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第二十三話 お姉さん、誰?

「グレインさん。こんな大きさでいいのかな?」

「あぁ。助かるよ。工程ひとつ楽になるからな」


 俺は今、グレインさんの工房で小さな魔石集めて、それを金塊状態にしてる。

 聖剣エルシーを薄くできるんだ。

 ということはマナを使って、魔石を扱えるってことなんだよ。

 こんなことできないかな、……ってやってみたらできちゃった。

 何気に一番驚いてるのはこの俺なんだよな。


 質が違うから、あちこち淀んだ色をしてるけど。

 これをグレインさんは、長年の経験と勘。

 培った鍛冶の技術で不純物を取り除けるんだってさ。

 熱とマナを加えて、ひたすら叩く必要があるらしいけど。

 俺には到底、考え着かない方法だわな。


 魔石には不思議な性質があって、そのままの状態では石とあまり変わりがない。

 マナを増幅する性質もあれば、熱とマナを加えてひたすら叩くと変質するらしい。

 実は、気になってたことがあったんだけどさ。

 この話はさ、さすがにナタリアさんやイライザ義母さんには聞けなかったんだ。

 グレインさんがあっさり答えてくれたんだ。


 それは『魔石は地中に埋めると、その役目を終えたように、時間をかけて土に還っていく』ということ。

 『鬼走』で家族を守るために散っていった先人たちもまた、土に還っていったんだって。

 その話を聞いてさ、俺は胸のつかえが取れたような気がしたんだ。

 だってそうだろう?

 盗掘される心配がないんだ。

 亡くなってまで狙われる心配がないのなら、安心して眠ってもらえるだろう?


 同時にあの国にある『休眠の台座』の下は、魔石があるってことだ。

 俺とエルシーの推測が当たったってことになるね。

 もし、土や岩だったとしたら、魔剣が土に還っちまう。

 あれは休めるんじゃなく、補修じゃないかって話してた時期があったからさ。

 その考えは間違いじゃなかったんだろうね。


「優しいな。ウェル族長は」

「そう? 臆病なだけだよ」


 にやっと笑うグレインさん。

 そんな笑顔のまま、俺に向き直ってさ。


「鬼人族の悲願、本当に嬉しかったよ。俺の息子の代で達成できるとは思ってなかった」


 そう言って俺に頭を下げてくるんだ。


「いや。俺は別に。……俺がさ、いくら強くても。鬼人族のためにはならないと思ったんだ。それにさ、『鬼人族が魔剣を使えるかもしれない』。そうエルシーが教えてくれたから。俺はそれを実行したまでなんだよ」

『ウェル。謙遜しちゃ駄目って言ったじゃないの。あなたは族長として立派に役目を果たしてるわ。自信を持ちなさい』

「う、うん」

『ほんと、いつまでも子供なんだから。奥さんも娘もいるのにね』

「あははは。エルシー様に言われたら、ウェル族長も形無しだな」

「言うなって……」


「そういやさ、ウェル族長」

「ん?」

「こんなのを作ってみたんだけど、どうかな?」


 それは俺の身長と同じ長さで、細くて薄い鞘に収まったもの。


「何だいこれ?」

「鬼人族に伝わる『大太刀』という刀を模したものなんだけどさ」


 俺は鞘からその大太刀を抜いてみた。

 それは背筋が凍るような、透き通った青い片刃の刀身。


『ウェル。それ、怖いわ』

「怖い?」

『えぇ。斬れるどころじゃないわよ。吸い込まれそうなくらいに怖いわ……。あ、もしかしてそれ、聖魔石じゃないかしら?』


 聖魔石?

 青い魔石?

