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第九十一話 風と共に去りぬ~秘密の庭に舞い散る黒き羽~

都合により更新が遅れました。スミマセン><

「・・・はっ」



 目を開けると、そこはうっすらと肉眼で周りを確認できるぐらいの暗さの空間。下は床・・・とは言い難く、少しごつごつとした地面。手や足にくぼみのようなものが感じられる。どうやらここは、床といよりも地面と表現するのが正しいようだ。



「・・・イタッ!!」



足を少し持ち上げると、ぴちゃっと水滴が足につくような感触がある。その感触の中心点からズキズキと強い痛みが迫るようにやってくる。その痛みで気付いたからか、体全身からもじんじんと痛みが伝わってくるのがわかる。



腕を見れば、白っぽくなっていて、所々赤いものが顔を覗かしていた。そして上へ上へと辿っていくと



「大丈夫ですか、柳原さん」



その手は、力強く握りしめられていた。その手の先に、工藤君の笑顔がうっすらと暗闇から浮かび上がってくる。



「あっ、うん大丈夫工藤君」



 その手を見て思い出す。あの時、手を引いてくれたのは工藤君だったことを。左足の傷の痛みで倒れかけたところに頭上からは黒い柱。だけど、そのままじゃ穴の先には到底辿りつけなくて・・・



そこでグイッと引っ張り、私の体をこの空間に招き入れたのは紛れもない、ここにいる工藤君だった。すなわち命を救ってくれたのだ。



 また誰かに助けられた。そう思うと途端に自分が情けなくなる。健、有希、工藤君、そして蓮君。私は自分の身を他人に助けられすぎている。そのくせ私はなんの恩返しも出来ていない。誰かを助けることも、誰かの力になることも、私はこれっぽっちも出来ていない。



自分が歯がゆい。なにも出来ない自分が歯がゆい。そんな私に、今できることといったら・・・



「あ、ありがとう工藤君。その・・・助けてくれて」



お礼を言う、ただそれだけだった。



「いえいえ、みなさんを無事に帰すと言ったのはなにを隠そう・・・」



その時



フラッ・・・



 私の手を握っていた工藤君の手が急に無力になり、私の手からするりと滑り落ちる。



・・・ドタン!!



そして工藤君の体は、私の横を通り過ぎるように倒れていき、地面にその身をひれ伏した。




「く、工藤君!?大丈夫工藤・・・君?」




工藤君の体に触れようとした時、その伸びる手はピクリと止まり、すかさず後ろへ引っ込む。そしてこの暗闇から工藤君の体を目を凝らして見つめる。



「工藤君・・・これ・・・」



 浮かび上がった工藤君の体。そこには全身から真っ黒なもやもやした霧みたいなものがゆらゆらと工藤君の体を包み込んでいた。



その光景に、私は見覚えがあった。それもそのはず、ついさっき、あの白き空間で工藤君がブラックドラゴンの光線の射出を妨げるために受けた肩の傷。その時の肩から見えていた黒いものと、この黒は全くの同一だった。




「はは・・・こんなみすぼらしい姿で恐縮です。情けない事に、先程あの黒い柱を貫いた魔法は確かにあの黒い柱を破壊しましたが、あれは実は破壊したようにみえただけで、実際はたっぷりとその身であのブラックドラゴンの攻撃を、受けちゃってたんですよね・・・」



そう言って工藤君は笑みを浮かばせる。だけどその笑みにはいつもの軽快さは微塵もなく、それがあきらかに無理して作っているのかがわかる。声も震え、体も小刻みにプルプルと震えている。



あのブラックドラゴンの攻撃が、今この瞬間も工藤君の体を蝕んでいるのが痛いほどにわかった。



だけど、だけどそれでも笑みを見せようとする工藤君。痛いはずなのに、苦しいはずなのに、それでも弱音を吐くことはなく、淡々と、いや強引に自分の姿を保っている。




「どうして・・・どうして工藤君は・・・」




自然に、私の目からはポタポタと水滴が落ちていた。その水滴は暗闇の中でキラリと光り、そして地面に落ちて弾ける。




その工藤君の姿は、あまりにも悲しく、そして辛いものだった。笑顔なのに、その笑顔がさらに気持ちを一杯一杯にする。そしてあふれ、それが涙となって目からこぼれ落ちていく。




