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第百二十五話 月の最後の色々な報告。

 俺の王城(いえ)だけどさ、部屋だけは正直余ってる。

 だからってわけじゃないけど、今は父さんも母さんもこっちに住んじゃってる。

 最近、父さんの書斎もこっちに作って、あれこれ必要なものも領都(あっち)から持ってきたみたい。


 王城に住んでるのは、俺、ナタリアさん、デリラちゃん、イライザさん、父さん、母さん、それにエルシー。

 執事のルオーラさん、奥さんのテトリーラさん。

 鍛冶屋のグレインさん、おかみさんのマレンさん、ライラットさん。

 実質この十二人かな?


 グレインさんとテトリーラさんは、お店じゃなく工房だから、王城にあるんだよ。

 ルオーラさんは執事だし、工房の奥に部屋を作って一緒に住んでもらってる。

 イライザさんは、俺に族長を任せたあと、何もすることがなくて、それ自体を楽しんでいたらしいんだけど、さすがに暇になったのか、趣味の縫い物を再開したんだ。

 今は日中、マレンさんの工房に入り浸って、一緒に軽作業をしてるみたい。

 領都でも若い女性に人気の鬼人族の民族衣装は、イライザさんが縫ってるらしいんだ。

 楽しそうで何よりだよ。

 グレインさんの工房のとなりに、マレンさんの工房。

 その隣に、テトリーラさんの工房。最後に俺の工房というか作業場。

 まだまだ余ってるんだよな……。


 父さんは俺が苦手な、国の裏側のあれこれをやりつつ、本格的に魔法の研究を始めたらしい。

 父さん自身は魔石の扱いと、強力(ごうりき)しか使えないからさ、ナタリアさんの手が空いてるときに、色々と試してもらってるみたいだ。

 母さんは理論派の父さんと違って、俺と同じ感覚派。

 だから、父さんみたいに、文献や書物を読むことは少ないらしい。

 十五のときの俺には、読めって言ってたんだけどねぇ。

 治癒の魔法を覚えた母さんは、どうしても伸ばしたいらしくてさ。

 毎日、ナタリアさんがしてる、治癒の奉仕活動を手伝ってる。

 小さな怪我なんかは、母さんが診てるらしいんだけど、すぐにマナが足りなくなっちゃうんだって。

 そうなったらそうなったで、ナタリアさんのやり方をじっと見てるんだってさ。


 肉屋のダルケンさんのとこは商売だから、バラレック商会の並びに店舗を構えてる。

 一階が店舗と作業場と倉庫、二階、三階が住居になってるらしいよ。

 すぐ裏手に、別の建物作って、グリフォン族の勇者さんたちに住んでもらってる。

 バラレック商会に務めてる、クァーラさんや、料理を習いに来てる人も部屋を持てるほど大きな集合住宅を作ったんだよね。

 建物の躯体は俺や鬼人族、人間の職人が、内装はグリフォン族さんが作ったんだ。

 外は石組みで、中は木でできてる、不思議な部屋。

 王城にあるルオーラさんとこも、そんな感じなんだよね。

 グリフォン族さんたちは、木の匂いが落ち着くんだって。

 なるほどなーって、思ったよ。


 ▼


 今日は四月(よつき)の三十八日。

 明日で四月が終わるから、討伐の報告、その他諸々をまとめる会議中。

 場所は王城の中にある、勇者たちの詰め所。

 そのまた奥に、ちょっとした会議に使える部屋があるんだよ。


 俺と父さん、ライラットさんたち鬼人族の勇者と、グアールさんたちグリフォン族の勇者。

 勇者を引っ張ってるのは、ライラットさんなんだけど、実質まとめてくれてるのはお姉さん気質のある、酒場の看板娘となったジェミリオさん。


「――のようにですね、四月の間は三月(みつき)ほど多くはありません。私からは以上です」

「ありがとう、わかりやすい報告でした。これからもお願いしますね」

「はい、きょ、恐縮ですっ」


 司会は父さん。

 ジェミリオさんが、今月の魔獣討伐の報告を終えたところ。


 資料には、ダルケンさんのところで解体を終えた、食肉に加工できる魔獣などの報告書も入ってる。

 それでも数が数だけに、ダルケンさんとジョーランさん、おかみさんのホイットリーさんだけじゃ手が足りない。

 解体は力仕事だから、鬼人族の人に手伝ってもらってるけど、肉の販売は領都の人を雇ってるんだって。

 なにせほら、領都からも肉を買いに来る人が沢山いるから、集落のときみたいにはいかないんだってさ。


「お館様、三月の分です」

「確かに受け取りました。お父上にも『いつもお世話になってます』と伝えてくださいね」

「は、はい。父ちゃ――父に伝えておきます」


 ジョーランさんが、ダルケンさんから預かった、魔石の入った袋を手渡した。

 父さんは受け取ると、目の前に置いて話を始める。


「いつものように、このうち三割ほどを、クレンラード王国に売却する予定。もちろん、ダルケンさんの商店で仕入れる肉、毛皮などもそうだね。これらの収益が、我が国の運営資金になるんだ」


 魔獣から取り出した魔石の三割ほどを、父さんが言う適正な価格であちらに譲ってるって聞いてた。

 ジョーランさんが持ってきた袋は、手のひらにぎりぎり乗るくらいの大きさだけど、ぎっしり詰まってるからそれなりの量はあるんだろう。

 一体、どれだけの枚数の金貨と引き換えになるんだろうね。


 父さんは、麻袋から魔石をつまんで取り出して、手のひらの乗せてみせるんだ。


「皆も知ってるとおり、この一番小さな粒でも、金貨より価値があるからね。勇者だったときに、その報酬を、『ウェルも、マリサも受け取っていない』。……こほん、失礼したね。とにかく、ウェル君もマリサさんもね、あの国に騙されていたようなものだから、決して甘くするようなことはしないつもりだよ」


