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第九十七話 ナタリアさんと一緒に、グリフォン族の里へ その1

 意図しない俺の左肩にある烙印の騒動。

 俺があまりにも気にしなかったせいもあって、ナタリアさんや母さんに余計な心配をかけてしまった。

 母さんの弟のバラレックさんが調査をしてくれていて、烙印の正体がある程度わかった。

 まさか呪いの一種だったとは思わなかったけど、俺がほら『あれ』だったから、今のところ影響があるとは思えない。

 そんなこんなでとりあえず、様子を見ることになったんだ。

 同時に、エルシーがいつもの『お化け』オチをつけてくれたこともあって、なんとか皆笑顔になってくれて、落ち着いたんだ。


 後から聞いた話だけど、父さんと母さんの執事のエリオットさんも、色々と動いてくれてたみたい。

 うちの執事をしてくれてる、ルオーラさんと連絡を密に取り合ってくれてたみたい。

 デリラちゃんをグリフォン族の里へ預けてくれたのも、二人の考えだったらしい。

 ほんと、ありがたいです……。

 

「ウェルちゃん」

「何? 母さん」


 母さんはもう、普通に俺のことを『ウェルちゃん』って呼ぶようになった。

 慣れたもので俺も、気にしないことにしたんだよ。

 だってさ、父さんはナタリアさんのことを『ナタリアちゃん』って呼ぶからさ、俺だけ恥ずかしいからって、文句を言うのも不公平というか何というか。

 だから諦めることにしましたよ、うん。


『男の子は諦めが肝心よ』


 さりげないエルシーのツッコミありがとう。

 わかってますって。


「私とクリスエイルさんで、こっちは見ててあげるから」

「うん」

「ナタリアちゃんと、デリラちゃんのところへ行ってらっしゃいな?」

「大丈夫なの? 父さんも」


 俺は母さんの隣で頷いてる父さんを見た。

 すると、


「あぁ行っておいで。ウェルくんたちが帰ってきたら、僕たちが入れ替えに、お邪魔する予定だから」

「あ、そうなんだ」

「あぁ、僕も楽しみにしてるんだよ。だからといって、王族が不在と言うのはまずいからね。僕とマリサさんで留守番をすることになったんだ」

「でも、俺が出ちゃって大丈夫なのかな?」

「魔獣対策も、若い勇者くんたちがいる。マリサさんもいる。僕だって、魔剣を持って戦えるんだ。心配しないで、二、三日ゆっくりして来るといいよ。ね? マリサさん」

「えぇ。大丈夫ですよ。二人をよろしくお願いしますね。エルシー様」

「わたしがいない間、勇者ちゃんたちをよろしくお願いね? マリサちゃん」

「はい。きっちり、見ておきますから」


 エルシーより母さんの方が厳しいからなぁ。


 さて、と後ろを向くと、もうすでに『待ってました』と言わんばかりのルオーラさん。


「ナタリアさん、おいで」

「は、はいっ」


 俺はナタリアさんを抱き上げて、ルオーラさんの背中に乗せる。

 その後俺は、ナタリアさんを抱き抱える感じに、後ろに乗った。

 エルシーは大太刀の姿になってる。

 この方が都合がいいんだってさ。


 今回、ルオーラさんと、彼の奥さんのテトリーラさんとで行くことに。

 彼女はもう外で待っててくれてるみたい。

 エルシーはテトリーラさんの背中に乗るのかと思ったんだけど、彼女の背中には大きなカバンが背負わされてる。

 あぁ、だから大太刀になってんのね。

 でも何が入ってるんだろう、……一体?


『よろしいですか? ウェル様』

「うん。お願いね」

『かしこまりました。行きますよ、テトリーラ』

『はい、旦那様』

『ちょ、テトリーラさん……』

『あらいけない。わかりましたよ、あ・な・た』


 言い直してもらっても、あまり変わらないと思うんだけど。

 ルオーラさん、ふたりの時は『旦那様』って呼んでもらってるんだ?

