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国に捨てられた烙印勇者、幼女に拾われて幸せなスローライフを始める  作者: はらくろ


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第七十一話 勇者選別の儀を模した催し。

 クレンラードにあった魔剣と魔槍は、俺が溶かしちゃったからあっちの台座に刺さってないんだ。

 だから今、勇者選別の儀式のまねごとができるのはここだけだったりする。

「父さん行こうか? 母さんも一緒にどう?」

「私は遠慮しておくわ。……あなた」

「なんだい?」

「子供の頃から楽しみにしていたのでしょう? 潔く砕け散っていらっしゃいな」

「あははは。こりゃ手厳しいや」


 母さんはとても嬉しそうに笑ってる。

 父さんは生まれつき身体が弱かった。

 酷いときには、屋敷の外へ出る気力が失せるほどに辛い毎日だったと聞いてる。

 母さんが勇者になったときも報告を聞いただけ。

 自分の目で見ていたわけじゃないらしいんだ。


「あぁ、楽しみだね」

「ほんと、仕方ないわね……」


 母さん、ナタリアさんに見送られて、俺たちは階段を降りて一階へ。

 玄関前のホールを抜けて、開け放たれている城の前へ。

 そこには、沢山の若い男女、子供たちもいた。


「私は『鬼の勇者』のひとりで、アレイラです」


『勇者さーん』

『お姉ちゃんー』

『アレイラさーん』


 などなど、歓声が上がってる。

 いいなぁ。

 俺だったら『ぱぱさん』か『若様』だもんなぁ。

 それはそれで嬉しいんだけどね。

 もちろん、今現在この国を魔獣災害から守っている者のひとりだから。

 アレイラさん、凄く嬉しそう。

 こんな風に俺も、子供や若い人には人気『だけ』はあった。

 俺が前に、こんな風に人気があったんだよって、話したことがあったから。

 あのときはまさか、自分がそんな立場になるとは思ってなかったんだろうけどね。


「ありがと。ありがと。私は実家が雑貨屋で、そこでお手伝いやってまーす。あ、農園もやってるので、遊びに来て下さいね」


 アレイラさんは、頬を染めながら歓声に手を振る。

 雑貨屋さんの看板娘も兼ねているから、人前で話すことは苦手じゃないみたいだね。


「アレイラ。脱線してるわよ。台座の話でしょう?」

「あ、しまった。ごめんごめん」


 ジェミリオさんの突っ込みが入る。

 二人が立っているのは、『休眠の台座もどき』の前。

 クレンラード王国、王都の城前広場にあるものと、同じような半球の形。

 あれよりちょっと大きいけどね。

 そこには大小様々な、数本の魔槍と、魔剣が刺さってる。

 俺が抜いたときは、聖剣エルスリングしかなかったけどね。


「私たち鬼人(おにびと)は、マナを使うことが、あなたたちよりほんの少し得意なだけです。私たちだって毎日、鍛錬を続けているんです。地味ぃな努力の結果、こうして剣を抜けるようになったんです」


 目の前で細身の剣を抜いてみせる。

 そのまま台座に戻すと、今度は槍を抜いてみせた。


『おー』


 アレイラさんは、槍を戻すと、皆に手を振って笑顔を見せる。


 一般の人には、どういう仕組みになっているかはわからないだろうけど。

 台座と剣が絡み合うように、固着してるらしい。

 これはグレインさんの受け売りだけどね。

 鍛錬した魔石と、ただの魔石とはすぐに分離しやすいみたいで。

 マナを流せば、剥離して抜けるようになる。

 あっちの台座も、きっとこういう仕組みになっていたんだろうね。


「そこの君」


 アレイラさんが指を差したのは、一番前で領都から若い男女で遊びに来ていた二人。


「ご家族かしら? それとも恋人さんたち?」

「あの、俺が弟で、こっちはお姉ちゃんです」

「そうなのね。それなら、この国の国王。ウェル陛下のことはご存じですか?」

「はい。ウェル様ですよね? 勇者様の」


 成年の体格は、ライラットさんと同じくらいだろう?


「では、弟さんの――名前を聞いても?」

「はい。マリオーラです」

「ではマリオーラ君。年齢は?」

「はい。昨年十五歳になりました」

「成人されたんですね。おめでとうございます。それならこれを、知っていますよね?」

「はい、『選別の儀式』ですよね?」

「そうですね。かつて、あちらの王都にあったものと同じ? いえ、もう少し大きなものになってるようです。では、好きな方を抜いてみてくれますか?」

「頑張って、マリオーラ」

「無理だって。前も抜けなかったんだから」


 前もというと、今年のあの日に挑戦したんだろうな。

 ごめんね、でもこうして、同じように作ったから許してね。

 マリオーラ君は両手で槍を持って、思い切り上に引っ張った。


「――ぅーっ! ……駄目だぁ――いえ、です。手、痛くなってしまいました」

「頑張ったわね。はい、両手を見せて」


 アレイラさんに両手を差し出す。

 遠目にだけど、手のひらは真っ赤。

 少し血でも滲んでいたのだろう。


「あら、頑張りすぎてしまったのですね」


 アレイラさんは、彼の手に両手を添える。

 そのまま目を閉じると、深く息を吸って、ゆっくりと吐き出していく。


「痛くない。痛くないですよ。……ほら、大丈夫」


 薄暗くなって、照らされた明かりがそうさせたのか?

