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バレンタイン

作者: 大体怠惰

「先輩!チョコレートっす!!!」


作業中にチャイムの音で向かった先の玄関、

ろくな確認もせずにドアを開けるなり、開口一番私の後輩はふざけた事をぬかしてきた。


「君の目がおかしくなってるか、頭の方がどうにかなっているのかは今この瞬間の私では分からないけれど、少なくても私の主成分はチョコレートでできている訳では無いよ。」

「そういうことじゃないっす!!

先輩は今日が何の日だって分かってるでしょう!?」


ふむ、とカレンダーで今日の暦を確認してみる。


「二月の十四日、古く聖ウァレンティヌスがローマ教皇に処刑された日だね、まぁ諸説あって今は違うかもしれない説が結構あるね。」

「へー、そうなんすか……じゃなくて!

バレンタインですよバレンタイン!」

「ああ、そういえばそうだったね、まったく意識してないから忘れていたよ、ここ数年関わりのないイベントだったから。」


そうそうたしかにそんな時期だ、

やたらとコンビニとかでチョコの姿を見るからな。


「なんすか先輩、そんな目を向けて……」

「いや、バレンタインだという事は分かったが、君がこうして家にまで来ることと結びつかないんだよ。」


「またまたー!たしかに今年は日曜日っすけど……あるんでしょう?」

「……ああ、なんだ君は私にチョコレートをもらいに来たのか、

ちょっと待ってろ、たしか一昨日買ったたけのこのアレがあったはず……」


たしか安く売っていたからつい買ってしまったものが後で食べようと残っていたはずだ。


「ちょっ!ちょっと待つっす!先輩!」


呼び止められてリビングに行く足を止め、振り返ると唖然とした顔で後輩はこちらを見ていた。

……いやそんな、こいつマジすか?みたいな顔しなくても。


「え、先輩マジっすか?」


声に出されたよ。


「なんだい?チョコをもらいに来たのだろう?

だから取りに行こうと思ったのだけれど、それともきのこ派だったか?残念ながらそっちは売ってなくてな。」

「いやそういう事じゃなくて、て……手作りチョコレートは!?」


ああ後輩は手作りのチョコレートを貰えるとふんでこうして押しかけてきたのか……困ったな。


「期待に添えなくて申し訳ないけれど、手作りのチョコはここには存在していない。」

「ガーーーーンっす!!」


おぅ、後輩がこの世の終わりみたいな顔して崩れ落ちた。

よっぽど楽しみにしていたのか……少し、ほんのちょっぴりだけ心が痛むな。


「まあ考え方によったら市販品も工場の手作りだ。」

「そこまでポジティブにはなれないっすよぉ……」


……ううむ、しょうがないな、こんなにショックを受けるとは思ってもみなかった、というかコイツが今日来ることからして想定外だったからな。


「……ちょっとそこで待ってろ、そこ、玄関から絶対に動くなよ。」

「うえ、あ、はい。

了解っすぶっ!な、なして顔面にファブリーズ!?

目がぁー鼻がー!?」

「なんとなくだ、そこから動くなよー。」


意表を付いてから釘を刺して、リビングに菓子を取りに行く。

あったあったとビニール袋から取り出して玄関に戻ると、

グシグシと涙を袖で拭っていた。


「ううう、ひどいっすよー目に何かあったら責任取ってください先輩ー」

「あーはいはい、なにかあったらなー」


適当に受け流しつつペリペリと菓子の放送を開ける。

一つ口に入れて……うん、おいしい。

もう一つ、指先に摘む。


「ん、ほら。」

「ふぇ?」


え?じゃないよ。


「ほら口空けろ、あーん。」

「うぇ!?え!?まじすか!」

「まじだよまじだから早く口開けろ」

「あーん!!」


おう、早い、指まで食われるかと思った。

……2個目を摘んで目の前に持っていくと素早く食われた。


ポンポンとチョコが消えていくのが面白かったので次々とやっていったら無くなってしまった。


「……ん、もう終わりだな。」

「チョコ無しでも良いっすよ!むしろ歓迎っす!」

「指まで食べさせる気は無いよ。

満足したなら帰れ帰れ、こっちも暇してるわけじゃないんだから。」

「うー手作りが無かったのは残念すけどあーんイベントが代わりにあったので満足したっす!

ではまた明日っすー!」


そう言って後輩はすたこらと、帰っていった。

まったく、人の心を分かってないやつだよ。

来るなら来ると事前に言っておいてくれれば……いやそれも困るな。


「はぁ、変に疲れたよ。」


そうして私は元の、作業中の・・・・|キッチン(・・・・

)に戻る。

湯煎の途中で、放置してまた少し固まってしまったチョコレートを再び溶かしながら、ふと思う。


あいつがエプロンやチョコの匂いに気付かないくらいの察しの悪さで助かったな、と苦笑する。

そのせいでこちらがアピールしてもあまり伝わらないのだから困ったもの、しかしあいつはどんどん押せ押せで来るのだから何ともや。


明日、これを渡した時のあいつの顔を想像すると、自然に口角が上がる。


「一日遅れでも、私たちらしくて丁度いいくらいだろう。」


その分の気持ちだけは詰まっているつもりだからな。

チョコほしかった

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