05.銃撃乱舞と狂気
激レアモンスターを見つけたチェスティルさん
闘神の如き動きでフロアモンスターを破壊していく姿には、スカート履いてる設定だけど大丈夫?と声をかけたくなります。
そして、カイリさんの性格が垣間見える事件が……。
掛け声のあと、その場で大きく垂直ジャンプをしたチェスティルは、空中で【デスペラード】を発動させた。
本来ならば、乱舞のように不規則に動きまわり、周囲のモンスターを殲滅するための、あくまで地上用の範囲スキルなのだが、チェスティルはジャンプした勢いを利用して、そのまま空中で回転し始める。
その時、上手く身体の捻りを利用して、不規則な動きを加えているようで、天井、柱、地面、モンスターなどお構いなしに周囲を乱射している。
大きなジャンプが終わり、あれだけの乱回転をしていながらも、当然のように片足で着地したチェスティルは、そこから更に着地した隙を消すかのように、今度は左舷のモンスターを殲滅するため、左前方に勢いをつけて再びジャンプをする。
ジャンプによって勢いがあるためか、モンスター達の攻撃がチェスティルにクリーンヒットする事はなく、どれも身体を掠める程度に収まっている。
反面、乱射中のチェスティルに接近されたモンスター達は物凄い勢いでHPゲージを減らしていく。
「自動攻撃付きのスーパーボールみたいだね……」
思わず、遠くで見ていたハクリが呟く。
短時間で左舷のモンスター郡をほとんど殲滅しきってしまったチェスティルに、次は右舷のモンスターが襲いかかる。
中には当然、例の超レアモンスターも含まれているようだ。
「来たわね。ド本命……」
高速での乱回転をしながらも、しっかりとお目当てのモンスターを確認していたチェスティルは、わずかに残った左舷のモンスターをその場に残し、こちらに向かってきた右舷のモンスター郡の方へ、再びジャンプする。
さっきと同じ要領でモンスター郡の中心へと突っ込んだチェスティルは、猛烈なスピードで周囲のモンスターを溶かしていく。
「……おっと。そろそろ【デスペラード】が終わっちゃうな」
身体からスキルアシストシステムによる補正が切れ始めている事に気付いたチェスティルは、最後の力を振り絞り、回転速度を上げる。
今まで以上に激しい自動小銃による弾幕が、周囲のモンスター達を次々に消滅させていく。
そしてスキル効果時間が終わる直前、金色のオーラを放つスライムは、チェスティルの放った弾丸二発をゼリー状の身体に受け、ポリゴンを散らしながら爆散した。
「よし。目的達成!」
金色スライムの撃破を確認したチェスティルは、同時に【デスペラード】による補正が切れた事に気付いて、硝煙と砂埃の中で立ち止まる。
モンスター達はと言えば、左舷、右舷のほとんどが壊滅状態で、あとは小型モンスターが合わせて五、六体を残るのみとなった。
チェスティルはアイテムウィンドウを開くと、左手に装備しなおした自動小銃の装備を解除し、新たに大口径拳銃デザートイーグルを左手に装備した。
そして、慣れた手つきで残りのモンスターを殲滅する。
《氷の聖堂》に出現したモンスター達をたった一人で壊滅させ、一息ついたチェスティルは後ろで待機していたハクリ達に向けて、声をかける。
「おーい、ここはもう終わったよー」
いつの間にか、戦闘そっちのけで姉との会話に没頭していたハクリは、チェスティルの呼びかけで戦闘が既に終わっていう事に気付く。
駆け足でこちらに寄ってきたハクリが、申し訳なさそうな顔を浮かべる。
「すみません。お喋りに夢中になってしまいました」
「いいよいいよ。強いモンスターはそんなに居なかったしね」
「……いえ、ティルさんのレベル帯なら、普通は《氷の祭壇》をソロで全滅させる、なんて事はできないと思いますが」
「それはほら、私はハクリ達に良い装備を作ってもらったりしているから……」
