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第六十一話 初めてのお出かけ~可憐な二人の美少女~

 立ち並ぶ高層ビル。色とりどりの店や看板。



その下を行き交う無数の人間達。その人混みで挟まれた道路を走る色々な形をした車。所々でクラクションのような音が鳴り響く。



そしてその見るからにオシャレな店が立ち並ぶ通りを、その人混みを縫うように歩く俺達の姿があった。



「う~、んん・・・ふう。こうやってみんなで通りを歩くのは初めてだね」



「そうだなあ。なんやかんやでこうして俺達が学校以外で集まるのってほぼないに等しいしな」



「・・・・・・」



みんなでの遠出にはしゃぐ玲と健と、無言のままただ俺達と一緒に歩くという動作を繰り返す伊集院さん、そして俺の、工藤を除くDSK研究部のメンバーは、私立御崎山学園からバスで20分ぐらい行ったところにある、この地域一帯で一番大きな繁華街、というかショッピングの場である、御崎シティプラザ、通称「ミサプラ」に来ている。



この御崎シティプラザはもともとはビジネス街だったのだが、新しく着任した知事(千堂グループが関与しているとかいないとか)の意向によって、若者に好まれる今時のファッションを扱うショップや、ブランド店、レストランなどが立ち並ぶようになり、この御崎シティプラザは若者のショッピングやお出かけなどの憩いの場となっている・・・らしい。



正直、俺は学校外では、学校から徒歩30分ぐらいの所にある自分の家以外に行ったことがない。




ゆうなれば、ここにあるもの全てが未知なる領域なのだ。こうして歩いているだけでも、目に入ってくるものは全部新鮮で、斬新なものであり、なかなかどうして、落ち着いて歩くことができない。




そもそもなんで突然、学校外に飛び出して、こんなところを歩いているのかというと、話せば長くなるが一応説明しておこう。



<6月6日 放課後 DSK研究部部室>



「はあ・・・しんどかったな・・・」



 魔族の大群との戦いで魔力を使い果たした俺は、伊集院さんのおかげでようやく自分の体を動かせるぐらいにはなった。



しかし、それでも日ごろに比べると10分の1ぐらいしか体は機能せず、その後の授業を乗り切るのがどれだけ大変であったか。



ぜひともみんなにその苦しみを聞かしてあげたいところではあるが、今はそんな元気も残されていない。



「まったく、本当にお疲れさまでした。あなたがいなければどうなっていたことか、感謝感激雨あられです」



ぐったりと机に上半身を伏せている俺に、工藤は俺の近くの壁によしかかりながら話す。



「な~にが感謝感激雨あられだ。心にもない事をいいやがって。そもそもあんだけ強いんだったらお前らにだってあの状況を打開するぐらい簡単なことだったろ?」



 あの大群全てを一瞬にして消し去り、ターゲットへの道を開いたのは確かに俺だが、そのターゲットやらをその華麗な技と連携でいとも簡単に倒した工藤や伊集院さんなら、あの場面でもどうとでもできたはずだ。もしそうであったら、俺がこうして無駄に魔力を消耗する必要はなかったのに。



まああの時魔法を発動したのは確かに俺の意志だけど、どうにも納得がいかない。



「いえいえそんなことありませんよ。あの状況を打開できたのはあなただけです。それにもし我々にその力があったとしても、あの場面でその力を使えば今回のようにターゲットを倒すことはできなかったはずです。今回はあなたの大手柄ですよ」



「ふんっ・・・」



俺はうつ伏せながら愚痴をこぼす。結局、俺はお前らのお膳立てをしただけってことじゃねか・・・



「でも私もすっごく感謝してる。あの時もしも蓮君がきてくれなかったらどうなっていたか・・・。本当にありがとう蓮君。蓮君にはもう2回も助けられちゃったね。なにかお礼をしないと・・・」



