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第百七十四話 新しい精霊さん? それとも?

 ナタリアさんの聖の精霊さん、せいちゃんが、


『オルティアの黒い手は精霊さんかもしれない』


 って言うんだって。


 精霊さんからみたら、エルシーは大精霊様だっていうし。

 黒い手が精霊さんだったとしても、別に不思議じゃないってところで落ち着いたんだよ。


「まぁ、どちらにしてもだよ。ナタリアさん」

「はい」

「エルシーも大精霊様だし、せいちゃんもひーちゃんもいるんだし、もしね」

「はい」

「この黒い手が精霊さんだとしても、不思議じゃないって言ってるんだよ」

「確かにそうだと思います」

「せいちゃんもひーちゃんもさ、俺の手に触れることができるし、俺もわかるんだ」

「そうですね。それはあたしにもわかります」


 せいちゃんが、オルティアのこの黒い手が精霊さんだと言うなら、そんな気がするんだ。


「それにさ、ナタリアさん」

「はい?」

「ナタリアさんも知ってると思うんだけど」

「はい?」

「俺はさ、オルティアにさ、何もお願いしてないのに気がついたらね。いるんだよ、そこに」

「あ、それ、あたしのときもあります」


 父さんと同じような、興味津々なナタリアさんの目。

 興味があることはまるで、デリラちゃんみたいに詰め寄ってくるときがあるんだ。

 血が繋がってないのに、こういうところは父さんとそっくりなんだよね。


「お茶をもらおうかなーって思ったときさ」

「はい。いるんですよね。お代わりを持ってあたしの部屋のすぐ前に」


 いるんだよ。

 すぐにドアをノックするんだ。

 あれ最初は驚いたけど、そういうもんだと思うしかなかったんだよね。


「そうそう。あれすっごく不思議だったんだよ」


 あれがもしかしたら、オルティアの中にいる精霊さんの能力なのかな? って。


『それはあり得ると思うわ。なるほどね』


 エルシーも似たような感じじゃない?


『わたしは違うわよ。移動するのに時間がかかるもの』


 エルシーも大概だと思うんだけどね。


『だまらっしゃい』


 はい、すみません。


「さておき。エルシーもなるほどねって言ってるよ」

「そうですね。どのような精霊さんかはさておいたとしても、これまで不思議に思っていた様々なことの、辻褄が合ってくるとも言えますね」

「うんうん」


 あれ?

 ちょっと待てよ。

 精霊さんって、人の中に入れるものなのか?


『入れるわよ。少しの間だけならね』


 え?


『そうじゃないと、ウェルのあんなものを植え込んだり、あんなことをしたりとかなんて、できないじゃないの。外側からなんて、無理な話なのよ』


 ……あ、それってそうなのか。


『留まることができるのは、魔石や鉱物だけみたいですけどね』


 なるほど。

 地の大精霊だからか。


「エルシーも言ってるけど」

「はい?」

「精霊は人の体内へ入ることは可能なんだって」

「この黒い手を形成する不定型な精霊さんがいてもおかしくはない。なるほどなるほど……」


 あぁ、ナタリアさんが物思いにふける父さんと同じ状態になってる。

 あ、そうだ。

 俺から話題を振ってあげたらいいんだっけ?

 母さんが前に言ってたよ。


「あのさ、ナタリアさん」

「はい。なんでしょうか?」


 こんなときでも、俺の声は反応してくれるわけね。

 この辺も母さんが言う父さんそっくりだな。


「俺からこうして食べてるマナをさ、どうやって分け合ってるのかな? って」

「そうですね。精霊さんがオルティアちゃんを宿主としているなら分け与える必要がありませんね。でしたら、共存ということになります。なるほどなるほど……」


 あ、まただ、駄目だこれは。


『ウェルもね、いいところを突いてると思うわ。ナタリアちゃんはその上を考えてしまうわけね。クリスエイルさんの同じことをね、マリサちゃんが呆れるように教えてくれるのよ』


 やっぱりかー。


『でもね、もしかしたらなのだけれど』


 うん。


『オルティアちゃんもまた、精霊だったらどうかしらね?』


 え?


『魔族にはね、妖精種と精霊種と呼ばれる者もいるらしいわ。するとね』


 うん。


『ひーちゃんがね、精霊かもしれない、って言ったのは』


 うん。


『人族よりも精霊に近いもの。例えば妖精種かもしれない、って、考えられないかしら?』


 ……どういうこと?


