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百七十二話 デリラちゃんのところの。その6

「精霊さんにお願いするかたちの魔法は違いますが、火起こしの魔法は強力の魔法と同様に『どうなってほしいのか?』と、思い浮かべるのが大事ですよ」

「はイ」


 オルティアがデリラちゃんに支えてもらいながら、それでも真っ直ぐナタリアさんの目を見て答えてるんだ。

 デリラちゃんも隣でしっかり聞いて頷いてる。

 強力の魔法を教わったときも、そうだったみたいだからね。


「オルティアちゃんには以前、火起こしの魔法を試してもらいましたが、あのときはできませんでしたね?」

「はイ」

「ですが、あのときと違うのは、強力の魔法でマナの使い方を学んでいることです。あのときよりも更に、『どうなってほしいのか?』の意味がわかっていると思うのですね」

「はイ、そうですネ」


 なるほどね。

 以前は火起こしの魔法も、強力の魔法もマナを使うという意味では同じ。

 オルティアもナタリアさんと同じ女の子なんだから、母さんのようにできる可能性が高い。

 ちなみに俺は、強力の魔法には慣れているはず。

 それでも火起こしの魔法は、何度も試してみたけど駄目だった。

 火がつくどころか、その気配すら起きないんだ。

 父さんもそうだったみたい。

 父さんも強力の魔法は得意になって、俺もほら、無意識に使うくらいなんだけど。

 外へ出す系統の魔法はうまくいかないんだよね。


 でもこうして手のひらにマナを絞り出すことが出来ている俺。

 もしかしたら、これをこうして薄くできたりしないのかな?


