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国に捨てられた烙印勇者、幼女に拾われて幸せなスローライフを始める  作者: はらくろ


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第三十二話 『ごめんなさい』。

 俺を陥れた姉妹の片割れ。

 あの国で聖女と呼ばれた第一王女のマリシエールその人が、今目の前にいるじゃないか。

 見た目ではさっぱりわからなかったよ……。

 化粧もしていないし、長かった髪も襟元にかからないくらい短く切られていた。

 聖女の装束でもなく、小さな時によく見たドレス姿でもない。

 まるで町娘のような恰好、これはわからないわ。


 俯いたまま俺を見ようとしない。


「(エルシー、聞こえる?)」

「(えぇ、聞こえるわ。第一王女が来たのね?)」

「(うん。参ったわ……。『いやなおばちゃん』って聖女さんのことだったんだね)」

「(……それはわたしからはなんとも言えないわ。いいから話を聞きなさい。わたしも聞いていますからね)」

「(うん。わかった。そっちは変わりない?)」

「(大丈夫よ。疲れちゃったのかしら。ナタリアちゃんのお膝でデリラちゃん寝ちゃってるわ)」

「(そっか。ナタリアさんにも心配ないからって伝えてくれる?)」

「(えぇ、わかったわ。ウェル)」


 俺は頭の中で慣れた形でエルシーと打ち合わせを終えた。

 上座にどっかりと座り、俺の左にはお義母さん。

 バラレックさんには右に座るように言ったんだ。


「慣れないかもしれませんが、俺の集落の習慣です。座ってください」


 俺は三人に、大きな食卓の向かいに座るように促した。

 俯いたままマリシエールさんは俺の向かいに座った。

 右にはグランデール。

 左にはターウェック君が座る。

 ──と思ったんだけど、ターウェック君は後ろに立ったまま。

 あぁ、そういう扱い受けてんのね。

 ご苦労様なことだわ。

 でも彼は俺の方を向いて、キラキラとした、まるであの時のような目で俺を見てる。

 君、何しに来たのよ?


「バラレックさん」

「はい」

「彼らは『何をしに』来たのか、聞いていますか?」

「いえ、実は私も聞いていないのです。姉から同行させるようにと文がありまして、所定の場所で落ち合っただけなのです」

「なるほどね。さて、どのようなご用件でしょうか?」


 俺はわざと丁寧になるように応対する。

 すると、マリシエールさんは俯いたまま、そのまま頭をさらに低くしていくと。


「ウェル様。この度は申し訳ございませんでした。私たち姉妹の私利私欲により、あなたを。果てはあなたが守ってきた人々を混乱に陥れてしまいましたことを、お詫び申し上げたく同行させていただきました」


 その声を聞いたグランデールは慌てたように。


「──姫様。このような下賤なものにそのような──」

「黙りなさい。私はもう、王女ではないのです──」


 続いて彼女から淡々と伝えられる、自らの罪の詳細。

 両親である国王様と王妃様から伝えられた処分の内容。


「──ということになりました。非常に言い出しにくいことなのですが、ウェル様にどうにか、クレンラードの人々を守っていただきたく、お願いに来た次第でございます」


 うん。

 バラレックさんから聞いた話と相違はないみたいだね。

 俺を庇ってくれたのは、マリサさん、ロードヴァット兄さん、フェリアシエル姉さんだけだったんだ。

 もちろん、バラレックさんもなんだけど。


「ん。話は理解できました」

「(ウェルっ!)」


 エルシーの怒ったような声が、頭の中に響いた。

 安心してってば、俺は間違ったりしないから。


「(大丈夫。落ち着いてるよ)」

「(そう……。驚いちゃったわ)」


 一瞬だけど、マリシエールさんの表情が明るくなったように思えたけど。


「では?」

「はい。丁重にお断りします」


 俺は断った。

 当たり前だろう?


「何故でしょう? まだお怒りになられているのでしょうか?」

「いえ。俺は今、この集落の長を任されているんです。今更戻る理由もないですし、そのつもりもありません」


 俺の応対に納得がいかないんだろう。

 グランデールはその場に立ち上がり、俺を見下ろして。


「──今や聖剣を持たぬ平民風情がっ。マリシエール様がこれだけお心を痛めているというのに、その物言いは何だ? 元勇者であるのなら、国に尽くせることを喜びと思え。それとも何か? たかだかこの程度の集落と、三万人の住むクレンラード王国を秤にかけるというのか?」