『魔族にもね、人種がいるわけ。ナタリアちゃんたちがそうよ。魔族の人種。だから鬼人族なのよ』


 あー、そういうこと。

 それをナタリアさん聞いてみるよ。


『うまくいくといいわね』


 うん。


「でもさ、こう考えたらどうかな?」

「はい」

「せいちゃんも考えてほしいんだけど」

「はい。だそうです」

「うん。あのね、エルシーから教わったんだけど」

「はい」

「魔族にはね『人種』、『精霊種』、『妖精種』がいるということなんだ」

「はい。聞いたことは、あります」

「せいちゃんが思うにさ、『精霊かもしれない』。でも、『どの精霊かわからない』なんでしょ?」

「そう。ですね」

「そしたらさ、この黒い手はね、精霊さんじゃなく、妖精さんかもしれないわけだ」

「そう、かもしれない。と、せいちゃんも言ってます。あたしも、そう思えますね」


 うん。

 うまく提案できた。


『よかったわね』


 ここからは俺が思ったことなんだけどさ。


『そう。オルティアちゃんとその黒い手の持ち主は、双子の姉妹かもということでしょう?』


 なんでわかったの?


『わたしもそう思うところがあったの。確証はまったくないんだけどね』


 うん。

 それをナタリアさんに話してみるよ。


『ウェルも、ただの残念な子じゃなかったのね。わたし、嬉しいわ』


 あのねぇ……。


「それでこれは俺が思ったことなんだけど」

「はい」


 ナタリアさんがこっちをじっと見てる。

 ちらりとオルティアたちを見ると。

 必死に火起こしの魔法を繰り返してるね。

 俺の手からマナを食べてるのがわかる、それでもぜんぜん辛くないんだよな……。


『だから』


 わかってます。


『あらいやだ。ごめんなさいね、ウェル』


 いいってば。


「えっとさ。もしだよ? オルティアとこの黒い手の持ち主がさ」

「はい」

「双子だった場合なんだよね」

「あ……、なるほどなるほど……」


 あぁあああああ、また考え込んじゃったよ。


『やっぱりね。そうなると思ったわ』


 だったら先に言ってってば。


「えっと、そうしたら同じ妖精種の同じ存在だから。宿主とかそういうんじゃなく、姉妹か何かになってね」

「はい。オルティアちゃんたちは、助け合って生きているということになるわけですね」

「そう。そうかもしれないんだよ。たださ、まだ十歳だから、そういう細かいことを聞いてもわかんないかもでしょ? 誰から教えられるわけでもないんだろうからさ」

「あなた。素晴らしいです」

「え? あ? うん。ありがとう」


 俺の開いてるほうの手を握って、じっと見てくる。

 え?

 俺、褒められてる?


『ナタリアちゃん、デリラちゃんたちと一緒にいるからでしょうね。ウェルも精神的に成長したということなのよきっと。わたし、嬉しいわ。マリサちゃんも、フレアーネちゃんも喜んでいるわよ』


 いや、大げさだってば……。


「エルシー様もそうですが、精霊さんたちは実体を持ちません。あたしたちに触っていると思わせてくれるのは、マナを介してそういう感覚を与えてくれているのだと、あたしもお父様も思っています」

「なるほどね」

「せいちゃんはマナを媒介としてあたしやあなたと触れあうことができます」

「あー、そっか。俺もマナを見られるようになったし、触ってる感じもなんとなくわかる。だからそんな感じがするわけか」

「はい。妖精さんはおそらく、せいちゃんたち精霊さんに近しい存在なのではと言われています。せいちゃんたちもそういう認識なのかもしれません。そのため、オルティアちゃんのこの手を、精霊さんかもしれないと思ったのでしょうね」


 はい。

 わけわからなくなってきました。

 父さんとナタリアさんって、こんなに難しい話を楽しそうにしてるわけか。


『マリサちゃんも苦笑いしてるわよ。わからないって言ってるわ』


 うん。

 俺と母さんはそんな感じだってば。


「あ、うん。そうなんだと思う」

「あたしたち人種もマナを宿しています。精霊さん、妖精さんと遠い存在ではないということなのですね、きっと」

「だと思うよ」



お読みいただきありがとうございます。

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