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第百二十八話 デリラちゃんのいちにち その1

 デリラちゃんは目を覚ます。

 最近デリラちゃんが一番早く起きるようだ。

 それをナタリアは考慮に入れているのか、デリラちゃんの枕元に着替えを畳んで置いてくれている。

 もそもそと、なるべく音をたてないように、デリラちゃんは着替える。

 もちろん、寝間着を綺麗に畳んで、壁際にある脱いだものを入れておくカゴへ。

 部屋を出て廊下を歩く。


(ぱぱとまま、まだねてるのー)


 デリラちゃんにはなんとなく、それでいてはっきりと『そう』わかっているのだ。


 ぱぱとままの寝室の前に立ち、ドアに手をそっとかけ、力を入れてみる。

 すると、鍵がかかっておらず、開けることができたようだ。

 そこにはまだ、二人の寝息が聞こえていた。

 足音をたてないように入ると、デリラちゃんのぱぱ、ウェルが気持ちよさそうに寝ていた。

 隣を見ると、デリラちゃんのまま、ナタリアがまだ寝てる。

 二人とも、服を着てた。

 裸じゃなくて、ほっと一安心。

 前は一度、裸で寝てたときがあった。

 枕元に寝間着が畳んで置いてあった。

 あのときデリラちゃんは、『ぱぱもままも、あつくてねまきぬいじゃったのかな?』と思っていた。

 あれ以来、鍵がかかっていて、朝ドアを開けれらないことがある。

 今朝は鍵がかかっていなかったから、大丈夫だろうと判断したのだった。


(ぱーぱ、おはよー。まーま、おはよー。まーま、おきがえ、ありがと。またあとでなのね)


