第2話 お腹が減ったら帰りましょ
短いし、何か完成度低いし………
うん、次話までのつなぎですね。
というか、日常シーンって書いててテンション上がらないよね!
あ、あとタイトルが正式版になりました。
草原にごろりと転がっていたイヴが立ち上がる頃には、既に午前7時近い時間になっていた。
屋敷を出た頃はまだ薄暗く、夜明けの寒さに包まれていたのだが、流石にこの時間にもなると日の光が降り注いで、それを緩和する。
「まったく、ユスティお兄様は手加減無さ過ぎです」
「ははは、でもイヴは手を抜いたりしたら起こるだろう?」
「それは当然です!」
対し、それじゃあどうすれば良いんだと苦笑いで返す。
銀糸を揺らし、ぷんすかという表現が似合う怒った“振り”をして、口を尖らせたイヴが隣を歩く兄の顔を横目で見上げた。
「もうちょっとで盾を砕けたのに………」
「いや、騎士団の備品を砕いちゃダメだよ?
訓練槍もイヴがボロボロにしちゃったし……幾ら訓練用と言っても、壊して良い物じゃ無いんだから」
「………むー」
思い返してみれば、確かに。槍を返却した際の騎士は苦笑いしていた……気がする。若干曖昧なのは、その表情を構成する感情の半分以上が驚きだったからだ。
イヴ程の小さな子供、それも女児が、2メートル程もある長さのスピアを持ってきたのだから当然とも言える。
確かに、騎士団に置いてある武器の中でも比較的軽量な代物ではあったのだが、その重量は決して子供が振り回して良いモノでは無いし、さらにそれをたった1度の早朝の訓練だけでボロボロにしたのだから、何の冗談かと思うだろう。
一方でイヴとしては、飽く迄も“訓練用”なのだから、本番で出せる全力を把握する為にも、破壊するつもりで全力で使う―――つまり、使い潰しても良いと思っていた。
本人は知らぬ事だったが、そもそもイヴが振り回していたモノは本来素振り用。鋒は殆ど刃など無く、本物と同じ重量配分で作られて居るだけの鈍らだった。要するに、そもそも何かに叩き付ける事を前提としていない作りだった。
……まあ、だからこそ打撃として連打が可能だったとも言えるのだが。
「じゃあ、どうすれば良かったんですか?」
「突くだけじゃ無くて、薙ぎ払いなんかも混ぜれば良かったと思うよ。側面からの打撃を防がせて、反対側から素早く再打撃。槍は先端に重量が集中してるから振り回すのも有効なんだよ」
「な、なるほど…………」
眼を丸くして、確かに……とイヴが得意気に語る兄を仰いだ。
先程の訓練では槍を突き出す事しかして居なかった。それは「槍は突き刺すモノ」というイメージに捕らわれていたからだ。しかし、それではどんなに高速で連続させても所詮は正面からの点の一撃の集合でしかない。
そこに薙という線の一撃を加えれば、一気に攻撃パターンは増えて対処しづらくなるだろう。
何より、突き刺すよりも振り抜く方が力が入れやすい。
……次はもっとパターンを増やして受け辛くしよう。
反省を次へ活かそうと決意して俯いていた視線を上げると、屋敷の廊下を歩く人影が窓から見えた。
その人影もイヴに気付いたのか、歩みの速度を上げて玄関へと回り、扉を開いて礼をする。
「お帰りなさいませ、お嬢様。……中々激しい訓練だった様で」
「ただいま、フィオナ! ご飯出来てる? あ、その前に軽く汗流してからの方が良いかな?」
「そうですね。朝食は逃げませんので、それ程急がなくても大丈夫かと」
その慌しい程の元気の良さに苦笑し、しかし優しげな視線を向けるのはフィオナと呼ばれた女性。
鴉羽の様に黒い髪を肩口で切りそろえた彼女は、イヴ御付のメイドだ。