 俺は呆れたような表情になってただろう。

 もちろん、答えることは一緒だ。


「命の重さに数も種族も関係ない。ここの人たちは、疲れ切って、居場所を無くした俺を受け入れてくれた。優しさをくれた。あなたたちは俺に何をしたんですか? 誰が考えてもさ、この集落を取るに決まってるじゃないですか。それに俺は、ここの長ですよ?」


 グランデールが腰の剣の柄に手を当てて、顔を真っ赤にして怒ってる。

 うわ、それに比べてターウェック君、顔が真っ青だわ。

 安心しな、君は悪くないからさ。


「き、貴様っ! 力ずくで連れて帰ってもいいんだぞ?」

「ほう? どうするってんだ?」

「この集落にいる魔族を根絶やしにしてで──」


 グランデール、お前は駄目だ。

 言っちゃいけない一言を口にしちゃったからな。

 俺は瞬間的に膝立ちになって、腰にあった小太刀を抜いた。

 三度ほど振り抜いたから、『キンッ』って音がした。

 鞘に納めて『どっこいしょ』と座り直したんだ。

 そいつの握った柄の根元から、剣は三分割になって足元に落ちてる。

 ついでに両の眉と、ズボンの紐も切ってやった。

 間抜けに下履き丸出し。

 俺は笑いを堪えるのが大変だったけど。

 おいおい、ターウェック君、吹き出しそうになってる。

 そりゃそうだ。

 汚い尻丸出し。


「アレイラさん。殺しちゃ駄目だよ。デリラちゃんの住むこの家を汚したくないからさ」


 グランデールの背後に音もなく這い寄ってた人影に、俺は指示を与えた。

 アレイラさんは、右手に持った小太刀を逆手にした状態でグランデールの首元に添えたままピタッと手を止めてくれた。

 そいつの首筋からつーっと流れる血の滴。

 あぶねぇ。

 止めなかったら首、すっ飛んでたかもだわ。

 別に助ける義理はないけど、家を汚したくはないから。

 うは、アレイラさんかなり怒ってるみたいだね。

 口元にニヤッと怪しい笑みを浮かべながら。

 そのまま左手に持った小太刀をグランデールの額から髪に沿って、すーっと撫でるように襟首まで這わせていった。

 あぁ……。

 つるっと綺麗に剃れちゃってるし……。

 下手な調理用よりも鋭いからなぁ。


「……はい。ですが、この男は言ってはならないことを──」

「はいはい、抑えて抑えて。仕方ないな。ライラットさん、ジョーランさん。いるんでしょ? こいつ連れて行って隔離して。ジェミリオさん、アレイラさんを宥めて、お願い」

「「「はいっ。ウェル族長」」」


 ライラットさんとジョーランさんも音もなく現れて、あっという間にグランデールを縄で捕縛した上に、肩に担いで連れて行っちゃった。

 『目を離してごめんなさい』とジェミリオさんはアレイラさんを宥めながら連れて行ってくれる。


「お騒がせしました。騎士団長さんは長旅で疲れてるんでしょう。まさかあの男が言ったことは、クレンラードの総意ではありませんよね?」

「いえ、とんでもございません……」


 マリシエールさん、真っ青。

 そりゃそうだろうな。


「ならいいんです。──さて、マリシエールさん。今更俺なんていらないでしょう? 新しい勇者もいるんだし」

「いえ。彼はその。……一度討伐に赴くと、六日ほど目を覚まさなくなってしまっているのです」


 やっぱりかぁ。

 エルシーが言った通りになっちゃってるんだなぁ。


「(ウェル、あなたが気に病むことはないわ。仕方のないことだから……)」

「(うん、わかってる)」

「お願いします。私を好きにしていただいて構いません。国へ戻っていただけないでしょうか?」

「あー、いりません」

「──何故です? どのようなことも受け入れる覚悟で参ったのですが……」


 んー。

 確かに『覚悟してきました』みたいな表情してるけどさ。

 ただ断るだけじゃ駄目なのか。

 正直あまり好みの女性じゃないんだよね。

 王女二人の小さい頃を知ってる俺としては、やんちゃな姪っ子にしか見えないし。

 俺、ロードヴァット兄さんとフェリアシエル姉さんにちゃんと『いらない』って断ったんだけどなぁ。

 それに、一番残念なとこが、ね。

 仕方ない、素直に言うか。


「あのね。俺今、『綺麗でおっぱいの大きい』嫁さんがいるんだわ。とんでもないくらい、可愛い娘もいるし。正直、間に合ってます。ごめんなさい」


 マリシエールさん、目が点になってるわ。

 そりゃ、そうだよね。

 あっちにいるとき、彼女は聖女で絶世の美女って言われてたけどさ。

 お袋さんのフェリアシエル姉さんは大きい方なのに、なんで似なかったかねぇ。

 俺にしてみりゃ、ナタリアさんのが数倍可愛い。

 あのたわわに実ったおっぱいと、すべすべの肌触りの背中。

 マリシエールさんじゃ、敵わないってば。


 こら、ターウェック君。

 うんうん頷いて納得してるんじゃないって。

 君も『大きい人が好み』なのか?