玲がそんな俺に声をかける。



「ベ、別にいいよそんなの。当たり前のことをしたまでだしさ・・・」



俺はうつ伏せのまま玲に言葉を返す。その言葉はいやにキザな言葉になっていたが、机に押し付けている顔は多分その時、赤くなっていただろう。



素直に俺は玲を守れたこと、そして感謝されたことが嬉しかった。だけどそれをうまく表にだすことができなかった。



「まあなんにせよ、ターゲットを倒したことには違いないわけですから。しかし、今回はそれなりにこちらにも被害がでましたが・・・」



そう言って工藤は言葉を曇らせる。確かに、まあ傷は伊集院さんのおかげで完治しただろうけど玲は右肩を負傷し、俺は魔力の枯渇、そしてほかのみんなも少なからず疲労が溜まり、いつもに比べれば圧倒的にボロボロだった。



それもこれも、全部あの魔族の大群のせいだ。あんなに大群を相手にすれば誰だってそれなりに被害はでるはずだ。



その割には、真打ちであるターゲットが工藤達によっていとも簡単に倒されたことは拍子抜けだったけど・・・



今思えば少しだけ変な気もするが、まあ倒したんだしそれは今はいいだろう。



「そこで提案なのですが、明日は土曜日、授業もないようですし、どうでしょう。みんなに街へ繰り出してみてはどうでしょうか?日頃の疲れをリフレッシュするという意味で」



 工藤がみんなに向けてそう言うと、一瞬の間の後、玲と健がそれを待っていましたとばかりに声を上げる。



「それいい!!ナイスアイディアだ工藤!」




「うん!長らくショッピングとかにも行ってなかったし、それも今回はみんなでなんてすっごくおもしろそう。行こう行こう!!」



子供のようにはしゃぐ二人。その二人をよそ目に本を読み続ける伊集院さんといまいち状況をつかめてない俺。



「蓮ももちろん賛成だよな!?」



その光景をうつ伏せ状態から体を起こして見つめていた俺に健が尋ねてくる。俺はその目を輝かした健の勢いに押されてしまう。



「え、えっとそうだなあ・・・」




「有希も行くよね??」



俺の返事を聞く前に玲が伊集院に尋ねる。



「・・・別に構わない」




(またこのパターンか)



前と同じようなパターンだが、今の状況は俺以外の4人が賛成。そんな状態でどう反論しろっていうんだ?



もちろん俺には一つしか答えが残っていない。そうでなくても半ば強制的に俺の意見は変えられるだろう。



「ああ、いいよ。俺も行く」



「よし決定!!」



結局、DSK研究部部員きっての街へのお出かけが今決定された。




個人的には、明日は休ませてほしんだけどな・・・




そんなこと、今のこの二人に言ったらなにを言われるか。ここは流れに乗るのが無難だな。



「決まったようですね。ではどうぞ楽しんできてください」




んん???



今なんて言いました工藤さん??



「あれ?工藤君は行かないの??」



当たり前のように玲が工藤に尋ねる。



「ええ。私はちょっと調べることがありますので。どうぞみなさんだけで楽しんできてください」




(かあ~~~~~~!!)



今ほど工藤に対して怒りが沸いたことはない。自分が企画を立てておいてなんなんだそれは!?全くこっちの身にもなってくれよ。ていうか信じられねえ!



まさかまさかの案だけ出して逃げるという最悪最低なことをサラッとやりやがった。



 

 俺が工藤に怒りの視線を浴びせ続けていると、工藤はそれを見てニッコリといつもの笑顔で返す。




(あ~~~~~~!!!)




あ~だめだ。まじで脳の血管がちぎれる。



「じゃあこの四人で行きましょうか。じゃあ時間はそうね・・・九時にバス停集合ってことで」



目の前の遠出に目を輝かせている玲は工藤のそんな対応にもなんら反応せずに話を進める。



今の玲を止めるのはさすがに気が引けるな・・・



「じゃあそういうことで。いい?九時にバス停よ。くれぐれも遅れないようにね!!」




 

 と、いうわけで、こんな感じのごたごたがあって今ここに俺達はいる。今だ疲れがとれぬ俺にとってはこうして歩くだけでも相当きついんだが。



そしてこういう時に限って今日は暑い!!真夏並みの日差しと気温、まさに砂漠の中を歩いているみたいだ。



だけど、健もそうだがそれよりも特に女子にとっては目の前に広がるガラスのショウウィンドウの先にある色とりどりの服や帽子、そしてバックなどの女子にとってはいわば天国のような空間を前にしてみれば、この暑ささえも忘れ去られるのだろうか。



