第百六十五話 ナタリアさんのところの。その3
最近はエルシーが慣れてしまったせいもあるし、ナタリアさんから毎日マナをもらってるみたいだから、常にあの姿でいられるって言ってたんだ。
だから前みたいに、魔石を介して話すことも少なくなってたんだよね。
でも、この王城のあちこちに魔石を置いてはあるんだ。
それは俺が、石材を使って魔石を固定してるから、この座布団がいらなくなっただけなんだよね。
「これをこうして、うん。いいね。転がらない」
「はい。……あら? あらあらあら。わかりました。そう伝えますね」
一瞬だけど、魔石に込めたマナが減ったように見えたと思ったら、ナタリアさんと聖の精霊さんが話をしてたんだね。
「あなた」
「ん?」
「聖の精霊さんがですね」
「うん」
「『ありがとう、ウェルちゃん』ですって」
「うは、やっぱり子供なんだね。俺たちって」
「えぇ、そうですね」
聖の精霊さんが何歳なのかは聞いてみないとわからない。
けれどきっと、俺なんかよりずっと長生きしているんだろうから。
俺もナタリアさんもデリラちゃんも、同じ子供なんだろうなって。
「そう、そうなんですね」
「どうしたの?」
「マルテさんが教えてくれたことがありますよね?」
「ん?」
どれだっけ?
あまりにも多すぎて、なんとも言えないんだけど。
「『精霊さんが教えてもいいことしか教えてくれない』ということです」
「あ、それね」
マナが半分くらいに減ったみたいだから、こっそり補充しておいた。
「あーなーた?」
あ、バレた。
ナタリアさんがちょっとふくれたような、デリラちゃんがいたずらをしたときに叱るときみたいな表情をしてる。
「別にいいでしょ? 初めて話せるようになったんだから。沢山話すといいよ」
「でも……」
「俺にはほら、売るほどマナがあるんだから。使わないともったいないでしょ? 最近は、ライラットさんたちのおかげで魔獣討伐も出番がないし。オルティアが食べてくれるとき以外、減ることないんだからさ」
「あたしが補充できたらいいのですが……」
ナタリアさんにも俺がやってる方法を教えたんだ。
でも無理だった。
やっぱりお化けだからなのかもしれないね。
「それでですね」
「うん」
「『教えてもいい』と思うさじ加減は、精霊さんによって違うらしいんです」
「へぇ、それって父さんが喜びそうな話じゃない?」
「はい。そうかもしれません。……ん? そうなの?」
あ、またマナが減ってる。
補充、補充っと。
「どうしたの?」
「『教えてもいい』という範囲は、人によっても違うんですって」
「というと?」
「例えばですね、あなたの場合とお父様の場合などだそうです」
「何か違うのかな?」
「ほら、あなたはエルシー様がいるので」
「あー、そういうことか」
「えぇ。何かしら? えぇ、そうなの?」
「どうしたの?」
「あなたは『大精霊様の申し子』なんだそうです」
「なにそれ怖い。あ、でも。エルシーが俺の母さんってことなのかな? 精霊さんたちから見ても」
エルシーが大精霊なのは確定ってことだね。
「えぇ、そうなのね。それは間違いないみたいです。実際の親子という意味ではなく、マナの観点からエルシー様が育てた、という感じだそうです」
「へぇ、そこまでわかるんだ」
「あなただから、教えてもいいこと。だそうです」
「うん。わかったよ。あ、ところでさ」
「はい?」
「この、魔石にマナを注げるのってなぜできるかわかるのかな?」
「……そう、そうなのね。あのねあなた」
うーわ。
ナタリアさんの表情みたらわかっちゃうってば。
「聖の精霊さんにもわからないそうです。エルシー様の言うように」
「はいはい。枠を超えた『お化け』ってことなんだね。精霊さんからみてもそうってことかー」
「うふふふふ。そうみたいですね」
魔石の珠はナタリアさんがみんなの治療で使う私室へ置くことになったんだ。
