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音楽と科学と。

「学校って、授業を受けたという事実を作るためだけに行ってるようなもんだよな~」

 熱を帯びたアスファルトが、非常に暑苦しい。

 道路沿いの歩道の上で、使い古しの団扇を煽りながら嘆く。けだるくてしかたのない、学校からの帰り道。

 帰宅部の俺は下校する時間が早いので、今はまだ午後4時になるかならないかの時刻だ。

 俺は【Magnolia】の十八番曲、【レトロ】を口ずさみながら、高尾駅から自宅へと向かっている。自然と速足になっていたが、構わなかった。気持ちを落ち着けようとしても、上手くいかない。

「ギター、弾きてえな」

 ――やっぱ、コレしかないっしょ。

 気持ちが落ち着かないときは、ギターを何時間でも掻き鳴らすのに限る。そうやって精神統一するのが、マイスタンダードスタイルだ。

「ギターは友達とか、ホント俺にぴったりな言葉だよなぁ」

 まるで聞き上手の友達に、ひたすら愚痴をこぼさせてもらえるような、そんな感じがするからさ。


 昨日の夜中の修くんからの電話は、衝撃的過ぎた。俺は、上手く応えられたのだろうか…

 俺は、謝った。軽い気持ちであんな歌作っちまって、ごめん、と。修くんは、気にするなと言ってくれた。こっちこそ、夜中にいきなりこんな話始めて、すまねぇ、とも。

「別にお前のことをどうこう思ってるとか、んなことはまったくねぇ。ただ… 俺があの曲やりたくないって理由…わかってくれ」

 そんな事情知っちゃったら、あの曲演奏する覚悟なんて持てないって……

 あんな……半端な気持ちで作った歌詞を聞く度に、修くんが悲しい過去を思い出すのかと思うと…

「【Magnolia】でやろうなんて、言えるかっての」

 横断歩道を、落ちてた小石を蹴りながら進んだ。

「コロコロ転がる石、コロコロ転がる意志…」

 最近歌詞を書くのに熱心だったせいか――とくに意味なんて考えてない、とりあえず韻を踏んでみただけの独り言が、自然と口をつく。

 そのとき、前方俺のすぐ近くに、人影が見えた。こっちへ歩いてきているようだ。

 ――うわ、やべっ、独り言してたの聞こえちゃったかな?

 少し恥ずかしい気持ちになったので小石を蹴るのは止め、地面を向いたまま歩こうとすると―――

「それは、石と意志がかかってるのかな?」

 ――っ!? 何だいきなり?

 突然目の前から、俺の独り言(韻踏みバージョン)に対して質問を挟んでくる声がした。顔を上げると、2メートルほど先から――――

「昭敏!昭敏じゃん!!」

 ふちなし眼鏡をぶら下げた、見るからにこいつ理系じゃん、研究者じゃん、といった顔。今まさに着ている高校の制服よりも、白衣のほうがよっぽど似合いそうな外見をしている。

 そんな俺の幼なじみ、青葉昭敏あおばあきとしが――

 知的な表情の上に微かな笑みを浮かべ、俺のいるほうへと歩いてきていた。




「すぐ近くに住んでるっていうのに、久しぶりだよな~! 元気してた?」

「ああ。君こそ、相変わらずのようだな。」


 昭敏も、学校が終わり高尾駅から家に帰っていた途中らしく、たまたま俺の姿を見つけたからわざわざ俺の方へやってきたのだという。今日は部活が休みなので帰りが早かったらしい。俺と昭敏は家が近いので、自然と二人で並んで帰ることになった。


 青葉昭敏、高校2年生。同じ町内にすんでいることもあって、小学校に上がる前からの付き合いだ。中学校まで一緒だったのだが、高校は別。

 昭敏は、まあ見た目通りなんだが――頭が良い。それも洒落にならないレベル。数学オリンピックか何かで優勝したこともあるとか。マジパないっす。

 そんな昭敏だが、中学校の頃は俺と一緒にバスケ部に所属していた。実力的には俺の方が上だったかな。だけども、昭敏の建てる作戦や、冷静な判断力、適切なアドバイスなどは、もはや神。チームの参謀役として大活躍だった。

