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第百七十話 デリラちゃんのところの。その4

 父さんが母さんを迎えに来て、ルオーラさんに乗せられて王城へ戻っていった。

 エリオットさんに馬車を回してもらって、俺はオルティアを抱えたまま、ナタリアさんとデリラちゃんと一緒に王城へ戻ったんだ。


 オルティアはデリラちゃんの部屋の隣が空いてるから、そこに寝てもらってる。

 そうしたほうが、俺もマナをすぐにあげられるからね。

 母さんが回復したら様子を見に行くのも楽になるし。

 ナタリアさんがしっかり見てあげられるからって、彼女が提案したんだよ。

 オルティアのお母さん代わりはフレアーネさんだけど、ナタリアさんは年の離れたお姉さん、じゃなく、んー、難しいね。


『そこで止めておいたのは正解よ。絶対に口にしちゃ駄目だからね?』


 わかってますって、エルシー。


 フレアーネさんは日中こっちにいるから、手が空いたら様子をみに来られる。

 ナタリアさんから、しばらくはオルティアと一緒に寝泊まりしてもいいんじゃないかって、提案してもらったらそうするって話だからね。

 部屋余ってるから、フレアーネさんとエリオットさんもこっちに住めばいいのにと思ったけど、そういうわけにいかないらしいんだ。

 色々あるみたいだからね。


 デリラちゃんが七歳のお祝いをしたあと、オルティアも十一歳のお祝いをする予定。

 例の状態のなってるのは、ナタリアさんに聞いたところ、鬼人族でも十一歳なら早いほうじゃないんだってさ。

 母さんに聞くと、人族でも早いと十歳くらいからなんだって。

 ナタリアさんも同じくらいだったって。

 俺はほら、男だからそういうことわかんないんだよな。

 あまり詮索したり、やらかしたりすると、母さんに怒られる父さんみたいになっちゃうからさ。

 鈍いくらいがいいと思ってるんだよね。


 ということで、工房で作業しながら待機していた俺の元に、ナタリアさんが呼びに来てくれた。


「あなた」

「ん?」

「オルティアちゃんがマナをって」

「うん。今行くよ」


 ナタリアさんと一緒にオルティアの部屋へ入っていったんだけど。

 あれ?

 何かおかしい?


「ナタリアさん、あのさ?」

「はい。あたしも何か違うなと……」

「そうなんだ。前はこう、もっと幼く感じたんだけど」


 デリラちゃんも七歳になろうとしてるからか、仕草や振る舞い、そんな部分がお姉さんになってきている。

 けれど、オルティアはなんだろう、それとは違うんだよ。


「えぇ。こちらへ来る前は慢性的なマナ不足だったこともあるんだと思います」


 ナタリアさんのいうとおり、おそらくだけど。

 俺たちと出会う前のオルティアが、成長するために必要なマナが足りなかった。


 身長も、体つきも、顔つきもそうだけど、成長してるんだよ。

 ナタリアさんも違いに気づくくらいに。


「若様、申し訳、ありません。その、……お腹がですね」


 なるほどね。

 話し方がちょっと違う。

 いつもの語尾がないんだ。

 おそらく、オルティアの気持ちがこもってあの感じになるのかも。

 今はほら、身体も気持ちも大変だから。


 そういやあれだ。

 デリラちゃんやナタリアさんがやってた方法。


「確かこうだっけ? んー、どうだ?」

「パパ」


 デリラちゃん、どうしたの?


「ん?」

「ひーちゃんがもったいないって」

「え?」


「あなた」

「ん?」


 ナタリアさんも苦笑してるっぽい。


「せいちゃんも『溢れそうになっててこぼれたらもったいない』って言ってるんです」

「え?」


 オルティアの首元から、あ。

 今はあれか、装具をはずしてるんだっけ?

 だから巻いた細布から出てきたんだ。

 オルティアの靄が集まったみたいな、黒い手がね。


「あの、……食べていいんですか?」

「いいよ」


 あ、目が慣れてきたらなんとなくわかってきたよ。

 水みたいな、ちょっと違うけど、朝靄(あさもや)みたいな感じ?

