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第百六十三話 ナタリアさんのところの。

「あのさ、ナタリアさん」

「なんですか?」

「ナタリアさんにも精霊さんがいるんだっけか?」

「少々ややこしい言い方になりますけど、いいですか?」

「う、うん。頑張るよ」


 今、デリラちゃんは自分の部屋でマルテさんとエルシーが見てくれている。

 俺とナタリアさんはマルテさんがいなくなった食堂から自分たちの部屋に戻ってきたんだ。

 父さんも母さんも暇というわけじゃないから、これから用事があるって言ってたからね。


「あたしの精霊さんはですね、もう見えているんです」

「え?」


 ナタリアさん、何言ってるの?

 精霊さんが見えてるって、


「あなたは、エルシー様と初めてお話をされたときのことを覚えていますか?」

「何だったかな? たしか『馬鹿じゃないの』だったような?」


『よく覚えてるわね』


「だーかーら。デリラちゃんのほうに集中しててってば」

「あなた、エルシー様ですか?」

「うん。『馬鹿じゃないの』で当たってたみたい」

「あの、そうではなくて、頭の中で話しましたか? それとも口で話しましたか?」

「んっと、確か口だったような。うん、俺がエルシーに初めて話しかけたのは口でだったと思う」


『えぇそうだったわよ』


「だーかーら」

「うふふふ。本当に仲がよろしいのですね」

「どうだろう? 少なくとも嫌われてたらきっと、ナタリアさんに出会えてなかったからね」

「そこなんです。エルシー様はなぜそのとき、魔族領へ行ってみようと言ってくれたのでしょう? ……ごめんなさい。あたしのほうが話を逸らしてしまいましたね」

「どういうこと?」

「あなたとエルシー様の場合は、いるのはわかっているけれど、目で見ることはできなかったわけですよね?」

「うん。鬼人族の集落で、大太刀に乗り移って初めて見たことになるからさ」

「あたしが思うになのですが、いると意識をすることで次の状態に進めるのではないかと思うんですね」

「んー、どういうこと?」


 正直わからなくなってきた。

 ナタリアさんは父さん寄りでこう、考えてから動く質じゃない?

 俺と母さんはどっちかというと、やってから反省する質だからさ。


「そうですね。正確なお名前かどうかはわかりませんが、あたしの側にいる精霊さんをマルテさんが言うように『聖の精霊さん』と呼ぶことにしますね」

「うん。まかせた」

「マルテさんから教わって、デリラと一緒にマナをあげてからなんです。なんとなく、見えるようになっていました」

「えぇええ?」


 ナタリアさんは右手の手のひらを上にして俺に見せるんだ。


「見えませんか?」


 思い切り目を凝らして見てるんだけど、よくわからない。

 ナタリアさんが俺を騙したり、担いだりすることは絶対にないから。

 『いる』のは間違いないと思うんだ。


「あなた、ここへ手をどうぞ」


 ナタリアさんは左の手のひらを上にしたまま、俺の手をもっていく。

 彼女の手のひらの上を指先あたりが重なったとき、俺の人差し指に何かが触る感じがあった。


「わかりますか? 聖の精霊さんが、あなたの指を小さな両手でつかんで、頬をあてているんです。あら、駄目ですよ」

「ど、どうかした?」


 ナタリアさんはデリラちゃんに注意をするときみたいな表情になるんだ。


「おそらくですが、マルテさんやエルシー様の言うように、あなたから漏れ出ているマナをつまみ食いしているのかもしれませんね」

「そっか。俺のマナって常に漏れ出てるってそんなこと言ってたっけ」


 最後に枯渇したのって確か、青の大太刀に注いだときくらいだっけ?

 オルティアがお腹いっぱい食べても、減った感じしないもんな。


『それだけあなたが――』


 はいはい、お化けだっていいたいわけね。


『自覚してるならいいわ』


 お願いだからデリラちゃんのほうに集中してくれる?


