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第百四十七話 デリラちゃんのマナをどうしよう?

 あのときのデリラちゃんは多分、強力(ごうりき)の魔法以外にマナを消費する方法が欲しかったんだと思う。


「――ということは父さん。もしかして新しい?」


 俺は正解に近づいたと思って父さんを見たんだ。

 父さんも好きなんだろうな、こういうの。

 すっごくいい笑顔で応えてくれたんだよ。


「あぁ おそらくは正解だろうね。デリラちゃんはきっと、ナタリアちゃんの『火起こしの魔法』を見よう見まねで再現してしまったんだろうね。スキュラ族のマルテさん、だったかな? 彼女が使うという水の魔法を参考にして顕現させた。天才というのはデリラちゃんのことを指すものだと思うよ、僕はね」


 確かにあのときは、マナを枯渇させて真っ青になりながらもギリギリで発動させたんだっけ?

 デリラちゃんは俺に似て負けず嫌いだから、あとからもう一度やって見せたって聞いたんだ。


「あー、そっか。エルシーが言うところの『おばかな』俺でも、なんとなくそう思ったんだ」

「それはどういうことだろう?」


 父さんが首を傾げてるけど、どうよ?

 エルシーよりも先に言ってやった。


「あのねぇウェル。そんなに自虐的にならなくてもいいでしょう? わたしまだ何も言ってないのよ?」


 うーわ、呆れてるよやっぱり。

 いいじゃないのさ?

 いつも言われて回りに失笑されるよりはさ。


「いいんだって。あのさ、父さん」

「何かな?」

「あくまでも俺の考えなんだけどさ。まずなんだけど、デリラちゃんはどうしてもマナを使い切りたかった。そこでいつもなら強力(ごうりき)の魔法だったんだろうけどさ。デリラちゃんには物足りないものになってたのかもしれない。そこで思い出したのは水の魔法のはず。俺もデリラちゃんが使ったところを見たことがあるけど、あっさり倒れたくらいにマナの消費が激しい魔法のはず」

「なるほどね」

「でもさ父さん。水の魔法はたぶん、デリラちゃんには相性が悪すぎるんじゃないかな? って思うんだ。だからデリラちゃんはさ、その代わりになる魔法が欲しかった。そこで水の正反対。火がいいと思ったじゃないのかな? って」


 ナタリアさんだってほら、使うと真っ青になって倒れちゃったくらいだし。

 鬼人族と水の魔法って、多分相性が悪いんだと思うよ。


「うん。その可能性は十分にあると思うよ」

「ですがお父様。『火起こしの魔法』は、あたしでもこの程度の火しか起こせませんけれど? マナはほとんど使いませんし……」


 ナタリアさんは、その場で指先に火を灯してくれる。

 可愛らしい小さな火、でも十分に料理の火種になる。

 もちろん、明かりの代わりにもね、グリフォン族の集落でやってみせてくれたから。


「ナタリアちゃん、そこなんだ」

「はい?」

「デリラちゃんが行使したと思われる魔法はね、その『火起こしの魔法』ではないだろうね。マルテさんの話から察するに、『僕たちの回りにいると言われている。火の精霊さんにお願いする』かたちの……」

「あ、父さんそれって」

「そうだね。デリラちゃんが使った魔法はおそらく、純粋な『火の魔法』だと思うんだ」

「お父様」

「何かな?」

「ちょっと待ってくださいね。んー――おてて。んっと腕輪にマナを通すようにして。『火の精霊様、いらっしゃいましたらどうか、あたしのこの指先に小さな火を灯していただけないでしょうか?』」


 ナタリアさんは、右手の指先を上して、精霊さんへの『お願い』を唱えてみた。


「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」


 しばし待ってみたけど、何も起きないみたいだね。


「実は、『水の精霊様』をお願いする方法で、何度かお願いをしてみたんですが、このようにですね、あたしのお願いは聞き入れてもらえないようなのです」


 ナタリアさんはちょっと残念そうに呟くんだよね。


「なるほどね。僕が思うにだけど、『火起こしの魔法』を司る精霊様と『火の精霊様』は違う存在なのかもしれない。または、毎日のように生活に密着した『火起こしの魔法』を使っている鬼人の女性は、『火の精霊様』と相性が悪いのかもしれない。どちらかの要因でこう、発動させてもらえないと考えていいんだろうね」

「えぇ。おそらくお父様の考え方で間違いないかと思います」


 俺にはちょっとわかりにくいよ。

 母さん見たら、斜めあっち側を向いちゃった。

 俺と母さん、こういうところがそっくりなんだよね。


『ウェルもマリサちゃんも、感覚でものを覚えてしまう類いの子だものね』


 うんうん。

 俺もそう思う。


『その反面、ナタリアちゃんとクリスエイルさんは、理論派と言ってもいいんでしょうね』


 そっか、うん。

 父さんとナタリアさんって、俺と母さんとは対極の位置にいるのかもしれない。

 まったく同じではないから一緒にいられるのかもしれないって、母さんが昔言ってたっけな。


『そうね。グレインさんもマレンさんも、似たもの夫婦に見えて全然違うもの』


 そうなんだ?