「いいんですよ、私のことなんて心配しなくても。だから泣かないでください。あなたの涙は私にはもったいなさすぎます」




「私はそれほど価値のある、存在ではないんですから・・・」




 その時、工藤君は少し顔をそむけて、なにかを呟いた。その言葉はスーッとこの空間に溶け込み、そして無くなってしまって聞きとることはできなかったが、その時の工藤君の顔は



「工藤君・・・?」



深い悲しみ・・・いや悲しみなんて言葉じゃない。自らの存在を恨むような、そんな感情が浮き出ているようだった。



「いえいえなんでもありません。それよりも、柳原さんにお願いしたいことがあるんですが・・・」




 そう言って工藤君は必死に顔を上げて、私に言った。



「な、なに・・・お願いって・・・」



私はそれを涙をすすりながら返事をする。腕で涙を拭おうとしたけどそれでも涙は止まらず、逆に広がって視界が少しぼやけてしまった。




「あそこにドアがあるでしょ?そのドアの先まで私のこの体を担いでほしいんです。怪我をしているあなたには酷なことだとは思いますが、どうかお願いできないでしょうか?」




 そう言って工藤君は顔を向けてその場所を指し示す。そこに目を向けると、そこにはひどくオンボロでサビつき、触れただけで倒れてしまうんじゃないかと思えるほど貧弱なドアが、一人寂しくポツンとそこにあった。




「わかった。大丈夫、私のことは気にしないで。私がちゃんと工藤君を運んであげるから」




そして私は工藤君の体に手をまわす。工藤君の体は恐ろしいぐらいに無抵抗で、スルスルっと手が通り、担ぎあげるのは容易だった。



ズシリ・・・




だけどそれでも男の子の体ということに変わりはない。身長も工藤君の方が高いし、私は少し前かがみの姿勢でないと、後ろにひっくり返ってしまいそうだった。



ズキズキ・・・



一つ一つの動作をするたびに、私の左足は悲鳴を上げる。立ち上がろうとする時には思わず顔をしかめるほどの激痛が走る。



だけど・・・




「・・・・・・」



私はその痛みを完全に無視して足に力を込める。足からは血が流れ出すのがそのつたう感触でわかる。だけど私は歯を食いしばって、強引に体を持ち上げる。



「・・・ふうっ」




そしてようやく、なんとか動けるぐらいの態勢にもってこれる。



「大丈夫か、玲?」



気付くと、横では健が有希を担ぎあげて立っていた。有希も相変わらず無表情で健の肩を掴んでいる。まるで親におぶってもらう小さな子供のようだった。



「大丈夫・・・このくらい屁でもないわよ・・・」




「そうか・・・うんさすが、やっぱり玲だな。お互い、頑張っていこうぜ!!」




 そして私は健の言葉に後押しされながら、動くたびに激痛が走る左足を完全に無視してドアの元へ歩み寄り、そしてそのサビついたドアノブを、ゆっくりと回して押した。




ギイイイ・・・




ドアはきしむような音をたてながら、その先の景色を少しずつ私の眼に映し出す。




「え・・・?もしかしてここって・・・」




その明るく開けた場所は




「そう、ここは学園に隠されたもう一つの中庭。通称「白天竜園」です」







「いや~ぶったまげたな~。こんなところにこんな庭が広がってるなんてな・・・」




 辺りを見渡すと、そこは広い敷地に草花があちこちに植えられていた。大きさとしては少し大きめの公園ぐらい、植えられているその草花はどれもこれも見たこともないものばかりで、淡い、色とりどりの幻想的な光を放っていた。




そんな草花に取り囲まれるように、中央にはポツンと二人分ぐらいの大きさのベンチが置かれていた。色は公園のイスにどこにでもありそうな色だったけど、なぜかひどく、あちこちが欠け、ボロボロになっていた。その周りは雪のように白色のなにかで埋め尽くされ、周りの淡い光とその白い地が合わさって、そこだけまるで別世界のようだった。



「・・・こんな形でここに来るなんて」



その時、健に担がれている有希が、なにかをぼそっと呟いた。



「ここを指定したのは偶然か、それともわざとなのか。もし後者ならとんだ悪趣味の持ち主ですね」



そう言って工藤君は、私に担がれながら顔をぐるりと向けて、なにかを見つめる。



「・・・時間的にはあと少し・・・か」



私もそれにつられて視線を向けるとそこには一本の、細長い棒に支えられた白い時計があった。時計の針は12時のちょっと手前、57分ぐらいを指している。



あれ?57分??



