出会い
─リンクリウッド郊外・昼
温暖な気候と豊かな水源によって畜産業が盛んな村、それがリンクリウッドである。
ヴァーツェル卿が治める領地の中でも上位に食い込む収穫量で、村人たちはその恩恵として平穏な暮らしを約束されていた。
規模としてはやや小さいが一人一人の生活水準は低くなく、むしろ、ヴァーツェル領の中では高いほうである。
人々の顔に笑みが絶えることがない、とても幸福で満たされた村と言えるのはひとえに卿が尽力しているからだ。
この村の周辺は卿から派遣された騎士たちによって害獣を駆除された影響で、とても平和である。
獣たちもこの村の周囲には危険しかないことが分かっているので、近づいてこないのだ。
そんな平和を約束されたような村に素朴な馬車が近づいていた。
この馬車にはヴァーツェル卿のご子息であるトニー・ヴァーツェルと、その妹であるクリスティア・ヴァーツェルの二人が乗ってた。
卿の教育方針として、成人した者は領民と触れ合いその生活を知るべしとして、半年の市井暮らしを経験させているのだ。
この二人は今年で15歳。ヴァーツェル卿が仕えるロマスティナ王国では成人とされる年である。トニーとクリスティアは双子として生を受けたので、同じ場所でくらすこととなっていた。それがこのリンクリウッドなのである。
「トニー、村には図書室がないって本当かしら?私、退屈しちゃうとおもうのだけど・・・」
「クリスは本の虫だからなぁ。でも、図書室がなくたってその本があるじゃないか。その分厚さなら半年どころか一年はかかるんじゃないか?」
「あら、トニーったら冗談よね。この程度ならひと月もしないうちに読み終わってしまうわよ?」
「さすがクリスだよ。僕にはとても無理だね」
他愛もない会話をする二人は、これから世話になる村での生活を思って気分が高揚してた。
これまで書物でしか知らなかった市井の暮らし。それをじかに体験できるのだ。好奇心旺盛な二人には、屋敷でのどんな遊びより楽しみだった。
ちなみにこの村での識字率はかなり低く、村長一家が文通を行える程度である。クリスティアが手にしている500ページはいっているであろう魔術に関する学術書などは到底読めるものではない。
馬車の中から聞こえるにぎやかな声に、御者をしていた金髪の青年と茶髪の老人はそろって笑みを浮かべる。騎士として護衛についている青年と、執事として幼いころの二人を知っている老人としては、二人が自分の故郷であるリンクリウッドでの生活を楽しみにしていることがうれしいのだ。
「お二人とも、そろそろ休憩しますよ」
金髪の青年が馬を止めながら中へ声をかけると、明らかに不満な空気が伝わってきて苦笑する。どうやらこの双子はいち早く村につきたいようだ。
しかし、まだまだ距離はある。あと半日を一気にかけると馬の疲労が厳しいのだ。
そうして止めた馬車に、一本の矢が射られた。それは双子の運命を大きく変えてしまう、運命の矢であった。