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第百五十話 デリラちゃんの今後は?

「ご、ごちそうさまでしタ」

「いいんだ。満足した?」

「はイ、初めて満腹になりましタ」


 オルティアの口角は両方とも可愛らしく持ち上がってる。

 本当にお腹いっぱいになったみたいだわ。


「それならよかった。……さて、わかったでしょ? ナタリアさん」

「えぇ。オルティアちゃんは、あたしが使い切れなかったマナを食べ尽くしたとしても、おなかいっぱいにならないということでしょうね」

「そういうこと。それならさ、デリラちゃんがマナの使い方を覚える――んー、違うな」


 そうじゃなくて。

 父さんが言うようにするなら。


「正しく魔法が使えるようになるまではさ、隠れて無理をしちゃうデリラちゃんを放っておくのはちょっとまずいよね? それならオルティアに食べてもらったほうがいいかもしれない。そう思わない?」

「えぇ。そうですね」

「デリラちゃんくらいの量なら、おやつくらいにしかならないだろうから」

「えぇ。あたしも驚きました」

「オルティアも遠慮なんていらないんだよ。今後はもし、もし食べ足りないときは俺に言ってくれたらいいからね?」

「はイ、ありがとうございまス」

「さて、デリラ」

「うんっ」


 オルティアにマナを食べてもらえるということが嬉しかったんだろうな。

 でも、ナタリアさんの声、あれはまずくないかい?

 ほら、目がすぅっと細くなってる。


「あなたはいったい、何をやってしまったのかしらねぇ?」

「ご、ごめんなさいなのっ!」


 ありゃりゃ、珍しい。

 デリラちゃんが平謝りしてるよ。


「ほんっと、デリラの謝り方があなたそっくりになるなんて……」


 鬼人族伝統の謝罪はできないけど、って、あれ?


「へ?」

「あなたがエルシー様に『ごめんなさい』をするときは確か、こんな感じじゃなかったかしら?」

「わ、わかんないってば」

「あははは」

「デーリーラ?」

「はい、ごめんなさいっ」

「本当に実の父娘(おやこ)みたいよね」

「そうだね。血が繋がっていないとは思えないくらいだよ」

「あら? お母様」

「父さんもいるし」

「それはもう、私だって心配だったのよ」

「あぁ、すまないね。僕もそう。心配していたんだ」

「ほら。おじいちゃんとおばあちゃんにごめんなさいは?」


 デリラちゃんはちょっと真顔になって。


「ごめんなさい。おじいちゃん、おばあちゃん」

「いいんだよ。ねぇ?」

「えぇ。元気になったのなら、ねぇ?」


 父さん、母さん、オルティア、俺、ナタリアさん、デリラちゃん。

 まだ朝ご飯にはかなーり早いというのに、俺の部屋にこんなに集まっちゃったよ。


 デリラちゃんのすぐ横にオルティア。

 向かいに母さん、ナタリアさん、俺、父さん。

 こんな感じに座ってるんだ。


「それで? 何をしたのかしら?」

「あのね」

「大丈夫、怒ってないわよ?」

「うん。わかってるの」


 俺やナタリアさんを含め、皆心配してるだけだってデリラちゃんはわかっちゃうから。

 余計にしんどいのかもしれないね。


「ママ、これ見てほしいの」


 デリラちゃんはナタリアさんの前に右手の手のひらを上に向ける。


「んっ」


 すると、人さし指の先に小さな火が灯るんだ。


「……デリラ、これ?」

「これって『火起こし』じゃないのかな?」


 父さんが驚いてるよ。


「えぇお父様。ですがあたしはまだ、デリラには教えてないんです」


 すると一度デリラちゃんは灯した火を消す。

 俺も知ってる、父さんが命名した『ナタリアさん式マナ増幅法』を始めた。


「――おてて」


 そのままあっさり指先に火が再び灯ったんだ。


「あのね、こうしてもね、変わらないの。パパの腕輪通しても、変わらないのよ?」


 残念そうな表情をすると、起こした火をすぐに消しちゃった。


「えぇ、そうね。デリラ」


 ナタリアさんはこれを知ってたんだろう。


「僕が思うになんだけど、『火起こし』の魔法は、ナタリアちゃんたちのご先祖様がね、マナを暴走させないで安全に火を起こすだけの魔法を伝えてきたんだと思うんだ。だから、『ナタリアちゃん式マナ増幅法』を利用しても変わらない。もちろん、ウェル君が作った腕輪を通しても同じだろうね? 実に完成された魔法だと思うんだ」


 父さんだけは『ナタリアちゃん式マナ増幅法』って呼んでるんだよね。


「あのね、ずっとこれ続けてもぜんぜんマナ、減ってくれないの。だからデリラちゃん困っちゃったのね」


 あれ?

