02.仮想世界と混乱
チェスティルさん危ない!
初期装備だと即死だよ!
小説って難しいなぁ……。
もうちょっとキャラクターの味を出してあげたい。。。
「危ない」という言葉には、日常生活において主に二通りの使い方がある。
一つは「危ないかもしれない」や「こうなると危ない」など、これから起こるかもしれない危機に対して、事前に警戒、対策をするという意味で用いる場合だ。
もう一つは、実際に危険な事態に直面した際に、今が危険な状況である事を周囲に知らせるために使用する場合である。
そして、基本的に後者の場合においては既に事は手遅れな状況に陥っている事が多い。
そう、まさしく今の私のように。
「危ないっ!」
その声と同時に私は目を覚ました。
……いや、厳密に言えばその声で目が覚めたというべきだ。
休日の昼過ぎに起きた時のようなもっさり感を漂わせながら、ゆっくりとした動作で身体を起こした私の目の前に、得体の知れない「何か」が剣(らしきもの?)をちょうど振りかぶった状態で停止していた。
「あっ……」
次の瞬間、ソレは私に向かってゆるやかに、それでも死を連想させるには十分な程の殺気を滾らせて、腕を振り下ろす。
終わった。交通事故に遭遇した時のような直感的な死を感じる。
周りの状況や自身の立場など一切関係なく、降り下ろされたモノと人体の脆さを本能的に比較し、当然のように死を直感する。
――――ッッ!!
しかし、本来なら到達するはずであろう衝撃はしばらく経っても一向に現れない。
――キィィィーンッ! ――ガキィッ!
代わりに、甲高い音が聞こえてきた、まるで鉄同士が激しくぶつかり合った時の衝突音のような。
恐る恐る目を開けてみると、そこには綺麗なエメラルドグリーンのロングヘアーをした少女が先ほどの「ソレ」と対峙していた。
――危ないっ!
そう思った時にはもう遅く、ソレは女の子に向かって、破壊力のありそうな重い横薙ぎを放っていた。
ダメだ、間に合わない! そう思った私は反射的にまた目を閉じる。
――パカァーンッ!
しかし、またしても乾いたような金属音が周囲に鳴り響く。
予想外の事態に驚きつつ目を開けると、クリーンヒットするかと思われた横薙ぎは何とも見事に上方向へ弾かれていた。
だが相対している少女は、背中に日本刀らしき物を背負ってはいるものの両手は手ぶらで、武器らしい武器は何も……。
――って、も、もしかして武器ってあれ!?
なんと、良く見ると、彼女はボクサーさながらのファイティングポーズを取りながら、体を揺らしてリズムを作り、相手との距離を計っている。
そしてその拳には手甲らしき物が装備されており、明らかに日本刀よりも使い込まれているように感じた。
大振りで破壊力重視、単調な攻撃を繰り返す怪物に対し、遊んでいるかのような華麗なヒット&アウェイを繰り返す。
ここまで洗礼された動きを見せられれば素人でも理解できる、この少女は恐ろしく強い。
ありえない急展開と突如現れた少女の動きに圧倒されて、すぐには状況を飲み込むことができなかったが、とにかく助かった。
彼女が居なければ間違いなく私は死んでいただろう。
絶体絶命の危機から逃れた事が、かえって気持ちを落ち着かせるまでの時間を短くした。
……ここはどこだろうか。
そもそもあの怪物はなんなのだろう? ……もしかしてこれは夢なのだろうか? 確か私は刑務所で変な個室に入れられて……あっ!
「仮想……世界?」
――バシュゥゥゥ……。
続いて前方から「ピローン」という間抜けな電子音が鳴り、考えていた思考が少女へと移る。
怪物がどこにも見当たらない所を見ると、恐らくはあの少女が退治したのだろう。
「大丈夫ですかぁー?」
私を守るためなのか、わざわざ少し離れた場所へ怪物を誘導しながら戦っていた(らしい)彼女はこちらへ歩きながら声をかけてきた。
それに私は軽く手を振って応える。
「お怪我はありませんか?」
彼女はすぐそばまで近寄ると、未だに座り込んだままだった私に手を差し伸べる。
「あ、ありがとうござい……!」
……あっ、こ、この子……めちゃくちゃ可愛い!!
