表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

63/182

第五十七話 ナタリアさんの想いと父さんの夢と。

 心地よい重みって知ってるかな?

 なんて言えば良いか、苦しくない幸せを感じる重み?

 今朝はそんな感じで目を覚ましたんだ。


「ぱーぱ。ぱーぱ。おーきーてーっ」


 んぉ?

 お腹の上で暴れるは、我が愛しきデリラちゃん。

 ナタリアさんはナタリアさんで、心地よい重みなのは間違いないんだけれど。

 デリラちゃんもまた、別格だったりするんだよね。


「ありゃ? どうした? 我が愛しきデリラ姫様」

「んー? デリラちゃんはデリラちゃんだけど?」


 首をかしげて俺をのぞき込む。

 あざとい。

 可愛い。

 もう、朝からどうしようもないわ。


「あなた、起きてますか?」


 ナタリアさんの声と一緒に、美味しそうな匂いが漂ってくる。

 王妃様になったっていうのに、いつもと変わらない朝ご飯の用意。

 まぁ、鬼人族で一番料理が上手だって話だし。

 ありがたいよ、ホントにね。


「うん。どうかした?」

「あら? デリラも一緒だったのですね」

「うん」

「あの、ですね。今日、お父様のところへ行く予定になっているではありませんか?」

「おばーちゃんのところー」


 デリラちゃんも憶えてるみたいだ。


「えぇそうね。それでねあなた。お父様のことなんですけれど――」


 ナタリアさんが言うのはやはり、父さんの身体のことだった。


「ねぇあなた」

「ん?」

「あたしとあなた、デリラの一日は同じでもですね」


 それは俺が、ナタリアさんと一緒になる前に悩んでいた、人間と魔族の寿命の違い。


「うん」

「あたしとお父様、お母様の一日は違うではないですか」


 確かに俺は、エルシーのおかげで『新種の魔族』になった。

 確かに俺は、エルシーのおがけで、ナタリアさんとデリラちゃんと、同じ時間を歩いて行けることが自覚できた。

 確かに、俺の一日と、母さんの一日。

 父さんの一日は違う。

 だからあまりゆっくりはしていられない。

 それは俺が一番良くわかってるはずのことだったね。


「おこがましい考えかもしれません。ですが、あたしはお父様の、お体を治して差し上げたいんです」


 だから一日も早く、治療を終えたいと思ってるって言ってくれてるんだね。


「ありがとう」

「違うの。あたしのわがまま。あたしが(そう)したいだけなんです」

「うん」

「もっと長い時間。お母様と一緒に過ごしていただきたい。もっと長い時間、デリラと一緒にいていただきたい」

「うん」

「もっと長い時間ですね。あたしのお父様で、デリラのお爺様でいて欲しいんです」

「うん。ありがとう、ナタリアさん」


 うわっ、ナタリアさんがわがまま言ってるんだ。

 やべ。

 すっごく嬉しい……。


「デリラちゃんもね」

「うん」

「おばーちゃんとおじーちゃんと、もっとあそびびたいのねっ」


 俺はデリラちゃんを抱き上げた。


「そうだね。今日はちょっと早いけど、行く準備をしよっか?」

「うんっ」

「ほら、ままと一緒に、顔をあらっておいで」

「いってくるの」


 デリラちゃんは、ナタリアさんに両手を伸ばす。

 ナタリアさんはデリラちゃんを抱き上げる。


「じゃ、俺も準備するから頼むね」

「はい。あなた」


「エルシーは起きてる?」

『起きてるわよ』


 壁に立てかけた大太刀から、彼女の声が聞こえる。


「昨日も遅くまで飲んでたんでしょ?」

『あら? あなたよりは早く眠ったわよ。ウェル』


 俺の母の一人でもある、エルシーは、眠ると相変わらず大太刀へ姿を戻してしまう。

 これは元々、彼女の身体を構成しているものが、鬼人族の母親たちの残した角から作られた大きな太刀だから。

 彼女が起きている間は、大太刀に貯蓄されたマナを消費しているのだという。

