第百五十三話 精霊さんってどういう人たち?
「ごちそうさまでしたぁ。ものすごぉく、美味しかったですぅ」
マルテさん、うちの味付けにご満悦。
なにせこの味付けは、ナタリアさんがフレアーネさんに教えたらしいから鬼人族の味なんだ。
俺たちはあの場で皆一緒に遅めの朝ご飯をとることになった。
もちろんマルテさんもご一緒してね。
そのあとすぐにデリラちゃんはまだマナが足りないのかすぐに寝てしまったんだ。
このままマナの回復に努めるため、ちょっと早めのお昼寝をさせてあげよう、そういうことになったんだ。
そんなデリラちゃんの隣に身を寄せて丸くなって眠っているのは、心配して様子を見に来てくれたグリフォン族族長の娘、フォリシアちゃん。
デリラちゃんが怪我をしていなければ、本当なら今日は一緒に遊んでいたはずだった。
デリラちゃんの無事を確認できたからか、フォリシアちゃんも安心したみたい。
遊べなくなっちゃったのは自分の責任だと、必死に謝ってたデリラちゃん。
でもね、フォリシアちゃんはすぐに許してくれたんだ。
彼女もすごく心配してくれていたみたいだからね。
その後少しだけお話をして、二人ともいつの間にか寝ちゃってたんだ。
一回り以上大きくなったフォリシアちゃんはデリラちゃんよりひとつ年下の五歳。
デリラちゃんを乗せて飛ぶにはもう十分に見えるけど、まだフォルーラさんの半分くらいしかないんだ。
フォリシアちゃんは、デリラちゃん専属の侍女になるんだと頑張ってお勉強中。
うちの執事さんのルオーラさんと、彼の奥さんテトリーラさんの話ではさ、一生懸命学んでるって話しだよ。
まめに様子を見に来る彼女の母親フォルーラさんが、ある意味がっかりしてたって。
グリフォン族の里にいたときとは別人みたいだって、お酒の席で嬉しそうに話していたってエルシーから聞いたんだ。
デリラちゃんたちはエルシーと母さんがみていてくれてる。
だからふたりが寝てる間、俺たちは場所を移してマルテさんに色々質問をしてたんだ。
例えば。
この王都や領都にどれだけの精霊が住んでいるのか?
俺たち勇者だったものも、精霊の力を借りていたのか?
そんな感じに質問していたのは、主に父さんとナタリアさん。
俺はただただ、聞いてただけなんだよね。
あまり難しいことはわからないし、父さんやナタリアさんみたいに質問もできやしない。 俺もデリラちゃんのそばにいたかったんだけど、エルシーに駄目だって言われちゃったんだ。
『エルシーはウェルに、わからなくても聞いておきなさい。ウェルを通してわたしも聞いているから』って言うもんだからさ、俺も同席することになったんだよ。
マルテさんのしてくれた話は、こんなところから始まったんだ。
「エルシー様のようにですねぇ、精霊さんからマルテたち人へ話しかけてもらえるのはぁ、とても珍しいのですよぉ」
その理由を父さんたちが訪ねるとね、こんな感じに答えてくれた。
マルテさんは、彼女のそばにいる水の精霊さんの声を聞くことができる。
ただそれは、水の精霊さんが彼女を守護しているから。
本来は、精霊さんたちが使う言葉と、俺たちが話す言葉はぜんぜん違う。
精霊さんたちの言葉を、俺たちは聞き取ることは難しいとのこと。
だからマルテさんの頭に直接語りかけてくれるんだって。
そこは前のエルシーそっくりだなって思ったんだよ。
その反面、俺たちの言葉を精霊さんは理解して聞き取ることができる。
だから精霊さんの言葉を理解することができなくても、『精霊さんにお願いをして、魔法を使わせてもらうこと』が可能なんだってさ。
もちろん、精霊さんは違う精霊さん同士で会話をしてる。
例えば、水の精霊さんと火の精霊さんは言葉が通じる。
ということはさ、エルシーと精霊さんは話ができるってことなんじゃない?
