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第七十五話 Switch on~発動する魔法、そして名前を~

「さあて、みんなどこにいるのかな~?出てきて一緒に遊ぼうよ~」




 のらりくらりと、ターゲットがこの空間に入ってくる。真っ暗な空間に、紫の淡い光がゆらゆらと動きながらくっきりと浮き上がってくる。同時に周りにはびこっているターゲットの紫のオーラも合わさってか




ターゲットのふわりと揺れる白い髪が、泳ぐように歩くたびにゆらりゆらりと空間に映える。




その姿からかもしだす威圧感は、果てしなく、俺達に極限の恐怖を与えていた。




「こう暗いとなにもみえないね~。あ、もしかしてこれが電灯のスイッチかな~」




 暗闇ではっきりとは目視できないが、ターゲットはゆっくりと扉横にあるボタンのようなものに手をかけた。あれは、さっき工藤が言っていた電灯の・・・



ガチャッ!



かすかな機械音とともに、ブ~ンという音と共に暗闇だった空間に真っ白な光が映し出される。



「・・・!?」




この空間が完全に明るみになった瞬間



「Movement beginning・・・」




バシュッ




突然ターゲット目掛けて前後左右から緑のオーラを放つ矢が放たれる。




ピキーン・・・




ターゲットはぐるりと一回転しただけで、いとも簡単に矢はこなごなに切り裂かれる。そしてパラパラとターゲットの足元へ落ちてゆく。



「こんなひ弱な攻撃じゃ余興にも・・・」




「The change is light and shifts・・・」




シュピーン




ターゲットが前を振り向いて笑った時、今度は上空から大きな光の剣が、いくつもの小さな破片となってターゲットに降り注ぐ。



「・・・!?」



ターゲットがそれに気付いた時、既にその破片はターゲットを襲い、シャワーのようにターゲットに降り注ぐと、その光の剣の色が集合体となり、辺りはパアッと明るく、その光の剣一色に染められた。



ターゲットはその光のシャワーに埋もれ、その姿が見えなくなる。




 やがてその光の剣の勢いが収まると、今度は



「Light changes into ice and freezes・・・」




パキッ、メリメリメリ・・・




今度はきしむような音を立てながらその光は凍っていき、絶氷の壁がその場に形成される。キラリと電灯の光が雫に反射して、いくつかの細かい氷がコロコロと崩れ落ちて転がっていった。




「Next, the scorch and the flame scorch・・・」




シュウウ・・・




辺りから赤い、朱色のオーラが形成された氷の壁へと集まっていく。氷は、その蒼く透明なその身を徐々に紅に染めていき、やがてそれは




パリッ!グワアアーンン!!




その紅に耐えられなくなった氷の壁は破壊され、次には散々と燃え上がる、大きな一本の火柱がその場に形成される。その火柱はこの空間の天井にぶち当たり、四方にその炎は広がっていってまたその矛先を下に向けると




「It becomes a dragon and destroys everything to the hawfinch・・・」




ウォォオオオオオオーーーンン!!





その矛先は一点に集まり、やがてそれは紅い目を持つ燃え盛る竜の化身へと変化し、そしてそのまま




バシュワアアーー!!!




叩きつけるように、その竜は地面に向かって全てを飲み込むように突き落とされた。辺りに物凄い炎の塊と、熱風が吹き荒れる。



「うわあ!?熱、熱!!」



俺達は大きな機械の物陰に隠れていたんだが、その機械は金属でできていたからか、炎と熱風を受けて急速に温度が上昇し、その機械は非常に高温体になり、一部の部品や車体がオレンジ色になって溶けだしていた。



俺はそこに左手をついていたので、一瞬ではあるけれど、その肌で直接その熱を感じ取ってしまった。そして思わず悲鳴を上げる。



「バカッ!シーッ、シーッ・・・」



健が必死に静かにしろとジェスチャーで伝えてくる。



「わるいわるい。いや~しかし危なかった~・・・」



 俺は機械の横からヒョコッと向こう側を覗く。炎こそ今はその姿をどこかに消し去られていたが、壁や床には白い白煙が舞い上がり、真っ黒な焦げ跡がくっきりと残っていた。しかし不思議と、壁や床の方はこの機械のように溶けだしたりはしていなかった。なにか特殊な材質でも使われているんだろうか??



しかし・・・



(さっきのは一体・・・)




 明かりがついた途端に。いや、ターゲットが電灯のボタンを押したと同時に突然なにかが起きた。そしてターゲットを襲った。



最初は緑の矢、そして次に氷、その次は炎。そして最後は紅の竜の化身。




威力からしたらめちゃくちゃなものだ。いくらターゲットといえどあんなのをまともに食らえば無傷ではすまない。いや普通ならそれだけで死んじまうだろう。だけど、一体だれがあんな大規模魔法を、そしてどうやって・・・




こういう大規模魔法を唱える時はそれなりの準備や間合いが必要なはず。だけど今のはいきなり始まって、それも連続であらゆる形に変化してターゲットを襲った。威力だけならいざしらず、自分の持つ属性以外の魔法まで扱うなんて、一体どんだけの力を持ってるんだ?そいつは。




