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第八十一話 神が決めた現実~消えていく灯は運命か~

「うおおぁぁぁああああ!!!」




 走り去る一つの存在。その眼にはある一点を、その手には銀の銃を。紅に染まる彼の炎はいつも明るくて暖かくて、時に頼りがいがあって、時に安心感を抱かせてくれる。しかし




怒りに満ちたその時。炎は誰をも寄せつかぬ、地獄の業火へとその姿を変える。




「我に宿りし竜炎の力よ。この場にいる悪しき魂をその炎で焦がし、この場を炎で火炎舞踏に祭り上げろ!!」




「incarnation dance of flame breath・・・」




フゥ・・・ブウォォオオオオ!!!




健は放つ。それはさっき俺と居た時にも唱えた呪文。しかしその炎は先程の炎とは全く違う。燃えたぎり、うずめくその炎はうめき声でも聞こえてくるような、怒り、そして憎しみという感情がその一つ一つに宿っていた。




今の健の炎は怒りそのまま。あの奇麗で、明るかった炎は醜い悪の化身へと、その身を変化させていた。




「くっ・・・ダメだ健!戻ってこい!!」




 炎はこの一帯全てを包んだ。火の粉が舞い、強い熱風が襲い、中心地点へ誰も寄せ付けさせない。誰も踏み入れさせない。




だけどこのままじゃ・・・このままじゃ健が危ない。




どんどん湧き立つこの嫌な予感は、もはや気のせいというレベルで片付けられるものではなくなっていた。それはそっくりそのまま、この世界とその予感の中の世界が入れ替わってしまうんじゃないかと思うほど、鮮明に映し出されていた。




ここで誰かが止めないと、健もまた遠くに消えてしまう・・・。それだけは、それだけは!!




グッ!!




「・・・!?」




 俺が走りだそうとすると、伊集院さんが俺の制服を掴んで、どこにそんな力があったのかと思わせるほど、強い力で俺を抑えつけていた。




「い、伊集院さん??離してくれ!行かせてくれ!!今行動を起こさなきゃ、今止めに行かなきゃ健は・・・」




「もう・・・遅い」




「・・・っ!?」




 伊集院さんの一言で、俺の前へ進もうとする力は一瞬にして、消え失せた。目の前に広がるのは燃え盛る紅の炎。そのゆらゆらと揺れる炎は健とターゲットの姿を隠し、俺の目の前から二人の存在を消し去った。




「俺は・・・俺は仲間一人守ることができないのか・・・?」



俺は呆然と立ちつくしたまま、口から滑りだすようにそう呟いた。



「何度も助けられ、そして力になってくれた親友を、俺は助ける事もできないのか・・・?」




「今のあなたには、どうすることもできない」




ドサッ・・・




俺はその場に膝まづいた。体から魂が抜けたように、力が全て抜けた。剣は床に突き刺さり、漆黒の刃は炎の紅を照らし、刻み込まれた紅き竜の紋様はその紅を飲み込み、テラテラと不気味に光っていた。




「・・・俺には。今の俺には、どうすることもできない、か・・・」




その業火の中で起きていることは、まさに神のみぞ知る世界。踏み入れることも、刃を交える事も許されなかった。



その炎に、俺が入り込む余地などどこにもなかった。




今の、俺には・・・






「その程度の力で、私に挑もうと思うなんて、よっぽど命が惜しくないのか、それともバカなだけなのかな?」




ズシャァァ・・・




 ターゲット、エフィーの剣が健の炎を真っ二つに切り裂いた。切り裂かれた炎は散りじりになり、うっすらとその影を残していきながら消えていった。



「これだけが、俺の力の全てと思うなあ!!」




ドキューン、ドキュドキューン・・・




銀の二丁銃から幾つもの弾丸が放たれる。弾は回転しながら風を切り、渦を作りながら前へ前へと進む。




「だから、この程度で私に勝てるわけないでしょ?それとも、わざとなのかなあ??」




ピピキーン、ピキピキーン・・・




高い弾くような金属音と共に、弾はエフィーの手元で弾かれ、真っ二つに割れ、パラパラとゴミくずのように足元へ落ちていった。



「くっ・・・やっぱり魔法で勝負するしかないか・・・」




ギュァァア!!




健は体を反転させ、足で踏ん張って方向を変える。




「この炎の中では俺の力は最大限まで引き出される。相手にとって不足はねえ!!」




そして健はグッと両手の銃を天高くかかげた。



「業火をまといてその紅をこの手に宿し、装填。赤き弾丸はその身を貫き、向かうもの全てを焼き尽くす」




「それが俺の紅き弾丸。悪の魂をその身で焦がせ!!」



健が叫ぶと、周りに渦巻いていた炎が主の命令に従うように、とぐろを巻き、けたたましい音を立てながら健の銀の二丁銃に吸い込まれて、凝縮されていく。



「さあたっぷりと味わえ!俺の業火の弾丸を!!!」




「Shooting of condensed conflagration bullet!!」




チャッ!ドキューン!!!!




グォオオオオァアアアア!!!