やばい、どうしよう、普通に可愛い。
「……? どうかしました? 顔が赤いですよ?」
《ワーウルフ》を見て興奮パラメーターが上がったのかな? などと呟きながら彼女は首をかしげる。
「あっ、いえ、その、あの、何でもないです。大丈夫です!」
慌てて立ち上がる私を見て更に彼女は頭をかしげる。
「ところで、あなたは今来たばかりの方でしょうか?」
「……あっ。はい、そうです。なんか、その、もう訳がわからなくて……」
正直、色々な事がありすぎてもう何がどうなっているのかさっぱりわからない。
「なるほどー、それは大変ですね……。私で良ければ、この世界について簡単に説明しましょうか?」
「あっ、いえ、その、さすがに助けて頂いた上に、初対面の人にそこまでしてもらうのは……」
「いえいえ、気にしなくてもいいですよー」
とりあえず最寄りの街まで行きましょう、そう言って彼女は街があるらしい方角へどこか楽しそうな雰囲気を漂わせながら元気良く歩き出した。
街に着くまでの旅路でいくつかわかった事がある。
まずはこの世界について。
簡単に言ってしまえば、これはRPGの世界というやつらしい。
ここには魔法やスキルの概念があり、フィールドにはモンスターが出現する。そしてそのモンスターを倒すことによってお金や経験値、時にはレアアイテムなどが手に入り、それらを使って自身をどんどん強くしていくのがここでのセオリーなのだ。
そして肝心のキャラクターを強くしていく目的なのだが、一定条件を達成すれば無事にゲームクリア、つまりは現実世界へ送還、無罪放免になるらしい。
なるほど。こういったいわゆる「レベリング」要素が備わっている以上は、キャラクターを強くしなければ達成できない条件があると考えるのもおかしくはないだろう。
次に彼女の事だ。名前はハクリ、現実世界の年齢は18歳、双子の妹で、姉と共にこの世界へ来たらしい。
性格は見たままのようで、とにかく明るくて元気だ。ただ実年齢よりは精神年齢がいくらか下に見える。
彼女についてはこれくらいだ。本当は聞きたいことがあったのだけど、それは聞いてはいけない事のような気がした。でも気のせいだった。
「そういえば、私は人を殺して捕まりましたが。チェスティルさんはどうしてこの世界に来たんです?」
…………はい? 人を殺して? いやいや、いきなりなんて事を言い出すんだこの子は、冗談がキツすぎる。
「人を殺してって……、冗談はやめてよ」
「……? 冗談ではないですよ? 私は殺人の罪で逮捕されました」
――マジかッ!
……どうしよう、急にどう接したらいいのかわからなくなってしまった、そもそもこんな可愛い顔をして殺人って、もしかしてこの子はヤバいタイプの子なのか!?
私が一人で頭を悩ませていると、横を歩くハクリは何やら一人でうん、うん。と相槌を打ち始め、いかにも誰かと話しているかのような素振りを見せる。
「あー……。チェスティルさん? 安心してください、私はしりしよく、のために殺人を行ったのではなく、せいとーぼうえい、という奴らしいです」
「……ら、らしいって」
「とにかく、私は別にヤバい奴じゃないので安心してくださいって事です」
……う、うーん……確かに助けてもらったしなぁ。
……まあ、ひとまずは信用しても大丈夫かなぁ?
「……うん、わかった。安心します」
「ふふ、ありがとうございます!」
…………そんなこんなで二人は目的の街に着く。
次は、一体誰なんだ状態にある私の大好きな姉カイリが出てきま……せん。
物語を省略するだけしまくって急に強くなるチェスティルさんの初戦闘描写にも注目デス。
ハクリ・カイリ姉妹の希薄すぎる伏線も覗けるかもしれない。
できれば、一日一更新をペースにガンバリマス。
次話は2015/3/8 21:00を予定しています。