まあ、二人ぐらいはさっと候補が上がるんだが・・・。それでもあんな魔法は




・・・パキ




「・・・!?」




 突然、なにかの破片を踏んだような音がした。それもターゲットのいる方向で。




まさか、まさかあの攻撃をもろに直接受けて無事だったってのか!?それもこんなに早く起き上がるなんて・・・



「うん、う~ん・・・ハア・・・。あ~あ、せっかくの制服が台無し。少し先が焦げちゃった。結構気に入ってたのに~・・・」




「けどなかなかおもしろかった~。まさかあの電灯のスイッチを押すと同時に発動する魔術、それも連続で属性変更だなんていう楽しいトラップを準備していたなんて。こ~んな手の込んでいて、陰険なやり方をするのは・・・」




「工藤君。だよね??」




 ターゲットはそう言って俺達が潜む、機械群の俺達よりも遠くの方に視線を向ける。




「おや、バレちゃいましたか」




後ろの方から、いつもの工藤の声が聞こえる。俺がその方向に機械の隙間から覗き込むと、工藤が何食わぬ顔でスッと立ち上がっていた。




ってなんで普通に立ってんだよ!?わざわざ自分から姿を現すなんて。




「我ながら、そこそこに威力はあったと思ったんですが、どうやらあなたに傷一つ付けられなかったようですね」




工藤はターゲットの姿を見つめながら言った。その手に弓と一本の矢を持ちながら。




「確かにちょっとはあせっちゃったけど、あの程度の攻撃なら、全然余裕で許容範囲だよ?」




 そう言って、ターゲットはそのまといし羽衣を、ゆっくりと、少しずつ大きく広げていく。




「そろそろ出てきてくれてもいいんじゃない??一之瀬君とその仲間たちのみんなも」




「ま、出てこなかったら強制的にそこから追い出すだけなんだけどね」




そう言いながらターゲットは、隠れる俺の方に視線を向ける。まるで最初から俺達が隠れているところを把握しているように。俺はその視線をダイレクトに感じ取り、一瞬目が合ってしまって体をびくつかせる。



(ど、どうすりゃいいんだ・・・)




俺はちらりと工藤に視線を向ける。その視線に気付いたのか、工藤はニコリとこちらに笑みを向けてくる。




(言うとおりにしろ・・・ってことか)




 俺はグッと足に力を入れる。今までずっと変な体勢でしゃがんでいたからか、立ち上がる際に少々ふらついてしまう。足もなんとなく痺れているような気がする。



「お、おい蓮!!」



俺がスッと立ち上がった時、健がそんな俺を見て慌てて声をあげる。



「もう隠れなくてもいいってさ。もうとっくの昔に俺達の場所は掴まれてんだとよ」




「なあ?名無しのターゲットさんよ」




 俺がターゲットに向かって言い放つと、ターゲットは俺にニッコリと微笑みを向けてきた。工藤の笑顔も不気味だが、このターゲットの笑顔も違う意味で不気味だ。



工藤とは違い、その笑みの奥に恐怖と殺戮の意志が垣間見える。




あの笑顔は、笑顔じゃない。




「ちっ、しょうがねえな・・・」




やれやれといった感じで健はそう言うと、よっこいしょという掛け声とともに立ち上がる。それに合わせて玲や、伊集院さんも同時に立ち上がる。



DSK研究部のメンバー全員が、ターゲットの前に姿を現した。



「そういえば、工藤はターゲットが俺達の位置を把握することぐらいわかってたんだろ?なんでわざわざ俺達を隠れさせたんだ??」




俺は工藤に尋ねる。隠れろと言って最初に姿を現したのが工藤。そもそも作戦そのものがなかったが、どんな理由があったとしても、いきなり立ち上がられたらどう対応していいかわからねえっつうの。もう少しこっちにもわかるようなナチュラルな行動を取ってほしいぜ。



「ああ、それは私が仕掛けておいた「符号法自動作動型連転性魔法術」対策に隠れてもらったんですよ。もっとも、一之瀬さんだけは少し「火の部分」で被害がでたようですが」



工藤はそう言って俺の左手に視線を向ける。俺の左手は、さっきの熱でのやけどで少し赤くなっていた。



「うるせえ、ほっとけ。そもそもそういう大事なことは先に言っておけっての」




 そんなこんなで工藤とそのなんとか魔法について喋っていると、後ろにいるターゲットがしびれを切らしたのか、いきなり口を挟んでくる。




「あ~、私を忘れて勝手におしゃべりしてる~。レディーをほったらかしにする男は最低なんだぞ」




ターゲットはそう言うと、先ほどよりも一層強い、威圧感というか気配をかけてくる。



「そろそろ本番に入ろうか。さっきの魔法のお礼をしなきゃいけないしね」




「・・・!?」



ターゲットのいる中心点から、円を描くように強い波動が幾つも広がる。その波動は威嚇するように俺達を襲い、通り抜けていく。俺はその強さで思わず後ろに吹き飛ばされそうになる。




「その前にレディー。レディーのお名前をお聞かせ下さいませんか??まさか師道ってこともないでしょう?」




工藤はそんな波動をもろに感じながら、平然とした面持ちでターゲットに尋ねる。一体どんな神経してんだ?こいつは。




「そういえば、まだ私の本当の名を名乗ってなかったね。すっかり自分のこと忘れちゃってた」




 ターゲットはそう言うと、笑みを浮かばせながらスッと顔を下げる。




そしてゆっくりと顔を上げ、その笑みをどこかに消し去って俺達を睨みつけるように、その紫に光る瞳を輝かせて言った。




「私の名はエフィー。あなたたちで言うターゲットの一人。私の本当の名前を知られたからには、必ず・・・」





「死んでもらうよ」




 


 

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