 気をつけないと見逃しちゃうくらいに薄いんだけど、確かにあるんだ。

 これがマナか……。


「あ、なくなっちゃったよ」

「あなた、それ、見えていたんですか?」

「うん。俺にもなんとなくね。コツがわかったからもいっかい。んー」

「あの、……若様」

「ん?」

「そうされなくても、……食べられますが?」

「あ、そうだっけ? いいよ。お腹いっぱい――」

「パパ」


 デリラちゃんが俺の手を彼女の手で押さえるんだ。

 それで俺を見上げて、あー、これ。

 俺にお願いするときの表情だよ、確か。


「どしたの?」

「あのね。デリラちゃんもね、オルティアお姉ちゃんにね、マナ食べてもらいたいのね」

「そっか」

「オルティアお姉ちゃんのね、少しでもね、元気になるようにね、してあげたいの」


 うん。

 オルティアのためになりたい。

 一生懸命な、真っ直ぐな気持ちがよくわかるよ。


 ナタリアさんを見たら、『仕方ない』って感じ。

 そうだな。

 少しだったら大丈夫かな?


『そうね。デリラちゃんは日に日にマナが多くなってるから、きっと大丈夫』


 うん、わかった。

 判断してくれてありがとう。


『いいえ、どういたしまして』


「オルティア」

「……はい」

「お腹いっぱいのほんのちょっと足りないくらいでやめてくれる?」

「……はい」

「そしたらさ、デリラちゃんのマナも少しだけ食べてくれるかな?」

「……いいのですか?」

「エルシーが、大丈夫だろうって」

「パパ、エルシーちゃん、ありがと」


『いいえ、どういたしまして。そう伝えてちょうだい』


「いいえ、どういたしまして。だってさ」

「うんっ」


 デリラちゃんは俺の隣りに座って、順番を待ってるみたいに楽しそうにしてる。


「それじゃいいよ」

「……はい、……ありがとうございます」


 これこれ、このぞわっとした感触。

 これ、遠慮しないようになったオルティアの食べ方なんだよ。

 あの青い大太刀に吸われたときと似てる感じ。

 あれよりちょっと弱いかな?

 でも俺もまだ、マナが多くなってるから。

 前々大丈夫なんだよな。


「……痛っ」

「ナタリアさん」

「はい。あなたはそのままで」

「はいよ」


 ナタリアさんはオルティアのお腹に手を添えて、目を(つむ)って……。

 あー、うん。

 ナタリアさんの身体から手に集まる感じで、マナが流れてるのがわかるような、わからないような。


「……ありがとうございます。……若奥様」


 まだ俺の手から、オルティアの黒い手が離れてないんだ。

 だからこれからまだ、食べ続けるんだろうね。


「あなた」

「ん?」

「どんな感じなんです?」

「どんなって?」

「オルティアちゃんの、手加減なしのそのね」

「あー、それね」

「はい」

「別になんてことはないよ。どれだけ減ってるのかわからないんだ」

「え?」


『だからウェルはね』


 はい。

 お化けなんでしょ?


『わかってたらいいの』


「エルシーにまた『お化け』って言われちゃったよ」

「あたしだって思いますもの」

「うっそ」

「えぇ」

「パパ、お化けなのよ。ひーちゃんがいってるから」

「うそだ」

「せいちゃんも言ってますよ?」

「……あ、はい」


 俺たちのこんなやりとり見てたからかさ。

 オルティアの口元が少しだけ上がってるんだ。

 楽しそうな感じ?


「……若様。……ありがとうございます」


 黒い手が俺の手から離れたんだ。


「デリラちゃん、準備して」

「はいっ、……んー」


 デリラちゃんは、ナタリアさん式マナ増幅法の『おてて』みたいに手を合わせて上に向けてる。

 少しでも多く、用意してあげたい。

 そう思ってるのかもだね。


「準備できたのよ」

「……それでは姫様、……いただきます」

「どうぞ」


 オルティアの黒い手の先が、デリラちゃんの手をおっかなびっくり触れるように動いてる。

 俺にもなんとなくわかるデリラちゃんのマナ。

 それを食べようと、優しく包んでるんだ。


「くすぐったい感じがするのよ」

「そうだね。俺もそんな感じがするかな?」

「……ごちそうさま、でした」

「オルティアお姉ちゃん。デリラちゃんのマナ、どうだったの?」

「……はい。……甘酸っぱい、……感じがしました」

「んふふふ。デリラちゃんのマナ、甘酸っぱいんだって」

「よかったね、デリラちゃん」

「うんっ」



お読みいただきありがとうございます。

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