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第八十三話 俺の存在は・・・~理由、少女、そして繋がる空間~

「やっと・・・やっと私がここにいる目的を果たすことができる・・・」




 白と黒。明るいのはもちろん白。白と黒なら黒の方が怖い。白の方が明るくて安心感が生まれる。




だけど、白はなににも汚されていない色。そこに一滴でも違う色が落とされれば、白はその色をくっきりと、はっきりと映し出す。




明るい色はもちろん、暗く、恐怖と絶望の色もまた、映える。




黒なら飲み込んでくれる恐怖も絶望も、白はそれを逆に全面的に押し出す。だから恐怖もさらに押し出される。そしてその眼に更なる恐怖を映しだす。




白は明るい。だけど白は怖い。白と黒、二つの相反する色は共に真逆の性質を持ち、それぞれの色どりを添える。




黒は暗闇から光を。そして白は光から暗闇を・・・




「しかし、私の魔力統制譜術ドラゴン用を受けても立っていられるなんて、やっぱり噂どうり、普段のあなたは本当に魔力がないのね。あっても普通の人間より少し多いか否かってところか・・・」




 なにかに張り付かれたように固まる俺の周りを、ゆっくりと、一歩一歩を噛みしめるようにエフィーは歩く。そして動けない俺をあざ笑うかのように見つめる。




ポタリポタリと、赤い水滴が落ちていく紅き剣を持って。




「いや~でも?この状況を作りだすために払った代償は結構大きかったんだよね~。超くせ者の工藤君とか、数少ないSランクドラゴンの伊集院さんとか、相手にするの結構疲れたんだから~」




「でも」




そしてエフィーはピタリと止まる。




「形はどうあれ、こうして二人っきりになれたんだから結果オーライだよね」




「蓮君」




 二人っきりの空間。確かにここに動いている者は二人。正確にいえば動いている者一人と、動くことはできるが、魔法の力によって動けなくなっている者が一人。




だけど、この空間には確かに後四人いる。動くことはできなくても、確かに俺の周りには仲間、DSK研究部のメンバーがいる。




みんな、俺よりずっと力があって、強い意志を持っていて、そして誰よりも仲間のことを思っていた。なのに・・・




(くっそ~・・・)




なんで無事なのが「俺」なんだ?メンバーの五人の中で「俺」以外ならもっとこの状況をなんとかできるというのに。俺以外だったら誰でもいいというのに。どうして、どうしてその俺が、五分の一の確率を引き当ててこうしてここに立っているんだろう。




体は動かず、剣もその手から離れて床に突き刺さり、今の俺はなにも出来ない状態。こうして普通に息ができるのが不思議に思うぐらいに、俺は顔から下の体の身動きがとれない。この顔だけは動かせるのはエフィーの仕業なのか、それともそうでなくてはならなかったのか、気にはなるが、今の俺にはどうすることもできない。




仲間が倒れているのに、血を流しているのに、俺にできることはない。情けない、本当に情けない・・・




俺には力がないのか?俺は誰ひとり救えないただの役立たずなのか?そんな俺が、どうしてこんな世界に迷い込んでいるんだ。




俺がここにいて、誰か幸せになれるのか?俺がここにいることに、意味はあるのか??




「蓮君、いくつか質問させてもらうんだけど。あ、ちなみに質問に答えなかった場合、問答無用でその首をかっきるからよろしく~。ではまず始めに、あなたは・・・「あの」ブラックドラゴンなんだよね??」



エフィーは俺を覗き込むようにして尋ねてくる。その紫に光る瞳は、今までの戦闘時の眼とは異なり、まるで、一人の少女のようなあどけなさが残った眼だった。それでも、言っていることはめちゃくちゃだったが・・・




「ああ一応そうだけどそれがどうした?」




俺はそっけない感じに返答をする。どう考えても、仲間を傷つけた相手とすんなりと会話が弾むわけがなかった。そもそも「あの」ってのが気になって仕方なかった。




あれ?大体なんで俺は普通に受け答えしてんだ??相手はターゲット、しかも既に俺以外のメンバー全員をその手にかけたんだぞ?それも体を突き刺し、切り裂き、そして血しぶきをあげてあられもない姿にして・・・




この時の俺は感じ取っていたのかもしれない。さっきの覗きこんでくる瞳といい、目の前に居るのはどこにでもいる、愛らしい一人の少女だった。姿こそ、白髪に紫の瞳、頬に付いた赤い染み、そして剣にべっとりと付いた赤い液体。姿だけをみれば、それが普通の存在とは全く思えないのだが




なぜか雰囲気は、一人の普通の女の子だった。俺はその雰囲気に、一人呑まれていたのかもしれない。




呑まれた?この感触は呑まれたということなのか?