 俺に同意してくれるのはいいけど、そう露骨にしないでくれよ。

 ったく、……仕方ないなぁ。

 やば、お義母さん、笑いを噛み殺してるよ。


「(ウェル、あなたねぇ。素直に言い過ぎよ……)」

「(いやだってさ。飛ぼうが跳ねようが揺れないほどに、……ないんだもの)」

「(だからって……。駄目だわ、この子……)」


 マリシエールさん、顔を真っ赤にしてまた俯いちゃった。

 俺、変なこと言っちゃった?

 俺にだって好みってもんがあるんだよ。


「こほん。さておき、今は勇者君が頑張ってもらうしかないんじゃないかな? 俺は騎士団には『弱いうちに、常に魔物は討伐するように』って言ってたんだけどな……」


 育つ前の魔物なら、勇者じゃなくても倒せるには倒せるんだ。

 探す手間が大変だけどさ、それを俺が長年やってたんだから……。

 鬼の勇者たちに連行されたあの阿呆は、聞く耳持たなかったけどさ。


「……いえ。その。今は目を覚まさないベルモレット様は当てにならないと、マリサ様が出ている状況で──」

「──馬鹿野郎っ! マリサさんを殺す気かっ!」


 俺はつい、怒鳴っちまった。

 あぁ、マリシエールさん、顔が引きつってる。

 そりゃ、俺が怒鳴るなんて見たことないだろうからなぁ。


「(ウェル。マリサちゃんが死んじゃうわっ)」

「(わかってる)」


 俺はその場に立ち上がると。


「ターウェック君だったよね。マリシエールさん、お願い」

「ウェル様。私の名前、憶えておられたのですね」

「あぁ。忘れてないって。無事に国まで届けるように、頼んだよ」

「はいっ」

「バラレックさん、あの馬鹿野郎の処分は後で決めるから。お義母さん、バラレックさんをよろしく」

「えぇ。ウェルさん」

「はい、お気をつけて」


 俺は慌てて部屋に戻る。

 寝てるデリラちゃんを起さないように、ナタリアさんをきゅっと抱いて耳元で小さな声で。


「ナタリアさん、ちょっと行ってくる。デリラちゃんには心配しないよう言ってね」

「はい。気を付けてね、あなた」

「うん。エルシー」

「えぇ、ウェル。急ぐわよ」


 俺は大太刀に戻ってたエルシーを腰に差すと、そのまま玄関に走って行く。

 家を出ると、ルオーラさんの部屋に。


「ルオーラさん。悪いけど急いで飛んで欲しいんだ」

『わかりました。ケリアーナ、留守を頼むよ』

『えぇ、わかったわ』


 俺は外に出てルオーラさんの背中に飛び乗った。

 そのまま大空へ上昇していく。

 下に見えたライラットさんに指示を与えておく。


「ライラットさん。俺ちょっとクレンラードへ行ってくる。今朝見た感じだと、魔獣が出ても君たちだけで十分対応できるはずだ。ニ、三日で戻ると思う。さっきのやつは、倉庫にでも吊るしといて。戻ったら考えるから。悪いけど頼んだ」

「はいっ。お任せください」


 ライラットさんは詰所に走って行った。

 これでなんとかなるだろう。


『ウェル、今すぐにどうこうなるわけじゃないとは思うの。でもね』

「うん。わかってる。寿命を縮めるようなことをさせられないよ」


 俺は巡回していたからある程度の地形は頭に入っている。

 クレンラードの方向を指差した。


「この方向、悪いけど急いで」

「はいっ、掴まっててくださいよ」

「おう」


 俺たちはクレンラードへ急いで向かうことになったんだ。


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異世界転移ものです

興味を持たれたかたは、下記のタイトルがURLリンクになっています。
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勇者召喚に巻き込まれたけれど、勇者じゃなかったアラサーおじさん。暗殺者(アサシン)が見ただけでドン引きするような回復魔法の使い手になっていた。

どうぞよろしくお願いお願いいたします。
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マリシエール、国を滅ぼす罪を犯してるのにまだ生きてるの?はやくくたばれよ
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