表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

110/182

第百四話 そんなにかかるなんて聞いてないよ。

 ルオーラさんの背中に乗って、里の更に上空へ飛び立つ。

 うわ、やっばい。

 めちゃめちゃ、寒いわ。

 もしかして、エルシーさん。


『そりゃそうよ。寒いからこの姿に戻ったのよ』


 ずるいよ。


『あら? 行くと決めたのは、ウェルでしょう? わたしじゃないんだからね?』


 そりゃそうだけど。

 いやこれ、真面目に凍えそう。


『大丈夫よ。凍えたくらいであなたは、死んだりしないわ』

「そうは言ってもさ」

『わたし昨日、ちょっと飲みすぎちゃったから、少し寝るわね』

「あ、ちょ」

『…………』

「ひでぇ……」

『なかなかに手厳しいご指摘でございますね』


 何やらルオーラさんの楽しそうな声。


「ルオーラさんたちは、そんな姿で大丈夫なの?」

『えぇ。鍛え方が違いますので』

「うそ……」

『はい。申し訳ございません。少々大袈裟でした。マナを使えばこの程度なら大したことはないのです』

「あ、あぁ。暗いところを見るみたいな?」

『そうでございます。我々は幼少のころに、父や母から教わるのです』

「なるほどね。鬼人族の強力(ごうりき)みたいなものか」

『その通りでございます』


 何度も試したけれど、暗闇を見通すあのマナの使い方は駄目だったんだよ。

 種族的に、向き不向きがあるんだろうって、ナタリアさんも言ってたっけ。

 もちろん、ルオーラさんに教わって、やってはみたけど駄目でした。


「そういやさ。どれくらいで着く予定なのかな?」

『はい。ルファーマ、どうですか?』

『は、はい。ウェル様。この速さであれば、途中で夜を迎るつもりなので、……おおよそ七日ほどでしょうか?』

「はい?」

『隣の大陸になりますので、どうしてもそれくらいはかかってしまいます』

「と、隣の大陸?」

『大丈夫でございます。移動中、外敵はいないと思いますので』


 ルオーラさんがサラッと言うんだけど。


「その外敵って?」

『そうでございますね。頭の悪い攻撃的な飛龍などがいると、若干手間取ることもありますが。ルファーマのいう道順であれば、高い山をそれほど通らないと思います』


 あぁ、それで。

 ルファーマさんは何やら背中に、荷物を積んでるわけだ。


「あ、あぁあああああ」

『ウェル様。どうかされましたか?』

「ナタリアさんに、お弁当作ってもらえばよかった……」

『若奥様の、……確かに残念です。わたくしも日程は、今知ったものですから。失念しておりました』

『いや、その。……すみませんでした』


 ルファーマさん、先に言ってよ。


 結局その日は日が落ちるまでただ、距離を稼いだ。

 夕方、途中人里があるわけじゃなく、何もない低い山の上を飛んでた。

 野営をするための拠点作りを開始。

 ルファーマさん、ルオーラさんの二人は、どこからか枯れ木を沢山持ってきては、それを組み上げて簡単な小屋を作ってるし。

 なるほど、今までどの種族とも交流をもたなかったが故に、こんな苦労があったんだね。

 でもさすがはグリフォン族、木材の扱いは長けてるんだろう。

 俺は何してるかって?

 火起こしができる人いないからさ、魔石で小さな火を起こす簡易的な魔法回路を持ってきたんだ。

 これは父さんから譲り受けて、いざというときに使うよう、言われていたやつね。

 明かりの魔法回路と違って、ナタリアさんが点けるような火より、更に小さい火を起こすことができるんだ。

 それを枯れ木なんかに移して使う。

 そういや小さいころ、俺もこれに似たのを見たような覚えがある。

 俺が生まれ育った宿の厨房にも、置いてあったような気がするんだよね。

 だからなんとなく、あっさり使えたんだよ。


 周りに落ちてるゴロゴロした石を組んで、小さなかまどを作る。

 その中に燃やすための枯れ木を入れて、火のついた枯れ木をそっとくべる。


 ねぇエルシー?