「ふ~ん。あなたのことはよ~く周りから耳にするよ。私たちの仲間、ウィスパーとアビシオンの両名をその力で瞬殺したって。まあウィスパーの方はいいとして(笑)アビシオンの方は、そこそこに私ほどではないけど力はあったんだけど・・・」




「それでも瞬殺、だったんだよね?」




エフィーはまたグイッと顔を近づけて俺に尋ねてくる。ターゲットとはいえ、あんまり近寄られてしまうと反射的に顔をそむけてしまう。



「そ、そうらしいな・・・」




「そうらしい?」



エフィーは不思議そうに俺を見つめる。



「俺は、覚醒だかなんだか知らねえが、そん時の記憶はこれっぽっちも残ってないんだよ。気付いたらいつもベッドの上さ」




 途中までは覚えてる。だけどそこから切り取られたようにそれからの記憶が抜けている。そう言う時に限って、俺ではないもう一人の「俺」が姿を現し、その圧倒的な力で相手を圧倒する・・・




圧倒的な力、か・・・




その力は俺とは比べ物にならないぐらいに強い。恐ろしいぐらいに強い。今の俺ではなにもできないのに、そっちの「俺」は自分の置かれている状況をどうにでもできる。自由自在に扱える。続いていく道を捻じ曲げることだってできる。




じゃあなんで、ここにいるのはその「俺」じゃなくて今の「俺」なんだ?




そもそもなんで、俺という存在は二つあるんだ?




そして、どうして俺は存在しているんだ・・・?




「どうしたの?蓮君」




「・・・はっ!?」




いかんいかん、完全に自分の世界に入っていた。だけど、そう感じれば感じるほどに、自分という存在がなんなのか、そして自分はなぜ存在しているのかがわからなくなる。




もしかして、俺という存在はもう一人の俺の代用品なんじゃないのかと、一瞬心の中で思ってしまった。途端に身動きがとれないことも手伝って、俺、自分がなんなのかわからなくなり、頭が真っ白になる。




くそっ・・・最近はそのことを忘れてたのに、また思い出しちまった。




「な、なんでもねえよ!それよりも質問ばっかしてないで、もったいぶらずに煮くなり焼くなり早くしやがれ!!いつまで・・・いつまで俺をこの状態のままにしておくつもりだ!!」




