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第三十五話 それってどういうことだろう?

来週更新できるかわかりませんので、きりのいいところまで書いたら長くなってしまいました。


 俺に家名を継がせようという話に水を差されたてしまったマリサさんは、憮然とした表情になった。

 仕方なく立ち上がって、『どうぞ』と声をかけたんだ。

 扉が開いて、懐かしい二人が姿を見せてくれたんだ。

 ロードヴァット兄さんも、フェリアシエル姉さんも。

 俺の顔を見て一瞬笑顔になったんだけど。

 すぐに歯を食いしばって、俺に頭を下げてくるんだ。


「ウェル殿」

「はいっ」

「此度の事、国王として最大限の謝罪をさせていただきたい」

「ウェル様」

「はいっ」

「王妃として、申し訳ないと思っています」


 困った。

 許すって言えない。

 いや、王女たちの処分は終わったって聞いてるし。

 あまりにも困ったもんだから、マリサさんとクリスエイルさんの顔を見ちゃったんだ。

 『どうしたらいい?』って、聞きたかったんだけど。

 そしたら。

 すっげぇ怖い目をしてるよ、二人とも……。

 まるで別人みたいに。


 更に困ってエルシーを見たら。

 ちょっと待って。

 いや、おかしいって。

 その美しく整った口元に笑みを浮かべてるくせに、視線だけで射殺せるくらいの……。

 あれ?

 ちょっと待ってよ。

 いつの間に俺の腰から、小太刀を一振り持っていったのさ?


「(ウェル)」

「(はいっ)」

「(あの男の吐いた言葉。聞いてごらんなさい。返答次第では、斬るわ)」

「(ちょっと待って。わかったから。今聞くからっ)」


 俺は深く息を吸って、ゆっくりと吐いた。


「二人に聞きたいことがあります」

「何でも聞いて欲しい」


 瞬間。

 背中から殺気が漂ってくるんだけど……。


「聞いてください。じゃないのかしら? ロードヴァットさん?」

「は、はいっ。聞いてください」


 マリサさんのすっごく低い声。

 おっかねぇ……。

 エルシーの殺気だけじゃないわ。

 マリサさんと、もう一人分。

 これって、クリスエイルさん?

 半端なく冷たい感じ……。


「ロードヴァット」

「はいっ」

「そこに座りなさい」


 クリスエイルさんが指差したのは、床?


 ごつっ、っと音がするくらいに。

 慌ててロードヴァット兄さんとフェリアシエル姉さんは、跪いたよ……。

 顔を床に向けたまま、顔を上げようとしない。

 クリスエイルさんってもしかしたら、滅多に怒らない人だったりするのかな。


「今日、聖女マリシエールさんが、俺の集落に来ました。護衛に二人の騎士がいたんですが、そのうちの一人。名を、グランデールだったかと」

「……はい」

「マリシエールさんは俺に、国へ戻って欲しいと言いました。ですが、俺は断ったんです。そうしたら、その男。何て言ったと思います? 『この集落にいる魔族を根絶やしにしてでも連れ帰る』、そう言ったんです。もしやその言葉、この国の総意なのですか? わざわざそのために、マリシエールさんを寄こしたんで──」


「ぬぁんですってぇっ!」


 うぁっ!

 俺の肩越しに、マリサさんが怒鳴っちゃったよ。


「マリサ、落ち着くんだ。――ロードヴァット、答えなさい。返答次第では、僕にも考えがある……」


 ロードヴァット兄さん、顔が真っ青になってる。

 フェリアシエル姉さんも、ふるふると顔を横に振ってるし。

 ロードヴァット兄さんとからしたら従兄弟のお兄さんと、義理のお姉さんだからねぇ。

 フェリアシエル姉さんからしたら、実のお兄さんと奥さんだし……。

 わかってるって。

 マリシエールさんには、謝ってこいって言ったんでしょ?

 あの男の勝手な判断なんでしょ?