 昭敏の中学校生活といえば、「勉強」「実験」「バスケ」の三本柱で、しかもどれもがっしりと太い。小学校の頃はゲームなどもして一緒に遊んだっけな。だけど、中学に上がる頃にはほぼ先の三つしかしていなかったんじゃないか? 二人で遊んだ記憶といえば、中学校以降のだと、昭敏の実験――――ペットボトルロケットの噴水で虹を作るとか、混ぜるな危険の洗剤を混ぜて最強の洗剤を作るとかいう狂気の沙汰としか思えないこと―――――に付き合われたことぐらいしか思い浮かばない。

 まあ、俺と昭敏はお互い上手く付き合って来たわけで、豊島とよしま中バスケ部の二枚看板と呼ばれちゃう程の名(?)コンビになっていったわけなんだけど―――――

「昭敏、最近バスケやったかーい?」

「春休みに豊中の部活行って以来、やってないな。何分部活が忙し過ぎるものでね」

「俺も春休み以来やってないなぁ。あ、この前またスラムダンクを全巻読んだけどね」

「そいつは羨ましい。あれは名作中の名作だからな。もっとも、他のマンガはあまり読んだことはないけどね」

 俺も昭敏も、バスケは中学校で辞めた。俺はミュージシャンの道へ、昭敏は科学者の道へとそれぞれの歩を進めた。昭敏は、里乃ちゃんも通っている「景明学園」の、理化学研究部とやらに所属していて、毎日実験やらレポートやらで忙しいらしい。「大学かよ!」って突っ込みたいけど、高校。高校の部活でここまでするなんて――――さすがは、超難関進学校ですな。

「そうそう、ひのきは、バンドのほうは順調なのかい?あれからライヴ見に行けなくてすまなかったな」

 昭敏は去年の夏休み、【Magnolia】のライヴに初めて来てくれた。もっともそのころは―――――

 まあ、ご了承ください(笑)何分、素人だったもので(俺が)。そしてどんなライヴだったのかというと…

 ―――――ああ思い出したくない!!あんなBAD BAD BAD!な俺のギター……

 Aメロの時にBメロのギター弾いちゃうとか、ホントなにやってんですかー! 演奏中にピック落とすし、ギターのストラップが外れてギター落っことして足の小指直撃するし他にも…

 とにかく! あのライヴの記憶を持つ者をそのままにしておくわけにはいかねーなぁいかねーよ。

「ちょおっと待ったぁー! んん? あれ? あれからっていつ以来? ユーはまだ僕のバンドのライヴには来てないはずだよぉ? 実験のし過ぎで疲れてるんじゃあないのかなぁ?」

 俺はわざと大仰にポーズを決めながら、過去を改変するべく立ち回る。

「ふ、そうだったな。あのライヴは、僕は見ていなかったことになっているんだよな。君の中では」

「まあまあまあ、待ちたまえあーきとしくん。俺のライヴを‘まだ見てない’君へ――――」

 俺は通学鞄のサイドポケットから、黄色で縦長の、10枚程の紙の束を取り出し、昭敏の目の前に突き出し、続けた。

「ライヴチケットという名の、天国への片道切符を差し上げようではないか!」

 片道だと帰ってこれなくないか? と冷静に突っ込むメガネは無視し、俺は【Magnolia】が今度出演する予定のライヴについて説明を始めた。

〔用語集〕


・【マイスタンダードスタイル】

 たまにギターに向かって話しかけてしまうのも、マイスタンダードスタイル。


・【青葉昭敏】

 私立景明学園高等部2年。いわゆる科学オタクで、三度の飯より実験が好き。

 以外にも運動神経は良く、中学時代はバスケ部のレギュラーとして部の都大会出場に貢献した。

 現在は、世界を変えるほどの発明をするべく科学者の道を爆走中。成績は学年トップクラスであるらしい。

 音楽は、意外にも80~90年代のハードロックを聴くことがあるという。父親の影響によるらしい。

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