 ……はい、無理でした。


「けどさ、こうして手のひらにマナを絞り出すのと、火起こしの魔法みたいな作用ってどこが違うんだろうね?」

「いえ、そのですね」

「うん」


 ナタリアさんはとても言いづらそうにしてるんだよ。

 あ、なんとなくわかっちゃったかも。


『そうよ、その通りね』


 あ、はい。

 俺が『お化け』だってことね。


『よくできました』


 酷いよエルシー……。


「パパはね、おばけだから、だと思うのね」

「デリラったら……」


 デリラちゃんはお姉さんになるにつれて、段々、遠慮なしに自分の言いたいことを言えるようになってきてる。

 以前のように、人見知りじゃなくなったのはいいことだと思うんだけどね。

 いいことだと思うんだよ、うん。

 でもエルシーが『お化け』とか言うから、デリラちゃんもナタリアさんも真似しちゃったんだと思うんだよ。


『それは悪かったと思ってるわ。ごめんね、ウェル』


 うん。


「まぁさておき、ほら、ナタリアさん、続き続き」

「あ、そうですね。こほん。オルティアちゃん」

「はイ」

「この板と、この細い木の棒をですね」

「はイ」

「これをこうして、擦り続けると、木と木が当たっている部分は熱を帯びてきます。触ってみてください」


 木の板の上で、木の棒を少しだけ強く押し当てて、速く動かしてこすりつける。

 するとちょっとだけ焦げ臭くなってきた。

 きっとナタリアさん、強力の魔法に似たものを使ってるんだろうね。


「はイ。ちょっとだけ、熱い感じがします」

「これがですね、火を起こすという簡単な説明になるんです」

「はい……」

「おー」


 オルティアだけでなく、デリラちゃんも驚いた感じで見てるよ。


「では次です。あたしのこれ、わかりますね?」


 ナタリアさんは両手の手のひらをお腹に添えてる。

 これはほら、『ナタリアさん式』ってやつだよ。


「はイ、おぼえていまス」


 デリラちゃんに支えられたまま、同じように手をお腹に添えてる。


「デリラちゃんはずっとさ、オルティアを支えてるけど、疲れない?」

「うん。強力使ってるから、だいじょぶよ」

「なるほどね。慣れたもんだ」


 オルティアもデリラちゃんを見て、安心したみたいだね。

 俺と同じことを思ってるだろうから、聞いてみたんだよ。


 もはや無意識レベルまでではないだろうけど、口に出さなくても強力をいつの間にか使えるようになってるみたいだから、たいした進歩だと思うんだよね。

 ナタリアさんもデリラちゃんを見て、『あらまぁ』という感じの表情してたからさ。


「ではこう、『おてて』まで続けて、最後に手のひらへマナを絞り出すようにできますか?」


 ナタリアさんもデリラちゃんも、せいちゃん、ひーちゃんにマナを食べさせるときに毎回やってる方法。

 片手と両手でもきっと同じような感じなんだろうな。


 オルティアも同じように『おてて』まで持って行く。


「マナをこうしテ、……ん」


 お、なんだかもやっとしたのがちょっとだけど見えてきたような感じがする。


「あ、ちょっと待って。オルティア」

「はい?」


 あ、素に戻ってる。

 ごめんね。


「一応だけどさ、俺のマナをすぐに食べられる準備だけしておいて」

「いいのですカ?」

「うん。万が一があるからさ。はい」


 俺はナタリアさんの隣りに座ってるから、そのまま手を出して。


「ありがとうございまス」


 うん、オルティアの首元から黒い靄みたいな手が伸びてきた。

 俺の手を握るみたいに優しく掴んでる。

 マナを食べるときはいつもこうしてるからさ。


「ごめんねナタリアさん、続けていいよ」

「はい、あなた。では、手のひらからですね、人差し指と親指の腹の表面に、薄く薄くはわせてみてくださいね」

「はい」


 あ、集中してると素が出るんだ。

 なるほどね。

 優しい言葉遣いみたいな感じできっと、オルティアのいつもの話し方ってきっと、彼女の生みの親が使ってた言葉使いでさ。

 優しく語りかけてたのを覚えてて、オルティアもきっとそうしてくれてるのかもしれないね。


「乾いた木と木を擦り続けると熱を帯びてくるようにですね、マナも薄く薄くしたならね、擦り続けると熱を帯びてくるのです。ほらこうするとね、木でなくてマナであっても、火を起こすことができるんですよ」


 実際、ナタリアさんの指先には、うっすらとマナが見えるところに火が起きてる。

 小指の爪の先くらいの大きさだけど、火が燃え続けてるんだ。

 なるほどね、指先にマナを薄く供給し続けてるんだね?

 だから消えないで燃えてるということなんだろう。


 俺も空いてる左手で、同じようにやってみた。

 うん。

 駄目でした。

 熱くなる感じはあるんだけどね。

 それはマナじゃなく指の表面。

 おそらくだけど、俺は指先にマナを薄く這わせることができないんだと思う。

 これが男の限界なのかもだけど、いずれ挑戦するつもりではいるんだよ。

 だって、火起こしの魔法の神髄をしっかり覚えちゃったからね。


 デリラちゃんも、うんうん頷いてる。


「デリラ」

「はいなの」

「勝手にやっちゃ駄目よ?」

「わかってるの、……よ?」


 デリラちゃん、斜め上の天井あたりを見て誤魔化そうとしてるし。

 絶対にあとでやろうと思ってたはずだよ。

 だって俺の娘だもんね。


「んー、こうして、こうして……」


 オルティアにも自分で出したマナは見えてるみたいだね。

 それでも何やら苦戦してる。

 そのせいかな?

 俺の右手から少しだけ、マナを食べてる感じがあるんだよ。

 だから俺も、オルティアが食べやすいように、手のひらにマナを絞り出し続けてるんだ。

 これくらいは簡単にできるようになったんだよね。


「慌てちゃ駄目よ? マリサお母様だって、すぐにはできなかったんですからね」

「でも、できるようになった。そうでしょ?」

「えぇ。手順を、仕組みをしっかり理解さえしたならね、必ずできるようになるわ。女の子ですものえね」

「あ、はい。俺は男だから難しいってことなのね」

「それはそうですよ。お父様も、グレインさんもできないんですもの」


 俺もオルティアの指先をじっと注目してたんだ。

 何やら、ぼやっとあちら側が歪んでるようなふうに見えてくるんだよ。


「あ」

「あ」


 オルティアの指先で、一瞬だけ火が起きたような感じがあった。

 そのとき俺の手からも、ごっそりマナが食べられたような気がしたんだ。


「オルティアお姉ちゃん、いまいま」

「はい。ちょっとだけできましたね」

「そうなの。ちょっとだけ火がついたのよ」


 オルティアとデリラちゃんは、嬉しそうに見つめ合って笑顔になってるんだ。


「いいですよ。オルティアちゃん。あとは練習あるのみです。慌てなくてもいいですから、もう一度やってみましょうね」

「はい、若奥様、……いえ、先生?」

「どちらでもいいですよ。どちらにしても、恥ずかしいのは変わらないんですけどね」

「ねー」


 なんとも可愛らしく照れるナタリアさんだったね。



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勇者召喚に巻き込まれたけれど、勇者じゃなかったアラサーおじさん。暗殺者(アサシン)が見ただけでドン引きするような回復魔法の使い手になっていた。

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