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第七十三話 回廊の逃走者~扉の先目指して・・・~

ピキーン・・・バシュッ、パキ、キュイーン・・・




 俺達の後ろから猛然と迫る紫色の、まるで生きているかのようにうねりながら襲う、無数の羽衣。




俺達はその羽衣が届くたびにその先を切り裂き、貫き、そして走った。




傷ついた羽衣は一瞬だけ退くが、それでもまたすぐに再生して俺達を襲う。そんな走っては振り向き、攻撃し、また走るという動作を繰り返しながら少しずつ、確実に俺達は前へ進んだ。




しかしどっちにしたって戦い続けても、今のこの状況じゃ俺達に敵いっこない。やはり俺達は戦う側ではなく逃げる側に徹するしかなかった。



今は仕方のないことだが、これでは「今」だけではなく、たとえ無事に玲達の元へと辿りついても、それ以降も結局俺達が脅威にさらされることに違いはないんじゃないだろうか。




だが、今はこうして前へ進むだけで精一杯か。とてもじゃないが次の段階を考えている暇と余裕はどこにもない。




「くそっ!」




シャキーン・・・




 俺は目前と迫る羽衣を体を回転させながら切った。一旦は後ろに退いてくれるが、今度は俺の存在を確実に捉えて襲ってくる。それもより強い勢いで。




しかしこれは先程からずっと戦ってきてわかったことだが、羽衣は、俺達に近づくまでは物凄い勢いで近づいてくるが、俺達を捉えんとすると突然その動きは弱まり、襲うのではなく、俺達をまるで弄ぶかのようにゆらゆらと揺れて、俺達にまとわりつく。




もちろん、それでも当たればすぐにその身を切り裂かれ、鮮やかな赤色の液体が廊下を散らすのだが。




たくっ、俺達が本気で攻撃できないことを知った上での攻撃か。どこまでも趣味の悪い奴だ。




「はぁ、はぁ・・・し、しかし工藤。これはさすがにやばくないか??」




 俺は走りながら工藤に話す。さすがにここまで全力疾走かつ、相手の攻撃を退けながらの移動というのは果てしなく体力を消耗する。ただ走るだけでなく、後ろの動きにも神経を使いながら、しかもそれに攻撃のモーションをいれていくというのは、瞬間的にそして持続的に物凄いエネルギーを使う。




しかしそれでも後ろから迫る羽衣は俺達を待ってはくれない。少しずつその距離は縮まり、相手の攻撃が届いてくる頻度も多くなってきた。それに比例して攻撃する回数も増えた。




正直、今かなりやばい状況だと俺は思う。工藤や伊集院さんはそうでもないといった感じで走っているけど・・・




「おや、そう気付くのが少し遅いですね。もうとっくの昔から我々はやばい状況ですよ」




工藤は笑顔でそう言うと、体を反転させて羽衣めがけて矢を放つ。矢が命中した羽衣が弾けて、悲鳴でも聞こえてくるかのようにうねり、引き下がるが、またすぐに再生して飛んでくる。




しかし、笑顔でそんなことを言われても全く緊張感がないんだが・・・




でもやっぱり、やばいのか??この状況。



「もしここで、前の時みたいに俺が無効化の魔法を使えば、このピンチを乗り切れるんじゃないか??」



俺がそう言うと、工藤は大きくため息をつきながら首を横に振る。まるで、なにをバカなことをと言っているような感じに。




「忘れたんですか?今我々がやっているのは時間稼ぎということを。それは確かにあなたがその魔法を使えばこの場は乗り切れるでしょう。ですがこの場を乗り切ったところで、敵本体が残っているんですから意味がありません。本番を前に一人倒れられてもただ迷惑なだけです」