本当に、あらためて女子ってすごいな・・・



「さあて最初はどこに行こうか??」



見るからにテンションが高い玲が先頭を切って歩いていく。その後に俺や健、伊集院さんが続く格好となっている。



「テンション、高いな・・・」



俺は暑さと疲労にやられて今にも干上がってしまいそうになりながら、ぼそっと呟く。



「まあな。玲は結構、というよりかなりこういう所に来るのが好きだからな。それも久しぶりだし、後昨日あんなことがあったんだからなおさらだ。テンションが上がるのも無理ないな」



俺の呟きに、健が前を楽しそうに鼻唄を歌いながら歩く玲を見ながら答える。



「あれ?お前はあんまりテンション高くないな。昨日のテンションはどうした?」



昨日の工藤の提案を聞いた時、玲はもちろんとして健もそれにひけを取らないぐらいに騒いでいたのに。今の健は別にテンションが低いわけじゃないが、なにかこう・・・落ち着いている。



「いやあ、別にテンションは結構高いさ。久しぶりに街に繰り出したわけだし、俺だってそれなりに気分は踊ってるぜ?だけど・・・」



「だけど?」



俺がそう聞き返すと、健は自分の頬を少しうつむきながらポリポリと人差し指で掻くと、また前をスッと見つめて言った。



「ああやって、無邪気にはしゃいでる玲を見ることの喜びの方がそれを上回ってる、って感じかな・・・」



 その時、俺は思った。



一見キザな言葉にも聞こえるその言葉が、健の正直な、本当の気持ちだということを。



その言葉には、汚れ一つなかった。純粋で、清らかな言葉。



そんなことを言える健が、少し羨ましく思えた。



「そういう蓮こそどうした?テンション低いな」



健はその健の言葉を聞いて少し考え込んでいる俺を見て尋ねた。



「いや、俺は普通に少し疲れが残ってるだけだが。それに今日は暑いしな・・・」



そして俺は空を見つめる。幾つもの高層ビルで狭められた空からカンカンに照らす太陽。それを見ているだけで、体がぐったりしてくる。



「まあ元気出せよ!見ろよ、俺達と一緒にこんな美少女二人が歩いてくれてるんだぜ。それなのにお前がそんな顔をしてちゃあ、モテない寂しい一人身の男達がお前を恨めしい目で見てくるぞ」



そう言って健は玲と伊集院さんに目を向ける。



「何言ってんだよ。そんなことで・・・」



と、



思ってみてはみたものの



そう言われると今まで普通に一緒に歩いていた玲と伊集院さんの二人をまじまじと見つめだしてしまう。



 

 隣をトコトコとひたすら無言で歩く伊集院さん。上は少しだけフリフリの付いた純白のブラウス、下は黒いスッとしたなんともいえない上品さが漂うスカート。歩くたびに揺れる銀髪の髪と、上品さが漂う服装が絶妙にマッチして、とても可憐で、上品で、気品漂うお嬢様といった感じだ。



 一方玲の方は、上は伊集院さんと同じく白のブラウスだが黒のネクタイ、その上に黒のシャツを重ね、そして下は玲の明るさが反映されているかのような赤いスカート。玲の金髪のツインテールがよく映える、カッコよさもそうだが、それに相反して玲の満面の笑みとコラボした時のその姿は眩しく、可愛くて、見惚れてしまうほど奇麗だった。



ふむ、そう言われると本当に二人は奇麗で可愛いな。普段学校の制服の時ももちろん奇麗だとは思うが、私服ともなると、その奇麗さがさらに増して、とても魅力的で、可憐な姿になる。



健の言うとおり、はたから見れば本当に奇麗な美少女二人と街を歩く、めちゃくちゃ羨ましい感じなのかな。



「た、確かに、言われてみればそうかもな・・・」



俺は少し小さい声でそう呟いた。



「だろ??そう思えば、俺達結構幸せな奴らなんだな~て思えてくるだろ」



「あ、ああ・・・」




 今まで俺の体に溜まっていた疲れを一気に吹き飛ばすほど可憐な二人。健の言うとおり、そう思えばこの遠出というかお出かけは、案外良いものなのかもしれない。



そう心の中で思いながら、俺は奇麗な装飾をされている店が立ち並ぶこの通りを、玲を先頭に歩いて行った。




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