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第八十七話 真なる姿~暴走、そして現れる血塗られた竜~

「ククク・・・フフフ・・・ククッ・・・」




 キラキラと、その光の粒は消えていく。そしてそこに残ったのは、一つの紫色に怪しく輝く宝玉と、蒼く光るカケラ。




「ソラノカケラ」であった。




「フフフ・・・アーハッハッハッハーーー!!!」




空間に響く甲高い笑い声。その声の主は振り抜いた剣をゆっくりと掲げ、そのキラリと黒光りする剣筋、そして紅き竜の紋様を見つめながら言った。




「その程度の力で我の存在を脅かそうとするとは、身の程知らずにも程がある」




「そんな状態で、我に刃向かうとは愚かなり・・・。我こそは破壊の化身。我は全てを破壊し、闇に葬る呪われた存在」




「これはあくまで序章に過ぎない、これは我の闇の表部分でしかない」




「我の闇の全てを、今・・・解放する!!」





そう言ったその瞬間




グシャッ!!




なんとその黒き闇をまといし存在は、その自らの持つ漆黒の剣を勢いよく自分の体に突き刺した。そしてゆっくりとその紅き瞳を閉じる。




「・・・!?」




その光景を見て、そこにいるDSK研究部のメンバーは唖然とする。




「な、なに・・・なんなの・・・??」




慌てふためく玲。その表情には不安と恐怖が深く根付き、くっきりと浮き上がらせていた。




「・・・・・・」




それでも無言のままの伊集院さん。しかし意外にも、工藤も伊集院さんと同じように無言で、そして無表情で、その光景をじっと見つめていた。




その眼はまるで遠くを見つめるように、そして今起きていることを冷静に捉え、その眼で見切っているかのようだった。




「・・・これが、落日の軌跡か」




そして工藤はぼそりと、そう呟いた。




「くそっ、なんだってんだよ。なんでこんなに邪悪な気配が流れてくるんだよ!!」




興奮気味に話す健。その眼差しは目の前にいる一之瀬 連という存在に向けられたものではなく、全く違った、それ単体の存在に対して抱いた恐怖だった。




 そんなDSK研究部の様々な思惑と感情が交差する中、事態はそれを無視して進んでいく。




「解き放て・・・お前はこの世界に絶望してるんだろ?落胆しているんだろ?自分の存在を、自分の置かれている現実を、そしてそんな世界を呪っているんだろ?なら壊せ、破壊しろ。そんな世界、お前のその手で闇に葬ってしまえ・・・」




「お前にはそれだけの力がある。成すべきことをなせ・・・お前は破壊と混沌の存在」




「呪われし竜。ブラックドラゴンだ!!」




ピキーン・・・!!




その時




体に突き刺さっていた剣の部分が激しく赤く光る。そして




「・・・ウォオオオオオオオオオンン!!!」




 その存在は突然、天を仰ぎながらけたたましい声で叫んだ。その声は大きく、激しく空間を揺らし、声だけで強い地響きをたてていた。そしてそれは人間の声ではなく・・・




シュウン・・・グウォォオオオオンン!!




叫び声の後、その存在をドス黒い霧が覆いかぶさりその姿を包んでいく。




「・・・始まりましたか」




 それを見た工藤は一言だけそう呟き、ひとりでに弓を手にし、構えていた。




「一体・・・何が起きているというの!?」




そんな一人、いや二人以外の玲や健はなにが起きているのかもわからず、ただひたすら慌てふためいていた。



「みなさん落ち着いてください。そして慌てずに武器を構えてください」



工藤はそんな二人に向けて言い放つ。そして玲と健の二人は言われるがままにそれぞれ武器をその手に収める。




「いいですか?これから私が言うことをしっかりと聞き、そのとおりに動いてください。でないと」




「死にますよ?」




工藤は言った。冷静ながらも、その言葉には深い意味が隠されているような気がした。




そもそも、この状況下であの落ち着き、そしてあの物言いはなんなんだろうか。玲は少しだけ疑問に思っていた。工藤がいつもそんな感じで接しているこということは充分すぎるほどに知っている。だけど今回の件では・・・




プルプル・・・




玲は大きく横に顔を振った。




(今この事態の時に、変な迷いが生じたらきっと迷惑をかけることになる)




 今のこの状況、どう考えても自分がどうこうできる状況ではなかった。だからこそ、今は何も考えず、工藤君の言うことをしっかりと聞きとり、そしてそれを今自分ができるかぎりの力で応えよう。玲はそう思った。



そうすれば、このもやもやした気持ちも忘れられる。なにも考えずに目の前のことに集中できる。そう思った。




「わかったわ」




「了~解」




 玲と健は同時に工藤の言葉に応える。その言葉はいつもよりも澄んだ言葉だった。




「はい、ではまず一つ目」




「今の「あれ」を、間違っても我々の知る「一之瀬 連」だとは思わないように」




「・・・!?」




工藤の最初の指令は、しょっぱなにしてはインパクトの強すぎるものだった。




「今のあれは、なんといいますか・・・」




そう言って工藤は深く考え込む。その顔は深刻そうな顔で、見ているだけで不安みたいなものが増してきそうだった。




「一言で言うなら、「暴走」、ですね」




 その瞬間、辺りの空気が一変した。そしてみんな一斉に向こうで起きていることに目がいく。




そこでは黒い不気味で、恐怖であふれ、見るものすべてを陥れるような闇に覆われながら悲痛な声を上げる蓮君・・・の姿があった。




「暴走・・・」




「はい。今の彼を現すにはそれが最も的確です。今の彼は完全に自分の制御外の状態です。一之瀬 蓮という存在はもうなく、今我々がなにを言っても反応はなし。ただひたすら強大かつ莫大な魔力を放ちながら破壊を繰り返す、一種の・・・悪の化身のようなものですかね」