「そ、そうか・・・」



俺は工藤の言葉を聞いて俯く。その様子を見てなにか思ったのか、工藤はまた一つ、言葉を付けたした。




「ですが、希望の光が無い事もないですよ」




「え・・・?」




 工藤はそう言うと、前方に向けて指差す。




「あ、あれは・・・!?」




工藤の指さした方向には、かすかにだけど開いた扉らしきものと、そして二つの小さな人影があった。




目をこらして見てみると、その二つの人影はこちらに向かって手を振っているようにみえた。



「ま、まさかあれが・・・」




「ええ。あれがとりあえずの目的地。ゴールですよ。ざっと後200mってところでしょうか」




縦横無尽に走り、そして戦っていたあまり、自分のしていることの先にあるものを見失っていた。いつまでも続くんじゃないかと思っていた。だけど・・・




そこに確かに、ゴール地点はあった。それを今、あらためて思い出した。




「さて、そこで質問ですが、一之瀬さんは前に行われたスポーツテストで、100m走の記録はどれぐらいでしたか??」




「・・・は??」



工藤は突然突拍子もないことを真面目な口調で聞いてきた。



「なんで今そんなことを・・・」




「まあとにかく教えてください」




「・・・?」



 俺は走りながら首をかしげた。工藤の言う100m走の記録とは、少し前に全校生徒全員で行われたスポーツテスト内の種目で、この学校では、さまざまなスポーツテストの種目を、一部を除いて一日に一度にやることになっている。この学校の生徒数は相当なものだから、スポーツテストといっても、ある意味では一種の大運動会みたいな感じになっていた。



そんな中行われた100M走では、俺は10秒・・・なんだったかな、まあとりあえず一緒に走った陸上部の奴に勝っちまって、なんかえらく落ち込まれてしまった記憶がある。



「え~と、確か10秒とちょっとだったかな」




「10秒ですか。なるほど、そうなると・・・」



工藤がなにやら考え始める。俺はそんな工藤を見ていることしかできなかったが、なにやら答えが出たのか、工藤は納得した表情で俺に言った。



「なんとかなりそうですね。まあギリギリですけど・・・」




「・・・なにが?」



なにがなんだが全くわからない。さっきの話と今の状況と一体どんな関係性があるっていうんだ?



「いえ、とにかく今から私が閃光弾を放ちます。それと同時にあの扉まで全力で走ってください。その際は、あのターゲットからの攻撃は気にせず、ただひたすら前を向いてあそこまで辿りつくことだけを考えてください。いいですね?」



「わ、わかった・・・」



なんか勢いに押されて返事をしてしまったが、とにかく今は工藤の指示に従おう。どちらにしたって俺一人では今の状況を乗り越えるなんてことはできないんだから。




「伊集院さんもそれでよろしいですか?」




「・・・問題ない」




 伊集院さんも工藤の意見に賛成した。なにがどうなるかわからないが、とにかく今は俺にできることを全力で取り組もう。




あの玲達の待つ、扉の先を目指す。それも今まで以上に全力ダッシュで、全集中力をそこに集めて。



「では行きますよ」



そう言って工藤は詠唱を始める。




「風の化身よ、その力を我が弓に宿りて閃光を降り注がん」




「Incarnation of wind flash arrow・・・」




ピュルルル・・・




 工藤の手元が眩く光り、やがてその光は一本の矢に凝縮され、襲い来る羽衣目指して放たれた。




そして




バシュッ!!キイーン・・・




破裂する音と共に、激しい閃光がほとばしる。それと同時に、耳鳴りのようなキーンという音が廊下に響き渡る。



「さあ行きますよ!ここからはほかのことを考えず、ただひたすら走ってください!!」




「わかった!!」




俺達は全力で走った。今自分が出せる精一杯の力を振り絞って玲達の待つ場所へ走った。






ダダダダダ!!




 一心不乱に廊下を走る。それと同時に風が顔に強く吹き付ける。




向こうに見える玲達の姿がみるみる大きくなっていく。玲達がこちらに手を振っているのがはっきりと見えてくる。




160m、140m、120m・・・




あと少し、あと少しだ・・・




後100mぐらいになった時には、先程放った工藤の閃光弾の光もほとんど白の廊下の中へと吸収されていた。今は玲達の姿がはっきりと見える。表情すらうかがえそうだ。




「・・・くっ。少し足りないか」




 その時工藤がなにかをぼそっと呟いた。




「ん?工藤今なん・・・」




「柳原さん、相川さん!もう扉を閉めてください!!我々が辿りついた時には完全に閉まるぐらいになるように」



工藤は叫んだ。俺の言葉はその声で見事にかき消された。




ガーッ・・・




そして工藤の言葉のとおり、目の前の扉がどんどん閉まっていく。




その音と同じく、聞き覚えのある恐怖の音も後ろから聞こえてくる。




ガシャンパリーン、パリガシャーン!!




