。ですが人間はそうではないのでしょう。人によってマナが多い者、少ない者がいるからだと思うのです」


 小さいときに教える方法。

 たぶん、筋力の強化などの方法だろうね。

 大岩を軽々と持ち上げた子には驚いたから。

 俺はエルシーに同じようなことを教わったんだよな。

 マナを指に流すことから始めて、手に、腕に。

 腹や足に。

 そうすることで、勇者は強くなれるって。


「小刀に作用させることに慣れたあとで構いません。次は、指先にマナを流してみてください。『絶対に慣れたあとに』ですよ?」


 ナタリアさん、怖い怖い。

 目が真面目になってる。


「は、はいっ」


 父さん、やろうとしたからね。

 ほんと、こういうところは子供っぽいなぁ。


「指先にマナを流す際。『強く』と頭に念じてみてください」


 あ、それ。

 エルシーから教わった方法。


「おそらくお母様は、無意識にやられていたかと思いますので」

「そうね。こうできたら、もっと疲れないかな? みたいに色々試した時期があるわ」


 母さんそれって、結構半端ないわ……。

 エルシーから学ばなくてもできたって。

 とんでもないかもだよ……。


「今は力が入りにくいかと思いますが、もう少し楽に動けるようになると思います。あと数回治癒を重ねたら、心配の無い状態になるはずですから」

「ナタリアさん」

「はい」

「ありがとう」

「いえ……、あ、そうでした。お母様」


 ナタリアさんは照れる前に持ち直し、母さんの近くへ。


「何、かしら?」

「失礼します。お母様は以前、……『お腹のあたりを悪くされた』と言ってましたよね?」


 ナタリアさんは俺を見ながら、母さんのお腹に手を置いて聞いてくる。


「あ、そうだね。悪くしたって言うのかな? 俺も詳しくはわからないんだけど」

「では、このあたりでしょうか?」


 ナタリアさんは、母さんのお腹に右手を充てる。

 目を閉じて集中してるみたいだ。

 あ、さっきのアレイラさんみたい。

 辺りが暗いからよくわかる。

 ナタリアさんの角が青白く淡く光ってる。


「温かいわ。昔、聖女さんに癒やしてもらったのとは違う、もっと心地よい感じがするわね」

「少し我慢してくださいね?」


 母さんは、父さんが『くすぐったい』って言ってた意味だと思ったんだろうね。


「ここかしら? いえ、もう少しこっち……」

「くすぐったいというより、そう。……なんだか気持良いわね」


 ナタリアさんの手は、胸の間から下へ。

 ゆっくり動いて下腹のやや上あたりで止まった。


「やはりここですね。……これはその。かなり厄介です」

「え? 私、やはり悪いところがあるののかしら?」

「いえ、悪かったと言うべきでしょうか? この辺りに長年、負担がかかったのでしょう。凝り固まっているというか、なんとも表現しづらいのですが……」

「何でも聞くわ。この人を治せたんだもの」

「では、んっと。『覚悟してくださいね?』」

「えっ? それってどういう――」

「こうかしら? んっと、こう?」


 珍しく、ナタリアさんの眉が少しつり上がる。

 何か凄く、難しいことをしているかのように。

 ついでに、眉間に皺が寄る。

 こんなナタリアさん、新鮮だわ。


「――ちょっ、いたっ。あだだだだだだだっ!」


 母さんの表情が一転する。

 もの凄く辛そうだ。


「やはり。お母様、失礼いたしますね」


 そう言うや否や、ナタリアさんは軽々と母さんを横抱きにして抱え上がる。


「へ?」

「あなた。ちょっとそこで待っていてください。お父様も来てはいけませんよ?」


 すっごく怖い表情で、そう言うナタリアさんに。


「「はいっ……」」


 俺たちは二つ返事。

 ナタリアさんは、母さんを抱えたまま、かなり速い足で、走って行っちゃったよ……。

 すげぇ――ていうか、何があったんだろう?

 俺と父さんは、呆然としたまま、ナタリアさんたちの背中を追うことしかできなかった。


 ややあって、俺たちの前に現れたのは、ナタリアさんではなく執事のエリオットさん。

 あれ?

 何でこっちにいるの?

 父さんもそう思ったんだと思う。


「執事ですので」


 俺と父さんが聞こうとしたら答えるんだもの。

 執事、こえぇ……。


お読みいただきありがとうございます。

この作品を気に入っていただけましたら、ブックマークしていただけたら嬉しいです。

書き続けるための、モチベーションの維持に繋がります、どうぞよろしくお願いいたします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

異世界転移ものです

興味を持たれたかたは、下記のタイトルがURLリンクになっています。
タップ(クリック)してお進みください。

勇者召喚に巻き込まれたけれど、勇者じゃなかったアラサーおじさん。暗殺者(アサシン)が見ただけでドン引きするような回復魔法の使い手になっていた。

どうぞよろしくお願いお願いいたします。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