04.氷のダンジョンと個性
カイリさんのクールな嫌がらせがチェスティルにこんな幸運をもたらすとは……。
ちょっとゲーム設定の説明描写が多い場面です。
相変わらず、キャラクターの出し方に不満が残ってしまうのダヨ。。。
カイリさーん!早く出てきてー!
「うぅ……カイリの奴め、仕返しにまでハクリを使うとはなんて卑劣な女……」
この逃げ出したくなる状況に、つい文句が出る。
《スノーマーク》にあるダンジョン、《氷の神殿》には特殊なパーティークエストがあり、本来ならば12人パーティーという大人数で挑むべき場所に、なぜか私一人(厳密には保護者二名付き)で挑んでいる。
まだダンジョンの五分の一程度しか進んではいないが、時おり出てくる雑魚モンスターですら、この近辺のレベル帯以上の強さなので、このダンジョンの難易度の高さが伺える。
後ろからは、ここへ誘った張本人であるハクリがヘルプに駆けつけられるギリギリ(通常の倍近い距離)を、鼻唄を歌いながらついて来ている。
「きっと今ごろ、あの冷酷鉄仮面女はほくそ笑んでいるんだろうか……」
私をここに誘ったのはハクリだとしても、きっと、恐らく、とんでもなく高確率で、裏ではカイリが関わっているんだろうと考えると、なんだかやるせない気持ちになる。
「ティルさーん、もう少しで最初のモンスターハウスですよー!」
「……はいよー」
背後から飛んでくる元気そうな声に、やる気のない返事を返す。
たしかに、前方からはモンスターの気配がする。
ただ、今日は戦う気力が半減だ。
その理由はハッキリしているのだけど。
「……鬱になりそう」
浮き沈みが激しいのは、私の悪いクセだ。
このままだと、当分はまたへこみっぱなしになってしまうなぁ。
何とかして気持ちを切り替えないと。
「私もずいぶんと面倒くさい女になっちゃったかな……まあ、元からだけど」
モンスターの気配もかなり近くなってきている。
この先にある大部屋はダンジョン最初の難関と言われているらしい。なんでも、体育館程のやや大きめの広さがあって、中央には大きな四本の柱に囲まれた祭壇と、前、左、右の三方向に大きな門が設置されており、氷で出来た聖堂のようになっているらしい。
問題は、部屋に入った瞬間に大門から大量のモンスター郡が現れて、初見のパーティは大抵がそこで不意打ちを食らい、街へ逃げ帰るんだとか。
やれやれ、と最後に大きなため息をつき、両手を大きく広げる。
すると、左右の手には特徴の違う銃が二丁出現した。左手にはやや小さめで、アメリカのガンアクション映画で三流マフィアが所持してそうな自動小銃UZIが、そして右手には銃身が太くて長く、グリップが木製でできている少し古そうな散弾銃ウィンチェスターが、それぞれが等しく不釣り合いに、するりと線が細くて華奢な手の中へすっぽりと収まっている。
モンスターハウスまであと十歩程の距離、そろそろだろう、と左手でローブの胸元を開け、内側からあるモノを足元に落とす。
そのあるモノは地面に落ちる直前、私の右足によって勢いよく放物線を描いて放り出される。
否、蹴り出された。
それが戦闘開始の合図だった。
「……さーて、ドンパチ狩るとしますかー!」
宣言と同時に勢いよく私はモンスターハウスに足を踏み入れた。すると、すぐさま部屋にある三つの大門が開いた。そして、モンスターの大群が勢いよくこちらへ群がってくる。
しかしその数秒後、さっき蹴飛ばしたあるモノは、中央にある祭壇を綺麗に通り越して、吸い込まれるように大門の前方部分に滑り込み、ジャストタイミングで大爆発した。
……先ほど蹴りだしたあるモノとは「グレネード」の事だった。
その威力は凄まじく、前方、右舷、左舷の全三方向から襲ってくるモンスターのうち、三分の一を占める前方のモンスター群を、今の一撃だけで葬り去ったほどだ。
恐らくはこの世界に一枚しか存在しないであろうスキルカード「グレネードL5」の持ち主が彼女、チェスティルである。
「おーおー……、またまた凶悪度が上がっておりますなぁ。ここまで上手くグレネードを使う人もそうそう居ないと思うのですよ」
本来、この世界において「グレネード」とは一種のネタスキル、さらに言えば死にスキルであり、一発の威力と範囲は申し分ないのだが、MP消費がバカみたいに高く、投擲速度が恐ろしく速いため発動タイミングもシビアで、加えて連発できない。「燃費が悪く、当てづらく、クールタイムが長い」という三拍子が揃ったとにかく扱いに困る代物なのだ。
もちろん、今のチェスティルのように状況を見極めて使えれば、リスク以上の大きなリターンは望めるのだが、スキルカードの入手難易度や、修得までの手間を考えるとやはり使い手は増えない。いわゆるロマンスキルなのだ。
「よっし、次!」