 しばらく起きそうもない二人を置いて、なるべく音を立てないようにそっとドアを開け、デリラちゃんは部屋を出て行く。


 デリラちゃんは、自分の部屋からウェルたちの寝室へ来る途中、通り過ぎたお風呂場へ入っていく。

 脱衣所があって、右の壁際に、洗面所がある。

 新しい水が汲んであって、顔を洗えるようになっているのだ。

 集落にいたときは、ライラットたち若人衆が持ち回りで水を水瓶に入れ直していたが、その仕事は今も変わらず彼らが行っている。

 もちろん、奥にある風呂場の水を入れ替えるのも彼らの仕事。

 水をまるごと抜いて、風呂場の掃除をする。

 外には貯水層があり、外から中へ水を注げる機構があるから、そこから水を補充していく。

 そのついでに、洗顔用の水も入れ直してくれるわけだ。

 五月(いつつき)になったから、水も冷たくはない。

 王城の中だからよけいに寒さは感じることもないわけだ。

 デリラちゃんは、顔をぴちゃりぴちゃりと濡らし、しっかりと洗う。

 顔を洗い終わったあとに、ふとあることを思い出す。


「あ、たおる、わすれちゃったの――」

「姫様、これをお使いくださイ」


 特徴のある話し方をする、耳障りのよい声。

 これは、この国で一人だけしかいない。


「あ、ありがと、オルティアおねーちゃん」

「いいエ、どういたしましテ」


 左足を少し引き、身体をやや低くし、スカートの裾を両手でふわりと持ち上げ、ぺこりと最小限の会釈をする。

 少々大げさな仕草に見えるのだが、オルティアは勢いよく頭を下げてしまうと、何かの拍子で首が落ちてしまいかねないデュラハン。

 彼女はやや表情も乏しい、だから身体全体で感謝の感情(きもち)を表すようになったのだ。


「おはようなの。でもね、むりしたらだめなの。あたま、おちちゃうのよ?」

「お気遣いありがとうございまス、姫様。十分に注意いたしまス」


 オルティアはたまに、落ちた頭を自らの足で蹴飛ばすこともあるとのこと。

 それを聞いていたデリラちゃんは、何気に心配するのだった。


「フレアーネちゃんは、おだいどころ?」


 フレアーネとはオルティアの義母であり、クリスエイルの執事エリオットの妻。

 デリラちゃんが目を覚ますよりも早く、それこそ日の出と共に領都にある屋敷からこちらへ馬車で通っている。

 二人と違ってエリオットは姿を見せないが、どこかで仕事をしているのは間違いないだろう。


「はイ。そうでございまス。わたくしモ、これから戻るところでございまス、ゆエ」

「ゆえって、エリオットのおじーちゃんそっくりなの」

「ありがとうございまス。でハ、また後ほド」


 オルティアは戻っていく。

 デリラちゃんは、オルティアから受け取ったふかふかのタオルで、顔を拭った。

 ふわふわふかふか、お日様のしたで乾かした気持ちの良い肌触り。


 姿見に映る自分の髪の毛をちょいちょいと手直し。

 借りたタオルを返そうと、オルティアとフレアーネのいる台所へ足を向ける。

 すると入り口へしがみつくように、恨めしそうな視線を台所という名の厨房内部へ向けている女性がいた。


「まーま、おはようなの」


 デリラちゃんに声を掛けられて、振り向いた姿はやはりナタリアだった。


「で、デリラ? おはよう、べ、別になんでもないのよ? さ、まま、ぱぱを起こしてくるわね?」

「うんっ。おねがいなのよ、まま」

「わかったわ、またねデリラ」


 そそくさと、小走りでその場を去るナタリアの背中に、デリラちゃんは笑顔で手を振る。

 寝室のドアを開けて、中に入るのを見届けると、デリラちゃんは厨房へ入っていく。

 オルティアがデリラちゃんの気配に気づいたのか、こちらへ歩いてくる。


「オルティアおねえちゃん、タオル、ありがとうなの」

「いいエ、どういたしまして」

「フレアーネちゃんも、おはようなのっ」

「おはようございます。姫様」


 フレアーネは料理の手を止めることなく振り向いて、デリラちゃんに笑顔を見せてくれる。


「じゃ、またね、なの」


 デリラちゃんは『二人の仕事を邪魔してはいけない』そう、思ったのだろう。

 回れ右をして厨房を後にする。


 デリラちゃんは台所を出ると、ナタリアが向かった方向とは逆に歩いて行くと、ある部屋の前で立ち止まり、ドアをノックし、相手の反応を聞く前にドアを開ける。


「エルシーちゃん、おはようなの」


 デリラちゃんの言葉通り、そこには正座をしてぼうっとしているエルシーの姿があった。


「……あら? デリラちゃんね。おはよう」


 眠そうな表情(かお)をしたエルシーの気持ちを汲んだのだろう。


「エルシーちゃん、デリラちゃん、もういくの」

「ふあぁ……、今朝はわたし、ちょっと無理なのね。デリラちゃんは、いってらっしゃいな。……そうそう。イライザちゃんは、まだ、寝てると思うわ。昨日、わたしと一緒に、遅かったから、ね」

「わかったのっ」


 デリラちゃんはエルシーの部屋を出る。

 隣にあるデリラちゃんのおばーちゃん、イライザの部屋をじっとみる。

 何かを感じ取ったデリラちゃんは、うんうんと頷いた。

 くるりと方向転換し、デリラちゃんは、厨房の隣にある食堂へ向かった。

 両開きの扉を押して開けると、そこにいたデリラちゃんのおじーちゃん、おばーちゃん、クリスエイルとマリサの姿があった。

 デリラちゃんは二人の側へ行き、マリサの膝に手を置いて見上げる。


「おばーちゃん、おじーちゃん、おはようなの」

「おはよう、デリラちゃん」


 マリサはデリラちゃんの頭を撫でる。


「おはようなのっ」


 目を閉じ、気持ちよさそうにしながら、返事をする。


「おはよう、デリラちゃん」

「おはようなのっ」


 するとそこに、茶器を持ったオルティアの姿。


「お館様、お茶のお代わりはいかがでしょうカ?」

「あぁ、ありがとう」

「奥様もいかがですカ?」

「ありがとう、オルティアちゃん」


 お茶を注いだ後、厨房へ戻ろうとするオルティアの後を、とことことついて行くデリラちゃんに気づいたのだろう。


「姫様、そろそろ朝食でス。座って待っていテ、くださいネ」

「わ、わかったのっ」


 デリラちゃんは仕方なく、デリラちゃんに用意されている、一段高い椅子の上に座ることにした。

 普通の子供では、座るのに難儀する高さのはずだが、デリラちゃんは事もなく腰掛けていた。

 それもそのはず、彼女は強力(ごうりき)を使っているから。

 ほんの少しだけ、その場で跳び上がり、絶妙な高さとタイミングで衝撃を吸収する必要なく、あっさりと座ってしまうのだ。


 ほどなく、ナタリアに手を引かれたウェルが食堂に入ってくる。


「ぱぱ、おはようなのっ」

「おはよう、デリラちゃん。いつも早いね」


 デリラちゃんの左にウェルが、右にナタリアが腰掛ける。


「あれ? そういえば、エルシーとイライザさんは?」

「エルシーちゃんとイライザちゃんはね、まだお部屋なのっ」


 するとマリサがクリスエイルを見て、困った表情をする。


「あなた。そういえば昨夜も?」

「あ、あぁすまないね。まさかあの後も、続けていたとは思いもしなかったもので、ね」

「あー、父さんたち、また飲んでたんだ?」

「いや、僕はマリサさんに怒られるから、ほどほどにして撤退したんだ」

「あーなーた?」

「はい、すみませんでした」


 おそらくマリサは、今朝も鍛錬中の治癒の魔法を使って、クリスエイルの二日酔いを治したのだろう。

 このように、ほのぼのとしたやりとりを経て、朝食が始まるのだった。



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