その時、私はなにかを疑問に思った。それがなんなのか、その答えが出てきそうで出てこない。そんな歯がゆさに私は襲われていた。



「さて・・・そろそろお出ましのようですよ」



 その時、工藤君が後ろを向いてそう口にする。



「お出ましってなにが・・・」



私がそう言って後ろを振り向くと



・・・グワシャァアアアンンン!!!



突如物凄い音と砂煙みたいなものが舞い上がる。その煙と共に、なにかの白い無数の破片が吹き飛び、地面にばらまかれていった。



「ま、まさか・・・」



・・・ウォォオオオオオンンン!!!



 その砂煙からうっすらと浮かび上がってきた黒き姿、そしてけたたましい大きさの叫び声、くっきりと浮かび上がる二つの赤い点。



その姿はまさしく



「ブラックドラゴン・・・」



ドスン・・・ドスン!!



ブラックドラゴンはその大きな体を揺らしながら、私たちの所へと徐々に近づいてくる。そのたびに地面は大きく揺れ、踏みつけられる草花はその光を失い、一瞬にして茶色に枯れ、そして黒色に染まっていく。



「っ・・・」



その光景を前にして、私達は言葉を失った。



ドスン・・・ドスン・・・ドスン!!



それを無視して、その漆黒の存在はどんどん近づいてくる。



「さあて・・・どうしましょうかねえ。伊集院さんは魔力の枯渇で動けないし、私もこんな状態ですし、相川さん、柳原さんもとても戦える状態じゃないですしね・・・」



そう、なぜ私たちはその姿を見つめているだけなのか。その答えは恐ろしいぐらいに簡単なこと



私たちにはもう、戦える力なんてどこにも残されていなかったのだ。



「天使回廊」での戦闘、ターゲットであるエフィーとの戦闘、そしてここにいるブラックドラゴンとの戦闘。今まで戦えてこれたことが逆に奇跡といっても過言ではなかったのだ。



そしてそれにも関わらず、有希や工藤君は自らの体を犠牲にして、無理やり戦ってきた。そして凌いできた。



だけどそれももう終わり。もう本当に、私たちにできることはなにもない。こうしてその姿を見つめることもやっと



私たちの抵抗は、もう終わった



終わったんだ・・・



「・・・・・・」



終わり?



グッ・・・



私の手に、強い力がこもる。どこに残されていたのかも不思議なぐらいの力がその手にこもる。




私の、私たちの人生がこれで終わり?この戦闘の結末がこれ?今まで必死に、死に物狂いに戦い、そして傷つき、倒れた。悲しみも絶望もなにもかもを味わった、感じ取った。



だけど・・・だけど私達はそれでも立ち上がった。力を振り絞って戦った。もう力が残っていなくても、無理やり絞り出して戦った。



みんな・・・みんな無事に帰る。たったそれだけのことを考えて、私達はここまで戦い続けてきたんだ!!



な~に言ってんだよ。そんなの当たり前じゃないか


ああ。そのためにも、こんなところで負けてられないな


一緒に海、行くって約束したもんね

         ・

         ・

         ・




さあ、行こう玲。俺達と共に、そして俺達の戦場へ!




ここが私たちの戦場、これが私たちの戦い。誰か一人が欠けるだけで、それは私たちの戦いではなくなる。



誰かが倒れればみんなで引き起こそう、誰かが悲しめばみんなで笑顔を見せよう、誰かが苦しめばみんなでその苦しみを分かち合おう・・・



柳原 玲、相川 健人、工藤 真一、伊集院 有希



そして一之瀬 蓮



これが・・・この五人が、この五人で・・・!!



私たちは仲間。DSK研究部の、メンバーなの!!



無事に帰って、そしてみんなでまた会って、話して、出かけて



私はもっと、もっともっとみんなと同じ時を過ごしたい。共有したい!!



みんなで・・・無事に帰る!!!



