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第二十二話 鬼人族の若き勇者たち。

「来るよ。皆、体表にマナを張って。各々得意な方法で力を増幅」

「「「「はいっ」」」」


 これから実践訓練に移る。

 獲物は比較的弱い猪に似た魔獣。

 本来であればこの魔獣、名前をファングボアというらしいんだけど。

 落とし穴を掘って、そこに落とし込んでから仕留めるらしい。


 今回若人衆からは四人を連れてきた。

 鍛冶屋のグレインさんの息子、ライラットさん。

 肉屋の旦那さん、ダルケンさんの息子、ジョーランさん。

 宿屋の娘、ジェミリオさん。

 雑貨屋の娘、アレイラさん。


 ライラットさんとジョーランさんは将来若人衆を率いていかなければならないから、率先して頑張ってくれた。

 ライラットさんは俺が持つ聖剣エルシーとは違う槍を持ってる。

 彼が聖剣を模した剣を使ってくれると思ったんだけど、剣は苦手なんだってさ。

 ジョーランさんは同じく槍。

 二人は小さな頃から槍術を学んだそうで、剣よりもしっくりくるんだってさ。

 ただ違うのが、ライラットさんは聖槍そっくりのものを持ってるんだけど。

 ジョーランさんは先が短く、その横から短い斧のような刃が直角に伸びている。

 二人とも俺より身長が少し高く身体もがっちりしてるから、鍛錬の時も安心して見ていられたね。


 そしてなんと、俺と同じ聖剣タイプの魔剣を持ったのが。

 俺の肩くらいの身長で、細身で見た目頼りない感じなジェミリオさん。

 彼女は柵の補強の際、ひとりであの石材を運んでいた剛腕なんだよね。

 俺ほどじゃないとはいえ、その小柄な彼女が俺と同じ剣を軽々と振り回してる。

 剣筋は俺と同じ。

 そりゃそうか、俺が教えたんだから。

 でも、実に興味深い子だよ。


 最後にアレイラさん。

 ジェミリオさんより少し身長が高い彼女は、両手に少し湾曲した細身の短剣を二本持ってる。

 右手には逆手にもって、左手は普通に構えて。

 身体を旋回させながら右手の短剣で俺の攻撃をいなし、利き腕の左手で攻撃してきたときがあったから。

 実に考えてある方法だなと、感心したんだよね。

 彼女はマナを力よりも敏捷性に変換できるらしいんだ。

 もちろん加減はしたよ。

 避けるのがめちゃくちゃうまくて、ちょっとだけ本気になったなんて言えないけど……。


 彼女たちはエルシーも面白いって言ってた。

 実際俺が教えたのはジェミリオさんとアレイラさん。

 俺も槍は使えるんだけど、エルシー程教えるのがうまくない。

 だからライラットさんとジョーランさんは、エルシーが教えたんだよね。

 声だけのエルシーでも、その指導方法は実に的確。

 どこから見てるかわからないほど、細かい指示が飛んでたっけ。


 ジョーランさんとアレイラさんの持つ魔槍と魔剣は、グレインさんの考案。

 魔族の間で伝わってる武器のひとつなんだとさ。

 ライラットさんとジョーランさんが十六歳。

 ジェミリオさんとアレイラさんが十七歳なんだって。

 要は幼馴染なんだろうね。


 さておき。

 さっそく来たね。

 俺の腰くらいの体高を持つ、ファングボア。

 口元の牙がナイフのように鋭い。


「じゃ、まず。ライラットさんから、……。あ」

「「「あ」」」


「本当に倒せましたっ」


 その場に飛び跳ねて喜んでいるアレイラさん。

 何やら俺の横を通り過ぎたなーと思ってたら。

 ファングボアの頭をあっさりと落としちゃったよ。


 ライラットさんとジョーランさんはぽかーんとしてるし。

 ジェミリオさんは、口元に手を当ててクスクス笑ってるよ。


『駄目よ、アレイラちゃん。ここは男の子に華を持たせてあげないと』


 エルシー、それ聞こえるように言っちゃ駄目でしょう。

 ライラットさんとジョーランさん。

 ちょっと落ち込んでるし。


「ごめんなさーい」


 ぺろっと舌を出して謝るアレイラさん。


「あ、アレイラちゃん。後ろ」


 また俺の横を通り過ぎた、今度はジェミリオさん。

 アレイラさんの魔剣が通用するのを理解しちゃったんだろうね。

 あ。

 ちょ。

 縦に真っ二つだよ。


「あー、駄目だよ。それ、食料なんだから」

「す、すみません……。でもこれ、凄いです」


 うんうん。

 俺も最初は聖剣の切れ味に驚いた。

 凄いのは確かだけど。

 もっと驚くことはさ。

 もしかしてみんな、人間の勇者。

 超えてるんじゃないかな?


「ジョーラン。負けてられないぞ」

「おう」


 大丈夫だって。

 少なくともこの周りには二十匹はいるからさ。


「しっ!」


 小さく息を吐くと、ライラットさんはファングボアの眉間から頭を貫通させる。


「凄い。俺が本当に……」


 ジョーランさんは流石、肉屋の息子。

 丁寧に食べられない部分を見据えて、柄の先にある斧を叩き込んでいく。

 おまけに倒し終わると、縄で木に括りつけて血抜きしてるし……。

 あ、他の子が倒したのも血抜きしてるよ。

 本業ってすごいわ。


「私たちだって」

「えぇ。ジェミリオちゃん」


 俺の出番、なくね?