 おかしくないかい?


『そうね』


 あ、おはようエルシー。


 『こんこん』とドアが叩かれて、俺たちが振り向くとそこにはエルシーがいたんだ。


「おはよう、皆さん」

「おはようございます、エルシー様」

「昨夜は、お誘いありがとうございます。エルシー様」


 母さんはいつも通り。

 父さん、飲んでたんだね?


「おはようございます」

「おはようなのっ」

「おはようございまス。エルシー様」


 オルティアのとなりに座ったエルシー。

 デリラちゃんとオルティアの頭を撫でたあと、俺たちの疑問に答えてくれることになった。


「デリラちゃん、いいかしら?」

「うんっ」


 エルシーが差し出した右手に、デリラちゃんは同じように右手を乗せる。


「んー、一晩寝て、戻ったマナは一割に満たない。おそらくは五分くらいかしらね? これじゃ、起き上がるのも難しいと思うわ」

「え? わかるの? エルシー」

「慣れたわよ。これ間接的にだけど、ウェルが十五のころからやってるんだもの。こうして、ウェル以外の子にできるようになったのは、最近なんだけどね。オルティアちゃん、いいかしら?」

「はイ」


 エルシーが今度は左手を、オルティアは同じように左手を差し出す。


「あらぁ? 十割、お腹いっぱいまで食べたのね?」

「はイ、いただきましタ」

「この子ね、いつもは六割程度までで我慢していたのよ」

「そうだったんだ?」

「そりゃそうよ。女の子なのよ?」

「あー、ごめん。俺が悪かった」


 素直に頭を下げる。


「わたしじゃなく、オルティアちゃんにでしょう?」

「そうだった。オルティア、ごめんね」

「いエ、ごちそうさまでしタ」

「さておき。デリラちゃんの五分はね、鬼人族の普通の女性と比べたら二割あるかないか。だからね、『火起こし』くらいはできてしまうマナの量なのね」

「なるほど。そこまでだったんですね」


 父さんも驚いてる。


「こんこんこーん。いいかしらぁ?」

「え? この声って」


 入り口振り向いたら、誰もいない?

 あれれ?


「あ、マルテちゃん?」


 デリラちゃんが言い当てると、すぅっと色がついて、マルテさんが現れるんだよ。

 あぁ、これって確か『偽装』って言ってたっけ?

 いや、いいのか?


「わたしが来てもらったの。暇そうにしてたからね」

「精霊のぉ、エルシー様に呼ばれちゃったしぃ、デリラちゃんが怪我をしたって聞いちゃったからぁ。心配はしてたのねぇ?」


 座った姿がまた異様というか異形というか。

 可愛らしい上半身と違って――


『ウェル』


「はいっ、ごめんなさいっ」


 あ、皆さん注目してる。

 俺を叱ったエルシーの声、俺にしか聞こえてなかったのかー。

 やっちまった……。


『口は慎むのよ。心の中でもね、いずれ誤って本当に口にすることだってあるんだから』


 はい、肝に銘じます。


『わかればいいのよ』


「あのね、パパったら、いつものことなのね」


 皆さん笑う笑う。

 デリラちゃんの一言で和んじゃった。


「デリラちゃんはぁ」

「うん」

「火の精霊さんと遊んじゃったのね? ううん、違うわぁ。お友達になったのねぇ?」

「そうなの?」


 こりゃびっくり。

 俺もナタリアさんも、父さんだって母さんだって、エルシーは平然としてる。

 オルティアはきょとんといつも通り。


「そういやオルティア、台所はいいのか?」

「フレアーネさんが今朝はいってらっしゃいと言ってくれましタ」

「そっか。それなら心配ないね」

「はイ」


 デリラちゃんを見て、ひとつ頷く俺。


「マルテちゃん?」

「いいかしらぁ?」

「うんっ」

「あのねぇ、マルテのすぐそばにはねぇ」


 そうだ、マルテさんもデリラちゃんと同じで、自分を名前で呼んでるんだっけ?


「水の精霊さんがねぇ、ついててくれるのよぉ」


 手のひらを上にして、そこを指さしてるんだけど、何も見えないんだよね。


「ほらぁ、ここぉ。ウェルちゃん、指置いてごらんなさいぃ?」


 俺は恐る恐る、マルテさんの手のひらの上に右手の人さし指を近づけたんだ。



お読みいただきありがとうございます。

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