 二人とも職人さんだから、同じなのかと思ったよ。


「だとすると、困ったことになるね」

「父さん、どういうこと?」

「あのね。放出をする類いの魔法が得意な人。いないんだよどちらかというと、ナタリアちゃんやマリサさんの、治癒の魔法がその系統なのかもしれないんだけど、それとはちょっと違うような気もするんだ」

「そっかー」

「そうですね。少なくとも、安全に使いこなせるようになってくれないと、またこのようなことが起きるかもしれない。お父様はそうおっしゃるのですよね?」

「そういうこと、になるかなぁ?」


 あれ?

 何か引っかかってるんだけど。

 んー、なんだっけかな?


「あ、そうだ。確かさ、オルティアの母親が魔法使いだって聞いたんだよ」

「そういえばそんな報告を受けたよね。うん。でも」

「そうなんだよね。どこにいるかわからない……」

「そうなんだね……」

「あの、あなた」

「ん?」

「もし、なんですが。先ほどお話しに出ました、バラレックさんのところのマルテさんに、お願いできたらいいのですけど」

「あ」


 俺は父さんを見た。

 父さんもうんうんと頷いてくれる。


「あぁ。それ、いいかもしれないね。ただ、ここで不安が残るんだ」

「どういうことでしょう?」

「デリラちゃんはさ、『遠感知』という特殊な力を持っているでしょう?」

「はい」

「その上、ナタリアさんたちとは違う魔法使いになりそうな傾向があるんだ」

「はい」

「ということはだよ? もしかしたらなんだけど、治癒の魔法が使えないのかもしれない恐れがあるような気がしてならないんだ」


 んー、わけわかんね。


「ナタリアさん、任せた。ね、母さん?」

「えぇ、ごめんなさい」


 俺と母さんは諸手を挙げて敗北宣言。


「マリサさんは、強力と治癒の魔法、それと確か、『火起こしの魔法』が使えるようになったよね?」

「えぇ。そうですね」

「ということはだよ? マリサさんは人間でありながら、比較的鬼人の女性に近いということなんだ」

「あ、なるほど。確かにそう言えますね」


 いやしかし、これだけ熱い討論をしてるんだけどさ、間に挟んでるのは気持ちよさそうに、規則正しい寝息をたててるデリラちゃん。

 後ろを見ると、オルティアも起きないみたいだよ。

 もしかしたらとエリオットさんを見たら、笑ってる。

 フレアーネさんさんもそう。

 そっか、オルティアとデリラちゃんは、一度寝たら起きないさんなんだね。


「まぁとにかく続きは明日。デリラちゃんが起きてから聞いてみようか?」

「そうですね」

「エリオットたちは、僕たちの部屋のふたつ隣りにある客間でいいかな?」

「はい。ありがとうございます」


 フレアーネさんがそっと、オルティアを抱き上げてる。

 こうしてみると、オルティアのお母さんみたいに見えるよね。

 実際、養母さんなんだけどさ。


『ほらほら、エリオットがでれっとした目でオルティアちゃんを見てる。彼のあんな表情は珍しいんだから、見逃したら駄目なんだよ』


 父さんがこっそり俺に耳打ちをするんだ。

 よく見ると確かにいい表情してる。

 あ、フレアーネさんが気づいた、けど笑ってるし。


「じゃ、ウェル。わたしは戻ってお酒を飲み直すわ。デリラちゃんをお願いね?」

「うん。わかった。おやすみ、エルシー」

「まだ寝ないけどね。クリスエイルさん、行きましょうか?」

「はい。お供いたします」

「あなた、もう遅いのですから、ほどほどにしてくださいね?」

「わかってるよ。でも明日はほら」

「わかっています。だから『ほどほど』だと思ってくれるだけで構いませんよ」

「ありがとう。マリサさん」


 楽しそうにグレインさんの部屋に向かう父さん。


「おやすみ、父さん、母さん」

「あぁ、おやすみ。ウェル君、ナタリアちゃん」

「おやすみなさい。ウェルちゃん、ナタリアちゃん」


 そうして、俺とナタリアさん、デリラちゃんがここに残ったんだ。


「さて、それじゃ寝よっか?」

「はい。久しぶりですね。こうして三人で寝るのは」

「そうだね。最近はすっかりデリラちゃんもお姉さんになったから」


 明かりを消してくれるナタリアさん。

 俺はデリラちゃんを間に挟んで、寝ようとするんだけど。

 ナタリアさんは布団を持って俺の隣りに来るんだ。


「何もしませんから、いいですよね?」

「それ、男の台詞だってば」

「あら? そうでしたか?」


お読みいただきありがとうございます。

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