彼女の身の回りの事を一通り任せている従者――なのだが、イヴとしては友人に近い感覚であり、主従関係を意識していない。というか、する気が無い。
また、フィオナ自身も各業務は卒無くこなすのだが、若干不器用な処もあり。端的に言うと従者になりきれて居なかった
故に、主従関係よりも近い相手として扱いたいイヴと、従者らしく振舞えないフィオナはどこか良い感じに嚙み合い、友人の様な、姉妹の様な、そんな関係を構築していた。
そんな彼女であるが故、若干作法や礼儀等が抜けていたりもするのだが、やはりこの場にそれを咎める者は居なかった。第三者であるユスティも、この場に居ない他の家族達も「まあ、イヴが良いなら」という事で黙認していた。
―――そもそも、客人が来る屋敷でも無いので、多少礼儀作法に拙い点があっても問題など起こりはしないのだが。
「――――お嬢様」
なので、横を通ったイヴの肩を、突然にフィオナががっしりと掴んで離さなくなったとしても、誰も咎めなかった。
むしろ、イヴの後ろを歩いていたユスティに至っては「あー、やっぱり」という表情で頬を掻いている。この場で、自体を理解していないのはイヴただ一人だった。
「前言撤回ですお嬢様。しっかり入浴して頂きます……髪、泥塗れじゃないですか」
「…………え?」
言われた意味が解らない、とばかりに暫し呆然とし、一拍置いて気を取り直したイヴは慌てて自慢の銀髪に手を伸ばした。確かに、よく見てみれば泥や草がこびり付いて粗末な事になっており――確かに、草原で転がったのだからこうなる事は解っていたが、その時は軽く手櫛を通していたし、ちょっとべたべたする位で、それは汗だと思っていた。
ちゃんと目視しなかった所為で起こった出来事だった。
「……あ、ああ。本当だ! ちょっとお兄様、気付いてましたね?! なんで言って下さらないんですか! あああ、という事は此処までずっと私は泥や草をを髪に付けた儘歩いて……ッ!!」
自分が悪い。自業自得。しかし、それで納得できる事では無かった。
兄はきっと泥塗れになった自分を微笑ましい視線で見ていたに違いない。そう思い返してみれば、普段から優しい兄が、いつもの2割増で微笑んでた気がする。気の所為かもしれないが、イヴにはそうとしか思えなかった。
しかも、その兄は軽く汗こそ掻いているものの、泥などは一切付いていなかった。
というのも彼は訓練中、ずっと全身を甲冑で覆い隠していたからだ。多少の土埃なら有り得るが、どれも軽く水を浴びれば洗い流せる程度の汚れでしかない。
それがまた、イヴには気に食わなかった。結論を言うなら、
「お兄様、ずるいですよ!?」
「んー、まあ、ゆっくり洗っておいで。僕も井戸で汗を軽く流してくるからさ」
流石に悪かったと思ったのか、眉尻を下げ、済まなさそうな表情をして、しかし逃げた。
先程とは違い、本当に怒る妹の顔に対し、苦笑いというか誤魔化し笑いで返し。ゴメン、と顔の前で両手を合わせて謝って、角に消えた。
「流石は兄君、自分は外で流すとは……レディへの気遣い、ですね。……さて、行きましょうかお嬢様。お流し致します」
「むうううう………! フィオナもお兄様に言ってよね、泥付けて歩いたんだよ?! 朝早いから人は居なかったと思うけど……もし見られてたらどうしよう、恥ずかしくて表歩けないよ……!」
怒りの矛先が無くなったからか、恥ずかしさが最前面に来た事で怒りとはまた別で、顔を、耳まで赤くし、しゃがみ込んで手で覆い隠した。
どう収集付けましょうかこの状況、と思いつつ、面倒になったフィオナは考える事を止め、蹲るイヴを持ち上げて、風呂へと足を向けた。
無駄解説こーなー
●兄君
「あにぎみ」、と読む。間違っても「あにくん」では無い。