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第九十話 空間の果てに~闇へと延びるその手を掴んで~

「ハア・・・ハア・・・あと少し」




バシュッ、キーーーーンンッ!!




 背中の後ろで眩い光が打ちつけられているのがわかる。そしてその光は自分を通り越して前方を明るく照らし、真っ白な壁にところどころ反射してまた私の元へと帰ってくる。




この眩しく、そして光であふれた世界を私たちは走る。ブラックドラゴンによって開けられた穴をひたすら目指して私達は走る。




その先になにがあるのかはわからないけど、きっとその先に今までよりも良い結果が待っていると、心から信じて走った。




必ず、みんなの無事な姿がそこにあると、信じて・・・





「大丈夫、健?」




 走りながら私は隣で同じく走る健に声をかける。健は少し息を荒げながらそれでもなにも言わずに黙々と走っていた。その左肩には有希の顔がちょこんと乗っていて、両手でしっかりと健の肩を握っていた。




「ああ、大丈夫だ。このくらい余裕余裕。それに、伊集院さんの体ってびっくりするぐらいに軽いからさ、ちょっとした小さな荷物を運んでるみたいなもんだから平気平気」




そう言って健は私に笑顔を見せる。確かにその細い腕や足、体を見ているといかにも軽そうとは思えるけど、それでも無理な体勢で走っていることには違いない。それでもなんとか笑顔を見せようとする健は、少し、いやかなり優しすぎるような気がした。



それでも、しっかりと有希の体を支える腕、軽快な足取りで走る足、そしてその走るリズムに合わせてふわりふわりと揺れる有希の銀髪の髪。今の有希を担ぎながら走る健の姿は、微笑ましくも、そしてとても眩しいものだった。




「しっかし、あの穴の先ってなんなんだろうな??」




 健はくっと顔を上げて前を見ると、穴の先の真っ暗な闇を見つめてそう言った。穴の先は、その向こうがよっぽど暗いのか、それともなにか黒い煙みたいなものが立ち込めているのか




その先は暗く、冷たく、なにもかもを飲み込んでしまうような闇がうずめいていた。




「さあ、ね・・・。実際この場所自体どこなのかもわからないし・・・」




でもなんでだろう?




「まあ確かにな。どっちにしたってあそこ以外に行くことも出来ないんだし、余計なこと考えずに走るか」




それはあそこが闇に包まれているからか、それとも後ろにおぞましい邪悪な力を放つブラックドラゴンがいるからか。




「そうね。今はどうこう考えても仕方ないもんね。とにかく今は急ぎましょ!」




これは偽りでもなんでもない。




「だな!」





私は、心の中でぶくぶくと湧き立つ、嫌な予感を抑えられないでいた。





「・・・来る」




「え?」




 走っている最中、有希が突然一言だけそう呟く。




「来るって何が・・・」




私が有希に尋ねたその瞬間




「危ない!!みなさん伏せてください!!!」




「・・・!?」




突然、後ろから工藤君の叫び声が響く。




「危ないってなにが・・・ってキャアッ!?」




その瞬間、私は後ろから強い力を加えられて前へ思いっきり倒れ込む。




ズザーーー!!!




そして床へヘッドスライディングする。床と肌がぎりりとこすれて強い痛みが全身へ伝わっていく。




「一体な・・・」




「頭を下げて!!」




そしてまたなにかの力でグッと頭を押し付けられる。その反動で思わず顔を床に強打しそうになるが・・・




グウォォオオオンン・・・




その瞬間、頭すれすれの所で巨大ななにかが物凄い勢いで通り過ぎていく。そしてけたたましい音を引き連れながら遠ざかっていき




・・・パーーーン!!!




それは白い壁に勢いよくぶつかり、黒い黒煙をまき散らしながら弾け飛んだ。壁には印を押したようにくっきりと、黒い跡が残されていた。




「ふう・・・間一髪でしたね」




隣で息をつく音が聞こえる。そして気付くと、私の頭には掴むように手が置かれていた。




その手は力強く、そして温かく、それでいて深い重みのある手だった。




「く、工藤君!?」




頭に向けていた視線をゆっくりとずらすと、そこには笑顔ではなく鋭い視線を前方に向けた、工藤君の姿があった。その顔はところどころすすがついたように黒く汚れていて、うっすらと赤い染みも覗かしていた。




「おっとこれはすいません。何分急なことだったので」




そして工藤君は私の声を聞くとパッと手を私の頭から離し、スクッと勢いよく立ち上がる。私が驚いて思わず上を見上げようとすると、そこにすかさずにゅっと、一本の手が差し伸べられる。




「あ、ありがとう・・・」




その手を見て思わず躊躇してしまったが、そっと手を出すとぎゅっと強く握りしめられ、そして力強く引き上げられた。その反動で自然に私の体もスッと態勢を立て直される。



「ふう・・・って、健達は!?」



 服をパタパタとはたいていると途端に頭の中にその事が浮かび上がる。隣にいた、健や有希達の無事は・・・




「ふう、なんとかこっちも大丈夫だ。直前で伊集院さんが俺の足を蹴ってくれたおかげでなんとか回避できたぜ」




見ると、そこには床にうつぶせの状態で寝そべる健の姿があった。その上では、有希が変わらず健の肩をずっとその手でつかみ続けていた。それを見て私は安堵の息をもらす。




「よかった・・・。だけど今のは一体・・・」




「今のはあのブラックドラゴンの攻撃ですよ。こんなに早く閃光弾の効果が切れるとは、これは少し計算違いでした」




私がそう呟くとすかさず待っていましたと言わんばかりに工藤君が補足説明をしてくれる。それを聞いて私は後ろを振り返る。




「・・・・・・」




 そこには濃い煙が蔓延していて視界が遮られていた。しかし




グルルル・・・




その煙の中から、うっすらと赤い点が二つ浮かび上がってくる。そして、その煙が少しずつ晴れてくると、その漆黒の巨体が姿を現す。




「もうこうなったら強行突破です。さあいきますよ!!」




ダッ!!




