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テルメの空  作者: 平成納言
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鍵の秘密

このテルメという温泉の露天風呂から見る空は限りなく美しい。

岩風呂は、富士山の流岩のようにごつごつとして、軽そうな庭石に囲まれた池の風貌の造り。

温泉は、赤いぬるぬるとした源泉が吹き出している。先程までの息のつまった空気間が、幻のように遠く揺らいでいる。

私は、どのようにしてサウナ室を去って来たのか~記憶にない。

でも‥あの杖の老婆と何か文句を言いたそうなオバサンは、今もなお盛り上がっって、お芝居のような会話に満足し息も絶え絶えに喋り倒していることだろう。客観的に見れば只ただ笑える出来事に過ぎない事を実感できる。

美しい空だ❗

今日は、太陽の周りに虹が輪になってかかっている。

こんな情景を、私は昔どこかで見たことがある。

ひたすら、なつかしい。だから美しいと感じるのだろうか。

ひこうき雲が何かを訴えるように空の上を突き抜けている。

いつか何処かで、こんな風景をほのぼのと見つめていた私がいた事には間違いない。

人の死〰というのはどういうものなのか〰。

こんな時は決まってセンチメンタルな少女のようになる自分に、少し酔いしれる。


あの空の上に天使の楽園はあるのだろうか、この温泉の地下深くに地獄と呼ばれる世界は、本当に実在するのだろうか。

目を瞑りぬるぬるとした源泉に浸かっていると、やけに現実がはるか遠くに浮遊して行くのだ。

その時だった。

「おい、目を開けろ❗」

空耳アワー? でも、確かに聞こえた。

「俺様の声が聞こえないのか。目を開けろ❗」

ゆっくりと重たい瞼をあげると、そこに飛び込んできたのは、さっきサウナ室の窓ガラスからボンヤリ見えた頭の大きいスズメの姿だった❗

「スズメ? スズメ親分?」

「そうだ。俺様はスズメ親分だ。お前に話しがあるんだ。

その為にわざわざ来たんだ❗」

なぜかテレパシーとテレパシーの会話が成り立っている。

「なんなのですか? 私に話って〰。」

「優雅に露天風呂に浸かってる場合じゃあないぞ❗

俺様の言うことを、とにかく聞いてくれ。まずお前は、ここから服を着替えたロッカー室にすぐ移動するんだ。

そして、チョッと体格が良くて愛想も人一倍良い掃除婦がいるはずだから、その女を捕まえて、こう言うんだ❗

(ロッカーの鍵を無くしてしまって。この辺に落ちていませんでしたか?)と。その掃除婦はポケットに落とし物の鍵を持っている。

それを、いかにも自分の物だと確信するように当たり前に預ってくれ。」

「無理です~。私、自分の着替えが入っているロッカーの鍵は持ってますから❗イヤです❗」

「そんな事気にしなくて良いんだ。とにかく、言う通りにしてくれ❗」

「それがスズメ親分と何の関係があるんです?」

私はかなりイラッとした。

でも、親分だかなんだか知らないが。現実スズメと会話を交わしているスピリチュアルな今のひとときを、信じてみようとも思った。

「わかりました。行って見ます。

でも万が一、本当に鍵を預けて下さったら、私はどうすれば良いのですか?」

「鍵を預かったら、なるべく急いでそのロッカーを探し出して開けてくれ。そのロッカーには青みどり色の小さめなリュックが入っているはずだ。それを取りだし、いかにも自分の物だと言うように自然に背負ってこの温泉を後にしろ❗

中にはお前が今まで見たことの内容な宝物がギッシリ入っているはずだ❗」

「そんなバカげた話、信用出来ません。」

私は尽かさず否定はしたものの、このスズメ親分と名乗る人間の言葉が話せるスズメが、少しいとおしいと感じた。

(スズメに騙されたところで誰も何も言わないわよね~。)


実行することにした。

さっそく露天風呂を後にして、スズメ親分の指示通りにロッカー室にと私は戻った。

そこには、なんとスズメ親分が言うように、少し小太りで背も高めの大柄な掃除のオバサンがいるではないか〰。

何か面白くなってきた。

胸騒ぎがした❗

(デビル祥子)が耳元で囁く。

「早く声をかけなよ❗人を騙すなんて簡単なものさ。

騙そうと思うから気持ちが焦るだけなんだよ。思い込めばいいんだ。あんたは本当に鍵を落としたんだよ~。ただそれだけの事さ。」


「すみません。着替えようと思ったらロッカーの鍵がないんです~。ここいらに落ちていませんでしたか?」

(私は何をいってるんだろう〰。)

そのあと、体格のよい掃除のオバサンの声は間髪入れず私の心耳に飛び込んできた❗

「あれ、良かったあ。お客さんのでしたかあ~。

さっきトイレ掃除した時にね、落ちてて〰。今からフロントに持っていこうと思ってたところでしたよ。

良かった、良かったあ」

掃除のオバサンは何の疑いもせずに、私の手のひらに鍵をポンとのせて忙しそうに行ってしまった。

私の手のひらの上で、その不思議な鍵は青白く透明な光を放つごとく輝き、今にも踊り出しそうに見えた。






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