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テルメの空  作者: 平成納言
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案内人ノイル

「ひよ助さん、私に話ってなんですか?」

ひよ助と名乗るその鳥は、安心したように近場の枝まで降りてきて馴れ馴れしく祥子を凝視した。

「ひよ助でいいよ。

先ずは祥子がスズメ親分から預かったリュックの中から石を取り出してほしい。」

「石‥ですか?」

「さっき見ただろ?」

祥子は、小さな‥しかし何故か重みのあるその不思議なリュックを手に取り、中から軽石のような白い物体を拾い上げた。

「ひよ助、これの事ね。これは何ですか?」

「見ての通りに石だ❗

でも、ただの石じゃあない。左手に握りしめて眼を瞑り耳を澄まして見ろ❗」

祥子は、ひよ助の指示するとうりに白い物体を左手のひらで包み込み、静かに‥恐る恐る握りしめてみた。

そして眼を閉じた。


(聞こえる〰この沢山の話し声やうめき声はなに?)

「その石を握ると、この地上の声なき声を、全て聞くことが出来る。祥子はそんな石に頼らなくても、こうして僕と話しをすることは出来ると思ってるだろう。けど、せっかくのスズメ親分からのプレゼントだから使わせてもらった方が楽だからな。」

確かにひよ助の声も、先程より鮮明に言葉もハッキリと伝わってくる。

白石を握り、意識を集中力させたその矛先の物の叫びが確かに聞こえる。

足下のヒメジョオン達の愚痴とも言えるボヤキ。

「最近は、私達に興味を示してくれる子供がまったく居なくなったわよね。親が教えない‥いえ‥親も知らない。一生懸命咲いても誰も見てもくれない。寂しい春ね。」

その周りをひらひら飛び交う紋白蝶たち。

「ヒメちゃんたち、別に人間にかまってもらわなくてもいいじゃないですか。私達はヒメちゃんのファンですよ。

力強くて可愛いらしい。

春の野原のクイーンですね❗」

(地球上の声なき声‥)


「祥子、聞こえるか?」

「ええ‥凄い❗

ひよ助の言葉もハッキリわかります。」

「それは良かった。

では先ずはお願いがあるんだ。祥子は占い師なんだろう?

僕の恋人を探してほしいんだ❗」

「ひよ助の恋人を?」

「そうなんだ。ヒイ子というパートナー。

昨日一緒に桜の花の蜜を吸っているときに人間に襲われて、ヒイ子は珍しく興奮しまくって、そのまま何処かに飛んでいってしまったんだ。すぐに戻ってくると思っていたんだけど、待てど暮らせど‥だ。」

「それは心配ね。ヒイ子はどんな子?」

「体つきは小柄で、右半分に赤茶けた羽が混じっている。僕はその毛並みに惚れた」

祥子は、とっさにヒイ子が無事で在ることを察知した。

なんだかそんな熱い感じがしたからだ。

そして白石を握り(ヒイ子)というひよ助のパートナーを意識して神経を集中させてみると、右半分が少し茶色くほっそりとした体つきのひよ鳥が、林の栗の木の木陰にうずくまっているのが見えてきた。少し寒そうにぶるぶる羽を震わせている。

「ひよ助、大丈夫よ❗ヒイ子は3日以内に戻ってくるわ。

心配しないで待っていて❗ここで待っていてあげてね。」

「そうか。祥子、ありがとう。良かった❗」


祥子は白石の威力をあらためて痛感していた。

確かに‥今までも普通の人間よりは、透視が出来る体質ではあった。しかし、こんなに短時間でハッキリ鮮明に‥。あり得ないことである。それに透視は疲れる。

祥子は透視をする度に魂からなにかを吸いとられていく感触を、いつも実感的していた。

(確かにこの白石は凄い宝物かもしれない‥。とすると、この中に入っているサングラスと鍵にも不思議な力が?)

「お礼に祥子に紹介したい奴がいる。黒猫のノイルだ。」

「黒猫?」


その言葉を残し、気がつくとひよ助は姿を消していた。

「ひよ助~!」

呼んでもその姿は見あたらない。二度と祥子の前には現れないであろう事も祥子にはわかっていた。


その時だった。

薄暗くなったこの田舎町の、小川がちょろちょろと流れる草むらのかたまりが「ガサッ」と動いた。

さすがに恐ろしくなって祥子が車に戻ろうとした時、少しかん高い男の子の高潮した声が話しかけてきた。

「祥子さん❗祥子さん❗」

「僕がノイルです。」

(ノイル‥ノイル‥黒猫ノイル?)

その耳慣れたばかりの言葉に少し安心したようにホッと肩を撫で下ろすと、ノイルは姿を現した。

「僕がここから先の道案内をします。」

「こんにちわ、ノイル。

ちょうど良かった❗もう家に帰らないと‥。こんなに暗くなってしまって‥すっかり帰り道もわからなくなってしまって‥宜しくお願いします。」

ひよ助とヒイ子のことを瞑想した祥子は、今日、恋人の翔馬が来ることになっていたことを思い出した。

(連絡だけしておかないと。)

携帯を慌ててポケットから取り出して電話をかけようとしたが繋がらない。圏外だった。

(これはまずい。早く電話の繋がるところまで走らないと❗)

「ノイル、お願い、私、早く帰らないと❗」

すると、ノイルは唖然として次の言葉を言い放った。

「僕が案内をするのは帰り道ではありませんよ。

あなたが持っている、その鍵の家にお連れします。

その鍵を使って、これから案内をする家のドアを開けて、中に入って頂きます。祥子さんにしか出来ないことなんです。

むしろ、あなたはその為にこの世に生まれて来たといっても過言ではない❗

それがあなたの使命なんですよ。」

祥子は、今を耀く有能な若手占い師だ。

でも‥ノイルの言っていることが理解できなかった。

そして、瞳をギラギラと輝かせ、咳混むように矢継ぎ早やに何かを伝えようとする(黒猫ノイル)の存在も、とうてい理解することが出来なかった。




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