ゆっくりと話をしたいだろうし、そうすることでナタリアさんが知りたかったことを知る機会になるだろうし。
設置するときにこっそり倍の大きさにしておいたらその場で怒られた。
さすがに倍はバレるか……。
ちなみに、朝から昼までに二回、昼から夜までに二回補充すると一日もつみたいなんだ。
聖の精霊さんが話したいときは、ナタリアさんに仕草で教えてくれるんだって。
そうそう、デリラちゃんにも同じものを作ってあげたんだけど。
デリラちゃんの火の精霊さんとは話が難しいらしい。
ナタリアさんとこの聖の精霊さん曰く『一緒にいる時間の長さ』らしいんだ。
だからそのうち、同じように話すことができるようになるってわかったら、デリラちゃん喜んでたな。
▼
「ごちそうさまでス」
オルティアがお腹いっぱいにマナを食べてくれた。
実は最近、ナタリアさんが気づいたらしいんだけど、オルティアの身長が伸びてるみたいなんだって。
ナタリアさんところの聖の精霊さんが言うには、一日に必要なマナを取り入れる量の釣り合いが取れてきたからかもしれないんだって。
デリラちゃんと四つしか違わなくても、鬼人族の同じ年齢の子と比べたらやはり小さかったからね。
オルティアが遠慮なしにお腹いっぱいマナを食べても、エルシーが言うには俺の持ってるマナの一割にも満たないんだって。
ナタリアさんはここ毎日、ぐっすり眠れてるんだって。
その理由は、エルシーだけじゃなく聖の精霊さんにマナを食べてもらっているから。
聖の精霊さんはエルシーの半分くらい食べるんだってさ。
姿も日に日に大きくなってきてるって、今は手のひらに乗りきるかどうからしいよ。
前の倍くらいになってるんだってさ。
なんでも、デリラちゃんとこの火の精霊さんと同じくらいの大きさになってるって。
デリラちゃんとこの火の精霊さんは、大きかったんだな。
デリラちゃんもナタリアさんと同じようにぐっすり眠れてるみたい。
火の精霊さんにマナを食べてもらっているから、早めに眠れるようになったって喜んでたんだよ。
マルテさんに先生になってもらって、大やけどしたときのような、あのようなことをしないって約束してくれたらしくて、ナタリアさんも安心してたんだ。
父さんとナタリアさんが話をしていて、その日のうちに父さんに両手を握られてものすごく感謝されたんだ。
なんて言ったっけ?
確か父さんがこれまで書物で読みあさっていた、難解な部分を解き明かすことができたとかなんとか?
デリラちゃんの先生として、いつも手ほどきをしてくれるマルテさんは、ナタリアさんの弟子にもなったわけで。
もう、母さんくらいに治癒魔法が使えるようになったんだってさ。
母さんも負けていられないって、頑張ってるんだって。
人族の使い手としては、母さんがもしかしたら一番かもしれないって、マルテさんが言ってたんだ。
それくらい努力してるんだって、もう勇者様じゃなく聖女様なんじゃないかな?
人族の間だけなんだけどね。
「あなた、ありがとうございます」
「いえいえ。これくらいたいしたことないって」
俺はナタリアさんが持ってきた魔石の珠にマナを補充したんだ。
正直言ってしまうと俺は、昨日バラレック商会に行って俺が作った腕輪や足飾り、首飾りなどの納品ついでにごっそりと空魔石を買ってきた。
ついでに追加注文したんだけど、まだまだ集まりそうだって言ってたっけ。
なにせ領都では魔石を消費して軽く数十年以上、へたすると空魔石は数百年分は存在しているわけだからね。
それでこれと同じものを、いくつか作っておいたんだ。
使わなくなったらなったで、作り替えたらいいだけのはなし。
もしデリラちゃんのところの火の精霊さんがさ、ナタリアさんのところの聖の精霊さんみたいに、話すだけで魔石を消費するとしたら、あるに越したことはないからね。
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