「ロードヴァット、どうなの、かしら?」


 マリサさん、そんなに凄まなくても……。

 声に殺気が。


「そ、そんなことは絶対にありえませんっ」


 やっぱりね。

 よかった……。

 騎士団長だったあの男の言った言葉は、国としての指示じゃなかったんだ。

 それだけでもさ、一安心だったよ。


「確か騎士団長だったと思いますけど、『この国とは関係ない』というのであれば、あの男の処遇はこちらで決めてしまっていいですね?」


 俺はまだ頭を下げてる二人、ロードヴァット兄さんとフェリアシエル姉さんに聞くわけにはいかないなと、思ったんだ。

 だからマリサさんに聞いてみたんだよ。


「グランデール……。確かミュラット伯爵の『長男だった』人でしたね。──構いません。いいですね、あなた?」

 

 いいのか?

 伯爵って言ったら、貴族だろう?


「あぁ。仕方のないことだよ。対象は、騎士団からは除名するように。いいね? ロードヴァット」

「はいっ。すぐにでも」


 決断早いな。

 身体が弱いって言ってたけど。

 本当ならクリスエイルさんが国王だったってのも、頷けるような気がする。


「そう言ってもらえると助かります。……ですが、この国の騎士団長を俺が裁いてもいいんでしょうか?」


 マリサさんはひとつため息をついてからこう言うんだよ。


「ミュレット伯爵家は、もう、存在しないのです。あの元当主は、ウェルちゃんに“必要のない烙印を刻んだ首謀者”だったのです――」


 なるほど、そういうことか。

 マリサさんの表情が冷めてる感じがするのはきっと、その伯爵家への処分は既に終わってるということなんだろうね。


「そうだったんですか。あいつの家が、俺を人間の国から追い出したんですね……。まぁ、俺のことはこの際どうでもいいんですけど、……あいつは俺の家族を手にかけるって言ったんです。だから、許す訳にはいかないんです――」


 ただ、俺がその時起きたことを説明した途端、マリサさんもクリスエイルさんも、徐々に呆れたような表情になってしまうんだ。

 多分その理由(わけ)は、俺が鬼の勇者の話も混ぜてしまったからかもしれないね。

 だってさ、俺も話しながら吹き出しちゃったんだから。

 髪がね……。

 まぁ、集落に戻ったら、適当にやるとしますかね。

 ロードヴァット兄さんとフェリアシエル姉さん。

 俺に嫁さんと娘がいるのに驚いてるわ。

 そりゃそうだ、言ってないからね。


「ところで、ウェル君」

「はい」

「その、鬼の勇者さんたちは、どれくらい強いんだい?」


 やっぱりそこか。

 んー、なんて言ったらいいんだろう。

 マリサさんも、興味ありげに俺を見てるし。


「俺が思うにですけど、全盛期のマリサさんと同じか、それ以上の強さかもしれません」

「ウェルちゃん、それはどういう意味なの?」


 そりゃそうだよね。

 んー、どう説明したらわかりやすいかな?


「この国で聖槍や聖剣と呼んでた物のですね、魔石の割合を模した槍や剣を、鬼人族で打つことができるようになったんです。これは魔石だけで打ってもらったものですね」


 俺は小太刀を抜いて見せた。

 赤く透き通る、この国にあった魔剣とは違う代物。

 マリサさんに手渡して、注意をしておく。


「どうぞ。あ、それにマナを込めちゃ駄目ですよ。間違いなく失神しますから。俺も最初は腰を抜かしましたからね」


 マリサさんは、両手で受け取ると、明かりにかざしてうっとりと見てる。

 あ、武人の目だね。


「これは美しい、ですね。鋼が全く使われていないようですけど」

「はい。刀身は全て魔石でできています。これとは違って、魔石の割合を落としたものを、鬼人族の若者に持たせてあります。それを一部の人が平気で使えるようになりました。その訓練された人たちを、俺は鬼の勇者と呼んでるんです」


 さすがは元とはいえ勇者だったマリサさんだね。

 俺の話をあっさりと理解したのか、冷や汗をかいたような表情になってる。


「ヴェンニルみたいな物を、平気で、なの?」

「はい。初めて触った時は驚いていましたが、ある程度慣れるとそれこそ、準備運動をするかのように、魔獣、こちらで言うところの、魔物を屠っていきます。マリサさんが抑えていた、あのオークくらいなら、一人では難しくても、二人でなら、倒してしまうでしょうね」