「このままでは間に合わないか・・・。仕方ない、伊集院さん、あなたは先に行ってください!!」




「・・・了解」




バシュッ!




 工藤の言葉に伊集院さんは一言で答えると、なにかを唱えて伊集院さんの体は光の弾丸のように変化し、物凄い加速で扉の向こうへと飛んでいった。



「・・・っ」



俺がその光景に目を奪われていると




「さあて一之瀬さんも行きますよ!準備はいいですか??」




工藤がこちらに笑顔を振りまきながら声をかける。




「準備ってなんの・・・ってウワァ!?」




俺が言いかけたその瞬間




バシュッ!




工藤がまた俺の首根っこを掴んで、今度は緑色の眩い光を放ちながらいきなり、閉まっていく扉に向かってめちゃくちゃな速さで加速した。




「うわっく・・・」




物凄い風の圧力が俺を襲う。強すぎて前を見る事が出来ない。




てか、飛んでないかこれ??




よく見ると、工藤も俺も地面に脚が地についていなかった。ただ少し前方に体を傾けているだけ。今のこの推進力は自らが生み出したものではなく、魔力かなにかのものだということがわかる。




「さて、一之瀬さんはお先にどうぞ!!」




ブンッ!!




工藤はその速度を保ったまま、俺の首根っこを掴んでいた手を力強く振り回し、飛ばす・・・というより思いっきり投げた。




「うわあぁぁぁああ!!!」




俺は数十メートルもの距離をぶっ飛んだ。そしてそのまま扉の先の闇へと、勢いよく吸い込まれていった。




ドンガラガラガッシャーン!!!




「さて、と・・・」




 工藤は緑の光に包まれながら閉まりゆく扉に猛スピードで迫ると




「せっかくですから置き土産をしていきますかね」




フッ・・・




突然その包まれていた光を解除し、ぐるんと前方に回転して逆さまの状態になって、迫りくるターゲットの紫の羽衣がうずめく廊下の先に向かって弓を構える




「Arrow scorched flame of explosion・・・」




シュウォン・・・




 紅に染まる一本の矢が、果敢にも、一人で無数の羽衣の群れに向かって飛んでいく




そして




・・・シュイーン!グワアァァァアンン!!!




けたたましい音と光と共に矢は炸裂し、凄まじい爆炎と共に廊下を紅蓮の炎が包み込んだ。




ブワァァアア!!




それと共に物凄い風が巻き起こり、それに乗った工藤が扉の中へと飛び込む。




そして




シュー・・・バン!!




炎が届く寸前で扉が完全に閉まる。扉の向こうでゴォォォという炎が燃え盛る音と、ズズウンという強い振動が響き渡る。




キュキキーー!!




そんな中、工藤はうまく一回転して床にしゃがみこみながら滑る。そして靴のグリップと体の重心を最大限にうまく操り、数メートル滑ったところで静止する。



そしてすかさずスッと何事もなかったように立ち上がる。



「ふう・・・なんとか全員無事に目的地に辿りつけましたね」




「ああ。ある意味な」



 俺は地に対してひっくり返った、ちょうど腰倒立をしているような状態で声を上げた。



俺は思いっきり投げ飛ばされた後、よくわからないがなにかの機械のようなものに全身を強打し、そのままいくつかの機械や器具を巻き込み、物凄い音を放ちながら転げ回っていた。




「蓮君大丈夫??」




玲が心配そうに見つめてくる。




「ああ・・・ノープロブレム、とはちょっと言えないかも・・・」





 形はどうあれ、俺達は扉の先の真っ暗な闇に包まれた広い空間に辿りついた。恐怖が後ろから迫る廊下をなんとか無事に走り抜け、なんとか一段落。思わず安堵の気持ちで一杯になるが




しかし・・・




本当の戦い、本当の恐怖と混沌は、これからが本幕だった・・・







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