 なんとも微笑ましい。


 翼をゆっくりと動かして、父さんたちが見送る中、二人は空へ上がっていく。

 ルオーラさんが言うには、上空はもっと冷えるって話。

 だから俺もナタリアさんも、体を冷やさないように、厚着をしてきた。


 もうすぐ冬が来るからか、それなり以上に冷える感じがしてる。

 それでも空を飛ぶのは、久しぶり。

 俺はこれまで何度も飛んでるし、エルシーもルオーラさんの背中は初めてじゃない。

 けれどナタリアさんは、そうじゃないんだ。


 俺の襟元に顔を寄せて、目をぎゅっと閉じたまま。

 そういえば、鬼人族の集落から、クレイテンベルグへ越したときも、ナタリアさんはこうして目を瞑ってたっけ。

 忘れてたよ……。


「ナタリアさん」

「は、はいっ」

「もしかしてさ、高いところは苦手なの?」

「いえ、そういうわけではありません。ただ、慣れていないもので」


 いつも言葉使いが丁寧なナタリアさん。

 なんだかいつも以上に、緊張してる感じがする。

 緊張をほぐしてあげたいと思ったところで、ちょうど良いのがある。

 勿論この、目下に広がる美しい景色。


「あのさーー」

『それならナタリアちゃん。怖がらないで目を開けてご覧なさい。とても綺麗な景色が広がっているわよ』


 エルシーさん、それ、俺が言おうとしたんだけど……。


『あらそうだったの? ごめんなさいね』


 してやったり感のある、何気に楽しそうな声だよ。

 わかっててやったんだな、絶対。


「……す」

「す?」

「すっごく、綺麗です」


 うん。

 俺もね、フォルーラさんに乗せてもらって、初めて空を飛んだ時思ったよ。

 同時にね、ナタリアさんにも見せてあげたいなってね。


「あなた、あたしたちの家がもう、あんなに小さくなってますよ」


 家っていっても城なんだけどね。


「そうだね。ほら、あのあたりが多分、集落があった場所だと思うよ」


 西側に岩山があって、その麓に平らな土地。

 そこに寂しく、数本の木々が生える。

 俺はその辺りを指差して、ナタリアさんに声をかける。


「あ、あの木、見覚えがあります」

「だろうね。あの山に繋がる坂があるでしょう? デリラちゃんと一緒にね、フォリシアちゃんを送ってあげるのに、あれをずっと登っていったんだ」


 集落があったあたりから、指を動かす。

 今俺たちが飛んでる高さよりも高い場所にある、険しい山へ繋がってる道。


「……あなたって、本当に」

『「お化け」って思っちゃうわよね。ナタリアちゃんも』

「はい。エルシー様」

「酷いよ、二人とも」


 ルオーラさんの背中から微妙に振動が伝わってくる。

 何も言わないで飛んでくれてるけどさ。

 きっと彼も、笑うのを堪えてるんだろうな。


 人間の住む領域を追い出されたあの日、何日もかけて鬼人族の集落へ辿り着いたときも。

 デリラちゃんとエルシーと三人で、集落からこの山道を歩いて登ったときもそうだった。

 ルオーラさんの背中に乗せてもらえたなら、時間をなかったことにできるんだ。


「ほら、ナタリアさん──」

『グリフォン族の里が見えてきたわよ、ナタリアちゃん』

「…………」


 エルシーったら、やっぱり狙ってやってない?


『ウェル様、奥様、エルシー様。そろそろ降りますので、ご注意ください』

「あ、はい。よろしくお願いします」

『ほんとう、ナタリアちゃんはいつも、丁寧な言葉遣いね』


 うん、俺もそう思う。


「いつもありがとう。ルオーラさん」

『──ど、どうされたのです? ウェル様』

『あなた。執事なんですから、動揺してどうするの?』

『いや、そうは言ってもだね』


 ルオーラさんの真横に回ってきて、何気に嗜めてるテトリーラさん。

 いつもはこんな感じなんだね、きっと。


 多少動揺してようが、流石は慣れたもの。

 二人はさぁっと音も少なく、ある木造りの家のテラスに降り立った。

 そこは生活感も少なく、誰の気配も感じられない。

 それでも、全てが木材で作られていて、金属が一つも見当たらない見事な造り。


「ルオーラさん、ここってもしかして?」

『はい。わたくしたちの家でございます』


 あぁ、やっぱりね。

 鬼人族の集落へ引っ越してきた際は、俺たちでルオーラさんたちの家を作っちゃったから。 実質、テトリーラさんの木工細工に必要なものしか持ってきてないって聞いたっけ。


 あ、三千ほど離れた向かいに見える大きな家。

 見覚えがあるようなないような。


「もしかして、あの家は」

「はい。族長宅になりますね」

『あなた。先にフォルーラ様の蔵へ行ってますね』

『あぁ、お願いするよ』

『荷物を降ろしてきますので、ゆっくりおいでくださいね』

「はいっ、丁寧にありがとうございます」

「あ、うん。ありがとう」


 ナタリアさんにつられてしまった。


「じゃ、先に行ってるね。ルオーラさん」


 ルオーラさんは多分、用事があるからこっちに寄ったんだと思うんだよ。


『はい。申し訳ございません。後から寄らせて頂きますので、わたくしはここで失礼いたします』

「はい。いつもすみません」

「うん。行ってらっしゃい」


 俺たちに首を低く挨拶して、ルオーラさんは飛び立っていく。


「あなた」

「ん?」

「ルオーラさんも、テトリーラさんも、いつも本当に丁寧ですよね」

「ナタリアさんも、負けてないけどね」

「そうかしら? ……あ、でも。どうやってあちらへ行けばいいのでしょう?」


 広々としたルオーラさんたちの家。

 部屋を見下ろしても、あるものが見当たらない。

 そう、階段がないんだ。

 テラスから下まで、結構な高さがあるし。

 ここからデリラちゃんがいるはずの、族長宅へ行くのに、一度降りなきゃいけない。


「俺たちはほら──」

『ナタリアちゃんとウェルは、ここにいる人のように飛べませんからね』

「あ、そうですね。それならここを飛び降りたらいいんでしょうか?」


 そう言って、首を傾げるナタリアさん。

 結構彼女は、豪快なことを言うんだな。

 強力を使える鬼人族だから、こんな考えになっちゃうのかな?

 ナタリアさんのことだから、案外お淑やかに飛び降りちゃうのかも。


「はいちょっとごめんね」

「はい?」


 俺はその場に軽くしゃがみ込むと、ナタリアさんをひょいと横抱きにする。


「あ……」

「ナタリアさんは、仮にも王妃様なんだから。これくらいはさせてもらわないと──ね」



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