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第六十四話 言葉の裏と表~新たな風と争いと結論~

 一時の休息。それを言い出し、与えてくれたのは紛れもないここにいる工藤 真一だ。それ以外の誰でもない。工藤が提案し、工藤によって生み出されたその俺達にとって貴重な時間。



そして、また工藤から生み出される新たな展開。不覚にも、必然的にその流れに俺達は乗ることしかできなかった。



この時の俺達は気付いていない、全ての事柄は、工藤から始まっていることに




「実は、どうやらもうすでに次のターゲット、四体目のターゲットが我々の近くに潜んでいるようです」



・・・・・・



 いきなり立ち上がり話し始めた工藤。その様子から少なからず重要な一件であることを察した俺達は、素直に、真剣にその言葉を聞いていたが、工藤が言い終わった後、この場には身を引き締めるような空気と、静粛が支配していた。



工藤の言葉を、頭で理解するのに時間がかかっていたのだ。



それほどに、工藤の言葉は意外で、そのなんというか、その雰囲気から放たれる言葉にしてはこの場にふさわしくない言葉だった。



「・・・・・・」



沈黙の時間は尚も続く。しかしその沈黙の正体は次第にその姿を変え、意外な言葉に対する戸惑いから、誰かの一言を待つというものへと変貌していった。



皆、どんな対応をすればいいかわからなかった。だが、こうして誰かの反応を待っていると、会話は一生始まらない。



そう思っていた時、ある男がその均衡を破る。



「それって・・・前に言ってたなんか凄い魔法を使う奴だろ??」



 この沈黙を破ったのは健だった。しかし重要なのはそこではない、今健が口にした言葉、それがどれほどみんなの心へと響いていったか。



そう、俺達が今思っていたこと、それはおそらくこの場で奇麗にシンクロしていただろう。それ故に切り出せなかったのかもしれない。



前に倒したターゲットを呼び出した者、それが次のターゲットであることは明白だ。



「え、ええ・・・それはそうなんですが・・・」



「・・・・・・」



 しかし、そうなると一つの疑問が生まれる。



「てかそんなこと言わなくてもみんなわかってるだろ。前のあれがあったんだし」



そう、それだ。健の言った通りだ。今の工藤の発言がおかしく聞こえたのはおそらくその事だろう。



前の戦いはその空間超越とかいうとんでもない魔法を使った奴が召喚したもの。それなら次はそれを出した奴、というのは言われなくても誰にでもわかることだ。



しかし工藤はそのことを新たな情報のように言った。はたから見れば俺達のことをバカにしてんのかよっ、とも思える。工藤の性格からしてそれは充分にありえることだ。だけど今回は、なぜかそんな感じは微塵も感じられなかった。



それが、どんなに知っている言葉であっても、それがそのままの意味であるという保証はない。



前にも言ったが、言葉はその時の状況によって幾通りもの変化をする。そこから生み出されるのは嬉しさ、楽しさなどのプラスな意味だけではない。そこからは恐怖、絶望、落胆、不安といったマイナスな意味ももちろん含まれていく。



今回の工藤の言葉には、その不自然さから不安と少しばかりの恐怖がその裏に潜んでいるような気がした。



「それはそうなんですかっていうことはほかに言うことがあるんだろ?工藤」



「・・・・・・」



 ある。確実にある。わざわざそれだけを言うためにこの朗らかな雰囲気をぶち壊すわけがない。まあ普通ならそうなんだが工藤ならありうるかもしれない。だけど、わざわざそうまでもして話を切り出したのにはなにか「理由」があるはずだ。



「なにみんなの前でもったいぶってんだよ。言うことがあるならはっきり言えよ」



そう俺が言うと



「・・・プッ」



「・・・?」



工藤はなぜか小さく笑った。



「な、なんだよ・・・」



今の俺の一言になにかおかしなところあったっけ?少なくとも笑いが生じるようなところはなかった気がするんだが・・・



「いえ、すいません。どうにもこうにも、あなたと全く同じことを以前言われたことがありましたので、少しその方と姿がかぶっただけですよ」



「・・・へえ」



 姿がかぶるねえ。一体どこのどいつが俺とかぶってんのか、というのは気にならなくもないが、それっていわゆる「工藤の」知り合いってことだよな。



・・・う~んできればあまり知り合いたくはないな



そもそも工藤って色々謎があるしな。それに謎の機関の情報部とかいうものとコンタクトしてるし、どうもその知り合いも危険なにおいがプンプンするんだよな~。



「まあその話は置いとくと致しまして、今回の報告は相川さんの言ったとおりです。みなさんもわかっているとは思いますが、前回の戦闘の裏にはだれかいます。そして今度はその裏の誰かと戦うわけです。ですので充分な注意と警戒を怠らぬようにお願いしたいわけです」



あれ?



