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第百二十四話 閑話 若き勇者たちの日常 その2

「じゃ、ここで一度解散ということで。私とアレイラちゃんは地上を。メアーザちゃんと、ミレーザさんのお二人は空からお願いね」

『はい、ジェミリオさん』

『えぇ、アレイラちゃん、またあとで』

「まったねー。じゃ、こっち行くね、ジェミリオちゃん」

「迷子にならないようにね、アレイラちゃん」

「迷子になってたら助けてねー」


 グリフォン族の女の子二人は空へ、鬼人族の女の子二人は町中へ。

 ジェミリオとアレイラの二人も、二手に分かれて歩いて行く。


「こんにちは、何か困ったことありませんか?」


 アレイラは、領都に古くからある雑貨屋に入っていく。

 同じ雑貨屋だからと、彼女も知っている店だ。


「おや? アレイラちゃんこんにちは。そうだね、今のところは大丈夫かな? どうだい? バラレック商会の売れ行きは?」

「そうですねー。正直、生活必需品は、ここに敵わないと思いますけど」

「お世辞でも嬉しいよ」

「いやいやそんな。うちもそうだったけど、ここほど細かい種類置いてないですから――」


 このように、地上当番の二人は、巡回を重ねているということだ。

 彼女らが空を飛ぶ日は、ライラットたち男の子が巡回する。

 だから休みの日以外、ほぼ毎日、勇者たちが訪れるというわけだ。


 ▼


 鬼の勇者及び若人衆の詰め所にて――


『上空からの巡回当番。今日は異常なし』


 グアーラが報告する。


『ありがとう、お疲れ様』


 地上巡回当番全員が声を揃えてねぎらう。


「地上からの巡回当番。領都中央通りの敷石が割れてるとの――」


 このように、手短に報告をしあう。

 討伐があった場合、可食部分のない魔獣は、解体から魔石の抜き出しまでは若人衆が翌日行い、その後裏手にある焼却場へ移動される。

 可食部分のある魔獣の場合は、速やかにジョーランの家、肉屋へ。


 領都や王都で破損などの報告があれば、担当してくれる職人さんへ依頼。

 手伝いなどのお願いがあった場合、急ぎでない場合は、翌朝、若人衆へ報告、手伝いという流れになっている。


「――じゃ、今日はこれくらいで解散だね」

『お疲れ様でした』


 ここで鬼の勇者、グリフォン族の勇者は一日の仕事を終える。


 これで一日が終わるわけではない。


 メアーザはルオーラの妻、テトリーラの工房で手伝いということになる。

 工房で作ったものをバラレック商会へ卸したり、テトリーラが行っている王城にある調度品の補修などの手伝いをする。

 彼女たちは木工職人としてやや不向きだったこともあり、テトリーラに相談したところ、勇者として務めることを勧められた。

 そのような経緯から、彼女を手伝うようになったというわけだ。


 グアーラとジウーラは、グアーラの姉クァーラの手伝いでバラレック商会へ。彼らはグリフォン族の勇者だから、専業にはならないが、クァーラの手伝いで日に数回飛ぶことがある。


 ライラットとジョーランは、お互いの父、鍛冶屋のグレインと肉屋のダルケンから、『お前たちに仕事を継がせるつもりは今のところ考えていない』と、同時に『お前たちの仕事は勇者だろう? 領都、王都の人たちの力になれ』とも言われている。

 彼らはまだ若い、模索する時間もたっぷりある。

 要は『自分の足で歩いて仕事を探せ。人の役に立てる大人になれ』と暗に教えられているのだろう。


「アレイラ姉の農園とこでも行くか?」

「あのなぁライラット。見え見えだぞ?」

「いや、そんなつもりはないんだ。最近人も増えてるじゃないか」

「はいはい」


 ジョーランはライラットの背中を押して農園へ向かっていく。


 アレイラは本業の雑貨屋へ顔を出す前に、農園へ足を向ける。

 野菜や果物の生長具合を、新しく農園の管理主任になってくれている、自身のパートナー、ミレーザと相談。


『最近ね、こっちが調子悪くてね、堆肥を入れて様子見るつもりなんだよねー』

「そうなんだ。こっちは?」

『こっちはね、明日辺りから収穫が始まるかなー』

「そっか。いつもありがとう」

『いえいえ。こんなに美味しいんだし。それにお酒の元にもなる果物も沢山あるんだから。私たちが飲めるようになったら、楽しみで仕方ないんだよねー』

「そうだね。私たちも今年十八だから、そしたらみんなでジェミリオちゃんのところで酒盛りしよっか」

『うんうん』


 グリフォン族の勇者メアーザもミレーザも、アレイラたちと同じ十七歳。

 グリフォン族でもお酒を飲めるのは十八歳から。


 鬼人族の集落と交流を持つようになってから、グリフォン族の皆は、鬼人族の造るお酒に驚き、ナタリアの教えた料理がまた、お酒と相乗効果を発揮して、グリフォン族の生活をがらっと変えてしまったと言っても過言ではない。