俺は思わずエフィーを怒鳴りつけてしまった。しかも自分の置かれている状況も考えず、自ら早く殺してくれと言うなんて・・・




「・・・ふう」




 それを聞いたエフィーは大きくため息をつき、こちらに背中を向けながら一歩二歩と離れる。




「二つ目の質問。どうして私はここにいると思う?」




「・・・!?」




エフィーの放った言葉は、思ってもみなかった意外な質問だった。




「そ、そんなの知るかよ・・・」




俺の言葉は弱弱しく、ターゲットに辿りつく前にボトボトと落ちていくようだった。そしてまた、エフィーから視線をそらす。




「じゃあ三つ目の質問。私とあなたはどうして戦っているの?」




 エフィーは間髪いれずに質問を放ってくる。そのいずれも、ターゲットの意図が全く読めないものだった。




俺をおちょくってんのか。それとも真剣に、真面目に俺に聞いているのか。




「そ、そんなの・・・」




「私がターゲットだから?」




「・・・!?」




 俺が言う前に、エフィーは言葉を繋いだ。しかしその言葉は、完全に俺が言おうとしたことと一致していた。そしてそれにより俺は言葉を失う。




「ま、確かにターゲットと竜族。それだけで充分戦う理由にはなれそうだけど、でも誰に、どう言われて私たちターゲットが「敵」だということになったの?」




「そ、それは・・・」




 ターゲットと戦う理由




ターゲットの脅威から、一般生徒、人間を守るため。そして




自らの過去を、知るため・・・




「・・・・・・」




エフィーは俯いたまま黙る俺を突き刺すような視線で見続ける。やがてその続く沈黙にいや気がさしたのか、エフィーは静かにその小さい口を開いた。




「まあいいわ。実際私は今のところあなたのお仲間をあられもない姿にしちゃってるんだから。敵以外のなにものでもないよね。それに聞かなくても大体はわかってるし」




「どうせ、私たちから人間を守るため、っていうつもりだったんでしょ?」




・・・・・・




俺は、なにも言うことができなかった。




「数百年前のメリルの日からずっと、竜族は人と共存し、人のために尽くしてきた。人々が竜族の存在など忘れ去ったとしても、その姿を隠しながら竜族は人間を守り続けた」




「そしてあなた達もそれにのっとり、竜王だかなんだか知らないけどその命令に従い、この学園に来てターゲットと戦い、人間たちを守ってきた」




「そんなに人間が大切?自分とは違う種族の者を命がけで守る必要って、あるの??」




 

 エフィーの言葉が響いた。この空間にも、俺の心にも。




人間をなぜ守るのか。どうして違う種族を守るのか。




 その時、俺の頭の中にいつもの学園、いつもの教室の風景が映し出される。




いつも無駄に賑やかな教室。とりとめもないことを話し、くだらないことで笑う。




だけど、なぜか心温まる。その心、その温かさは優しく包み込む。人間は確かに愚かな生き物だ。すぐに自分以外のことを考えられなくなるし、すぐに争いも起きる。だけど



それが一つの命であることに変わりはない。みんな一人一人必死に生きている。みんな頑張って日々を過ごしている。




そんな大切な命一つ一つを奪われること、ましてや知らない間にその存在を消されること。そんなことが、そんなことがあっていいはずないだろ!!




それに




「蓮君」




俺は決めたんだ




「蓮君、大丈夫?」




必ず、必ず一人の少女を守るって・・・




「理由なんてねえよ・・・」




 俺は俯きながら声に出す。




「守りたいっていうことに、理由なんていらないだろ!!」




そして俺は顔を上げて言った。



「使命とか宿命とか、そんなのどうでもいい!俺はただ純粋に守りたいんだ!!」




「一つの命を。人間の命を」




 俺の言葉は空間を大きく揺らした。確かにそれは俺には過ぎた願いかもしれない。だけどそれが、俺の素直な、正直な気持ちであることに違いはなかった。



仲間の身も守れない俺が言えたことではないけど、失いたくないものがそこに、確かにあった。




「ふ~ん・・・。あなたも強い「意志」を持ってるんだね。全く、本当に羨ましいなあ~」




「だけど・・・」




 エフィーはそう言うと、ゆっくりと剣を持ち上げる。




「そういうのを見てると、余計に壊したくなっちゃうんだよね!」




シュオン・・・




エフィーはそう言うと、もう一つの剣をもう片方の手にだした。それは先程の蒼色ではなく、深い、惑わすような紫色だった。そしてエフィーはそれを



ビュン!!




壁に向かって投げた。剣はぐるぐると回り、怪しい光を放ちながら飛んでいき、そして




・・・ヒュルルルッ、グサ!!!




真っ白な壁に突き刺さる。




「さあここで問題です。今この空間は私のものであるということは知っていると思いますが、自在に物事を操れるなら、空間と空間を結ぶことは、果たしてできるんでしょうか?」




エフィーは不気味な笑みを浮かべたまま、俺に尋ねてくる。



「空間と空間をつなげる・・・?」



 

 その時俺は、一瞬にしてその答えがわかってしまった。わかりたくなかった答えが、なぜか俺は瞬時に頭に浮かんでしまった。



「ま、まさか・・・!?」



俺が声を上げると、エフィーはにやりと微笑む。




「あ、わかっちゃった~!?」




ピシピシ、ピシ・・・バリーン!!!




 その瞬間、激しい音と共に白い壁がガラスのように崩れさる。いや、その先に新たな空間を作り出す。




その先の空間とは・・・




「い、1年、A組の教室・・・」




そこにあったのは、見慣れた風景。それはまさしく




「そ、大当たり~!!蓮君の普段いつも通ってる、蓮君の教室で~す!!」







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