 工藤は笑顔のままでそう言った。しかしその顔は、とてもこの状況に対して本当に意味での笑顔、とは言い難いものだった。




説明する口調はいつもと変わらないけれど、どことなく違和感が滲み出ている。それははっきりと不安や恐怖を出される表面的なものより、ある意味深く、内側から不安といった感情を刻みつけていくものだった。




「まあとにかく今の「あれ」を一之瀬さんとは思わないことです。それでこちらからの攻撃に支障がきたされれば、間違いなく私たちは危険にさらされるでしょう。一瞬の気の緩みがそのまま生死につながります。そうそう、二つ目ですが・・・」




工藤はいきなり話を変えると、黒く、もやもやとした不気味なオーラを放ちながらうずめく「あれ」を、目を細めて見つめながら言った。



「これも大事なことですが、いまからやるのは「回避行動」です。間違っても反抗、もしくは対抗しようなどと思わないように」




 工藤の見つめる先にあるのはどんどんとその邪悪なオーラを拡大していく一人の存在。それを見つめる工藤の姿はなにか近寄りがたく、決して踏み入れることのできない空間が、そこにあった。




「回避行動・・・てことはここから逃げるってことだよな?」




健は工藤に尋ねる。それを聞いた工藤は目の色を変えて健に向かって言い放つ。




「逃げる・・・というとなにか私たちが情けない感じになりますが、ちなみにですけど今の彼の強さは、あのシリウス・・・竜王様と比較しても同等、いやまかり間違えばそれ以上かもしれないんですよ?そんな彼に、あなたは刃を、それも真っ正面から向けようというのですか??」




「・・・っ」




工藤がそう言うと、健の顔に一層不安の色がさらに濃くなる。まあどちらかといえば、この状況でもひょうひょうと話す工藤のせいでいまいち今の状況の深刻さがわからなかったのだが、シリウス、竜王の名、それもその力と同等といわれれば、嫌でもその強さと事態の深刻さは伝わってしまう。




それほどに、竜王の力と同等という言葉には、物凄いインパクトがあった。




「でも・・・回避と言っても一体どこに向かおうっていうの?」




 玲は尋ねた。ここはこの学園内でもかなりはずれにある場所。今行ける場所といえばここに来る際にも通った「天使回廊」ぐらい。しかしその入り口はあそこにいる黒き存在の向こう側だし、今からあそこへ逃げ込んだところで絶対間に合わないだろうし、そもそもここに来る前にターゲットであるエフィーがその天使回廊を破壊したし、おそらく通れる状況ではないだろう。




「まあそれについてはあなた方は心配しないでください。こちらでなんとかしますから」




 しかし工藤は笑顔でそう言った。こちらでなんとかするとはいっても、一体どうするつもりなのだろうか、それはいくら考えてもわからないことだった。




今はなすがままに行動するしかない。皆がそう思った。




工藤だから、「あの」工藤だから必ずどうにかしてくれる、今までならそう感じていたが、しかし今回は一度ターゲットに工藤はやられている。だからいつもは感じなかった「不安」が、そこにはあった。




だけど、それでもみんな工藤を信じる。全てをまかせる。それほどに、いつも嫌味な工藤の信頼は、厚いものだった。




「ならまだ蓮・・・じゃなくてあそこに居る奴が動く前に早く行動した方がいいんじゃないか??」




 健はどんどんとその黒いオーラを広げるも、ピクリとも動こうとしない存在を見てそう言うが、工藤はそれに対して首を振った。




「確かに、普通ならそうするところでしょうが、今回はちょっと特殊でしてね。それにほら、そんなことを言っている間にもう「真なる姿」への変形の準備は終わったようですよ」




工藤はまた視線を黒き闇の存在へ移す。そしてそれにつられてみんなもそちらを向くと・・・




「・・・ッ、ウォォオオオオオオ!!!」




シュシュッシュイン!!、シュインシュイン・・・




 そこに居た、雰囲気こそ明らかに違えど一之瀬 蓮の形をしていた存在が、その姿を変えていく。




腕は真っ黒に染まり、手からは鋭い大きな爪、服を突き破るようにして巨大化していくその体はどんどんと黒き闇に染まり、背中に生えた翼と共に大きくなっていく。その姿は今までの人間の姿からかけ離れたものとなっていき




そう、その姿はまさに・・・





「ウォォオオオオオオンンン!!!!」





最後に顔には真っ赤な不気味な光を放つ目が二つ。そしてそれは翼を大きくはばたかせ、天を仰ぎながら大きく叫んだ。その声で辺りが地響きをたてながら大きく揺れる。




「ま、まさか・・・あれが・・・」





「ええ。あれが一之瀬さん、いやブラックドラゴンの真の姿。その圧倒的な力で人間達を虐殺、そして街や村を破壊し尽くしたとされる落日の立役者。血塗られた呪われしドラゴンです」






 

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