『わかってるわよ。ごめんなさいね』


「あなた」

「ん?」

「エルシー様にまた、『おばけ』と言われていたのですか?」

「わかった?」

「なんとなくですけどね」


 俺がナタリアさんの手のひらをじっとみて、ぼうっとしてたからわかっちゃったんだろうな。


「それでですね」

「うん」

「精霊さんの存在は、フォルーラさんの話で知ってですね」

「そだね」

「マルテさんが詳しく教えてくれましたので、意識をするようになったからだと思うんです」

「俺もエルシーに話しかけられて初めて、目に見えない存在を知ったからなぁ……」

「あたしも、あなたの刀を通してエルシー様に話しかけていただいて、初めて知りました」

「そう言う意味ではさ、俺もナタリアさんも同じなんだよ」

「えぇ。あたしたちにはエルシー様がいらしたので、こうして聖の精霊さんを認識できている。だからあたしに姿をみせてくれたのかも、しれませんね」


 そういやそうだ。

 マルテさんところの水の精霊さんも『姿を見せてくれるようになった』って言ってたからな。


「それでさ、ナタリアさんの言うことって、理解してるみたい?」

「そうですね。先ほどあなたのマナを食べていたとき、『駄目ですよ』話しかけたら一度振り向いて、何か口を動かしてあたしに話しかけようとしていた感じはあるんです」

「へぇ」

「言葉を交わすことはまだ難しいのかもしれませんが、こうして意思の疎通をしようとしてくれています」

「そうなんだね」

「えぇ。これでデリラのことを少しでも理解してあげられる。それだけでもあたしは嬉しくて仕方がないんです」

「あぁ、俺にはどうだろう。エルシーとの間が同じ経験だって言えるかどうかはわからないけどさ」

「はい」

「こうして、ナタリアさんの聖の精霊さんが触ってくれたのがわかるんだ。俺も少しだけデリラちゃんのことを理解できるんだなって。ナタリアさんが言うようにね、父親として嬉しいよ」

「えぇ。そうですね、……あらまぁ」

「どうしたの?」

「聖の精霊さんがですね」

「うん」

「寝転がって、お腹をさすっているんです」

「もしかして」

「えぇ。お腹いっぱいになってしまったのかもしれませんね」


 なんと、溢れていた分だけでお腹いっぱいになるくらいだとは……。


「なんと、んー。そしたらさ、オルティアが言うように、俺のマナは美味しかったってことなんだろうかね?」

「えぇ。そうかもしれませんね」


 これ、デリラちゃん言ってあげたら、笑ってくれるかもしれない。

 俺に見えないのが、少しだけ悔しいのは仕方のないことかもだけどさ。

 確かにあれだけ長い間、エルシーが俺の側にいてくれたのに、一度も目でみることはできなかったんだ。


「父さんあたりにこのことを教えてあげたら、興味深くさ、調べ始めるかもしれないね」

「えぇもちろん、お父様にもお話させていただくつもりです

「それならさ、そういう系統の話に詳しくない俺でも思う、疑問を並べておくといいかもしれないよ?」


 ナタリアさんは何やら興味深い、という表情になるんだよ。


「どういった疑問ですか?」

「んー、例えばさ」

「はい」

「聖の精霊さんは、どれくらいの大きさなんだろう?」

「そうですね。あたしの中指くらいの背丈で、指二本くらいの肩幅かしら?」


 そっか、ナタリアさんは小金貨の単位ってあまり使わなかったから、こうした表現のほうが簡単なんだろうね。


「へぇ。そしたらさ、髪の色はどうなんだろう?」

「はい。真っ白ですよ」

「肌の色も?」

「えぇ。頬が少し赤みを帯びていますが、白くて綺麗な肌をしています」

「服装は?」

「何でしょうね。すごく柔らかな布? それとも皮かしら? そのような素材で織られているドレスとズボンを身につけているんです」

「それは凄いな。そうだ。目の色は?」

「はい。んー、あらあら近づいて見せてくれるのね? 薄い青です。おそらく、身体の色素だったかしら? 前にお父様からですが、それが薄いのでそうなる場合あると教わりました」

「うーわ、そうなると俺には手に負えないってば」

「ごめんなさい。ナタリアさんの言葉は理解しているっぽいけど、まだ聖の精霊さんの声は聞こえない。そうなんだよね?」

「はい。それで間違いはありません」


 何やら俺のした質問を、ナタリアさんが答えたこと、全部紙に書き留めてる。

 ナタリアさんはこうみえて父さんっ子だから、精霊さんのことを話すのが楽しみなんだろうね。



お読みいただきありがとうございます。

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