 いや違う。

 そうかもしれないけど、違うと思うんだ。


「聖魔石かどうかは知らないけどな。それは俺の母と祖母、曾祖母の形見だよ。俺の父が長い塊にして、残してくれたんだ」

「ちょっと待ってくれ。それって……」

「あぁ。俺の家系の女の角さ。俺の家ではなくなる時、角を残すことにしてるんだ。いずれ刀にして集落を守って欲しいって願いが込められてる」

「どうしてそんなことを」

「俺はここのところ、数多く魔石の剣を打ってきた。これを扱えるようになってたんだ。鬼人族の悲願が達成されたんだ。ウェル族長になら、託してもいいと思ったんだよ」

「俺、そんな重たい物。受け取れないよ」

「なぁに。受け取ってくれなんて言わないよ。預かって欲しい。これで鬼人族を。次の代の族長。デリラちゃんを守って欲しいんだ」


 デリラちゃんの名前を出されちまったら引き下がれないじゃないか。


『ウェル。しっかり預かりなさい。あなたの役目でもあるし、あなたしか扱えないわ』

「わかった。俺が預かる。これ悪いけど頼んでいいかな?」

「あぁ。預からせてもらうよ」


 俺は聖剣エルシーと名付けた真紅の魔剣をグレイさんに手渡す。

 改めて右手に大太刀を握る。

 うん。

 軽い。

 恐ろしく軽い。


「エルシー。どう?」

『なによこれ? 嘘っ。おかしいっ』

「ちょっと、どうしたの? エルシー」

『ウェル、ごめんなさい。マナを。マナが足りないわ』

「わかった」


 俺は下腹、胸、両肩、腕とマナを移動させ、大太刀の柄に一気に流し込んだ。

 いくら流しても底がないというか。

 まるで身体中から全てのマナを『ずるずる』と吸われるような感覚があった。

 気持ち悪い。


「う、ウェル族長……」

「……ちょっと待って。今、気を抜いたら一気に持っていかれそう」

「族長、刀身がっ。ま、まぶし──」


 目の前の大太刀が青く眩しく光っていく。

 それと同時に、俺の意識も遠くなっていく。


『ごめんなさい、ウェル。もう少し。もう少しだから我慢して』

「おうっ。エルシーのためならマナの一つや二つ。ぬぉおぉおおおおおおっ!」


 頑張りすぎたかな?

 ぷつっと意識が飛んじゃったんだ。


 ▼▼


 何やら柔らかいものに頭を支えられてる。

 後から知ったんだけど、

 これがマナ切れだって初めて知ったよ。

 そりゃエルシーのおかげで、勇者になってからマナが切れたことなんて一度もないんだから。

 身体がだるい。

 力が全く入らない。

 これで魔獣が来たら、あ、大丈夫か。

 ライラットさんたちで何とかしてくれるだろう。


「ウェル。ごめんなさい」

「……ん? あぁ。マナ切れでぶっ倒れたんだね。いや、カッコ悪いわ」

「ウェル族長。それどころじゃないって」

「へ?」


 瞼が重たい。

 けど俺は、目をゆっくりと開けた。


「ありゃ? どなたですか?」

「馬鹿ね。わたしよ。忘れちゃったの?」


 いや。

 声に聞き覚えはもちろんあるけどさ。

 切れ長の碧い目をした、長い銀髪の女性。

 ちょっと中性的で、唇も薄く。

 それでいて、なんだろう。

 俺の母さんに似てる。

 うん。

 なんとなくだけど、似てるね。


「あれ? 俺、もしかして。ずっと寝てたとか? 王国にいて、悪い夢でも……。いや、俺の嫁さんはナタリアさん。愛娘はデリラちゃんだ」

「何言ってるんだか。ほら、無理しないの。身体に力、入らないんでしょう?」

「……お姉さん、誰?」

「あら、冷たいわね。忘れちゃったの?」

「もしかしてエルシーとか、言わないよね?」

「そうよ。綺麗でしょう?」

「いや、エルシーって確かおねえじゃなかったっけ? 騎士団って女性が入れるわけないんだったはずだけど。って、あれ?」

「馬鹿。男装して騎士団にいたのよ。これがわたし。……驚いた?」

「嘘だ。確か、伝説にも──」


 騎士たちに伝わっている言い伝えも『細身の男性』だったと聞いてるんだよな。


「はいはい。嘘よ。でも心は女の子だったの。何故かしらね。もしかしたら、グレインさんのご家族が残した角が原因かしら? 胸もあるの。男の人の、あれもないのよ。わたしだって驚いたわ。きっと、小さな時から女性になりたかった。わたしの、三百年越しの願いが叶ったのかもしれないわね」


 うっそだろう?

 俺も大概だけど、まぁ、エルシーだからなぁ。


おそらく今年最後の更新です。

これからもよろしくお願いします。

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