 そして工藤君は再び走り出す。それに合わせて私たちもその背中を追いかけていく。




あのくり抜かれた穴までもうほんの僅か。もうすぐ目の前だ。




ウォォオオオオオオオンンン!!!




 しかしその瞬間




スゥウウ・・・!!ダーン・・・ダーン、ダーン、ダンダーン、ダーン!!!




その行く先を阻むように真っ黒な柱が幾つも目の前に乱立する。床ははぎ取られ、天井からは無数の破片が床に降り注がれてくる。




なによりこの真っ黒な柱はあきらかに異様な雰囲気をかもしだしている。あの黒々した色、そしてそこから放たれる不気味な光。どう考えても触れるだけでも無事では済まない感じだった。




「ふむ、どうやっても我々をこの空間から出さないつもりですか・・・」




しかし工藤君はそれに構わず走り続ける。だから私たちもいやおうなく付いていくしかなかった。




「だが、時間ももう残されていない。仕方ありません。ここで使うのは惜しいですが死んでは元もこうも、ないですしね!!」




キュッ・・・




そして、工藤君はいきなり立ち止まる。




「我切り開かん。風は切り裂き余は散りじりに、この身を一本の矢となりて貫き、我の前に道となってその姿を示せ・・・」




キュイインン・・・




工藤君が手に持った剣を腰のあたりに構える。するとそれを取り巻くように周りから白い筋のようなものが音をたてながら集まってきて、剣を巻くように少しずつ大きくしていく。工藤君の周りには、凄まじい強さの風が取り囲み、後ろにいた私たちはその風で前へと進めなくなる。




そして、その剣が白き大きな一つの鋭利なものになった時




「One arrow that・・・carries out wind road!!」




チュィィイイインンン!!!




そして




・・・ンン!!シュバァァアアアンンン!!!




工藤君の体は真っ白な光に包まれて、黒き柱に向かって射出された。




キィイイーーンン・・・




その光は凄まじい速さで漆黒の柱もろとも貫き、移動する。するとそこには消え去った柱の部分で形成された、円状の道が目の前に浮かび上がる。




「さあ、早く!!」




その先で、工藤君は私たちに叫ぶ。この光景に呆気にとられていた私たちは我を取り戻し、急いでその円状の道を駆け抜ける。




ウォォオオオオオンンン!!!




 穴まであと少しというところで、ブラックドラゴンのけたたましい声が空間に響き渡る。その声で地面は激しく揺れ、真っ直ぐ走るのがきわめて難しくなる。しかも・・・




「・・・!?」




上空に、幾本もの黒い柱




「まじかよ、冗談だろ!?」




上空に停滞する黒い柱、それが意味することは今一つしかない。




「急いでください!もう時間がありません!!」




そして、その黒い柱はあと少し、後ほんの僅かの所で、私達目掛けてつららのように落下してくる。




「くそっ!!」




バッ!




私の少し前を走っていた健は工藤君のいる場所へ勢いよく飛び込む。有希もしっかりと健の背中にひっついたいたまま、そのまま穴の先へ滑り込む。




「くっ!!」




そして私も足に渾身の力を込めて飛び込もうとした時





ズキッ・・・





え・・・?





・・・嘘でしょ?




プチンというなにかが切れる音と共に、左足に激痛が走る。




それは、ここに来て隠れることになった時に切ってしまった傷。なにか鋭いもので切って、血が流れ出し、そして・・・




蓮君に応急処置をしてもらった傷




ハラッ・・・




その傷を抑えつけていたハンカチ、蓮君のハンカチがハラリと外れ、宙を舞う。私はそのハンカチと同じように宙を舞い、前へと倒れ込む。




「っ・・・」




倒れ込みながら私は必死に手を伸ばす。だけど無情にも少しずつ下へ下へと下がっていく景色。





と、届かない・・・?





その瞬間、伸ばしていた腕の先、上へ向けていた手のひらが下へぐったりと垂れさがる。





「柳原さん!!!」





「・・・!?」





グッ!!




その時




私の腕を掴み、強く、そして強く引っ張る一本の手があった。




その手は私の手が壊れちゃうんじゃないかと思えるほどに強く引っ張り、私を前へ前へといざなう。そしてその穴の闇の先へと、私の体は吸い込まれていく。




その手の力強さと温かさを、私は、ずっと前にも一度感じたことがあったような・・・




・・・ッ、ガシャガシャーンガシャガシャーーーンン!!!




そして・・・





ズザアアアーーーー!!!





 私は、勢いよく地面に滑り込んだ。






本当はこの回で一区切りつけようと思ったんですが、都合により次回に回すことになりました。スイマセン><


次回でこの章は終わりなので、またよろしくお願いしますm(_ _)m

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