ダッ!!



その瞬間、私は担いでいた工藤君を下ろして目の前にいる漆黒の存在へと走り出した。足の痛みなんかもう忘れて、ただひたすら走った。



「玲!?なにやって・・・」



そして健の言葉も素通りして、ひたすらにがむしゃらに走った。



「蓮君!!そこにいるんでしょ蓮君!!!」



私は叫んだ。目の前のブラックドラゴン目掛けて叫んだ。自分の出せる限界以上の声で叫んだ。



「ほらっ、みんなここにいるよ!!私も健も工藤君も有希も・・・みんな、みんなここにいるよ!!みんなあなたを迎えに来たんだよ!」



「あと足りないのはあなただけ。蓮君・・・あなただけなんだよ??」



「さあ帰ろう蓮君。私たちの・・・私たちの部室へ帰ろう!!」



・・・グウォォオオオオオンンン!!!



「キャアッ!!」



その瞬間、目の前にあるもの全てを消し去るように、ブラックドラゴンは叫んだ。途端に地面は揺れ、凄まじい風が私を襲う。それに耐えきれず、私の体はゴムまりのように吹き飛ばされる。



・・・ズザアアア!!!



そして思いっきり地面に転がる。体のあちこちを擦り、いたるところから血が滲んでくる。だけどそれでも私は立ち上がる。すぐに立ち上がって足に渾身の力を込めて踏み込む。



「いけません!!相川さん、柳原さんを抑えてください!!!」



ガッ!!



 健は工藤に言われる前に動き、伊集院さんを担ぎながら玲の体をその手でガッシリと抑える。



「イヤッ!放して!!今行かなきゃ、今行かなきゃ蓮君は・・・蓮君は・・・!!!」



玲は力の限り体を動かし、暴れて健の手から離れようとする。しかし健はそれでもしっかりと玲を抑える。手をまわして暴れる玲を抑えつけ、なにがなんでも前へ行かせない。



「落ち着け玲!!今のあいつに叫んでも蓮は帰ってこない。それでお前が死んだら元もこうもねえじゃねえか。約束しただろ??みんなで無事に帰るって、またこの場所に戻ってくるって」



「でも蓮君が・・・蓮君が!!」



「バカヤロォ!!!」



その瞬間、健は玲に叫んだ。そしてギュッと玲の体を強く抱きしめるように抑えつけた。



「お前が死んだら・・・お前が死んだら一体誰が一番悲しむんだ?他の誰でもねえ、あいつだろ!蓮だろ!!」



「もしここでお前が死んだら、お前を殺したのは蓮ってことになるんだぞ??もしあいつが戻ってきて、その事実を知ったらどう思う!?」



「・・・・・・」



私は、なにも言うことができなかった。動かしていた手や足は死んだように力が無くなり、健が体を持っていないとすぐにでも地面に倒れ込みそうだった。



「今俺達ができることは、あいつを、蓮を信じて待つ。それだけなんだよ・・・」



 風が強く吹き荒れる。私の髪も風に乗って一緒に宙を泳ぐ。周りにある草花の葉っぱや枝などが辺りを飛び交う。



そして、健のその言葉も、風に乗って通り過ぎ、どこかへ飛んでいく。



「・・・時間です」



そしてその時



・・・シュォォオオオ!!!



ソラから黄金色に輝く、一本の槍が降り注ぐ



そして



・・・ンン!!ブシャァア!!!



その黄金の槍は、漆黒の存在、ブラックドラゴンの体を貫き、貫通させる。



ウォォオオオオオンンン!!!・・・・・・ウォオオン・・・オオン・・・



ブラックドラゴンは天高く叫んだ。そしてその瞬間



サラララ・・・



ブラックドラゴンの頭から細かい黒い羽へと分解されていき、風に乗って辺りにまき散らしていく。



「蓮・・・君・・・」



「くそっ・・・」



 そしてブラックドラゴンは黒い羽となって消えていった。無数の黒い羽がこの空間に降り注ぎ、玲達を包んでいった。そしてそこに、一本の黄金の槍が残される。



「・・・12時00分、作戦・・・終了」






これで第二章は終わりです。次回からはまた第三章と続いていくので、これからもまたよろしくお願いしますm(_ _)m

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