 うわ、父さん目が笑ってないよ……。


「これらを売却するとともにね、魔獣の討伐した数に応じて、報酬をもらってるんだ。あちらと交わした約束はね『魔獣を倒すことにより、安全を保証した対価をいただく』というものなんだ。もちろん、魔石と魔獣の素材も取引に応じている。これまで以上に彼らは、安全で余裕のある国家運営が可能になったと喜ぶべきだと思うんだよ。僕が思うになんだけどね」


 笑ってるけど、まだ……。

 相当根に持ってるな、これは。


「エリオット、いるね?」

「はい。お館様」


 ……す、すっげぇ。

 今までどこにいたんだろう?

 気がついたら父さんの後にいるし。

 エリオットさん、本当に人間?

 あぁ、こんな先生だから、ルオーラさんもあんなふうになっちゃったんだろうな。


「これをあちらの国王へ」

「かしこまりました」


 そう言うと、その場からいなくなっちゃうんだよ。

 もう慣れたけどさ、最初は驚いてつい、声を出しちゃって、父さんから笑われちゃったんだよな。


「さて、以前から棚上げになってしまっていた『勇者さんたちの報酬について』だけど」


「あの、いいですか?」

「はい。ライラット君」


 ライラットさんが手を上げて、父さんに発言を求めてる。

 これって、エルシーが彼らの鍛錬を担当する前に、母さんがそうするように教えたらしいんだ。


『そうなのよ。やりやすくて、助かっちゃったわ』


 あ、エルシー。

 やっぱりそうだったんだ。

 俺もそう思ってたんだよね。


 あ、そういやエルシー。


『何よ?』


 何してんのさ?


『あー、あのね。わたしはそっちのそういう話、興味ないのよ』


 なるほどね。


『それにね、マリサちゃんも、苦手だからって』


 あー、わかるような気がする。

 俺も聞いてるだけで、言うことないからさ。


 イライザさんも、グレインさんも、ダルケンさんもだけど、会議に出ようとしないだよね。


『それね、イライザちゃんも「面倒なことは苦手だったの」って言ってたわ』


 あれま。

 『できる』と『やりたい』は違うんだね。


『ウェルもそれがわかるようになったのなら、少しは賢くなったのかもしれないわよ?』


 酷い言われようだ……。


『でもね、ウェルとマリサちゃんは、血は繋がってなくてもそっくりなのよ』


 どういうところ?


『「そういうところ」がよ』


 なんだかなぁ。


「オレ――いえ、私はその、経験を積ませてもらってる、ので、いりません」

「あ、俺、いえ、僕もそうです。肉も無料で卸してもらってるので、父ちゃ――いえ、父もありがたいと言ってましたから。いりません」

「ライラット君、ジョーラン君」


 父さんは呆れたような表情(かお)をするんだけど。


「報酬をもらうのはね、仕事の一部でもあるんだ。それにね」

「「はい」」

「君たち八人でね、これを稼いでくるんだよ。金貨に換算したら何枚になると思うんだい?」

「あー」

「それはその」

「マリサさんが言うようにね、『勇者は憧れでなければならない』んだ。同時にね、『高給取り』でなければならないと、僕は思うんだ。あの国は、何をやってたんだかね……」


 あぁ、また父さんが誰かを呪ってるような表情になってる。


「大丈夫。君たちがね受け取らなくても、グレインさん、ダルケンさんに渡すことになるんだから」

「わかりました」

「生意気なことを言ってすみません」

「理解してくれたら、それでかまわないよ」

「途中までは格好いいこと言ってたんだけどね」

「こら、アレイラ」


 でも、アレイラさんは褒めてたんだよ、ライラットさんとジョーランさんのことをね。


「あの」

「はい、ジェミリオちゃん」


 父さんは、手を上げたジェミリオさんに発言を促した。


「アレイラちゃんと話していたんですが、私たちその、お給料少なくてもいいので」

「そうなんです、あ、はい」


 アレイラさんも手を上げた。


「ジェミリオちゃん、アレイラちゃんもいいかな?」

「はい、同じ考えなので」

「あの、王妃さ――いえ、ナタリアお姉さん、じゃなかった。えっと」

「いつも言い慣れてる呼び方でいいと思うよ」


 父さん、苦笑してる。


「はい、ナタリアお姉さんや、デリラ姫様がつけてる、腕輪が欲しいんです」

「あー、空魔石じゃなく、魔石のだね?」

「はい。そうなんです」

「はい。空魔石のはもう、持ってるんです」


 あら、自分で買ってくれたんだ。

 まぁ、俺の報酬じゃなく、家族全体のとしてバラレック商会からのお金は、ナタリアさんに渡しちゃってるからなぁ。


「なるほどね。うん、わかった。ウェル君」

「はい」

「お願いできるかな?」

「いいですよ」


 ちなみに、この腕輪、俺がやっても効果がわからなかった。

 父さんも使えなかったって言ってた。

 外へマナを出せる、女性専用なんだよなー。



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異世界転移ものです

興味を持たれたかたは、下記のタイトルがURLリンクになっています。
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勇者召喚に巻き込まれたけれど、勇者じゃなかったアラサーおじさん。暗殺者(アサシン)が見ただけでドン引きするような回復魔法の使い手になっていた。

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