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第十四話 祝いの宴。

主人公サイド、再開です。

 集落の皆で、俺とナタリアの婚姻を祝ってくれている。

 俺の左にはナタリア、膝の上にはデリラちゃん。

 デリラちゃんは美味しそうな料理を見て、うずうずしてるみたいだね。

 慌てなくても料理は逃げないから。


 広場には先日俺が狩った大猪の丸焼きが十匹分。

 大鍋に煮込まれた野菜と魚のスープからなにから。

 大勢の料理人、主婦から料理に心得のある男性まで。

 かなりの人数の分を用意していたみたいだね。


「いやこれ、すっごいなぁ。ナタリア、ここって何人いるんだ?」

「はい。集落全員で三百人ほどだと思います」

「それ、集落じゃなく町じゃないか……」


 確かにここは、集落と言うには広大だった。

 なぜ集落という言い方かを聞いたとき、ここに住む人は皆鬼人族だからだと。

 まぁ、あの国全体はここの数倍じゃ利かないからな。


 正直言っていいかな?

 ナタリアだけど。

 俺の好みの問題だけど。

 悪いけど、聖女と王女よりも美人だぞ?

 口が裂けても言えないけど。

 あ、今は言ってもいいのか。

 あの姉妹、おっぱいは残念だったからなぁ……。

 デリラちゃんに至っては、ナタリアそっくりで、おまけに天使だぞ?

 将来どれだけ可愛くなっちゃうか。

 想像するだけで怖いわ。

 ほんと、俺って幸せ者だよな……。


 ここに集まって祝ってくれる人たちにグラスが行きわたったようだ。

 俺はあのときの苦い思い出があるから、祝いの席では酒は遠慮することにした。

 新年を祝う宴だね。

 嫌な思い出だよ。

 俺が手に持ってるのは、デリラちゃんと同じ。

 この集落の名物。

 果実酒の酒の元になった、果実の果汁。

 それをキンキンに冷やしたやつね。

 飲まない代わりに、俺は目一杯食べさせてもらうよ。


「集落の皆さん」


 イライザさんの声で、一斉に静まり返る。


「私の義理の娘のナタリアに新しい夫が。そして、愛する孫娘、デリラにも新しい父親ができました。そのお相手となるのは、皆さんもご存知の通り、こちらにいらっしゃるウェル殿です」


 静まり返りながらも、俺に人々の注目が集まる。

 皆、優しい目をして俺に微笑みかけてくれるんだ。

 ちょっと、いや、かなり恥ずかしいんだけど。


「ウェル殿。一言挨拶をお願いできますか? でないと、誰もお酒を飲めませんし。美味しい料理も食べられませんので」


 かなりぶっちゃけてくるな、イライザさん。


「あなた」

「うん」


 ナタリアさんが俺を呼んだ。

 真似をしてか、デリラちゃんも俺のことを呼んでくれる。


「ぱぱ」

「うん」


 俺は皆の一歩前に出た。


「ありがとう。……俺はこんなに大勢の人に祝ってもらえる人間じゃないんだ。人間の国での宴席で、記憶をなくすほど酒を飲んで、俺は過ちを犯したらしい。もちろん、未遂だったらしいが。俺は国を追放された」


 あたりは水を打ったように、しん、とした。

 隠しても仕方のないこと。


「俺はあちこち彷徨ったけど、どこの国でも犯罪者として扱われたんだ。人の住む場所では生きていけないことがわかった。それで俺は、魔族の領土に来ることに決めたんだ。けど、なんていうか。情けないことに、食料も水も底をついてしまって。俺はデリラちゃんとナタリアさんに助けられたんだ。俺はたまたま、人間の国で魔獣を狩る仕事をしていた。その力を使って、お返ししてただけなんだ。……そんな俺でもいいと、ナタリアさんは言ってくれた。そんな俺を『ぱぱ』って、デリラちゃんは呼んでくれたんだ。こんな俺でもここに居ていいのか悩んだよ。でも、いいんだよな? ここにいても、邪魔にはならないんだよな?」


 ひとが手を叩いた。

 ぱらり、ぱらりと、気が付けば。

 俺の声が遮られてしまう程、皆から拍手が贈られてきたんだよ。


 俺はデリラちゃんを右腕で抱えあげ、ナタリアを左腕で抱えあげた。


「ありがとう。本当に、ありがとう。俺は約束するよ。この身体を張って、皆を守る。それが俺の愛する家族を守ることに通ずるから」


 俺の頬にナタリアがキスをくれた。

 それを見たデリラちゃんが、負けるかと同じようにキスをしてくれた。


「とにかく、飲んでくれ。喰ってくれ。もし、お金が沢山かかってたとしても。また俺は魔獣を狩って、稼ぐから。皆が安心して暮らせるように頑張るから」


 俺の肩にイライザさんが手を置いてくれた。


「あのね、皆さん。私は、今日で族長を引退するの。新しい族長はね、本当はデリラにするつもりだったけど。この子は成人するまで、まだ十年はかかるわ。だからね、それまでの間は、ウェル殿に任せようと思うのだけれど。どうかしら?」