工藤の言った言葉は、またしても俺の想像していたものとは違っていた。



流れ的には合っている。だけど話的には間違っている。なんだかよくわからないけど、確かにそこに「ズレ」のようなものが生じていた。



一点から放たれたものがもう一点に届かない。いや人為的に届かしていない。




「次のターゲットねえ・・・せっかく前ので一段落したと思ったら、今度は続けざまにもう一体かよ。少しは安らぎの時間ってものがほしいねえ~」



 健がそう言った時、突然工藤が先ほどとは違い、相手の心に直接響かせるように言った。




「じゃあやめますか?」



「・・・!?」



その瞬間、この場に亀裂が走ったような気がした。



工藤の放った一言、それはこの場に居る全ての存在に問いかけるようなものだった。そしてそれは、皆の心に一本の矢を突き刺したような、そんな強烈な一言だった。



「な、なにも俺はそんな意味で・・・」



「いいんですよ、別に。我々がやらなくたってどうにでもなります。いえ、被害は出るでしょうが所詮それは人間たち、我々には関係ありません。ここで任務を放棄したってだれかが文句を言うわけでもありませんし、ましてや我々の正体を知らない人間たちから恨みを買うこともありません」



健が全てを言う前に、工藤はさらに突き刺した矢をぐりぐりっと押し込む。



具現化しない、血が流れてるような気がした。



「結論から言えば、逃げたければ逃げていいんですよ。別にそれは悪い事でもなんでもないんですから」



「ただ、弱虫、いくじなし、というレッテルは一部の存在から付けられそうですが・・・」



「・・・・・・」



 その時、健の拳が小刻みにプルプルと震えていることに気付く。



それがなにを意味するのか、それを言う前に健は動いていた。




バンッ!!!




健が強く机を両手で叩きつける。その振動で置いてあったやかんがガシャンと音をたててくるくると回る。




「そんなこと・・・いつ誰がどこで言った・・・」




机に叩きつけた手が震えている。口調もドスリとした重い口調で、小声ながらも、今の健の状態がどんな状態であるのか、それを示すには充分なものだった。



「さあ。誰がとい・・・」




「誰が言ったんだよ!!言ってみろ!!!」



ガッ!!



健は自分の左手で工藤の胸ぐらをつかんだ。そして工藤に顔を近づけて叫んだ。



健はがっしりとその左手でつかみながら、真っ直ぐ相手の目を睨みつける。工藤はそれに全く動じず、そんな状態でも健に向かって話し続ける。



両者とも一歩も退かない。だけど確かにそこに想いと想いのぶつかり合いが生じていた。



「二人とも、やめて!!」



そんな二人には、玲の悲痛な叫びが届くことはなかった。



「そういう感情的な行動をとられると、組織全体に影響が出るってこと、知ってますか?」



「・・・!?」



その工藤の一言で、健は衝動的に、いや反射的に自分の右腕が風を切った。




バシッ!!!




 鈍い音が部室に響く。それと同時にこの空間の空気に押しつぶされるかのような重苦しい空気が流れる。



その空間はあまりにも静かで、その鈍い音がまだ響いているかのような錯覚さえ覚えさせるほどだった。



「れ、蓮!?」



「ふう~、ギリセーフってところか」



健が放った一発の拳。それを俺は寸でのところで自分の手で押さえきる形で防いでいた。



工藤の顔まで残り約10センチ。反動で手の甲が工藤の顔に当たるかどうかのギリギリのラインを保ちながら健の拳を受けとめていた。



「な、なんで・・・なんで止めたんだよ・・・」



健が声を震わしながら驚いたような表情で俺に言う。手に伝わる健の手の力が次第に弱まっていくのが感触でわかる。



「なに工藤の言葉にむきになってんだよ。そんなの今までだった何度もあっただろ?それにここで今手を出していたら進む話も進まないって」



 俺は健の拳を受けとめたまま、今度は俺の手のすぐ下にある工藤の方を向いて言う。



「工藤も工藤だ。お前が言いたいのはそんなことじゃないだろう?言いたいことを言う前に人を煽るのはやめろ」




 工藤は、しばし俺の手をじーと眺めていたが、フウというため息と共にその顔をいつもの顔に戻して言った。



「別に煽ったつもりはなかったのですが。私は率直な意見を言ったまでで」




「それを世間は煽ってるって言うんだよ。お前はもう少し相手のことを考えてしゃべれ」




 工藤はフフッという笑い声と共に目をつむりながらその顔を退いた。




「健も一旦落ち着け。今は手を下ろすんだ。いいな?」




「あ、ああ・・・」



健は俺の言葉をすんなりと受け入れ、唖然とした表情のまま俺の手の中にある拳をスッとその場に下ろした。



「ほらっ、話を進めろよ工藤。今度は結論だけをな」




「ふう~、まさかあなたに見透かされるとは思いませんでした」




「何度も見てりゃいい加減わかるっての・・・」



工藤はもう一度微笑むと、スッとイスに座り、目の前に手を組みながら言った。



「私が言いたいのは、今回の敵は今までのターゲットと比較にならないほど強力です。ですので、生半可な気持ちで挑むぐらいなら即刻この場から消えてもらいたいわけですよ」



(ふう・・・)




たくっ、それを言うのにどんだけややこしい方向に話を向けてんだよ。さっきのは一歩間違えば自分が健の鉄槌を受けていたというのに。



わざわざ怒りを買うような言動をなぜするのだろうか。それともわざとなのだろうか。



どちらにしたって無駄な争いは避けるべきだ。しかしここまで相手を怒らせる事ができることにも驚くな。



まあその工藤の行動パターンを読めちゃってる自分にも驚くんだが・・・




「ぶっちゃけ、今回のターゲットの力と俺達の戦力を比較したらどんな感じだ」




 俺は顔面蒼白になっている健をちらりと見た後、手を組んだまま俺達を見つめる工藤に尋ねる。




「そうですねえ・・・」




工藤はちらりちらりとこの場にいる全員一人一人を見つめると、その視線を正面に戻して今度は真剣な眼差しで言った。




「全員で全力で戦って、今回のターゲットに勝てる見込みは10パーセント、ってところですかね・・・」





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