 だから、眠ると元の姿へ戻ってしまうわけだ。


 それでも彼女自身は、自らの意思で姿を変えられる。

 ほら、今みたいにね。


「デリラちゃん。顔、洗ってきましょうね」

「うんっ、エルシーちゃん」


 デリラちゃんをナタリアさんから預かると、洗面所へ姿を消すんだ。

 俺を見て、微笑む姿は母親のそれ。


「あら、おはよう。イライザちゃん」

「おはようございます。エルシー様」


 イライザ義母さんの声も聞こえてきた。

 さて、俺も準備しとかないとね。


 こうして、俺たちの慌ただしい一日は始まるんだ。


▼▼


 父さんはベッドに腰掛け、ナタリアさんに背中を向けていた。

 ナタリアさんは、両手を父さんの背中にあてて、治癒魔法を使ってくれてるんだろうね。


「あぁ。とても温かく感じる。なんて言うかね、いつも済まないね」

「いいえ。あたしがそうしたいだいけですから」


 デリラちゃんは、父さんの表情を見てか、少し心配そうな顔をしてる。


「おじーちゃん。どこかいたいの?」

「いや。痛いんじゃなくてね、嬉しいんだよ。そうか、これが『娘がいるってこと』なんだね」

「それってどういう?」

「あぁ。ウェル君には話したことなかったかな? マリサはね、『息子が欲しかったから』君が僕の後を継いでくれて、とても喜んでいたんだ」

「はい」

「僕はね、ほら。身体が弱かったから、実現しないと思っていた。それでも、夢があったんだ。実はね――」

「あなたは『娘が欲しいって言ってましたからね』」

「そうそう。って、知ってたんだ?」

「それはそうですよ。何年一緒にいたと思っているんですか? 私がこんなだから、辛い思いをさせていたのは知ってます。それでも良いってあなたは言ってくれました。ですがごめんなさいね……」

「ごめん。そんなつもりはなかったんだ」


 父さんは慌てた表情。

 あ、でも、すごく悪い笑みを浮かべてる母さん。

 エルシーも心配した感じじゃないし。

 父さんを慌てさせたかっただけかもしれないね。


「おばーちゃん? どこかいたいの?」


 あらら。

 デリラちゃんが、母さんの頬を叩いて聞いてる。


「違うのよ。デリラちゃん。どこも痛くはないのよ?」

「そう? だいじょうぶ?」

「ごめんなさい。心配させてしまって」


 母さん、『やり過ぎよ』ってエルシーに怒られてるし。


「叶わない夢だとは思ってはいたさ。ウェル君やマリサには悪いと思うけれども、ロードヴァットたちが羨ましく思ったこともあった。けれどね、この気持ちは隠すこともしなかったんだ。マリサはほら、隠し事をすると怒るから。でもね、今はこうして、僕にも立派な息子と娘がいる。それに孫娘までいるんだ。娘ナタリアさんや孫デリラちゃんに引き合わせてくれた、ウェル君に、マリサには本当に頭が上がらないよ」


 ありゃりゃ。

 ナタリアさん、真っ赤になって照れてる。

 背中をぺしぺし叩いてる。


「お父様。余計なことを考えないでじっとしていてくださいましっ」

「あ、あぁ。済まないね」


 そうだよね。

 うんわかるよ父さん。

 奥さんはもちろんだけどさ、娘って、最高だよね。



お読みいただきありがとうございます。

この作品を気に入っていただけましたら、ブックマークしていただけたら嬉しいです。

書き続けるための、モチベーションの維持に繋がります、どうぞよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

異世界転移ものです

興味を持たれたかたは、下記のタイトルがURLリンクになっています。
タップ(クリック)してお進みください。

勇者召喚に巻き込まれたけれど、勇者じゃなかったアラサーおじさん。暗殺者(アサシン)が見ただけでドン引きするような回復魔法の使い手になっていた。

どうぞよろしくお願いお願いいたします。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