「うーん。たしかにティルさんは性能の良い装備をしてますけど、やっぱり腕の問題だと思うのですよ。 特にティルさんは回避行動が上手ですよね。近接MOBに対してあれだけ接近を許す《ガンナー》はそうは居ないと思います! 前に私とスパーリングをした時も……」
嬉しそうに話し始めたハクリだったが、この話をし始めると長くなる事は既に学習済みだ。
「あ! ほら、ハクリ。祭壇があった場所に階段が出来てるよ。下のフロアに行こうよ」
「あ……はいー!」
次のフロアも、その次のフロアでも、先ほどのように私が一人で敵を殲滅し、順調にダンジョンを走破していく。
途中、ずっと待機状態だった事にしびれを切らしたのか、新しいフロアに着くや否や、私が1フロア攻略に費やした時間の半分にも満たない程の、とてつもない短時間でモンスター達を壊滅させていくハクリの鬼神のようなスピードには思わず苦笑いしてしまった。
そして私達が今居る最下層、地下八階にあたるこのフロアは、元々は緑豊かな場所を、一面氷漬けにしたような雰囲気をしており、なにか神秘的なものを感じさせるような階層だった。
壁には所々に凍った状態の花が咲いており、地面にはパリパリに凍った芝生が敷き詰められているようで、歩く度に小さな氷を踏みつぶす音が響いてくる。
どういう仕組みなのか、天井にはステンドグラスのように薄い氷が張ってあり、そこから光が降り注いでいる。そのおかげか、他の階層と比べると、僅かだが寒さが抑えられているような気がする。
どうやらこのフロアには雑魚モンスターはPOPしないようで、プレイヤーが三人ほど通れるくらいの幅の通路を歩いていくと、そのまま円形型の大広場に到達し、そこでボスと対面するという仕組みらしい。
「そういえば、ハクリ。ここのボスってどんな奴なの?」
「……えーっと。ちょっと待ってくださいね……。……ふむふむ。……わかった。……えーっと、『自分で確かめろ』との事です」
……との事です、という事は、恐らくはカイリが情報提供をしないようにハクリを言い含めたのだろう。
カイリはまだあの時の事件を根に持っているようだ。陰湿にも程があるよ……。
ちなみに「事件」というのは、つい一週間前に起きた出来事で、この世界に来た日からずっとハクリ宅の一室を借りている私は、ちょうどレアアイテムの売買が終わって小銭を持っていたこともあり、日頃のお礼の意味も込めて、抜群に美味いと評判のケーキを人数分買っていったのだ。
今現在に至るまでカイリの姿すらまともに見たことのない私は、ハクリはいつも遠方に居るカイリとゲームシステムを利用して会話をしているものだと思い込んでいて、当然、ケーキは二人分しか買ってきていなかった。
そして私とハクリ、仲良く二人でケーキを食べていた所までは良かったのだが、ハクリがあまりにケーキの食べ方が下手で、頬がクリーム塗れになってしまっていた。見かねた私は持っていた布でクリームを拭ってあげたのだけれど、問題はその後だった。
予め誤解のないように説明しておくと、私は別にレズではない。ただ、ハクリは元々顔立ちの良い女の子だし、外見がかなり幼く見えるので、私からすれば可愛い姪のような存在に見えてしまうのだ。なので、つい、特に深い理由もなくハクリを抱きしめ、頭を撫でてしまったのだ。
事態に気付いたハクリが「あっ」とつぶやいた次の瞬間、既にカイリは臨戦態勢だった。いつの間にか私の真後ろに出現していたカイリは、手に持った鋭利なナイフを私に向けて本気で振り下ろそうとしている状態だった。
私が背後の気配に気付き、後ろを振り向く頃には、ちょうどカイリの腕が振り下ろされる瞬間だったらしく、事実、私の眼前までナイフは迫っていた。
本当にギリギリの所で、ハクリが咄嗟にカイリの手首を掴んで止めたのだ。
「お、おねえちゃん、落ち着いて……」
「…………」
ただひたすらにどす黒い光を放つカイリの蒼い瞳が、私にとてつもなく純度の高い殺意を向ける。あまりの恐怖に、私の身体はピクリとも動こうとしなかった。
ハクリが本気の力を込めて止めているにも関わらず、ぎりぎりと音が聞こえてきそうな微妙なパラーバランスで、私の眼前のナイフが絶妙な距離で震えている。