 そう思った俺は、その場でどっかと座り込んで。


「エルシー、皆頑張るね」

『そうね。嬉しいんだと思うわ。今まで苦しめられてきたんでしょうし』

「だね。俺の出番ないわ」

『良いことよ。この程度、本当ならウェルは必要ないんだもの』


 魔獣を倒せるのが嬉しいのか。

 今まで苦しめられてきた仇討なのか。

 どちらにしても、自信をつけてくれたのは嬉しい。

 若人衆の中で、この四人が一番上達が早かった。

 他にもまだ、魔剣と魔槍を扱える人もいる。

 若人衆ではまだ鍛錬中の人が多いけど。

 最低限の鍛錬が終わったら、狩りに出すつもりだよ。


 パンパン


 俺は手を叩いて皆を注目させた。


「それくらいにしとこうか。もう、辺りには魔獣はいないよ。疲れはない?」

「「「「はいっ」」」」

「うん。いい返事だね。君たちは『勇気あるもの』。勇者を名乗ってもおかしくないと思う。勇者は役目だ。皆を守るという大切な役目なんだ。自分たちの家族は自分たちで守る。けれど君達でも倒せない魔獣がいる。そんな魔獣は俺が倒すよ。皆、俺の家族だからね。だから、絶対に無理をしないこと。俺は鬼人族には、二度と『鬼走』は使わせたくないんだ。いいね?」

「「「「はいっ」」」」

『頑張ったわね。でも、日々の鍛錬を怠らないようにしなきゃ駄目よ。いいわね?』

「「「「はいっ」」」」

「じゃ、大切な食料だから。ジョーランさん。指示をお願い」

「はい。わかりました」


 血抜きの終わったファングボアを、手分けして担いで台車に乗せていく。

 ほんと、頼もしいわ。

 彼らなら狼の魔獣までなら倒せるだろうね。

 大熊はちょっときついかな。


 さぁ、若き勇者たちの凱旋だ。

 大きな台車に乗せられた美味しい肉に変わるファングボア。

 俺とナタリアさんの結婚を祝ってくれた中央の広場で。

 俺の出番がやっと回ってくる。


「皆聞いて欲しい」


 俺の横に並んだ、若き勇者たち。

 彼らはとても満足感のある笑顔をしているね。


「このファングボアは、俺が討伐した訳じゃない。鍛冶屋の息子、ライラットさん。肉屋の息子、ジョーランさん。宿屋の娘、ジェミリオさん。雑貨屋の娘、アレイラさん。この、若き勇者たちが討伐してくれた」


 『おぉ!』という驚きと感嘆の声が上がってる。

 そんな中、大人たちに混ざって子供たちが憧れのキラキラした眼差しで四人を見ていることだろう。

 子供たちの歓声もまた、彼らにはとても誇らしいものだっただろう。


「他の若人衆の人たちもまた、日々鍛錬を続けてくれている。いずれ彼らのように、強くなってくれると、俺は思ってる。……聞いてるよ。今まで辛い日々を送ってきたことを。でももう大丈夫。だからこれからは、安心して生活ができると思ってる。褒めてあげて欲しい。彼らの努力を。ただ、忘れちゃいけない。倒せない魔獣だっているんだ。俺は決してこの子たちに『鬼走』を使うことようなことはさせないよ。そんなときこそ、俺の出番だ。俺が常に背中を守ってる。いいいね?」

「「「「はいっ、ウェル族長」」」」


 俺はひとりひとり、肩を叩きながら『お疲れさん』と声をかけていく。

 おい、泣くなってば。

 これから君たちは、辛い思いをする。

 それは勇者の役目だから。

 それでもさ。

 俺みたいにひとりで頑張らなくちゃならないわけじゃない。

 仲間がいるから。

 きっとやり遂げることが可能なんだからさ。


 そんな中。

 デリラちゃんが走ってきたよ。

 俺に飛びついて。


「ぱぱっ」


 後ろから、頬を染めながら、俺の前に出てくるナタリアさん。

 あ、イライザ義母さんも手を振ってる。

 ちょっと恥ずかしいかも。


「これ、デリラ。んもう。恥ずかしいじゃないの」

「今日の仕事は終わりだからさ。買い物行こうか、ナタリアさん。甘い物買ってあげるね。デリラちゃん」


 俺はデリラちゃんを抱き上げ、横に並ぶナタリアさんの肩に手を回す。


「ぱぱっ」

「あなた、ごめんなさい」

「いいって」


 こうして受け入れてもらったんだ。

 俺がやらなきゃならないことはまだまだある。

 まずは二人の大好きな、果実の糖蜜漬けを買いに行こうかな。


クリスマスイブなので、ちょっと頑張って書き上げました。

別に特別編というわけではありません(大汗

暫くは週末がメインの更新になると思います。

これからもよろしくお願いします。

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異世界転移ものです

興味を持たれたかたは、下記のタイトルがURLリンクになっています。
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勇者召喚に巻き込まれたけれど、勇者じゃなかったアラサーおじさん。暗殺者(アサシン)が見ただけでドン引きするような回復魔法の使い手になっていた。

どうぞよろしくお願いお願いいたします。
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