「じゃ、あとはお願いね」

『いってらっしゃい、アレイラちゃん』

「うん、ミレーザちゃん」


 農園を後にするアレイラ。

 ややあって到着するライラットたちとは入れ違いになる。

 そこでジョーランはライラットをからかう。

 何気にミレーザがとどめを刺す。

 それが農園での日常だった。


 バラレック商会へ到着するアレイラ。


「あれ? マルテちゃんは? いないの? おっかしーねー」


 いつもなら、この受付にスキュラ族のマルテがいるはず。

 珍しく、今日は不在のようだった。


 奥の扉をノック。


「失礼しますー。こんにちは、バラレックさん」

「はいはい。おはようございます、アレイラさん」

「今日も一日、お願いしますねー」

「こちらこそ助かっています」

「ところで、マルテちゃんは今日はお休みですか?」

「あー、マルテさんはね、私が別件でお仕事をお願いしていまして、外出中なんです」

「そうだったんですか」

「数日で戻ると思います。また仲良くしてあげてください」

「いえ、私もお世話になってますから。では、帰りにまた顔を出します」

「はい、お願いしますね」


 商会長、バラレックの部屋を出るアレイラ。


 このバラレック商会は、自分の雑貨屋でもある。

 この商会ができることが、クレイテンベルグ王国ができる前からわかっていた。

 そうなると、雑貨屋であったアレイラの家も少なからず影響が出ることも重々承知。

 そんなとき、バラレックから提案があった。

 その結果、この広い売り場の四分の一ほど、右奥に位置する売り場スペースを店舗として提供してもらったのだ。

 自分の仕入れた商品は、アレイラの売り場に並べてある。


 同時に、彼女はこのバラレック商会の売り場主任でもあり、売り子のまとめ役となった。

 彼女が売った、バラレック商会の商品は、全て歩合がもらえる。

 だから彼女の母は、この雑貨屋を引退し、ジェミリオの母の手伝いをしているのだ。


「さてと、今日も頑張って、お客様の相手をしちゃいますかねー」


 腕まくりをして、自分の戦場へ向かうアレイラだった。


 ジェミリオは、詰め所を出た後、そのまま自分の家へ戻った。


「ただいま、母さん。こんにちは、ミレイラおばさん」


 ジェミリオの母ジェラリアと、アレイラの母ミレイラが出迎えてくれる。


「おかえり、ジェミリオ」

「ジェミリオちゃん、うちのアレイラがいつもごめんなさいね」

「いえいえ。私の方が助かってますから」


 ジェラリアもミレイラも、魔獣災害で夫を亡くし、母一人で娘を育てていた。

 鬼人族の集落で小さな宿屋兼酒場を経営していたジェラリア。

 彼女もまた、この王都ができるときに転換期を迎えた一人だった。

 この王都だと、宿屋では商売にならないかもしれない。

 それならば、併設していた酒場を主なものにしないかと、鍛冶屋のおかみマレンと、肉屋のおかみホイットリーから提案された。


 ミレイラの経営していた雑貨屋も転換期を迎えていたこともあり、それならばと酒場を作ることになった。

 一階二階は酒場として、三階は、ミレイラとアレイラの家、ジェラリアとジェミリオの家が作られた。

 ミレイラもジェラリアも、元々ナタリアに料理を習っており、料理の腕に不安はなかった。

 クレイテンベルグ王国の建国あとに、酒場をオープンさせることになる。


 最初は三人だけで切り盛りをする経営を考えてはいたが、ウェルが街道を敷設してしまったことで、予定外に領都から来るお客さんが増え、予想よりも上を行く忙しさになってしまった。


 夕方からだけの経営だったのが、お客さんの要望から昼時の食事も始めるようになる。

 すると余計に回らなくなってしまった。

 そこで、領都からも従業員を募集して、やっと回るようになったのが最近のこと。

 ジェミリオは看板娘となり、大広間で忙しく動いてくれる従業員のまとめ役をしている。


「おはようございます。今日も一日お願いしますね」

『はいっ』



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異世界転移ものです

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勇者召喚に巻き込まれたけれど、勇者じゃなかったアラサーおじさん。暗殺者(アサシン)が見ただけでドン引きするような回復魔法の使い手になっていた。

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