 すぐに歓声が返ってきた。

 拍手も凄い。


「ありがとう。それと、ごめんなさいね。私も大変だったの。責任がね、重かったの。何もできなくて、歯がゆくて……。悩んで、考えて、また悩んで……。でもね、ウェル殿なら。私の義理の娘のお婿さん。私の愛しい孫娘のお父さん。私の新しい義理の息子になら、いいわよね?」


 イライザさんの言葉で。

 俺はその日、人間の皮を被った化け物だけど。

 鬼人族じゃないけど。

 この集落の族長に就任することになっちまったんだ。


「ありがとう。では、私たちの新しい家族に。乾杯」


『乾杯っ』


 俺はナタリアとデリラちゃんを降ろして、乾いた喉に果実の果汁を流し込んだ。

 うめぇ。

 甘くて、すっきりとした酸味で、口の中に残らない。


 俺とナタリアの間に座って、デリラちゃんはグラスに入った果汁をこくりと飲むと。

 俺とナタリアを交互に見ながら、目を細めてこう言ってくれた。


「ぱぱ、まま。おいしーね」


 俺は父親に見えるだろうか?

 俺は旦那に見えるだろうか?

 俺は義理の息子になれるのだろうか?


 向かいに座るイライザさんの笑顔がとても温かい。

 俺とナタリアは目を見つめ合う。

 ナタリアの笑顔はとても優しく、穏やかで、俺の不安を吹き飛ばすくらいに。

 俺よりもかなり年下なのに、彼女の表情は俺を包み込んでしまうくらいに、慈愛に満ちていた。

 自然と彼女と同時に、デリラちゃんを見る。


「そうね、デリラ」

「そうだね。デリラちゃん」

「んふーっ」


 ご満悦なデリラちゃん。

 あぁ。

 俺はこの人たちの笑顔を見るために。

 今までこうして生きてきたのかもしれないな。


 集落の人たちは知っていたんだろう。

 デリラちゃんが人見知りで、どれだけ笑いかけても、あまり人前では笑わないことを。

 そのデリラちゃんが、天使のような笑顔を見せたんだ。

 それが引き金になって、よそったばかりの料理を。

 果物を。

 持ち寄ってくれて、宴が始まったんだ。


「族長。ウェル族長」


 そんな雰囲気をぶち壊すように、聞きなれた声がするんだよな。

 すっごく必死そうな声。

 その声の持ち主は、ライラットさんだった。


「ん?」

「すみません。魔獣が、大熊の……」

「あーはいはい。ほんっと、魔獣は仕方ないなぁ」


 俺は笑顔のまま立ち上がる。


「ぱぱ」

「ん?」

「いってらっしゃい」

「うん」

「あなた」

「ん?」

「気を付けてね」

「うん」

「ウェルさん」

「はい」

「無理しないでくださいね」

「大丈夫です」


 俺の行く方向にいた人たちは。

 俺に道を作るように、両側に避けて道を作ってくれた。


 俺はデリラちゃんが成人するまでの、腰かけ族長だ。


「族長、しっかり」


 勇者の時みたいな、名誉職でもいいじゃないか。


「族長さん、いつもありがとう」


 俺は声をかけてくれる人たちに、手を振って応える。


「族長さん、かっこいいです」


 嬉しいよね。


「がんばれー」


 うん、頑張るよ。


 集落の外にいた、その魔獣。

 報告通りの大熊。

 それも前来たものより大きいな。


 俺は槍を、剣を持ってけん制してくれる人たちに。


「あとは任せて」

「族長、こんなときにすみません」

「いいんだ。これが俺の、族長の仕事だからさ」


 俺は背負っていた聖剣エルシーを構える。

 俺の背中から歓声が聞こえる。

 俺を応援するような。

 俺に期待するような。

 それに応えるように、俺はエルシーを高々と上げる。

 あぁ、久しぶりだな、こんな感じ。


「さて、空気読まない魔獣はお前か?」

『ウェル。さっさと片付けちゃいなさいね。皆が待ってるわよ』

「うん。わかってる」


 俺は大熊の魔獣の前に立った。

 俺の身体の三倍はありそうなその大熊が、腕を振り上げて、その鋭い爪を向けてきたとき。

 俺は聖剣エルシーでその爪を弾くと。

 横にただ、振り抜いた。

 結果を見ずに踵を返す。


「ふぅ。さて、続き続き。まだ俺、料理食べてないんだ」


 ずん。

 俺の背後に大熊が倒れる振動と音が残った。

 俺はそのまま、聖剣エルシーを高く掲げる。


「これが俺の仕事。仕事は終わり。さて、家族の元に戻りますかね」

『お疲れ様。ウェル。立派よ』

「ありがとう。エルシー」


 俺だけに聞こえるように、エルシーは頭の中に語り掛けてくれる。

 俺はその言葉に、独り言のように呟いた。


 俺は人々の間を抜けて、家族の元へ戻っていく。

 せっかく俺たち家族のために開いてくれた宴だから。

 しっかり楽しむことにしようじゃないか。


「ぱぱ、おかえり」

「お疲れ様、あなた」

「うん。ただいま」


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