「――それは、凄いわね」

「はい。それも、十六歳の子達が中心になって組織されていますが、実は」

「実は?」

「女の子の方が強いですね」


 俺は苦笑しながらそう言ったんだ。

 『ほう』と驚くクリスエイルさん。

 『ぱぁ』というような笑顔になるマリサさん。


「まぁ、それは凄いわ」

「俺も、彼ら、彼女らの成長の早さには驚くところがありました。槍術の達人といわれたマリサさんなら、知ってると思いますが。この国では伝説的な存在(エルシー)が、一から槍術を。彼女から剣術を学んだ俺が、足裁きから教え込んだんです」


 そう言って、エルシーを見ると。

 エルシーは『ふふん』と、微笑むだけ。


「なるほどね。エルシー様ならありえなくもないわね」

「でしょう? 俺は槍術は教えられませんけど、俺が使っていた剣術は、その昔、王国に伝わる正統なものらしいですから」


 俺たちの話を横で黙って聞いてた、ロードヴァット兄さんとフェリアシエル姉さん。

 二人は、『さっぱり理由(わけ)がわからない』という表情をしてた。


「実のところ今現在は、俺は毎朝見回りをするだけです。魔獣の討伐は一切行っていないんです。鬼の勇者達の仕事を取り上げちゃ、悪いですからね」


 そう言って俺は破顔する。


「ウェルちゃん、鬼人族って、魔族の人たちって、『そういうこと』なのかしら?」

「そうですね。俺が先ほど説明したとおり、魔族はマナを扱うことに、生まれつき長けている種族です。この国、いえ。人間の勇者は、あくまでも『マナを使って聖剣や聖槍を扱うことができただけの人』、ということになります。マナを身体に作用させると、か弱そうな女の子であっても、自分の身長と同じ高さ、同じ幅の大岩を軽々と持ち上げてしまう。そんな女の子もいるくらいなんですよ」


 マリサさんとクリスエイルさんは、俺の説明でなんとなくだけど、納得してくれたみたいだね。


 クリスエイルさんが、ロードヴァット兄さんとフェリアシエル姉さんを見て、一つため息をついた。


「さて、二人もある程度理解してくれたと思うけど。ウェル君」

「はい」

「彼らには、どういう処罰を与えようか?」


 二人は『処罰』という言葉を聞いて、表情を強張らせる。

 うん。

 二人が来る前に、少しだけクリスエイルさんに聞かれてたんだよね。

 どうしてもらう?

