表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/17

練習後、マックにて。(2)

 八王子周辺でオリジナル曲を中心に活動中!

 先月6月に結成一周年を迎え、1stオリジナルアルバム(自主製作)を発表した、今もっともノリに乗ってる現役高校スリーピースロックバンド―――

 【Magnoliaマグノリア】!!!

 ……といえば、人気絶頂抱腹絶倒ライブハウスから出演依頼で引っ張り凧楽屋前には常に出待ちのファンがずらりずらり八王子でバンドをやっている人なら知らない人はいなかったら良いよねという妄想。

 ……まあ、現実はそんなに上手くいくわけもなく――かといって活動がマンネリになることもなく、俺から見れば『順調に』活動を継続しきている。‘……といえば’より前は本当のことだしね。

 高校入学前の春休みからギターを始めた俺は、その3ヶ月後――

 つまり1年前の6月に、同い年で現在高校2年生の修くんと、

 1コ年下で現在高校1年生のかわいい女の子、ベースの里乃ちゃんとバンド―――

 【Magnolia】を結成した。

 修くんは小学生からドラムを、里乃ちゃんは中学生からベースをやっていたので、当初はまったくレベルについていけなかった。

 とくに修くんは、どんな素人が見てもはっきりわかるほど上手い、いわゆる‘神ドラマー’で、ベースやギター、キーボード、ついでに作詞作曲までこなすハイパーマルチ音楽野郎なのだ。

 里乃ちゃんも、どうやったらこんな華奢な女の子(しかも後輩)からこんなダイナミックでウキウキする低音が奏でられるのだ! って具合にめちゃめちゃ上手い。

 うん。このギャップ、マジ萌える。

 ……だがまあ、格が違うとはいえ、これだけ上手いメンバーと1年も一緒にやっていればそれなりに上手くなる訳で――今じゃあ俺もそこそこ? 上手くなっている。(?←これを付ける具合には、俺はまだまだねってことだけれども)

 ていうかていうか、ハナっから二人は俺のギターなんかあてにしちゃあいないんですよね~コレが。まあ、口に出さないしアドバイスもたくさんしてくれるところが二人の良いところなんだけも。



 俺が買われたのは、【歌】だった。


……これなら納得してもらえるかな?



 ――――1年前の6月上旬、今年も猛暑到来確実だなぁと予感させられていた頃。父さんからお下がりでもらったアコギを抱え、(今から考えれば)無謀にも、八王子駅前で【オリオン】の【太陽とその他】という曲を俺は弾き語りしていた。そこをたまたま通り掛かった修くんに見事俺は‘スカウト’されたのだ――といえば聞こえが良いが、実際は「耳障りなギター聞かせんな」と路上に座り込んで拙いギターをさらしていた俺を一蹴し駅から遠ざかる修くんを、

「歌は上手かったでしょ!そこは認めて下さいお願いしまっす!」

 っと内心では怒りながらも修くんの怖い見た目にびびり卑屈に頭を下げながら俺は抗議したという。

 それがいわゆる、ファーストコンタクト。

 うん、我ながらよく頑張った。

 修くんは意外にも、俺の歌唱力は認めてくれていたようで――

「歳はいくつか?」

「ギターはいつから?」

「歌手目指してるのか?」

「バンドは組んでるのか?」

 など根掘り葉掘り聞かれて、

「バンド組みたいけど学校に軽音部がなかったから諦めました! 今はシンガーソングライターを目指してます!」

 と気をつけの姿勢でハキハキ答えてるうちに、なんやかんやで修くんが結成計画中のバンドにギターボーカルで加入することを承諾してしまった。

 こうして、俺は晴れて【Magnolia】の一員になったのである。

 ――なかなか面白い出会いでしょ。

 すでに決まっているというベースのメンバーが女の子だとは聞かされていなかったので、初顔合わせのときは驚いた。

 メンバーに天使がいると知ったら、世の健全な男子諸君なら誰でも驚愕し、二人を引き合わせてくれた幸運(この場合は修くん)にただただ感謝し手を合わせて拝むことだろう。実際俺はその場で拝んだ。

 そして言わずもがな――天使こと岩沼里乃ちゃんに、俺は恋をした。一目で。

 明らかな足手まといの俺に二人はとくに文句も言わず――オリジナル曲を中心にコピー曲もたまにやりながら、月1~3回ペースでライブを重ね、【Magnolia】は今に至る。



 【Magnolia】のオリジナル曲は、手持ちの10曲全て修くんが作ったものだ。そのうち7曲は作詞も修くんで、残り3曲は俺が作詞したやつ。つまり、俺の作曲した曲はまだ1曲もないわけで――

「おっと忘れるとこだった。今日は俺が作詞作曲した曲をお二人に披露するんだったね」

 俺は鞄の中からウォークマンを取り出し、はやる気持ちを抑え絡まりあったイヤフォンを解そうと指先を動かす。

 ――あれ? クソ、なかなか解けないぞコレ。

「あ、そうでしたね。私楽しみにしてたんですよ?」

「うっれしーぜぃ! ご期待どうもありがとう!」

 やっと絡まりがとれた。さあ、ショータイムの始まりだ!

「では、さっそく聞いて下さい! 作詞作曲館腰ひのき! 5曲目の持ち込みでついに採用なるか!? 全米が泣いた感動の超大作! 【生きて。でも、忘れないで】」

 その時、バシャン! と音をたて、ブラックコーヒーが修くんの手から滑り落ちた。テーブルの上に目を向けると、そこには黒い水溜まりが……

「悪ぃ。手が滑った。店員とこ行って拭くものもらってくるわ」

 ふふ、わかる。わかるぞ修くんよ。どうやら修くんはタイトルを聞いただけで、抑えることのできない高鳴る期待をほとばしらせてしまったようだな。

 心なしかフラフラとした足どりで、修くんはレジへと向かっていった。1分ほど経ったあと店員さんがやってきて、テーブルを拭いてくれた後――俺はさっきの曲紹介を一字一句間違わずにリピートすると、まずは里乃ちゃんからイヤフォンを付けてもらい、感動の超大作の幕を上げた。

ひのきは、最初は自分をモデルにしようかと思ったけど、「歌が上手い」って設定を入れたかったので諦めました(笑)




〔用語集〕


・【オリオン】

 今年でメジャーデビュー2年目を迎える、4人組ロックバンド。

 平成生まれの実力派というキャッチコピーでデビューした、日本ロック界期待のホープ。

 【Magnolia】のメンバーは全員【オリオン】ねファンであり、【Magnolia】のバンド仲間たちの間でも流行っている。


・【生きて。でも、忘れないで】

 館腰ひのき5曲目の自作曲。

 不治の病にかかった彼女を懸命に支えながら、共に二人で生き抜こうとする男の気持ちを表現した曲。今回ひのきが持ち込んだのは、ひのきによるアコギ弾き語りver.であり、ドラム、ベースの構成はまだ考えていない。


・【全米が泣いた感動の超大作】

 全米を泣かせる前に、メンバーを納得させましょう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