開幕のグレネードで調子に乗ったチェスティルは、左右から近づいて来るモンスターを次々に撃破していく。
「んー! 爽快! さあ、まだまだ行くぞー! ……ん?」
チェスティルは、右舷のモンスター群の中に紛れ込んだ、異物のようなモノに気付く。
左舷から襲ってきた強敵モンスターの剣撃を、僅かに身体をズラしただけで見事に躱しながら、じっくりと異物を観察する。
「……マジィ?」
どこか冗談のような声でつぶやく。
それはとてつもなく小さく、けれども一度でも認識してしまえばハッキリとそれだとわかる、ゼリーのような不思議な液体で構成された、いわゆるスライム型のモンスターだった。しかし、視線の先にあるそれは、通常のスライムよりもかなり小さい上に輝く金色のオーラを纏っている。
「たしかこいつって、《白紙のスクロール》をドロップする奴だったっけ……」
《白紙のスクロール》とは、職業制限を無視して好きなスキルを一つだけ習得できるSSS級のレアアイテムだ。
習得するスキルレベルはランダムだが、敵に与えるダメージがステータスや装備よりもスキルに依存されるこの世界において、他系統のスキルが使えるという事には絶大な効果があり、例えば近距離戦のエキスパートであるナイトにそこそこの装備を持たせ、このアイテムで連発可能な低級妨害魔法を覚えさせれば、相手のガードを容易に崩し、間髪入れずに大ダメージ技をねじ込めるごり押しアタッカーができあがる。
他にも、パッシブスキルの重複を利用した回避率80%を超える化け物のようなアサシンや、サモンスキルを重複させて複数のシモベを従えるサモナーなど、用途は多種多様である。
「こりゃぁ、ハクリはともかくカイリにだけは知られちゃマズイかね……」
ちなみにカイリの情報によると、前回のテストで出回ったのがたったの二枚で、その当時の一枚辺りの売値が廃人の総資産二人分だったらしい。
先ほどの剣持ちモンスターに、視線を向けないままの状態でウィンチェスターの一撃を与えたチェスティルは、念のためにハクリ達の居る後方を確認する。ウィンチェスターを発砲した方向からは、モンスターを倒した時の効果音が聞こえてきた。
「……よし」
カイリと談話中だったのか、幸いな事にまだ気付いていないようだ。
「カイリに気付かれないようこっそり倒すって手もあるけど……性格的に無理かなぁ」
チェスティルはアイテムウィンドウを呼び出し、右手に構えたウィンチェスターの装備を解除する。
その数秒後、元々ウィンチェスターを持っていた右手に、左手に持っていたUZIと似たタイプの自動小銃が現れた。
いつの間にか眼前に迫っていた、二メートル超えの巨躯を持ち、更には自身ほどの大きさがある巨大な鉈を持った大型モンスター《デスタウルス》がチェスティルに向かって大振りの一撃を放つ。
しかし、またもチェスティルはその場からほとんど動くことなく、僅かに身体をずらしただけでその一撃をかわし、更には大振りの隙をついて《デスタウルス》の横っ腹に強烈な蹴りを入れる。
本来、遠距離職である《ガンナー》の蹴りはダメージ量こそ少ないものの、チェスティルが的確にウィークポイントをついていたため、《デスタウルス》が大きくノックバックする。
……前方からの敵襲は既にないだろう、素早く左右に視線を送る。
他のモンスターが駆け寄るまでにはチェスティルが意図的に作った余裕があった。
両脇のモンスター郡とも、一定の距離がある事を確認したチェスティルは、目を伏せ、両手を頭上高くで交差させる。
遠くから見れば、ただチェスティルが扇情的なポージングをしているようにも見える格好だが、両手を頭上に上げる行為はいわゆる《モーションカット》というテクニックで、スキルの初動モーションを手動で行うことで、僅かな初動の隙を無くす効果がある。
下準備は完璧、そして叫ぶ。
「……デスペラード!」
掛け声と共に伏せた瞼を強く見開く。直後に両手に持った自動小銃がブォンと鈍い音を立てて赤い光オーラを纏う。
一呼吸に満たない僅かな時間、半呼吸をおいてチェスティルが動きだす。
動き出すのとほぼ同時、既にトリガーは引かれていた。
【スキル《デスペラード》:全方向対応の近距離型範囲スキル。その場で高速回転をして、更に不規則な動きを加えながら弾丸を乱射する事により範囲内の不特定の敵にダメージを与える事ができる。拳銃、自動小銃のみ使用でき、拳銃の場合はダメージが倍になる】
次はまだ未定ですが
チェスティルさん危ない!
あなた今、ローブの下にスカート装備してる設定だよ!ってな感じです!
ちなみに、カイリさんはまだ……!
次話は2015/3/10 21:00を予定しています。
(このパートで書き溜め分が終わりなので、もしかしたら遅れるかもしれまセン)