 ってさ。

 俺は今まで聞いてた話を元に、一番最適な罰を与えてもらおうと思ったんだよ。


「先ほどお願いした通りでいいと思います」

「そうかい。……ロードヴァット、フェリアシエル」

「「はいっ」」

「二人にはウェル君から罰を与えるように言われてる」


 マリサさんも厳しい表情になっている。

 ……んだけど、目だけちょっと笑ってるんだよね。

 これはきっと、『養子をとって、早々に引退をする』という覚悟を決めていた二人にとって、ある意味辛い処分内容だったと思うんだ。


「ウェル君は、二人のことを簡単に許すわけにはいかないだろう。それに、元の第一王女も第二王女も、国を継ぐことはできない。では、処分を伝えよう――」

「「はいっ」」

「……養子などとらずに、もう一人子をつくりなさい。そして、その子が国継げるようになるまで、成人するまで、国王、王妃として国のために尽くすこと」

「「……はいっ?」」


 二人はきょとんとした表情になっちゃったよ。


「返事は?」

「「はいっ」」


 クリスエイルさんが、ふわっと、表情を優しいものに戻した。


「これでいいかな?」

「はい。構いません。俺は先程の理由があって、王国には戻るつもりは――」

「あとね、ウェル君。先ほどの話の続きだが。僕から提案があるんだ」

「先程の話、ですか?」

「ロードヴァット、フェリアシエル。よく聞きなさい」

「「はいっ」」

「ウェル君は、僕とマリサの名を継いでくれることになりそうだ。ウェル・クレイテンベルグになるのを、真剣に、悩んでくれているんだよ」


 うわ、蒸し返されちゃった……。

 うまく誤魔化せたと思ったのに。


「ウェル君。クレイテンベルグ領はとても広大で、魔族領の近くまで広がっているんだ。僕が管理しきれなくて手付かずの所も多いんだよ。人が踏み込むことのできない、魔物、魔獣だったかな。それがいる為、人が寄りつかない場所があるんだ。そこはね、調査だけ終わってるんだけど、とても肥えた土地で、野生の果物なんかも自生していると聞いている。どうかな? そこで、鬼人族の国を創ってみては?」


 こりゃ驚いた。

 国を創る?

 そこに鬼人族が移住するってこと?

 いやでも、何もないところに行ってもねぇ……。

 それに、何もない森をどうやって切り開けば?

 家なんかは職人がいるから大丈夫だろうけど、資材がねぇ……。


「何やら複雑そうな顔をしてるね。当ててみようか? んー、よし。ロードヴァット」

「――は、はいっ」


 まさか自分に話を振られると思ってなかったんだろうね。

 慌てて返事をしてるからさ。


「ウェル君への恩賞は、まだだったね?」

「はい。その通りです」

「あえて今まで言わなかったが、マリサと、ウェル君の討伐した魔物からとれただろう、魔石の売り上げ。二人はいくらももらってないはずだ」

「はいっ」

「魔物に関しては、マリサは今後討伐に参加はできない。細かい理由は、あとで僕からも二人に詳しく説明しておくよ。魔物の討伐は、ウェル君たち、鬼人族へ委託することになるだろう。もちろん、王国はそれに対して、十分な対価を支払うことになるね。なに、安いものさ。王国は安全を買うんだから。そうなると、勇者の少年にも引退してもらった方がいい。聖槍はウェル君に破棄してもらった。聖剣についても、後から破棄してもらうことにする。マリサの命を縮めるとわかった以上、もう、使わせるわけにはいかない。勇者なんて、無理な話だったんだ。あれは人間が使っていい物では、なかったんだね……」


 俺、人間じゃないですからね。

 鬼の勇者たちも、魔族だから休めば回復する程度だし。

 あの魔剣と魔槍をどこから持ってきたのか、エルシーがいた頃より前の話なんだろうけど。

 その謎は、まだ謎のままなんだよな。


「ウェル君。まずは集落に戻って、皆さんと相談してくれると助かるよ。良い返事を待ってるからね。もし、僕の提案に乗ってくれるなら、物資は『国費で』いくらでも用意するからね。資材だけじゃなく、食料も勿論だね。なに、心配はいらないよ。元々、ウェル君がもらうはずだった恩賞なんだからさ」


 確かに、鬼人族の集落あたりは土地が痩せ気味で、作物の収穫がいいとは言えない。

 肉だけは沢山収穫できるようなものだからって、肉料理中心の食生活も、なんとかしようと思ってたからなぁ。


「……はい。家族と相談してみます。グリフォン族の皆さんとも、話をしなければなりませんから」

「僕たちの所には、たまに顔をだしてくれたらいいからさ。それに、娘がいるんだよね。そうかぁ。僕にもマリサにも、孫ができたようなものなんだね」

「ウェルちゃんの娘なら、私たちの初孫ですねっ」


 いや、マリサさんも気が早いってば……。


 俺とエルシーは一度戻ることになった。

 クレイテンベルグ家の執事さんと、ルオーラさん。

 がっしりと握手を交わしてるわ。

 本当に意気投合したんだね……。

 戻る前に、王国の周辺をルオーラさんに旋回してもらった。

 魔獣の気配が感じられないのを確認すると、鬼人族の集落目指して飛んでもらったんだ。


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異世界転移ものです

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勇者召喚に巻き込まれたけれど、勇者じゃなかったアラサーおじさん。暗殺者(アサシン)が見ただけでドン引きするような回復魔法の使い手になっていた。

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