『何よ?』


 あの国追い出されてさ、野営をしてたときよりさ。

 気持ちが楽だと思うよ。


『そうね、あのときは悲惨だったもの』


 食べるものが徐々になくなって、火を起こす余裕もなくなって。

 あのときはさ、火を起こすのも枯れ木と枯れ木を擦り合わせて、無理やり力技で点けたんだっけ。


『あんなことするの、ウェルくらいよね』


 はいはい。


 お湯も沸かす余裕がないどころか、水すら枯渇して。

 それに比べたら、ルオーラさんが用意してくれた、グレインさんが作ったこの鍋。

 ルファーマさんが持ち歩いてる、この大きな水袋。

 助かるわぁ。

 お湯沸かすのが簡単で泣けてくる。


 片方はお茶を入れるためにお湯を沸かしてて、もう片方は簡単なスープを作ろうと思ってるんだ。

 ルファーマさんもルオーラさんも、料理できないんだってさ。

 だから干し肉齧って我慢してくれって言われたんだよ。

 いやいやいや。

 俺は嫌だってば。

 だからこうして、簡単な料理をするために準備してる。


 俺はほら、元々宿屋の一人息子だったから、厨房仕事もある程度仕込まれてたんだよ。

 ナタリアさんがいるから滅多にやらないけど、たまーに手伝いくらいはデリラちゃんと一緒にやってる。


 干し肉を薄く削って、沸いた湯に入れて。

 煮てると出てくる灰汁を丁寧に掬って、出汁をとって。

 塩と香辛料で味を簡単に整えて、乾燥させた根野菜を水につけて戻しておく。

 濃いめに味をつけておいて、ちょいと味見。

 最後にえっと、……あったあった。

 ルオーラさんが持ってくてくれたんだ、この、鬼人族で作ってる、発酵調味料、だっけ?

 これを入れてから、一煮立ちしたらスープは終わり。


「んー、これでいいかな? あとは、と」


 あったあった。

 この粗めに挽いてある麦粉を水で硬めに練って、小さくちぎりながら、スープに落としていく。

 これで結構、腹持ちのするスープに変わるんだよ。


『ウェルってばほんと、器用よね』


 そう?

 勇者だったときはさ、遠征とかしなかったけど、寒いときなんかは炊き出しとかやったからね。

 俺は独身だったから、小腹が空いたときなんかはこうしてたまに作ったもんだよ。

 エルシーも食べる?


『わたしはいいわ。できるだけマナを温存したいから、この姿でいることにするわよ』


 なるほどね、いやはや俺も驚いたよ。

 七日もかかるとかさ、先に言っておいてくれってばねぇ。


『またフォルーラちゃんに言われちゃうわね。ルファーマさん』

『ウェル様』

「──おわっ、びっくりした」


 急に現れるんだよ、ルオーラさん。

 気配感じないんだよね、まるで父さんから聞いてたエリオットさんみたいだ。


『ウェル様がご就寝の際に、ひとっ飛びして伝えて参りますので、ご安心くださいませ』

「あれ? 俺、声に出してたっけ?」

『出してないわよね』

「執事の嗜みでございます」

「うわ、ほんと、父さんから聞いてたエリオットさんみたいだよ」

『師匠で、ございますからね。色々と、ご教授いただきました』

「やっぱり」

『ウェルの思った通りだったわね』


 俺とエルシー、ルオーラさんはそう笑い話をしてたんだ。


『良い香りがします。わたくしも昔、遠征について行ったこともありましたが、食事が良いものではございませんでした。ウェル様は、奥様から教わったのですか?』

「いや、元々俺はさ、宿屋の跡取りだったんだよ。だから料理もできて当たり前だったんだ」

『左様でございましたか。我々も男だからとやらぬわけには、いかないものですね。学ぶべきでしょう』

「別に、できる人がやればいいんじゃないかな? ただ、できるとさ、作ってもらったときのありがたみを余計に感じられるから、心の奥からナタリアさんに感謝できるんだよ」

『なるほどでございます。ケリアーナの料理が急に変わったとき、涙が出るほど嬉しかったのを、今も忘れていません』

「あははは。俺もナタリアさんの料理を初めて食べたとき、涙出たもんね」

『存じております。ただ、わたくしとは少々状況が違いますね』

「そうかもしれないね」

「ルファーマさんも戻ってきたから、晩飯にしようか」

『はい。ご馳走になります』

「ほいほい」


お読みいただきありがとうございます。

この作品を気に入っていただけましたら、ブックマークしていただけたら嬉しいです。

書き続けるための、モチベーションの維持に繋がります、どうぞよろしくお願いいたします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

異世界転移ものです

興味を持たれたかたは、下記のタイトルがURLリンクになっています。
タップ(クリック)してお進みください。

勇者召喚に巻き込まれたけれど、勇者じゃなかったアラサーおじさん。暗殺者(アサシン)が見ただけでドン引きするような回復魔法の使い手になっていた。

どうぞよろしくお願いお願いいたします。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