 紅に染まる両手の銃を一つに合わせ、射出する。放たれた一発の弾丸はおぞましい音を立てながら目の前を遮るもの全てを焼き尽くしながら飛んでいく。



それは健の想い、意志、感情、そして魂全てをその身に宿して飛んでいく。一つの目の前に居る存在、エフィーを目指して。




「・・・なぜ、そうまでして仲間のために戦えるの?」




ピキッ!!パキパキパキ・・・




「・・・!?」




 突然、それは凍っていく。健の放った業火の弾丸は、ターゲットの目の前まで来た瞬間、突然その動きを止めて凍っていく。キリキリと音を立て、氷は弾丸はおろか、まわりにたむろしていた炎でさえもその氷で支配していく。




「この空間は私の空間。今襲ってくる攻撃を目の前で止める。そして炎を氷に変化させる。ついでに周りの環境も空気も全て私の思い通りに変化させる」




「どんなに強い攻撃でも、それにどんなに強い意志が宿っていても、この空間では全てが私によって制御される」




フワリ・・・




エフィーは舞いあがり、立ちつくしている健へ近づいていく。健はピクリとも動かず、両手をブラーンと下げて、ただただ近づいてくるエフィーの姿を見つめていた。




「それなのに、そうとわかっているのに、なぜあなたは今こうしてここに居るの?なぜあなたは私に刃を向けられるの?」




エフィーの言葉を聞いて健はピクリと反応して、そしてスッと顔を上げて言った。



「仲間のため・・・かな」




「仲間のため・・・」




周りにあった炎はもう完全に氷へとその姿を変え、二人の周りを取り囲むように氷の壁が形成されていた。



「ああ、俺は決めたんだ。確かに俺は力の無いドラゴンだ。だけど、それでも誰かを守りたい、仲間を守りたい。そして共に歩んでいきたい。そのためならこの身を犠牲にしたって、俺はなにも悔いはない。別に俺はいい子ぶってるわけじゃない。それが俺の正直な意志であり、それが本当の」




「俺の、願いだ」




スゥ・・・




蒼色の、透き通った剣が健の前に突き出される。刃を向けながらエフィーは目を細め、健の姿を深く見つめる。




「そう・・・どうしてあなた達はそんなに強いんだろう。どうして私はあなた達の敵として、ここに居るんだろう」




「そしてどうして私は、その輪の中に入ることができないんだろう・・・」



エフィーの言葉は、今までの口調とは全く異なり、先程までの高圧的な言葉ではなく、自然に溶けていくような、そんな優しくも深い悲しみにあふれた言葉だった。



「さあな。それが運命って奴かもな・・・」



そう言って健は、静かに目をとじる。



「だけど、俺は信じてる」




「運命は、変えられるものだと」




ズシャァァアア!!!




 一つの刃が、一つの存在を貫いた。剣先からは鮮やかな赤い血が飛び散り、水滴となって周りに飛散していく。




「運命は変えられる、か・・・。だけど私には、それができるほどの力は」




「無いんだ」




バリーン・・・




エフィーが突き刺した剣を引きぬいた瞬間、周りを取り囲んでいた氷の壁が一斉に音を立てて崩れ落ちた。今まで二人を隠していたものはなくなり、その姿は空間に再び現れる。



先ほどとは果てしなく変わった姿で・・・




「け、健・・・?」




 俺の前で、ゆっくりと健の体が崩れ落ちていく。まるでスローモーションの映像内にいるみたいに動き、手からそっと離れていく二つの銀の銃、飛び散る赤い水滴、そして倒れていく健の体がゆっくりと、残像を残しながら倒れていく。




まず膝を床について、そして・・・




バタン・・・




健の体は床に倒れ込んだ。周りに赤い液体を滲ませ、衝撃で辺りに飛び散らせながら、その体は俺達の目の前で、音を立てながら倒れた。その音が、静まりかえるこの空間で何度も何度も反射し、反響し、どこまでも響いていった。




どうしてこれが現実で、どうしてこれが夢じゃないんだろう。目の前に広がる光景全てが、現実である必要がどこにあるんだろう。




どうして神様はこんな未来を作ったんだろう。一体誰がこの未来を望んだんだろう。それとも、神様はこういう悪ふざけが好きなのか?こういうのが趣味なのか??




神様・・・あんたバカだろ・・・




「い、いやああああああああ!!!」




玲の悲痛な叫びが空間にこだまする。これが現実で、本当に目の前で起きていることがその声で俺の心に気付かせる。



「う、嘘だろ・・・」




今、目の前では親友が血だらけになって倒れています。




一言で表せられる今の状況、目の前の光景。でも一体、どこにこんな事実をすんなりと受け入れられる奴がいるんだろうか。




そもそもそんなことを、信じられるわけないだろう?でもどうして今俺達は、その事実を強制的に受け入れないといけないのだろうか。



それが神様が決めたことであり、俺達の前に敷かれた道だから?




ならどうして俺達に、選択肢というものはないんだろうか?




「健ーーーーーーーーっ!!!」





 今この瞬間、しかも目の前で、また一人犠牲が増えた。それもかけがえのない親友が。




俺の手からこぼれ落ちていく大切なもの。どんなに防いでも消えていく雫。




俺に・・・俺に一体どうしろっていうんだ・・・




神様・・・






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