『残念だけど無理ね。わたしには精霊さんは見えないし、言葉も聞いたことはないもの。さっぱりわからないわよ』
なるほどね。
マルテさんにエルシーの言葉を伝えたところ、帰ってきた答えはこう。
『魔法を使う人がですねぇ、少ない地域だったからだとマルテは思うんですねぇ。マナが溢れている人の少ない土地にはですねぇ、精霊さんは近寄ってくれないんですよぉ』
なるほど。
確かに俺は、エルシーにマナを分けてあげてた。
俺が勇者になる前は、母さんからは溢れてるマナを少しずつもらってたらしいんだけどさ。
そりゃ領都でも料理をするから火を使ってた。
けれど、火起こしの魔法を使ってたわけじゃない。
火を起こす魔法回路でやってたから、領都の人からはマナを分けてもらえる可能性は低い。
マナを使ってたのは俺や母さん、あとはせいぜい数人だろうから。
少ないなんてもんじゃないだろうね。
だから精霊さんが寄りつかない土地だったっていうのは納得がいく。
領都からかなり離れた鬼人族の集落では、普通に魔法を使う人がいた。
だから精霊さんが訪れていたのかもしれない。
鬼人族やグリフォン族の皆さんが移住してくれたから、この王都と領都に精霊さんが訪れるようになった。
マルテさんはそう話してくれたんだよ。
そんな鬼人族の間でも、特定の精霊さんに守護されているのはナタリアさんだけ。
俺とデリラちゃんが初めて水の魔法を見せてもらったあと、デリラちゃんがわずかでも魔法を発動できたことにマルテさんは驚いたんだって。
でもそのとき、俺やデリラちゃんには教えてくれなかったけどさ。
デリラちゃんのそばはすでに火の精霊さんがいたらしいんだ。
だから、マルテさんはなんとなく納得したんだって。
デリラちゃんもナタリアさんも、水の精霊さんとは相性があまりよくないみたいけど。
ナタリアさんもデリラちゃんと同じように水の魔法を発動できたのは、もともと聖の精霊さんが守護していたかららしいよ。
ナタリアさんの娘だから、デリラちゃんも精霊さんに好かれるのかもしれないね。
水の精霊さんが言うにはね、眠ってるデリラちゃんのそばから火の精霊さんは離れようとしないらしい。
怪我をさせてしまったからか、心配して今も見守ってくれているんだって。
魔法を使ったのはデリラちゃんの意思で、責任は使った彼女にあるんだ。
ナタリアさんも『デリラが悪いんです』って言ってたからさ。
マルテさんが教えてくれたから、俺たちは精霊さんの存在を意識するようになった。
鈍感な俺だって、感じ取ることができたくらいなんだ。
ナタリアさんもデリラちゃんも、いや俺たちだってね。
『知らなかった精霊さんの存在は意識することで魔法への理解も変わってくる』
マルテさんはそう言ってくれたんだ。
ちなみに、俺とデリらちゃんの間に血の繋がりがないことは、マルテさんも重々承知してくれている。
でも、俺たち父娘はすごく似てるって言ってくれてる。
精霊さんとの親和性の高さが、俺やデリラちゃんの似ているところなんだって。
俺がエルシーの声を聞くことができたのは、そのおかげかもしれないんだってさ。
『なるほどねぇ。そう言われてみると、納得せざるを得ないというところかしらね?』
ちなみに、デリラの『遠関知』は、複数の精霊が手助けをしていた結果かもしれない。
マルテさんはそんな切り口で話をしていたものだから、父さんもナタリアさんも少々興奮気味。
それと、エルシーはもともと人間から精霊へ生まれ変わったから、人間の言葉を最初から深く理解していた。
だから俺や母さんに話しかけることを諦めなかったんだろうって、マルテさんが言ってくれた。
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