 アレイラさんの滑らかな赤い角が、ぼうっと淡く光ったような感じ。


「あれ? 本当だ。いたく、ないよ? お姉さん、まるで、聖女様みたい」

「あら嫌だ。聖女様だなんて……。それにお姉さんって言っても、私まだ十六ですよ」

「あ、そうなんだ。お姉ちゃんより一つ下なんだね。でもぼくよりは、お姉さんだよ?」

「ありがとう。もう、大丈夫よ。マリオーラ君のお姉さん――えーと」

「はい。ミリアンです」


  アレイラさんは、ミリアンさんの手を握って。


「では改めて、ミリアンさんも、ご協力ありがとう。はい、参加賞です」


 それは手のひらに乗るほどの小さな、グリフォン族の姿を形取った木彫りの人形。

 もちろん、グリフォン族が掘った立派なお土産品だ。


「皆さん、勇敢な彼に拍手をお願いします」


 アレイラさんの声に同調して、拍手が上がる。

 挑戦したマリオーラ君はちょっと照れてしまったようだ。


「説明を続けます。私たち鬼人(おにびと)は、身体の中にあるマナが皆さんよりも多く、マナを使うことに長けています。そのため、あなたたちより少しだけ、寿命も長いと言われています」


 領都からの若者たちは、アレイラさんの話を聞いてくれている。


「ですが、皆さんご存じの魔物、私たちが魔獣と呼んでいたものですが……。以前の私たちでは倒すことすら叶いませんでした。逃げて逃げて逃げ続けて――皆で震えながら、諦めて戻ってくれることを、天に祈るしかできなかったのです……」


 この国を守る鬼の勇者の言葉は、信じがたいものがあっただろうね。


「そんなとき、私たちの『ぱぱさん』であり、『若様』である人間の勇者様。ウェル様によって救われたのです。私はこうして、ウェル様より戦う術をいただきました。ただこの術は、私たち鬼人であっても、適性がないと扱えない危険なものです」


 うん。

 ヴェンニルと同じくらい、敷居の高いものに調整してもらってるから。

 簡単には抜けないと思う。

 それでも夢を持って貰うのは大事だから。

 まぁ、鬼の勇者(あのこ)たちに任せておけば大丈夫だろうけどね。


「この通り、ここ王都でも勇者への挑戦はいつでも行えます。ただし、お約束して欲しいことがあります。男の子、女の子ともに、十五歳を超えてる必要があります。私たち鬼人(おにびと)ももちろん、成人を迎えた年齢で、鍛錬したあとに挑戦しています。抜いた者のみが、鬼の勇者になるんです。皆を守る礎になるわけですね」


 アレイラさんはもう一度剣を抜いてみせた。


「どの剣も、どの槍も。鬼の勇者のまとめ役、ライラット君のお父さん。鍛冶師のグレインさんが打った逸品ばかりです。さぁ皆さん。力自慢でもいいです。我はと思う人は、ご挑戦なさってください。もし、適性があるとわかったならば、私たちが丁寧にご指導いたしますので、ご安心ください」


 すると、順番に一列に並び、ひとりずつ挑戦が始まった。

 皆俺のことを知ってるから、もちろん聖剣と聖槍のことも最低限『物語』として知ってる。

 抜けなくて、それでも頑張り続けて、アレイラさんに肩を叩かれて失笑する人。

 力一杯抜こうとして、手が滑って倒れそうになったところを、ジェミリオさんに抱きとめられてあまりの恥ずかしさに照れ笑いしてる人。

 中には『これ、本当に抜けるの? さっきのだけじゃないの?』訝しげに言う人がいて、ジェミリオさんが人差し指と親指で抜いて見せたところ、大笑いが起きたり。

 一緒に並んでいた鬼人族の少年の番になったけれど、全く抜けなくて落ち込んでいたところ。

 巡回に来ていたライラットさんに『まぁ、明日からまた頑張れ』と、慰められていたり。

 五十人ほどの若い男女が試していたけれど、やはり、抜くに至った人はいなかったね。

 それでもまだ、順番待ちの列が絶えないんだ。


 

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異世界転移ものです

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勇者召喚に巻き込まれたけれど、勇者じゃなかったアラサーおじさん。暗殺者(アサシン)が見ただけでドン引きするような回復魔法の使い手になっていた。

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