「だ、だいじょうぶ、だいじょうぶだから。おねえちゃん、落ち着いて……」
「……」
しばらくその状態が続いた後、何を思ったか、カイリはナイフに込めていた力を緩める。ハクリもそれに気付き、ずっと握っていた姉の手首をゆっくりと離す。僅かだが、向けられていた殺意も緩んだような気がする。
放心状態だった私は、ひとまず助かったのだろうと肩を撫で下ろし、溜め込んでいた息をゆっくりと吐き出す。そして、一度瞬きをして、次に目を開いた時には、もうそこにカイリは居なかった。
……というのが事件の一連の流れであり、その日から、ハクリに気付かれない程度の些細な嫌がらせが、今日に至るまでちょいちょい行われている。
「……わかった。一応、後ろで待機だけしていてもらえるかな」
「はいー。いつでも参戦できるように準備しておきますよー!」
これは予想だけど、多分、カイリは妹であるハクリの事を何より大切にしているのだろう。もしかすると、自分の命よりも大切だと思っているのかもしれない。
「……でも、さすがにやりすぎでしょうよ」
「……?」
「いや、なんでもないなんでもない。さ、早くボスを倒しちゃおう!」
「はーい」
しかし、いくら後ろでハクリが待機しているとはいえ、前情報がない状態でボスと戦うというのはかなり無謀な行いだろう。下手をすれば死んでしまう可能性だって十分に考えられる。もしかしたら、今でもカイリは私を消し去る事を諦めていないのかもしれない……。だとすると相当に執念深い女だと再認識せざるを得ない。
だが、私も何の準備もない状態でここに来ている訳ではない。当然、このパターンも想定済みだ。
私はアイテムウィンドウを開き、一枚の書物を選んでオブジェクト化すると、前日にチェックしておいた重要なポイントをもう一度確認する。
これはユーザー制作のボス攻略情報だ。街に行くとオークションやユーザー露天に並んでいるもので、そこそこの値段はするものの、それなりに詳細な情報が乗っているため、利用するユーザーはかなり多い。
昨日の時点で一通り目は通しておいたのだけど、ボスに関しては現地でハクリに教えてもらうつもりだったので、流し読み程度にしか読んでいなかったのだ。
重要ポイントの再確認が終わった所で、一番最後のページに書いてあった文章に気付く。
「あれ……これは見たことなかったな。昨日、見落としてたのかな」
ページには「※最重要項目 《氷の神殿》のボスである《スノウキングマン》は、他のボスと違ってかなり特殊なアルゴリズムで動いており、先述した基本パターンに加え、挑むプレイヤーによってかなり特異な行動を取るため、予測不可能な場合が多い。恐らく、最下層に来るまでの間で行われた戦闘データを元に、常にアルゴリズムを更新し続けているためだと思われる。挑戦する際には、十分に注意して挑まれるべし」と記してある。
うっわぁ……なんだこれ。それぞれのプレイヤーに対して個別の対応パターンを作ってるって事?そんなの反則じゃない……。
どうするべきか……《ガンナー》である私には、複数の戦術を使いまわすような戦い方は出来ない。
しかしだからといって、せっかくここまで来ておいて、作戦立て直しのために撤退、というのも私の性に合わない。
「……結局は、ぶっつけ本番になるのかぁ」
軽い目眩を覚えながらも気を取り直し、両手に構えた愛銃に対して、労いの言葉をかける。
「無茶させるかもしれないけど、よろしくお願いね」
肚は決まった。
いざ、打倒《スノウキングマン》――!
次は、待ってました!ようやくカイリさんのご登場です!!
いやぁ、正直、カイリを出したいがためにここまで書いていると言っても過言ではないです。
クールビューティであり、そしてヤンデレでもあり、意外な一面もある!
今後の展開に期待!(私もまだ考えてないので自分で期待!)
次話は2015/3/11 21:00を予定しています。